当医院症例集〜歯周病編〜
歯周病治療とは、歯石や過度の噛む力により破壊させれた歯の周りを支える組織(歯茎、骨)をある程度健康な状態に回復させる治療のことです。歯科医院では、徹底的な歯石の除去並びに無理な力がかかっている部分の力の補正や歯石がつきにくいような口腔内環境を整えるための生活習慣の改善指導を行います。しかしながら、中程度〜重度の場合、治療だけでは克服することはできません。患者さんの治したい、入れ歯になりたくないという強い思いやタバコを吸わない、甘い缶コーヒーは飲まない、ストレスを溜めない等の生活習慣の改善がものすごく重要になってきます。自分を律する心を持たない限り、絶対に克服できないと思います。上記に挙げた中でも、タバコは最悪です。歯周病治療において、百害あって一利なしです。歯周組織(歯茎、骨)の回復に必要な血流を阻害させるからです。そのため、タバコをやめれない重度の歯周病の人は、双方(患者、術者)の時間や費用が無駄となることが多いので、入れ歯になることをお勧めします。しかし、タバコをやめれるような強い意思の持ち主は、状態にもよりますが、救いの手を差し伸べたいと思っています。そこで、中程度〜重度の歯周病治療の際の注意事項を以下に記します。治療を受ける際の参考にしてください。
1.歯石を除去する場合、知覚過敏を起こすことがある。(本来、骨、歯茎でああわれていないといけ  ない部分が、歯石で覆われているため。)
2.重度歯周病の場合、歯磨きをしやすい環境を作るため、神経の処置が必要になってくることがあ  る。(歯を抜歯するか、歯を保存するために神経を除去するかの二択です。)
3.無理な力がかかっている部分の咬合調整が必要な場合がある。
4.重度歯周病の場合、弱い歯1本1本の被せ物の連結固定やプラスチック固定をする必要がある。また、完全に周りの歯周組織改善は困難なため、ある程度完治しても歯が長くなったり歯茎が下がったりすることは否めない。
5.重度歯周病の場合、治療途中のリタイアはさらに歯が悪くなる可能性があること。
6.重度歯周病の場合、治療期間が年単位になる。
7.治療終了後、同じ過ちを繰り返さないように、定期検診が必要である。
8.特に、糖尿病悪化(血糖値、A1Cの悪化)により、治療の妨げになることがある。
9.全身疾患(糖尿病、心疾患、脳梗塞など)と歯周病は、密接な相関関係がある。
10.重度歯周病の場合、保険での治療は、医院側にとって不採算なことが多い。
11.歯周病は生活習慣病である。魔法のうがい水、抗生剤、抗真菌剤、レーザー照射などで簡単に克服できるような広告が散見されますが、生活習慣を改善しないかぎり、恐らくいい結果は招かないでしょう。例えるなら、ギャンブル依存の人が宝クジにあたり借金がチャラになったとしても、何かを変えない限り、また同じ過ち(借金)をするのと似ていると思います。

12.重度歯周病には、遺伝的な問題がある場合がある。(重度の貧血など)
13.重度歯周病を放置しておくと、歯の周りの骨が無くなっているので、次の処置(入れ歯、インプラ    ント)に移行した時に、困難が待ち受けている。

(因みに当医院のスタッフは、当たり前ですが、全員非喫煙者です。私は、決して嫌煙家ではありません。治したいなら、禁煙しなさいということです。別に歯周病を気にされていない方には、禁煙を強く勧めていません。自分の歯、身体ではないので、他人が決めることではありませんから。)

症例1(自費の歯周再生処置、エムドゲイン)
60歳 女性 (非喫煙者)
主訴:左上7番(一番奥の歯)が噛むと痛い、動く。

《治療経過》

  1. 歯槽膿漏と根の化膿で歯の周りの骨が溶けていて黒くなっている。
  2. 根の治療、歯周外科(エムドゲン)と自然挺出(プチ矯正)を行う。
  3. 術後一年、歯の周りの骨が再生してきている。


11年後の総評ー治療終了後一度も検診には来られませんでした。たまたま別の部位の不都合で再来院された時にレントゲン写真を撮らせてもらいましたが、現状は維持されているのではないでしょうか?今後の力の問題で歯周病が悪化したケースでの参考になると思います。因みにエムドゲイン療法は当時モニターになってもらいました。
 
術前
術中
術後(一年)
11年後


症例2(自費の歯周再生処置、自家骨移植)
70歳 女性 (非喫煙者)
主訴:左下の糸切り歯がぐらぐらして痛い。

《治療経過》

  1. 左下の糸切り歯の周りの骨が減ってきている。
  2. 根の治療、歯周外科(骨移植)を行う。
  3. 術後半年移植した骨が安定してきている。

術前
術中
術後(半年)
術後(3年)


症例3(保険の歯周外科処置)
45歳 女性 (喫煙者)
主訴:上の前歯がぐらぐらして痛い。

《治療経過》

  1. 上の前歯の周りに歯石が多量に付着し、骨が溶けてきている。
  2. 根の治療、歯周外科(ウイッドマン改良法)、プラスチックによる歯の固定を行ってから2年後、劇的な骨量の改善は認められないものの(喫煙による影響)、骨の連続性(安定)を認める。
  3. 4年後歯周組織が安定し、プラスチック固定が老朽化したため、被せものによる連結固定を行なう。


9年後の総評ー特に問題なし。恐らく誰も、最初の状態から9年後のこの歯の存在を予測できないことでしょう。患者さんは、背水の陣で歯磨きをされていたせいか、オーバーブラッシングによるフェストーンが歯茎の周りに形成されています。また、被せものは保険のため、経年的な色の変色や摩耗も認めます。
術前(2005年)
(右上1番、2番、3番)
術後(2年)
術後9年(補綴後5年)
術前(2005年)
(左上1番、2番、3番)
術後(2年)
術後9年(補綴後5年)

 

補綴後(2009年)
2014年

症例4(保険の歯周外科処置)
70歳 女性(非喫煙者)
主訴:左下の奥歯が動く。

≪治療経過≫

  1. 左下の5番目の歯の周りの骨が、歯周病で減ってきている。
  2. 根の治療及び歯周外科を施し、隣の歯とプラスチックで固定する。
  3. 歯の周りの骨が再生している。


11年後の総評ー歯周治療後、患者さん自身思いはあっても、高齢のため十分なメンテナンスができなかったケースです。もう、八十をとうに超えていらっしゃいますが、未だに入れ歯のお世話にはなっていません。人間はいつか終わりを迎えるわけですが、1日でも長く、美味しいものを口から摂取してほしいものです。
術前
三ヵ月後
10ヵ月後
術後11年
術後6年


症例5(自費の歯周再生処置、エムドゲイン)
60歳 女性(非喫煙者)
主訴:左下の奥歯の歯茎が腫れてずきずき痛い。

≪治療経過≫

  1. 左下の7番(第二大臼歯)の手前側の骨が垂直に4ミリ以上減っている。また虫歯も神経に進行している。
  2. 歯内療法、特殊歯周外科(エムドゲインゲルの塗布)を施す。(自費治療です。)
  3. 7年後、骨が再生しているのがわかる。


13年後の総評ーこの方も70をとうに超えられています。いつまで機能するかわかりませんが、諦めずに治療しメンテナンスをすれば、報われるというケースの証明でしょう。ほとんどのHPは、予後を追っていません。ビフォアーとアフターだけです。後は知りませんというものがほとんです。笑。要するに治療のやり方に重きを置いていて、一番重要な治療である自己管理やメンテナンスを軽視していると言うことでしょうね。はっきり言いますと、虫歯や歯周病を予防できる歯科医が一番優れていると個人的に思います。インプラントや歯周外科ができるとかじゃありません。実に勘違いをしている人が多いと思います。例えるなら癌にならないように身体を予防してくれる主治医みたいなものですかね。そんな医者なかなか見つけることは困難だと思いますが、究極の名医と言えるでしょう。笑。
 
術前
術後7年
術後13年

症例6(保険の歯周外科処置)
50歳 女性(非喫煙者)
主訴:右下の前歯が動く。
≪治療経過≫
  1. 右下の2番、3番の歯は、根っこの先の方しか骨がついていないのがわかる。
  2. 保険の範囲での治療のため、歯内療法と通常の歯周外科を行う。
  3. 歯の周りの骨が安定し、歯槽硬線の連続性を認められる。


11年後の総評ーポケット至上主義で骨の平坦化を理想とする歯周病の大家のほとんどは抜歯するでしょう。私は臨床症状で判断しますので、ポケットが深かろうが付着歯肉がなかろうが、排膿、出血、著しい骨吸収や咀嚼障害を認めなければ問題ないと見做します。これは、根ハセツにも言えることです。少なくとも抜歯の運命にあった歯が、もう11年も経過していることが物語っていると思います。信頼関係も十分に構築され、右下顎奥歯にHAインプラントを2本埋入しましたが、これもインプラント周囲炎を患うことなく無事8年経過しています。歯周病傾向が強いケースにHAインプラントが不利だとよく言われていますが、私はそうは思いません。チタンインプラントであれ、HAインプラントであれ、メンテナンスがきちんと行われていれば、有意差はないという証明でもあります。業者や高名だという先生の言うことを信じすぎることもどうかと思いますよ。私は人に流されず、個々での抜歯基準の選定やインプラントを選択することが重要だと捉えています。
術前
術後3年
術後8年
11年後

症例7(保険の歯周外科処置)
70歳 男性(非喫煙者)
主訴:左下の奥歯が痛くてものが噛めない。
≪治療経過≫
  1. 左下の5番目の歯の周りの骨が、かなり溶けている。通常であれば抜歯ですが、真面目な方で、保存治療を希望したため、まず神経の治療を行う。理由は歯周病が進行すると、虫歯でもないのに歯がしみて、歯みがきができなくなるからです。経験則上、根の先に骨が三分の一ぐらいしか存在しない場合は、神経の処置が必要になってくると思います。
  2. 歯のしみるのを抑え、歯みがきができる口腔内環境をつくってから、歯周外科を行います。保険の範囲のため、特別な薬液の塗布や骨の移植は行っていません。そのため、骨の連続性は完全ではありません。
  3. 歯周外科後、となりの歯とプラスチック固定をして終了としました。患者さんの歯みがきも良好のため、歯の周りの骨が回復してきたのが8ヶ月後のレントゲン上でわかります。

注)−もし、患者さんが協力的で費用を気にせずに治療を望まれれば、私はいろいろな治療のしかた(骨移植、エムドゲイン、GTR、部分矯正、自然挺出など)を習得していますので、もっと完璧に近くこのような歯を治す自信はあります。あと、歯周病で苦しんでおられる方にいいたいことですが、あきらめないことです。歯周病は、治療が3割、歯みがき習慣や生活習慣の改善7割で、克服できると私は考えています。

術前
術後1年
術後5年
術後7年

症例8(保険の歯茎の移植術)
30歳 男性(非喫煙者)
主訴:右上の糸切り歯の知覚過敏と歯茎が痛くて歯みがきができないのでなんとかしてほしい。
≪治療経過≫
  1. 右上の3,4番付近の歯茎が、やせて根面が露出しているのがわかる。もともと歯茎自体が薄く、不適切な歯みがき、ストレスによる食いしばりもしくは歯軋り、及び過度な側方圧の横の動きなどが原因で、歯茎の退縮を誘発したと考えられます。
  2. そこで、知覚過敏の改善及び歯みがきをしやすい口腔内環境を整えるため、うわあごの硬い歯茎を右上3,4番に移植しました。(FGG)その結果、すべての不快症状は改善されました。
  3. 患者さんは、審美性ももとめられましたので、オペは2回になりますが、移植した歯茎を歯の頚の方に移動させ、審美性も改善しました。
  注)−協力的かつ理解のある方においてのみ、保険内で行っておりますので。保険歯科治療をサービス業的に考えておられる方には、施行しておりません。自費で行う場合は、エムドゲインを使用しています。後戻りしにくいです。
術前
術後@(FGG)
術後A(歯冠側歯肉弁移動術)
術後4年

症例9(部分的歯周矯正処置)
60歳 女性(非喫煙者)
主訴:歯槽膿漏ででこぼこの下の前歯をブリッジせずに治して欲しい。
≪治療経過≫
  1. 左下の一番前歯が歯槽膿漏でふらふらで痛くて物がかめないので抜歯しました。ブリッジにするほど両隣の歯も丈夫ではなく、患者さんもそれを望んでおられませんでしたので、部分矯正を行うことにしました。まず、動かす歯の歯石を徹底的に除去し、矯正装置をつけました。
  2. 1ヶ月後の状態です。前歯が、ある程度きれいにならんでいるのがわかります。
  3. 矯正装置を除去し、プラスチックで歯の固定及び保定を行いその部分は終了しました。
  

  注)−本当は、左下の3,4番もきれいに動かしたかったのですが、以前に他医院でノンクラスプデンチャーと呼ばれる自費の入れ歯をいれたとのことで、その歯を動かすと入れ歯が使えなくなるため、いじりませんでした。
術前
術中
術後A

症例10(重度歯周病治療→エムドゲイン使用の自費歯周外科、インプラント併用、連結固定)
40代男性(非喫煙者)
主訴:口臭、歯槽膿漏をなんとかしてほしい。
ウルトラE難度の歯周病治療です。歯周病学、歯内療法学(根管治療)、インプラント学
感染予防学、修復学、口腔外科学、矯正学すべての分野の知識、技術を持ち合わせていないとできません。もちろん、主治医のいうことを聞く、タバコを吸わない、予約厳守、指示した歯磨きや生活習慣の改善ができる人でないとこのような歯周病を克服することは難しいでしょう。また、そんな患者さんしかやりたくないし、やる気もおこりませんが。しかし、当医院で歯周病を克服した人には、メンテナンスのサポートは十分に行っていきたいと思っています。その一貫として、EO水と呼ばれる含嗽水を無料で提供しております。尚、薬(抗真菌剤、ジスロマック等)、含嗽水で歯周病を克服できるということをよく耳にしますが、当医院としては主たるものではなく、あくまでサブの治療法だと考えています。
術前
こういう治療状態では、インプラントをやるべきではない。
術後

症例11(重度歯周病治療→自家骨移植併用の保険の歯周外科)
40代女性(非喫煙者)
主訴:右下の奥歯が動くのでなんとかしたい。
恐らく10人いれば8人抜歯、もしくは使うだけ使いましょうとお茶を濁す症例でしょう。間違いではありません。むしろ正常な考えだと思います。しかし、患者さんの改心、術者の治したいという思いがリンクすれば道は開けるかもしれません。すべてではないですが・・・。先ずかぶせもの除去し、右下5,6番の根管治療をおかないつつ縁上歯石の除石ついで麻酔下でのSRPを行いました。もちろん、仮歯をつけながらの治療ですよ。中には仮歯で消える人もいますが、私の治療スタイルは仮歯が必要な場合ほとんど無料でいれています。確かに患者さんの満足度は高いですね。再評価後、骨形態の改善が見込めないと判断し、最終的には歯茎を開き歯周外科を施しました。その際、外科用カンナで自家骨を採取し、骨欠損部に補てんし、そのうえにコラーゲンをのせ縫合しました。コラーゲンは、メンブレンではありません。幸い骨形態は改善し、自費のかぶせものを希望されましたので、金合金系のメタルフレームのフルベークハイブリッドセラミックを装着して全行程を終えました。2年後写真をとってみると、だいぶ骨形態は改善していました。この状態で抜歯をすすめる人はいないでしょう。
術前
ファイバーコア直接ビルドアップ後
術後2年

症例12(前歯部重度歯周病、オーソドックスな保険のSRP処置)
70代男性(非喫煙者)
主訴;動いてしみる下の前歯をなんとかしてほしい。
先ずほとんどのところでは抜歯を宣告されるでしょう。それぐらい歯の周りの骨が溶けてしまって、風前の灯状態と言えます。真面目でタバコも吸わず、約束の時間にはきちんと来院される方でしたので本格的に保険内で歯周病の治療をすることにしました。しかし、あまりにもこちらがいったことを順守されたためか、昔ながらの麻酔して盲目的にポケットの深いところの歯石をとるだけの処置しかする必要はありませんでした。7年後恐ろしく歯の周りの骨が回復しています。最新再生治療が最善治療とは限らないと、教えてくれた症例でした。いかに患者さんのモチベーションが重要かということです。

術前
術後7年

症例13(小臼歯部重度歯周病→SRP)
50代男性(非喫煙者)
主訴;左下の歯が動いているのでなんとかして〜。
今から7年前左下の歯が動くということで、SRP処置とかつ隣の歯とのプラスチック固定を行いメンテナンスに移行しました。しかし、それから定期検診に来られることもなく、6年ぶりに再び歯が動くようになってものが噛めないということで再来院されました。案の定、レントゲン写真からもわかるようにほとんど骨にくっついていない状態で、抜歯もいたしかたない状況です。しかし、診断能力のある先生は治療可能とみるのです。なぜか?内緒です。(笑)。今回も予想どおりある程度骨が改善しているのが術後の写真でわかると思います。万が一歯がだめになった場合は、根っこだけをきればいいのです。そうなれば、ブリッジになるだけです。
7年前
1年前
根管治療途中
術後

症例13(全顎重度歯周病→オーソドックスな保険処置、ジスロマック、EO水)
50代女性(非喫煙者)
主訴:全顎的に歯が動き、歯茎が腫れ、口臭がするのでなんとかしてください。
今(2013)から2年ほど前に全顎的な歯周病を治療したいとのことで、当医院を受診されました。全体的にレントゲン写真をみてもわかるように歯の周りの骨も溶けかなり重度の歯周病と言えます。抜歯好きの先生であればすべて抜いて総入れ歯にと提案されるでしょう。また患者さんもそういわれるのが怖くて一日伸ばしで歯科医院にいけないのが本音でしょう。しかし、私は違います。患者さんの治したいという覚悟と自己管理能力の向上、定期検診の重要性を理解してくださる方であればなんとかなるといつも思っています。そのような努力を拒むのであればそのまま自然に歯が抜けるのを待つか、積極的に抜歯して総入れ歯にするかのどっちかだと思います。患者さんは嘔吐反射もひどく総入れ歯は受けいれがたいと言いました。歯を保存するためなら努力は惜しみませんと言われたので、保険では採算があいませんが保存治療を開始することにしました。しかし、そうは言っても過去に仮歯のままで途中でリタイアされる方も数名経験していますので、最近では覚悟をみてから本格的な治療に入るようにしています。幸い悲壮な覚悟で臨まれたためか、1本の抜歯以外すべての歯の保存処置がほぼうまく言ったと思います。動揺、歯茎のはれ、口臭は改善されました。ポケットが深いところは多少存在しますが、排膿といった感染症状は認められませんので経過観察で十分です。また、極力神経の保存に努めた結果、知覚過敏に関してはある程度しかたがないので、シュミテクトを使用するように薦めています。これも二次象牙質ができるまでの辛抱です。
このように歯周病は患者さん次第である程度克服できます。いかにカリスマデンティストが歯周病の治療を完璧に行ったとしても患者さんの改心がなければ徒労に終わるだけです。厳しい言い方をすれば全部が全部歯周病を克服できないということです。覚悟のない方は、早めに歯を抜歯して総入れ歯にしたほうがその人のためになることも多いです。因みに30代、40代で総入れ歯になった人の入れ歯の安定は。60代、70代で初めて総入れ歯になる人に比べていいというデーターが出てるらしいですよ。しかし、なんでも噛める総入れ歯でも歯が健康で全部そろっている状態に比べて30パーセントしか噛めていないという事実も理解しておいてください。(笑)
術前
術後
初診より5年後、全顎的に骨吸収が改善している。

症例14(全顎重度歯周病→オーソドックスな保険処置、インプラント、連結固定、EO水)
60代女性(非喫煙者)
主訴:全顎的に歯が動き、歯茎が腫れ、口臭がするのでなんとかしてください
今(2013)から4年前、憔悴しきった感じで当医院を受診され方です。行く先々の医療機関(公的機関も含む)で、重度の歯周病のため、歯が抜け落ちるまで使用するかもしくは積極的に抜歯して総入れ歯にするかのどちらかの選択をせまられたとのことでした。その診断は間違いではないと思いますが、患者さん、術者の努力、歯に対する思いが一致すれば違った結果を招くことも多々あります。患者さんは、入れ歯にならないためならなんでもしますとのことで、先ずは自己管理の一貫として歯磨きの指導、食生活の改善の指導を行いました。今まで重度歯周病をある程度克服した患者さんに言えることですが、共通して外食をしなくなります。なぜなら、食後十分に歯間ブラシで歯磨きができないからとのことです。この方もそうでした。
初期治療の段階で、大丈夫な患者さんと判断し、保存可能な歯の歯周外科を保険内で施しました。最終的には1年の期間を有し、上は保存可能な歯によるクロスアーチの歯周補綴(フルブリッジ)を欠損部には最低限のインプラントを行いました。予算の関係で上の前歯は保険の材質ですが、フレアーアウトを改善し、歯並び、かみ合わせを整えることができました。もちろんセラミックでの修復のほうが審美性、清掃性の向上は言うまでもありませんが、それぞれの家庭の諸事情があると思います。私は、無理にとはいつも言いません。自分もごり押しされるのが嫌だからです。しかし、保険の材質での治療でも、医院にとってはとんとんか赤字だと思います。ですから、この手の治療の場合、患者を選びます。治療途中後の次はありません。私はそれほど甘い人間ではありませんので。今回も無事治療を終えましたが、左上の奥歯の一部骨欠損部は十分には改善していません。これが保険処置の限界かと思われます。現行での保険制度では混合診療にあたるので、ここだけの自費の歯周病治療ができないのが実に悔やまれます。敢えて言いませんが、何がいいたいかわかりますよね。(笑)。
前の状態に懲りたせいか、3か月に一度来られます。もともと自然食派の方でしたので、ちょっとした指導、説教でうまくいった症例だと思います。
(PS.左下の奥歯の根分岐部病変はパーフォレーションによるもです。僕のパーフォレーションではありませんが、MTAで埋めてあります。予算に問題がなければインプラントを薦めましたがね。)

7年後総評ー上顎前歯保険の被せものの劣化以外、問題は生じていません。当時、+42万(6本セラミック)の治療費が用意できれば、また、違った結果となっていたことは言うまでもありませんが、機能的には問題ありません。患者さんも以前の状態に比べたら、審美性に関して全く気にならないとのことです。
術前口腔内写真正面観
術前

歯周外科後
術後口腔内写真正面観
術後
7年後
7年後パノラマ写真

症例15(全顎重度歯周病→インプラントを併用した包括治療、EO水)
50代女性(非喫煙者)
主訴:全顎的に歯が動き、ものが噛めないのでなんとかしてください。
今(2013年)2年前、インプラントを含めた包括治療を希望され、当医院を受診されました。欠損部の放置により歯列不正、早期接触が生じ、力の問題で、咬合高径(上下の咬合間距離)が低下し、前歯がフレアーアウト(反っ歯になること)しているのが認められます。見栄えよく、噛めるようにするには一口腔単位の仕事になります。そのためには、根管治療、歯周治療、インプラント治療、仮歯による顎位の補正治療、歯磨き指導、セラミックによる補綴治療等の歯科のすべての知識並びに手技が必要になってきます。患者さんはできるだけ歯の保存を希望されましたので、左上4番1本以外は保存し、欠損部にインプラントを行う治療を提案したところ同意されましたので、1年かけて治療を行いました。
患者さんは、最初からある程度自費治療を希望されていましたので、歯科用CTによる精査はもちろんのこと、すべての根管治療でマイクロスコープ、ラバーを使用しました。差別ではありません。区別です。当たり前のことですが、100円の傘と1万の傘が同じものであってはならないのです。

注)左上の四番目のインプラントが手前の犬歯に当たっているように見えますが、下に載せた写真からわかるように触れてはいません。根尖部で2ミリは、外してあります。よく慎重でない術者にありがちなことですが、CT精査やステントを作らずに目測でインプラントを埋入するため、歯根にインプラントをぶちあてて天然歯を抜歯しなければならないという事例をよくインプラントのトラブル本で見ます。(笑)。幸い私は、そのようなミスを犯したことは、今までに一度もありません。

術前
術前正面観
術前上顎咬合面観
術前下顎咬合面観
1年後
術後正面観
術後同じく
術後同じく
インプラント埋入後水平断CT
左上インプラント3本埋入時
左上6番のインプラント
術前右上5,6番
根充後

症例16(右下6番根分岐部病変→歯周外科、セパレーション並びに挺出矯正併用、EO水)
60代女性(非喫煙者)
主訴:歯周病を治したい。口の管理をしてほしい。
全顎的な歯周病の治療を希望され、転院されてきた方です。特に右下の6番(6歳臼歯)の根っこの又の部分の骨透過像(骨吸収)は著しく、相当保存処置に精通した歯科医しか完治させることは難しいのではないかとレントゲン写真から、また口腔内診査からもわかりました。スルーアンドスルーと言って、根っこの又の部分の骨がなくなり、頬側から舌側に交通している状態です。歯茎ラインより上で交通していればトンネリングという手法を使い、清掃性に関しては問題を起こすことは少ないのですが、、歯茎のラインより下で交通している場合は、又の部分についた歯垢は、歯間ブラシではとることができません。そのため、歯茎が腫れてきたりすると抜歯する先生の方が多数を占めるのではないかと思います。今回は、後者のため、治療の難易度は上がります。インプラントを許容してくれる方であれば、インプラントを行った方が恐らく簡単でしょう。また、医院の利益にもなるでしょう。しかし、患者さんは保存を希望されましたので、私の言うことはすべて聞くという条件で、保存治療を開始しました。スルーアンドスルーの再生治療は、一般的には適応外です。この歯を保存するには、精度の高い根管治療、ルートセパレーション(歯を根っこで二分割する方法)、徹底的な歯石除去(歯周外科)、ポケットを減少させたり、骨の平坦化を促す挺出矯正、適合の良い修復物の装着が必要になります。治療期間はトータルで5ヶ月ほどかかりましたが、すべての条件をある程度クリアしたと思います。恐らく医院にとっては、完全に赤字でしょう。しかし、患者さんの満足感や定期検診での管理のしやすさという面においては+と言えるでしょう。

注)根管治療専門医は、歯周病治療、矯正治療、補綴治療が?、歯周病専門医は、根管治療、矯正治療、補綴治療が?矯正専門医は、根管治療、歯周病治療、補綴治療が?補綴専門医は、根管治療、歯周病治療、矯正治療が?だと思います。今の日本の保険歯科治療においては、ある程度どの分野も、無難にこなすことが必要なのではないでしょうかね?。

術前
根管治療終了時
挺出矯正中
修復物装着時
3年後

症例17(下前歯セメント質剥離、外部吸収→SRP、永久プラスチック固定)
60代女性(非喫煙者)
主訴:右下の前歯が動いて物が噛めないので、なんとかしてほしい。
今から8年前(2006年)、右下の前歯(1番)が動いて痛くて噛めないので、何とかして欲しいとの事で来院されました。そこでレントゲン写真をとり、じっくり見てみると、動いている歯の周りのセメント質と呼ばれる歯の一部が剥離しているのがわかりました。また左下の前歯(1番)も、外部吸収といって、歯の周りの歯根膜が欠落することで生じる生体のマイナスの免疫反応が働いて、歯の一部が溶けてきているのがわかりました。恐らく、歯石除去時の歯根膜の過度の損傷が考えられます。主訴である右下の前歯を抜歯してしますと、ブリッジとなる両隣在歯を触る必要が生じます。一般にセメント質剥離、外部吸収の予後は判断しにくいことが多いと言えます。そこで、今回はCR固定による保存治療を行なうことにしました。勿論、予後が悪い場合は、健全な歯によるブリッジも視野にいれなければいけないことはお話をさせていただき、それから治療に入りました。まず、歯が動かにように、CR(プラスチック)で両隣の歯を固定しました。これで、動かなくなったから大丈夫といって治療を終了する先生が大半を占めると思いますが、対症療法であって、根本的な解決にはなりません。歯石の除去、咬合調整、セメント質剥離の除去を行わないでの固定は、破壊行為と言わざるを得ません。1本のために、3本歯を失う可能性があります。勿論、高齢で終末歯科治療を余儀なくされる人や応急的にと強く切望される人にはそれも致し方ないことですが、未来を見る患者さんには、固定だけの処置は行ってはいけません。今回も患者さんが希望されたため、、固定し歯が動かなくなってから、SRP並びにセメント質剥離の除去、咬合調整を行いました。8年後、写真をとって確認してみると、かなり右下前歯の周りの骨吸収が改善しているのがわかります。また、幸い左下の前歯の外部吸収の進行も緩慢のように見えます。しかし、予断はゆるしませんが。
術前
CR固定後
術後8年

症例18(右下6番逆行性歯髄炎ならびに根分岐部病変、SRP、歯周外科、連結補綴セット)
70代女性(非喫煙者)
主訴:右下の奥歯の歯茎が腫れて、ズキズキ痛い。
今から6年前(2008年)、右下6番部の歯茎が腫れて当医院を受診されました。レントゲン写真をとって、よく見てみると、大量の歯石が右下の5,6,7番に付着し、骨が吸収しているのがわかりました。特に右下6番の骨吸収が著しく、根っこの股の部分もかなり骨が無くなり、そこから菌が感染し中の神経が弱ってきたことが考えられました。そこでまず、急性炎症を抑えるため、切開し、排膿を促し、抗生剤、鎮痛剤を服用してもらいました。消炎後、右下6番の神経処置を行い、引き続き麻酔下で、盲目的に歯石を掻きだしました。(SRP)。1ヶ月後、再評価を行い、最終処置である歯周外科を施しました。本当は軽度の分岐部病変に対してはエムドゲインを併用したほうが、完治を望めるのですが、混合診療になってしまうため、使用は断念しました。1ヶ月後、臨床症状がないことを確認し、右下6,7番を連結の被せものを装着しメンテナンスに移行しました。5年後、レントゲン写真をとってみると、かなり骨吸収が改善されているのがわかります。しかし、若干の根分岐部の骨透過像は否めませんが、排膿、出血、動揺といった臨床症状は皆無です。

注)この方は、3ヶ月に一度必ず定期検診に来られます。左上7番以外欠損はありません。非常に賢い保険の使い方だと思います。個人的には、未来をみる患者さんに対して、歯周病のやるべき処置をし、メンテナンスを行なうことがその患者さんにとって一番有益になると今でも信じて疑いません。古典的な方法と言われるかもしれませんが、何十年も前から確立し実証されたやりかたです。流行りの抗菌剤療法だけでは、耐性菌ができる可能性も否定できないのではないでしょうか?あと、生活習慣の改善、自己管理の見直しなくしては、一時しのぎの対症療法とも言えるでしょう。

術前
根充後
5年後

症例19(全顎中程度歯周病、右下5根ハセツ、下前歯歯列不正→SRP、部分歯周矯正、インプラントを併用した包括治療)
50代女性(非喫煙者)
主訴:左下の奥歯の歯茎が腫れて、ズキズキ痛い。口臭がひどく、なんとかしてほしい。
憔悴しきった感じで、紹介で当医院を受診されました。季節の変わり目、体調を崩すと、決まって左下のリンパが腫れ、歯茎も全体的に浮いた感じがするとのことでした。全体的な写真をみてみると、特に奥歯の周りの骨が吸収しているのがわかります。できるだけ保険治療を希望されていましたので、とりあえず保険での歯周病治療を行うことにしました。紹介者がしっかりした真面目な方でしたので、この方に関しましては最初から懐疑心は全くありませんでした。類は友を呼ぶということです。笑
そこで、保険内で歯周病治療、歯内療法、親知らずの抜歯を進めていくのですが、恐ろしいことに自己管理、生体の反応がよく、当初予定していた歯周外科を行なう必要はありませんでした。しかし、右下の5番の予期せぬ根はせつの発生や下前歯の歯石付着のつきやすい環境を整えるために、自費治療であるインプラントと歯周矯正を勧めたところ了解されましたので、3ヶ月かけて同時に進行させました。最小限の矯正を希望されましたので、オーバージェットは多少残りますが、上の矯正はせず下の歯周矯正(MTM)のみで対応することにしました。下前歯1本分のスペース不足により下前歯の歯並びが凸凹しているため、右下の既に神経が除去されていた歯(右下1番)を1本抜歯し、ワイヤー矯正で歯列不正の改善を行い、保定も兼ねてプラスチックとワイヤーで隣在歯を連結固定しました。セラミックの被せもので連結補綴する方法もありますが、費用の増大、歯の切削量が多くなり神経除去が必要になる可能性が高いので、今回は見送るほうが賢明と言えます。
幸い1年半程ですべての処置を終了し、メンテナンスに移行しました。被せものは奥歯が保険の銀歯で、小臼歯が自費のハイブリッド冠です。欲をいえば、もっと良い材質のもの(セラミック、ゴールド系)をいれることが理想的と言えますが、個々の諸事情があると思います。機能、口腔内環境の改善を一番の目的としているのであれば、まずそこに費用をかけるべきです。審美性、口腔内清掃性の向上も求めているのであれば、次に保険外の材質も考慮にいれるべきだと思います。後者は、前者の要件がなり立って初めて行うべきだと今も昔も疑う余地はありません。見た目だけ追い求めて、こんなはずではなかったと後悔しないようにする心がけは重要でしょう。基本、私は被せものの材質に関しては、最初から決めませんし、ごり押ししません。信頼関係構築後、その人となりをみてから決めるようにしています。
幸い自費治療費での踏み倒しを経験したことは今までに一度もありません。(明日経験するかもしれませんが。)口だけの人、うわべだけの人、約束を守らない人、実力のなさをブランド品や車で補う人に対しての拒絶感のおかげかもしれません。恐らく経営者自体も、多大な借金や経費、人件費を背負っていれば、貧すれば鈍するという諺があるように、診療姿勢、哲学も変わってくるのではないでしょうか?
ところで、治療終了後、サービスでパノラマ写真を撮影してみると、奥歯の骨吸収がほぼ改善しています。患者さんの入れ歯になりたくないという思いがそういう結果を招いたのでしょう。勿論、私もやるべき処置をしたからだと思っています。

矯正前正面感
矯正前下顎咬合面観
術前パノラマ写真
右下5番根ハセツ
矯正途中正面観
術後正面観
術後下顎咬合面観
術後パノラマ写真
術後4年
同4年
同4年

症例20(右下6番歯周由来の根分岐部病変→SRP、コスモ高周波、経過観察)
50代女性(非喫煙者)
主訴:右下の奥歯の歯茎と歯の境目に違和感がある。
9年前右下の奥歯の歯茎に違和感を訴え、当医院を受診されました。小さなレントゲン写真から、根っこの股の部分が黒くなって骨透過像を呈しているのがわかりました。また、境目を器具で少し圧接してみると膿が少量滲出してきました。この場合、神経が弱ってきて、股の部分に骨透過像が出現してきたわけではありません。歯石の付着が一番の原因と考えられる歯周病です。複数根存在する奥歯の初期の根分岐部病変の扱いは、今も昔も非常に悩みます。また、歯周病治療の中で、一番技術差がでる治療といっても過言ではないかもしれません。今回は、保険内の処置(SRP)に止め、経過観察(高周波の照射)し、病状が進行するようであれば、自費の再生療法(エムドゲイン+自家骨移植)を提案しました。幸い、排膿、出血などの臨床症状は治まり、初診から9年経過しますが、レントゲン写真からも現状は維持しているように思えます。いかに歯周病予防のためのメンテナンス、検診が重要であるかという証明だと思います。この方、必ず3ヶ月に一度来られます。上下クリーニングして約3000円ですか。(レントゲン検査は別です。)高いと思う方は、月に一回、美容院で髪を切ったり、染めたりすれば、5000円は下らないことと比較してみればわかることでしょう。歯の検診、予防を軽視する人が、後々ケチったことで費用的にも健康的にも問題が生じてくることをよく経験しています。今がよければそれでいいのか、5年後、10年後を想像したビジョンを観るのか個々の価値観の問題だと思います。勿論、やるべき処置をしても報われないときもあります。医療において100パーセントは有り得ませんから。しかし、原因を作ったのは、本を正せば本人ですし、歯科医院を選択するのも本人です。治療が例え上手くいかなかったとしても、やるべき処置、経過観察を保険内という採算のあわない低報酬で行い、真面目に歯科治療に取り組んでいる大半の保険医を責めないで欲しいといつも思っています。いずれ保険制度が破綻したときに、国民はいかに自分たちが恵まれていたかがわかるでしょう。
術前
3年後
9年後

症例21(左上2〜右上2審美歯周補綴)
70代女性(非喫煙者)
主訴:上の前歯の見た目が気になる。
上の前歯の見た目を気にされ当院を受診されました。視診、レントゲン写真からも、中程度以上の歯周病が進行しているのがわかります。特に左上の一番前歯の骨吸収が著しく、抜歯も視野にいれなければいけない状態と言えるでしょう。原因は、歯磨き不足よるもの(細菌的要素)と下顎の両側臼歯欠損により生じた前歯の負荷増加によるもの(力学的要素)が考えられます。そのため、徹底的な除石と被せものによる見た目の良い連結固定を行なう必要があります。そこで、治療を了解されましたので、根管治療、SRP,、4本繋ぎの連結補綴を行いました。治療半年後、レントゲン写真を撮影してみると、左上1番の垂直的骨欠損がかなり改善されているのがわかります。その証拠に、歯茎がクリーピングしていることも確認できます。

注)個人的な臨床観として、ある程度歯周病に侵された生活歯に対して、神経処置後、徹底的なSRPを行えば、歯周外科並に劇的に骨吸収が改善されることをよく経験します。勿論、簡単に神経を除去することは好ましいことではありませんが、歯周病での力の問題、費用の問題や審美性も解決する場合、致し方がないことでしょう。自費の再生療法、矯正治療を併用すれば、神経の除去処置を免れる可能性はありますが、費用、期間、ブラックトライアングルの改善のような審美性回復を考慮すると、難しい問題のように思えます。患者さんが何を一番に希望するかによっても、治療の仕方も変わってきます。今回の場合、見た目が一番で尚且つ歯周病に罹患していた歯だったため、審美歯周補綴も有効な手段と言えるでしょう。しかし、クイック矯正(セラミック矯正)とは明らかに違うコンセプトだということを十分に理解して頂きたいと思います。

術前
術前レントゲン写真
セラミック合着時
適合確認時の
レントゲン写真
半年後レントゲン写真

症例22(左上2番咬合性外傷→咬合調整、自己暗示)
40代女性(非喫煙者)
主訴:左上の前歯の舌側の歯茎がいたい、冷たいものがしみる。
左上の側切歯の歯茎の違和感、知覚過敏を訴え当医院を受診されました。模型から、犬歯が先天的に欠損し、側切歯が横の動きの一番ガイドになっているのがわかりました。また、視診からも若干の動揺を認めたため、小さなレントゲン写真で確認してみると、垂直的骨欠損が認められました。ポケットを測定してみると、手前側で7ミリあるのがわかりました。垂直的骨欠損の原因は、咬合性外傷が一番疑われます。今回は、細菌性のものではなく、噛み締めぐせなどによる力の問題によるものです。そこで、横の力を均等化するため、左上側切歯の側方近心ガイド面を咬合調整し、2,4,5番によるグループファンクションの咬合様式を与えました。知覚過敏は消失し、近心の垂直的骨欠損も改善しているのが4ヶ月後のレントゲン写真でわかります。もし、症状が改善しない場合ナイトガードの作製も考えていましたが、杞憂に終わりました。動揺は無くなり、ポケットは4ミリになりましたが、経過を追っていく必要はあります。

注)個人的な見解ですが、犬歯側方ガイドがない人(例えば、八重歯など)は、4,5番が知覚過敏になりやすいことをよく経験します。また、くさび状欠損を伴っていることも多いと言えます。恐らく、こういった理由から、犬歯ガイドの優位性(歯列のコーナーにある。根っこが一番長い。顎関節から遠いなど)が言われる所以でしょう。また、高齢の方で八重歯の人をみたことがないことも犬歯の重要性を物語っていると思います。しかし、高齢による摩耗、噛みしめぐせ、歯ぎしりなどで、犬歯が磨り減ってくると自ずとすべての歯で横の動きをガイドするようになります。そうなると、知覚過敏を患ったり、骨隆起が出現したり、歯がハセツしたりしてきます。即ち、よく噛むことは重要ですが、硬すぎるものはあまり食せず、ストレスを溜めない生活を送ることが一番お口の中にとって良いと言えるのではないでしょうか。因みに顎関節も膝関節同様酷使すぎるとガタがくると個人的に考えていますので、私はガムは噛みません。

注)現在私は、唾液の分泌を促すためにガムをほどほど噛んでいます。しかし、西洋人に比べて東洋人は華奢な骨格、顎関節なので、あくまで、咬みすぎには注意ということです。
術前
4ヶ月後
症例23(左下7番中隔部ハセツによる根分岐部病変→根管治療、セパレーション、歯周外科)
70代女性(非喫煙者)
主訴:左下が噛むといたい。歯茎がいたい。
7年前から真面目に定期検診に来られている患者さんです。幾度となく入れ歯になることを治療により阻止し、残存歯数を7年間維持してきましたが、今回の主訴である左下奥歯の治療は非常に困難のように思えました。実は、定期的にレントゲン写真は撮影し、患部の状態はチェックしていましたが、恐らく歯にヒビが入っていて、治療を行えば最悪抜歯になるであろうことはいつも患者さんには説明していました。そのため、患者さんもそれを理解してか、入れ歯修復に関しましては難色をしめしませんでした。そこで、再度写真で確認してみると、丁度歯根の又の部分で歯がハセツしているのがわかりました。写真をみせれば患者さんも納得し、すんなり抜歯という選択も悪くないでしょう。いや、寧ろ正常な考えだと思います。しかし、いつも時間励行に来られる方なので、なんとかしてあげたいという思いが湧いてきました。そこで、最後の抵抗をすることを患者さんに説明し、ダメなら義歯ということを伝いました。了解されましたので、被せものを外し保存治療をすることにしました。
まず、股をセパレートし、根っこだけの状態にし、自然挺出を促しながら、根管治療を開始しました。ところが、根尖まで穿通することができず、できる範囲での治療となってしまいました。引き続き、SRP→歯周外科へと移行するのですが、動揺著しかった分割歯がしっかりしてきたのが明らかにわかりました。そこで、仮歯を装着し、3ヶ月ほど経過観察し、違和感を訴えなくなったところで、補綴修復してとりあえず終了としました。1年後、レントゲン写真、CTを撮影してみると、根の周りの著しい骨吸収はある程度改善し、臨床症状もなく問題がないように見えます。あとは、検診で経過を追っていきます。

注)費用をかけてダメな自分の歯をなんとか使用できるように保存し、不幸にそれが5年未満でダメになった場合と、同等の費用をかけて行ったインプラントが不幸に10年くらいしか持たなかった場合、明らかに前者の方が感謝される傾向にあるのが不思議でしょうがありません。恐らく、自分の歯を保存するということに意義を見出す人の方が多いのかもしれません。しかし、冷静になって考えた場合、明らかに後者の方がQOLや費用において意義があると疑いの余地はないはずです。今回の場合は、モニターで保険で行いましたが、恐らく歯周病の大家が同じようなことをすれば、インプラント並の費用を請求されることは明らかです。即ち、世間的な見方からすると、インプラントは天然歯に比べて高価ではないということです(ある先生によれば、天然歯1本100万以上の価値があるそうです。)。そのことを十分に理解されて、治療法を選択するのも悪くないと思います。
最後にダメな天然歯に固執する諦めの悪い人は、大金持ちが、お金を幾ら払っても寿命を買うことができないことを理解する必要はあるでしょう。
経過観察中
中隔部ハセツ後
根充後、セパレート、歯周外科後
近心根前頭断CT
遠心根同CT
1年後

症例24(重度歯周病により自然脱落した右下1番(中切歯)を利用した
隣在歯スーパーボンド固定法)
60代男性(非喫煙者)
主訴:右下の前歯が自然にとれたのでなんとかしてほしい。
いつも困ったときだけ来られる患者さんです。正直あまり乗り気しないケースと言えます。しかし、予約を遵守し他の患者さんに迷惑をかけず、無理難題を言わない患者さんに対しては、プロである以上できるだけニーズに応えてあげたいとは思っています。今回、自然脱落する程歯周病が進んいる口腔内状況のため、神経処置を伴う隣在歯支台のブリッジは直ぐに駄目になると考えられます。勿論、歯周病の治療をきっちりとしてブリッジを行う分には問題は少ないかもしれませんが、患者さんの性格を考慮して、今回は自然脱落した歯を利用することにしました。まず衛生士さんに最低限の歯石除去してもらいました。その間に自然脱落した歯の根っこを歯茎の境目でカットし、口腔外で神経の処置を完了させ、オベイド状に根尖部をトリミングした歯牙を両隣在歯にスーパーボンドで接着固定しました。究極のMIかもしれませんが、噛む力によって再度脱離してくることは否めません。しかし、今回の場合オープンバイトのため、正常な噛み合わせの人よりは負担は少ないのではと推測できます。最長経過例で10年というものも症例としてあります。勿論、この方も10年もってほしいとは思いますが、今のままの考えでは難しいでしょうね。苦肉の策で採用した治療法でした。因みに自費の治療となります。

注)オープンバイト(開口)やすきっぱの人は、下顎前歯に歯石が付き易いことを十分に理解しておきましょう。
術前
自然脱落する
4年前の
デンタル
レントゲン写真
術後
術後デンタル
レントゲン写真

症例25(左上7番の保険の根管治療、SRP、歯周外科、補綴物セット)
60代女性(非喫煙者)
主訴:左上の奥歯の歯茎に違和感がある。
4ヶ月に一度必ず、定期検診に来られる方です。歯科医を本気にさせるタイプと言えるでしょう。基本的には定期検診時には、無駄に大きいレントゲン写真を撮らないようにしていますが、1〜2年に1回は、歯周病の進行具合やおおまかな虫歯のチェックには必要不可欠なものだと考えています。だから、余計な検査と思わないで欲しいと思いますが、実はこれでも不十分なのです。本当の精密検査は、マイクロスコープによる1歯1歯の視診、CT検査、歯周病精密検査、模型診査が必要となるのですが、保険では採算上、時間上出来ません。勿論、それでも銀歯の下のわずかな虫歯や歯茎下の歯石の確実な発見は難しいと言えるでしょう。ですから、保険という制約の元で、定期検診に来ているから大丈夫という認識は棄てるべきだと個人的に思います。今回の場合も、裸眼視診上、レントゲン上、歯周病基本検査上、問題がないと思われた歯ですが、CT検査、歯周病精密検査(6点計測)、歯茎圧迫検査(膿がでるかどうか)の結果、頬側中央部付近に骨縁下ポケット並びに排膿を認めました。勿論、これだけではなく、奥の骨性埋伏の親知らずも怪しいのですが、まずは残すべき歯の中程度歯周病の治療を優先しました。被せものもマージンが合っておらずイマイチだったため、再根管治療を含めた治療を提案したところ、トータル的な治療を希望されました。そこで、冠、土台を外し、まずラバー下で、根管治療を始めるのですが、あろうことか頬側根管でNTファイルをハセツさせてしまいました。やってしまったと思いましたが、実は運良く、頬側舌側1根ずつの2根管で、両方根尖で繋がっているため、助かりました。一方からの根尖へのアクセスが可能だからです。そのため、無理して除去することは試みず、幸い打診も生じることなく、根管処置を終了させることができました。次に保険の制約上SRPを行い、1ヶ月後に歯茎を開いての歯周外科を行いました。4壁性の骨吸収なので、骨の補填材や、エムドゲインを使用しなくても治ると確信めいたものはありました。この知識は、抜歯即時埋入のインプラント処置にも必要なものと言えるでしょう。案の定、半年後、CTを撮影してみると、見事に骨吸収は改善していました。本気に本気で応えたということです。

注)今後、左上に再度違和感を訴える場合、間違いなく骨性埋伏の親知らずが原因と言えるでしょう。勿論、その場合は、送らずに私が抜歯を試みるでしょう。

術前
根充後
半年後

症例26(左側中等度歯周病11年の軌跡、保険内のSRP,、歯周外科、メンテナンス)
60代女性(非喫煙者)
主訴:左下の奥歯の歯茎に違和感がある。
もう11年前(2005年)から来院されている患者さんです。既に歯周病治療は終了し、4か月に一度のメンテナンスに移行されています。なかなか歯の重要性が分かっておられる方と言えますね。本当に真面目で医院にとっては恵まれた患者さんだと今思います。ただ、当時から糖尿病を患っており、それも起因してか口腔内の歯周病も初診時には中程度進行していました。今ほど口の中の状態がA1C数値に影響を与えることは、当時はまだ認知されていなかった時代です。ようやく最近、CMや健康番組で取り上げられるようになってきましたがね。
2005年初診時は、左下の奥歯の歯茎の腫れと歯が上下ズキズキ痛いを主訴に来院されました。
まず、ズキズキ痛む原因と考えられる左上6番、左下7番の神経処置を行いながら、左下7番歯周病による歯茎の炎症を抑えるために抗生剤処方→簡単なSC→SRPも並行して進めました。2か月後の再評価後、ポケットはまだ全顎的に存在し、患者さんの希望により歯茎を開く歯周外科をやることにしました。まず保険では不採算であることや患者さんに術後痛いとか腫れるとか言われるのがいやでここまでやる一般開業医は現実問題少ないのではないかと推測します。私も現在であれば、患者を選択しますし、タバコを吸っている人には余程のことがない限りやりません。幸い、理解のある人でしたので、問題なく終了しメンテナンスに移行できました。恐ろしいことに11年後パノラマレントゲン写真を撮影してみると、綺麗に劇的に骨欠損は改善していました。しかし、そこそこ自己管理や手入れをできるにもかかわらず、残念なことにポケットが4、5ミリのところが所々に存在します。恐らく、これは糖尿病を患っていることも原因の一つでははないかと個人的に推測します。口が乾きやすいことも一因か、後年左上の7番と左下5番の神経処置も行った経緯があります。完治ではなく、うまく病気と付き合っていくようにすることが賢明でしょうね。悪化しないようにメンテナンスを行い、現状維持させていくことが良いと思います。歯周外科は当医院では、人生で一度だけ行うものだと私は考えていますので、検診で悪化した部分が認められればSRP+レーザー、高周波で対処していく予定です。これは、ステロイドや免疫抑制剤を長期に渡り服用されている方(関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、ベーチェット病、シェーグレン症候群のような膠原病、白血病寛解後など)にも当てはまるのではないかと個人的に推測します。科学的根拠があるかどうかはなんとも言えないところですが、いずれ高頻度で骨そしょう症の薬を服用するようになりますので、骨が弱くなることは間違いないことでしょう。即ち健常な人に比べて歯周病が悪化しやすいということです。悲観する必要はありません。これも現状維持のメンテナンスを継続し、うまく病気と付き合っていくという考えも必要だということです。コンプレックスのない人間なんていませんからね。私も他人より目が悪いこと,白髪がかなり多いこと、手汗足汗(笑)、ちょっと肥満がコンプレックスです。うまく付き合っていきます。

初診時(2005年)
11年後

症例27(左上2〜右上1再根管治療、SRP、歯周外科、歯周補綴)
60代女性(非喫煙者)
主訴:上の前歯の見た目が気になる。
前歯の隙間と歯周病を気にされ、来院されました。視診、レントゲン画像から、一般的には上の前歯3本は抜歯適応と考えられます。抜歯後、インプラントもしくは綺麗な歯を削ってブリッジという治療経計画が標準だと思います。しかし、患者さんは抜歯を希望されませんでした。また、努力は惜しまないので、やるだけやってほしいと強く言われました。この症例、まず患者さんの協力、治そうという思いが強くないといくらカリスマ歯科医がやろうとも費用、時間が無駄になることは言うまでもありません。次に歯科医の根管治療、歯周病治療、補綴治療の技術が必要になってくるのです。そこで、以前の被せものを除去し、仮歯を装着しながら、根管治療、歯周病治療を行うことにしました。ここで事前に患者さんに説明しておかなければいけないことは、最終的な被せものが長くなるということです。歯周病に重度侵された歯は、例え治療が上手く行ったとしても、元の状態まで骨や歯茎が改善することはありません。例外として歯根が長く歯槽骨に埋まっている歯根の面積が大きければ、挺出といって歯を引き上げる矯正によって歯槽骨や歯茎のある程度の改善は見込め短い歯冠修復も可能かもしれませんが、今回の場合、挺出させると歯が抜けます。そのため、仮歯での状態確認を確認していただき、ガミースマイルでもなく抜歯に比べたら問題ないことだと言われましたので、治療を進めることができました。そうでしょう。インプラントして歯冠修復した場合も上手い人がやらないと歯冠は長くなります。また、ブリッジする場合もソケットプリザベーションといって抜歯穴の吸収を抑える処置を行わないと長い歯になることは予測できます。しかも、いずれも保険で歯を保存するよりは、費用がかかり、管理が面倒となります。患者さんにとってはデメリットの方が大きいのですが、歯科医にとってはメリットの方が大きいかもしれません。しかし、後者2つの治療法を選択する方が一般的と言えるでしょう。私も患者さんが希望すればそういった処置をすると思います。
幸い、真面目な方で、半年以上の治療期間を要しましたが、無事に歯冠修復することができました。歯冠修復物は、患者さんが希望されたため、汚れの付きにくいジルコニアオールセラミックを採用しました。
4年後、レントゲン写真をとってみると骨の平坦化を認め、口腔内写真からはブラックトライアングルの消失が認められます。病状が落ち着いているということです。術者、患者さんの努力が報われたということでしょう。費用はモニター施術修復で3本約30万でしたが、インプラントによる修復約100万、自費ブリッジによる6本修復約72万に比べたら、費用的にも歯的にも有意義な治療法であったと言えるのではないでしょうか?
因みに仮歯はサービスです。最初に自費の被せものをするかどうかわかりませんから、保険であれば赤字でしょうね。そのため、もし、仮歯で来なくなる人がいればそれはそれでよしと見做します。そういう人を選んだ自分の目が不確かであったことや最初にその人の人間性がわかったので長い目で見ていずれトラブルになることを避けることができたと捉えますので、何も思いませんし、基本的にひつこい催促の連絡もしません。去る者は追わない主義で、自分もひつこくされるのが嫌な性分ですから。

術前
被せもの除去後
術後
術後4年

症例28(左右上1番重度辺縁性歯周炎の治療、SC→SRP→歯周外科→歯周歯冠補綴)
60代女性(非喫煙者)
主訴:上の前歯が動いて痛い。上の前歯の舌側の歯茎が痛い。
上の前歯の不都合で受診されました。下の前歯が、丁度上の前歯の舌側の歯茎を噛み、また上の前歯も連結固定されていましたが、動揺を認めました。難易度ウルトラEの症例です。このケース、歯周病学の知識は勿論のこと、矯正学、補綴学の知識も備わっていないと、患者さんの主訴を恐らく改善することは難しいと考えられます。過度の過蓋咬合で下の前歯が上の前歯の舌側の歯茎を噛みこんでいるため、それを改善しない限り問題は解決しません。今回は、年齢面を考慮して矯正ではなく、現顎位のままで右下1転位歯の抜歯と下前歯の角度補正には補綴処置で対処することにしました。予め言っておきますが、右下2番は補綴済みの歯で左下1,2番は神経に近い虫歯のため、バージンティースではありませんでした。もし、噛み合わせが低くく、くしゃっとした顔貌も補綴で治したい場合は、奥歯の噛み合わせを下顎頭の回転運動の範囲内で挙げる必要があります。1ミリ奥歯を高くすると前歯は2,5ミりすき間ができるようなります。その範囲で全顎的に補綴を構成すれば、面長になるでしょう。笑。しかし、この場合、アンテリアガイダンスといって、前歯の誘導面をうまく与えないと顎関節に問題が生じたり、口の中が狭くなって息苦しいとか噛み締めぐせが誘発される場合があると思います。ここが全顎補綴の難しいところです。もし、すべての人において元々の正常な顎位を完全に再現できる機械が発明されれば、歯科学においてノーベル賞級の発見であり、1000万出しても買いたいと思うでしょうね。笑。そういうわけで、今回は水平的、垂直的な顎位を変えない部分的な補綴で対処することにしました。フレアーアウトしている場合、大体は顎関節に問題が生じていることは少ないと個人的に思います。噛み合わせについてこれぐらいにして、本題の上前歯重度歯周炎についてですが、これは手入れ不足による歯石の沈着に加えて、土台が外れかかってマイクロムーブメントが生じていたことが一番の原因と考えられます。そこで、マイクロ下で慎重に差し歯を撤去し、同時にファイバーコアを直接法でビルドアップして仮歯を装着しながら、一連の歯周処置(SC→SRP→FOP)に移行しました。再根管治療はやっていません。前回の根治は綺麗だと思いますよ。勿論、CTでは確認はしていますがね。一昔前は、自費治療の場合、私が認める医院から流れてきた患者さん以外はすべてやり直していました。最近はCT、マイクロの出現により、無駄な手間が省けるようになったので、本当に最新機器はいいものだと個人的に思います。
今回は、幸い6ヶ月くらいの治療期間で、重度の歯周炎をある程度完治させたと思います。あと半年もすれば、ブラックトライアングルは消失するでしょう。

症例29(右下6番歯内歯周病変→根管治療、セパレーション、歯周外科、歯周補綴)
40代女性(非喫煙者)
主訴:右下奥歯が噛むといたい。歯茎が腫れた。
今から9年前に右下の詰め物が取れたを主訴に当医院を受診されました。非常に怖がりで、口腔衛生状態はイマイチで方でした。レントゲン写真からも当時から小さな根分岐部病変を認めましたが、本人のやる気や歯科に対する不信感などから積極的な歯周病処置は行わず、簡単なSC後、レントゲン写真から根尖病変も認められなかったため、根管治療は行わず、クラウンを被せて終了としました。ところが、しばらくして全顎的に歯周病で歯茎が腫れて再受診され、お口の中に目覚められたようです。そこで今度は病的なところをSRPまで行い、3ヶ月に1回の経過観察をしていましたが、残念なことに8年後クラウンを被せたところの歯茎が腫れてきました。部分的なレントゲン写真をとってびっくりです。エンドペリオ病変がかなり進行して、抜歯の確率90%といったところでしょうか?しかし、昔の彼女ではありません。今度はそこそこ自己管理できます。そこで、以前であれば抜歯するであろう歯の保存治療をすることにしました。このケースは、ルートトランクが短いため、セパレーションと根管治療さえできる能力があれば、十分です。骨の平坦化を期待する挺出矯正は必要ありません。
案の定、半年程でエンドペリオ病変をほぼ完治させました。このように治せる歯科医はいますが、治しても管理できなければまた元の木阿弥です。だから、インプラントもそうですが、改心が必要なのです。駆け出しの頃は、治療がすべてだと思った時期もありました。しかし、今は治療後のほとんどは患者さんに依存すること(局所の管理、健康状態、メンテナンスなど)を知ったため、抜歯、矯正、感染根管治療以外は無力だと悟りましたわ。笑。
2007年
(初診時)
2015年
(2回目の治療前)
2016年9月
(2回目の治療後)
(初診時パノラマ)

症例30(左下5番遠心垂直骨欠損→再根管治療、ハセツ線接着療法、歯周外科、補綴)
50代女性(非喫煙者)
主訴:左下奥歯の歯茎の違和感。
左下5番の歯茎の違和感、排膿を主訴に当医院を受診されました。パノラマレントゲン写真、デンタルレントゲン写真から、左下5番遠心の垂直骨欠損を認めました。また、ポケット検査からも8ミリのポケットを認めました。原因は、1.歯石による骨吸収、2.咬合性外傷、3.歯根のヒビが考えられます。一般的には抜歯が適応です。しかし、患者さんは抜歯を希望されませんでした。そこで、治るという確証はありませんが、私が考える治療を行うという条件で保存治療を引き受けることにしました。まず、以前のブリッジを外してみると、やはり垂直骨欠損を有する部位にハセツ線を認めました。この時点で、標準的な治療であれば抜歯となります。しかし今回、再根管治療後にある表面処理を行い、スーパーボンドでファイバーコアを装着し、歯周外科を行いました。その結果、5ヶ月後にははっきりと骨欠損部が改善しているのがデンタルレントゲン写真からわかりました。また、臨床症状も消失したため、最終補綴物をセットしメンテナンスに移行しました。さらに4ヶ月後の検診時にデンタルレントゲン写真をとってみると、さらに骨吸収が改善していました。ほぼ完治したということです。しかし、元の健全な状態に戻ったわけではありません。ハセツ線を有する箇所はポケットが深く残存しているはずです。また、噛み締めぐせなどの習癖があれば、またハセツ箇所は開くでしょう。そのため、噛み締めぐせの是正や上手に使用するという心得も必要ということです。今回の場合、レントゲン所見と臨床症状の改善が一致したため、術者と患者さんとの治療成果に対しての乖離はありませんでした。しかし、画像所見、視診所見で改善を認めても患者さんが痛くて噛めないという場合は、残念ですが抜歯ということになります。即ち、客観的な保存治療成功基準を満たすことと噛めるということはまた別問題なのです。言い換えれば人それぞれ感覚が違うということでしょうかね。勿論、無駄を省き確実性を求めて、天然歯の状態に限りなく近づけたい場合、抜歯→インプラントが正解となります。そのため、今回の治療は例外の治療(歯科における非標準的治療)と言えるでしょう。うまくいって良かったですねということです。
術前口腔内写真 術前デンタル
レントゲン写真
術中デンタル
レントゲン写真
術後デンタル
レントゲン写真
術前パノラマ
写真
術後パノラマ
写真

症例31(噛み締めぐせによる右下1番歯内歯周病変→根管治療、SRP、CR充填)
80代男性(非喫煙者)
主訴:歯がしみるのをなんとかしたい。
全顎的な治療を希望され、奥さんの紹介で当医院を受診された方です。奥歯1本の欠損だけで、非常に噛む力が強く、歯の頚の磨り減り、噛む面の著しい摩耗、微小クラックを認める歯が多数存在していました。この手のグラウディングタイプの口の中は、良かれと思って一口腔単位の顎位編成を行うと99%の確立で上手く行きません。断言します。噛み締めぐせや横磨きの是正を指導し、現顎位のまま部分的に磨り減りの部分をプラスチックで補修する方法がベターのように思えます。もし、被せものなどの修復処置が必要になった場合は、できるだけ神経を温存し、ゴールドメタルのものを装着する方が賢明でしょうね。因みにこの方、既に数億の資産を所有していますので、勿論顎位編成に強い歯科医が行えば、前歯セラミック、欠損部インプラント、臼歯部ゴールドクラウンという選択も間違いではないと思いますよ。私は自信がありませんでしたので、そこそこ主訴を改善して、上手く現状と付き合っていく治療法を選択しました。プラスチックの補修もそろそろ終わりを迎える頃、右下前歯の歯茎が腫れてきました。ガンじゃないかと心配されていましたが、これは咬合力による歯の中の神経壊疽と診断して、まず右下1番の根管治療を行いました。右下2番の根尖部歯茎に腫れ(アブセス)があるといって、そこを弄っても治りません。医療ミスとなります。笑。実際の根管処置ですが、根尖付近で根管が石灰化していてなかなか穿通は困難を極めました。これは、咬合負担の大きい歯や噛み締めぐせなどの習癖を有した高齢の方に多いと思います。08ステンレス、NT2テーパーの15を使用して、やっと穿通させ、無事アブセスからネオクリナーとビタペックスを流失させることができ、勝ったと思いましたが、1週間後見てみると、小さくなったとはいえまだアブセスが存在します。ここで、二つのことが考えられます。一つは歯根のハセツ、二つは歯周病の併発です。前者の場合は残念ですが抜歯となります。そこで後者を疑い、ポケット検査をしたところ全周にわたりポケットが深く、またレントゲンCTからも縁下歯石の付着が認められたため、麻酔下でSRPを行いました。その結果2週間後、無事アブセスは消失しました。上手くいってほんと良かったです。高齢のため、インプラント、歯根端とかはできれば避けたい処置ですからね。あとはTCHを予防していただくだけです。TCHは、だらしないから口を開けるなと教育を受けた昭和初期世代の歯が残っている人に多い傾向があると個人的に思います。皆さん食事の時以外は、上下の歯は当てないようにしましょう。
術前
1週間後
術後