長期症例集
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治療が完了し、長期間経過した症例を紹介しています。以下の症例は全て保険適用外です。

症例1 
6年経過例 上下金属床による部分床義歯(入れ歯)
60代男性(治療時50代)

≪治療経過≫6年前(2002年)、市外からインプラント治療を望まれ、当医院を受診されました。しかしながら、ヘビースモーカーで1日60本タバコを吸う方でしたのでインプラントに対するタバコの害を説明したところ、違和感の少ない義歯(入れ歯)の作製を望まれました。よくバネのかかる歯は、すぐ悪くなるのでいずれ総入れ歯になると考える方は多いとおもいます。しかし、バネによる負担がかかりにくいように歯の形態修正がされ、歯に負担のかかりにくいバネ、歯に負担がかかりにくい金属が使用されている部分義歯(入れ歯)は、土手(歯のないところ)の状態、口腔清掃状態にもよりますが、バネの歯が悪くなる確率はひくいです。 
この方は、バネがかかる歯が虫歯でしたのでバネがかかりやすい形態に修正した被せ物を装着し、その後ひずみが少ない金属の部分義歯を上下作製し終了としました。遠方のため、なかなか定期検診にきていただくことができませんが、6年経過しても問題はあまり生じていません。



金属床義歯
上顎
右側
正面観
左側
下顎

症例2
8年経過症例  上顎金属床部分義歯+下顎マグネットの部分義歯
60代女性(治療時50代)

≪治療経過≫
8年前(2000年)、悪いところはすべて治してほしいとのことで受診されました。患者さんの要望は、できるだけ歯を抜かず、違和感の少ない義歯をつくってほしいとの欲しいとの事でした。そこで右上1本、右下2本の磁石の義歯(入れ歯)を提案したところ治療同意されました。まず、右上3番、右下5、6番の根っこの治療、歯周治療を行い、磁石の対を根っこにセットしました。
次に左上1,2,3番 左下4番の虫歯の進行が著しいため根っこの治療後、かぶせました。左上3番、左下4番はバネがかかる歯なのでバネがかかりやすい形態にしてあります。(かぶせものは保険の材質です。)
最後に右上4番は治療をこころみるも保存不可能なほど歯周病が進行していたため、抜歯し歯茎が治癒後、保険外の義歯を作製し終了としました。(10ヶ月)
その後、3ヶ月に一度の定期検診をすすめ、了解されましたが、途中とだえ、去年5年ぶりに右上の磁石の歯の不都合、義歯のハセツを訴え来院されました。右上の磁石の歯は、折れていたため、抜歯となりましたが、他は問題なく順調です。注目すべきは、右下6番の化膿した根っこがほぼ完治しています。あと、歯磨き指導をいつも口うるさくしているせいかお口の中は、出血する箇所もなく非常にきれいな状態です。よく、何年もちますかという質問をうけますが、患者さんの生活習慣(喫煙、間食、など)、健康状態(糖尿病、高血圧、肝臓病、腎臓病、骨そしょう症、膠原病、ドライマウスなど)、口腔衛生状態(歯磨き、ガム、うがいなど)、口腔内状況(患歯の既往歴、残存数、咬合状態、習癖、唾液の量、質など)、個人差(神経質、無頓着、など)によってかわってきます。ある全身的な病気を患い、内科で薬を処方された場合、この薬を服用すれば何年生きれますかというばかな質問を主治医にしますか?普通は、しないと思います。ですから、長くよい状態でもたせるには、治療する側だけではなく、受ける側も努力をしていただく必要があります。


 
マグネット義歯
上顎 装着後
上顎 装着前
下:マグネット義歯
上:金属床義歯
義歯装着後
正面観
8年前・術前レントゲン
下顎 装着後
下顎 装着前

7年後のレントゲン

症例3
7年経過症例 上顎フルブリッジ(歯周補綴)
70代男性(治療時70代)

≪治療経過≫ 
 7年前(2000年)、奥歯にインプラントを希望し当医院を受診されました。糖尿病を患っていること、当時の私の技術的な問題(側方サイナスリフトができなかったこと、CT解析を行っていなかったこと)、年齢的な問題でインプラントを断念しました。取り外しする義歯ではなく、強く固定式のものを望まれたため、根の治療、歯周治療(SRP)後ハイブリッドセラミックによる左右6番延長のフルブリッジを装着しました。いまのところ、右下の一番奥歯(セパレートしてあります。)に関して部分的にポケットが存在しますが、排膿してる箇所、出血箇所はみとめられません。本当に几帳面でストイックな方で、歯磨き、食生活、生活習慣に関しては何も申し分なく、半年に1回定期検診で市内より通われています。


 
7年前
術前レントゲン
6年後
術後レントゲン
6年後
正面観
6年後
上顎・咬合面観

症例4
8年経過症例 上顎アタッチメント金属床+下顎マグネット義歯
80代女性(治療時70代)→お亡くなりになりました。

≪治療経過≫
 8年前(2000年)、咬める入れ歯をつくってほしいとのことで当医院を受診されました。そこで、右上の2本の根っこにOPアンカー、左下右下の3本の根っこに磁石の対をつけその上に総義歯がはまりこむような設計を提案しました。この治療法のいい点は、義歯の下にある歯(根っこ)に問題が生じてもすぐに対応が可能なこと、とりはずしが簡単なことがあげられます。バネがかかる義歯の場合、バネがかかる歯に問題が生じた場合、義歯の修理がたいへんで最悪義歯をつくりかえる必要があります。この患者さんも4年目に右上の1本の歯が保存不可能になり抜歯をしましたが、その日にすぐに義歯を修理するだけで問題は生じませんでした。しかし、欠点もあります。義歯の下の歯(根っこ)が虫歯になりやすいことです。この方も右下の根っこと磁石の境が虫歯になっています。年齢的な問題あり、再治療は今のところ考えてはいませんが、今の状態でも食べられないものがないとのことです。そのため、胃腸科の先生に硬いものは食べるなと注意されているようです。遠方より通われているため、現在は問題が生じたときにしか来院されませんが、1日でも長く今の状態を維持しおいしいものをたくさん食べてほしいと思います。


 
義歯装着後
上顎・咬合面観
義歯装着前
上顎
金属床義歯
上顎・表面
マグネット義歯
下顎・表面
義歯装着後
正面観
上顎・裏面
下顎・裏面
義歯装着後
下顎・咬合面観
義歯装着前
下顎

症例5
10年経過症例 右下と左上のインプラント
50代女性(治療時40代)

≪治療経過≫
 6年前(2002年)左上、右下奥歯の治療を希望し、当医院を受診されました。左上、右下欠損部にインプラントを4本埋入しました。右下のインプラントの差し歯は、仮のセメントでつけてあります。左上のインプラントのブリッジは、ネジどめで天然歯も連結させています。今の流れではインプラントと天然の歯をつなげないことが推奨されています。しかしながら、患者さんが抜歯を拒否したため、将来天然歯が都合が悪くなってもいいようにネジ止め様式にしました。あと、かみあわせが、きついためすべての奥歯のかみあわせの面は、金属にしました。このような場合、見た目を重視しかみあわせの面をセラミックで作製するとマウスピースを常時装着しないかぎりかけたり、割れたりします。(セラミックがかけることでインプラントに無理な力がかからないという考えもありますが、いかがなものでしょうか?)
遠方より通われているため、本当は治療しなければいけない歯が数本残っていますが、歯磨きが上手なため、患者さんに助けられています。このまま問題なく、10年以上経過してほしいものです。

 

















術前レントゲン
上顎
咬合面観
術後レントゲン
(4年後)
正面観
左上・拡大
右下・拡大
下顎
咬合面観
左上13年後
右下13年後、上部構造は紛失のためネジ止め式にリニューアルして2年

症例6
9年経過症例 
右下・左下・左上インプラント
60代男性
(治療時50代)

≪治療経過≫
 今から、10年前(1998年)に物が奥歯で咬めないのでなんとかしてほしいとのことで当医院を受診されました。
 入れ歯ではない方法を望まれたため、インプラント治療を提案しました。しかし、費用がかかりすぎるとのことで、最小限の埋入本数で治療してほしいと切望され、当時は長いインプラントを5本うえ、最終的にブリッジで対応することにしました。全体的に治療を行ったため、約1年かかりました。現在は、右上の糸切り歯以外は問題なく、経過をたどっています。(当時、この歯は予算の関係で歯冠延長術を行い無理に保存し、ブリッジの支台にしました。)
この症例は、私が卒業して3年目に行いました。今やっても同じ条件であれば、治療計画は変わらないでしょう。

 
術前
術後
≪9年後≫


症例7
8年経過症例 上顎磁石の金属床義歯
70代女性(治療時60代)

≪治療経過≫
 今から8年前(2000年)に悪いところは全部治して欲しいとのことで当医院を受診されました。上の歯は、差し歯にできるほど丈夫ではなかったので、歯に負担がかかりにくく、垂直的な維持力を求めることできる磁石の義歯(入れ歯)を提案したところ、施行を希望されました。磁石にして8年、金属の義歯にして7年が経過していますが、上に関しては大変満足されています。その証拠に義歯の人工歯がかなり磨耗しており、ものがかめていたことがわかります。(リンガライズドオクルージョン→フルバランスオクルージョン)下の義歯に関しましては、右下に1本磁石の歯が存在しましたが、5年目で軟らかい歯茎のため、虫歯になってしまい抜歯を余儀なくされました。(本来抜歯の歯を無理に残した結果です。最初から患者さんには同意済みでした。)下に関しては、本当はインプラントを考えていましたが、リウマチがひどくステロイドによる骨そしょう症を患っていましたので主治医と相談した結果、断念しました。この患者さんも市内の方で、1年に1回しか定期検診を行っていませんが、歯磨きが良好で歯茎が硬いため、幸い2次的な虫歯の進行は認められません。私は、磁石の義歯をやりはじめて10年、約800本施行しています。そのうち失敗のほとんどが2次虫歯の発生、磁力の低下、磁石の腐食(当初使用していたあるメーカーのものは本当にひどかったです。現在使用しているメーカーのものは改良されているため信頼性があります。)によるものです。5年無傷で磁石の歯を管理するには、適切な指導(フッ素のうがい、夜間の義歯の取り外しなど)、3ヶ月ごとの定期検診、適切なブラッシングが必要かと思います。


   

症例8
6年経過症例 上顎前歯部インプラント
70代女性(治療時60代)→お亡くなりになりました。

≪治療経過≫
 今から7年前(2001年)に上の前歯の被せものがとれて当医院を受診されました。硬いものが好きで、できるだけ長期間使用できる材質をもとめられたためインプラント治療を行うことになりました。当時使用していた抜歯即時埋入インプラント(F2)のプロトコールに従い、GBR併用でデッドスペースを設けず太いインプラントを埋入した記憶があります。(今は推奨されない方法です。)埋入半年後に上部構造を仮づけし、定期検診を行うことになりました。6年経過し、若干の頚部の骨吸収は認められますが(糖尿病に罹患したせいか?)、歯茎のやせも認められず順調です。本人もインプラントにしてよかったと満足されています。

 
≪術前≫
(2001年)
≪インプラント埋入直後≫
(2002年1月)
6年経過後
(2008年8月)
 
インプラント部位
上部構造SET直後
(2002年7月)
(2008年8月)

症例9
7年経過症例 (義歯再製作後3年) 上顎金属床+下顎マグネット義歯
60代男性(治療時50代)

≪治療経過≫
今から8年前に口の中にいれていられる入れ歯を求められ、当医院を受診されました。もともと下は、ばねのかかる入れ歯をつくられたそうですが、ばねのかかる歯が1本1本だめになっていくことと、ばねのしめつける感覚がなじめないため部分入れ歯をいれずに食事をしていたとのことでした。胃腸も悪くなり、なんとかしてほしいと切望されたのを今でも覚えています。そこで、下の残っている弱い歯3本に磁石の対をいれ、磁石の入れ歯を装着しました。違和感が少なく、出し入れも簡単になり入れ歯をいれてようやく食事ができるようになりました。7年の間、特に磁石の歯には問題は生じていません。次は、インプラントとおしゃっていますが、ヘビースモーカーのため丁重にいつもお断りさせていただいています。禁煙できたら考えましょうといっています。よく、歯周病、インプラントの講習会にいって思うことですが、タバコを吸う先生が多いことに驚かされます。患者さんには、禁煙を勧めて、自分はタバコをすっているのですから、?といわざるをえません。
入れ歯の場合、タバコをすう人は、歯茎のやせ、磁石の吸引力の低下、ゴムの入れ歯の劣化度の促進、口呼吸の誘発による口腔乾燥がおこりやすいことを頭にいれておいた方がよいと思いますよ。すなわち、吸わない人に比べて入れ歯のもちが悪くなるということです。

≪義歯を外した状態
の口腔内写真≫
≪義歯を入れた状態の口腔内写真≫
≪入れ歯
表側≫
≪下顎磁石入れ歯
裏側≫

症例10
8年経過症例 左上4番(小臼歯)のシングルインプラント
60代男性(治療時50代) 

≪治療経過≫
今から9年前(2000年)に知人の紹介で、左上の第一小臼歯(左の4番目の歯)が、もともと先天的に欠損し、代行していた乳歯も保存不可能な状態であり、今後どうすればよいかで受診されました。両隣の歯は、できれば削りたくないとのことでインプラントを勧めたところ治療に同意されました。乳歯抜歯1ヶ月後、シリンダー型IMZインプラント(径3.3ミリ 長さ10ミリ)を骨縁下1ミリ深く埋入し、4ヵ月後に上部構造(ハイブリッドセラミック)を装着しました。8年経過し、レントゲン的にも、審美的にも問題は生じていないと思います。(4年ぶりの来医院でした。)このように、1本のインプラントにより2本の自歯を削らずにすんだ事は、非常に患者さんにとっても有益なことでしょう。

術前
術後4年
術後8年
8年後の咬合面観
8年後の側方面観

症例11
8年経過症例 右下6番(大臼歯)のシングルインプラント
70代男性(治療時60代) 

≪治療経過≫今から9年前(2000年)、右下の奥歯が痛くてものがかめず、何とかして欲しいとのことで当医院を受診されました。一番奥の歯は、半分だけ根っこが保存されていますが、根も短くまた虫歯も進行しており予後不良といわざるざるを得ない状態でした。手前の三本に関しては、根の先が化膿していますが、正しい歯内療法(エンド)を行えば問題なく保存できる歯だと当時も思っていました。そのことを患者さんにお話した結果、残せる歯はできるだけ保存し、予後不良の歯にかんしては、抜歯し、インプラント治療を望まれました。実は、このときはじめてインプラントの抜歯即時埋入を行いました。CT解析は当時行っていませんでしたので、いろんなサイズのインプラントを準備し、抜歯穴より大きめのインプラントを選択し死腔なしに埋入したのを今でも覚えています。埋入5ヶ月で上部構造をセットし終了としました。上部構造は、咬合面が金属で、頬面はセラミックのものにしました。理由は、舌側に骨隆起とよばれる骨のでっぱりが存在し、そのような場合咬合力強いため、咬合面をセラミックにするとかける可能性が非常に高いからです。8年経った今でも、上部構造に問題は、生じていません。
あと、私の治療の生命線は、根っこの治療です。レントゲンでもお分かりのように8年後4,5番の化膿した根っこの先は完治しています。

術前
術直後
術後8年
右下6番前頭断CT
12年後
8年後の側方面観
右下5番前頭断CT
8年後の咬合面観
右下4番前頭断CT
右下3番前頭断CT
症例12
10年経過症例 右上7番(大臼歯)のシングルインプラント
70代女性(治療時60代)
今(2013)から11年前、右上の奥歯の治療途中状態で来医院されました。すでに保存不可能な状態で、抜歯後、インプラントを希望されました。当時は、抜歯3か月後、歯茎、骨の状態が回復してから、インプラントを埋入していました。4か月後、インプラントの骨結合を確認し、上部構造を装着し終了しました。その後、半年の定期検診へ移行し、10年の月日が流れました。オープンコンタクト以外は無問題です。私見ですがオープンコンタクトの対処法は、上部構造をセラミックではなく、ハイブリッドセラミックの可撤式にするのが一番安全に思えます。
術前
術後
術後10年

症例13
11年経過症例 左下6,7部への右上7番の分割根移植
70代女性(治療時60代
今(2013)から12年前、左下奥歯の欠損部の処置を目的に当医院を受診されました。通常であれば、入れ歯かインプラントですが、モニターとして機能していない右上の7番の根分割移植を行うことにしました。興味がありやってみたかったこともあり、お金はいただいていません。治療レベルは今見ると並みですね。根管治療、かぶせもののマージンがイマイチといわざるをえません。予後に関しては6年後までは、真面目に定期検診に遠方から通われており無問題でしたが、4年程音沙汰がなくなりました。案の定、右下の奥歯が痛いということでついでに確認でレントゲン写真をとってみると、一番奥の移植根のまわりの骨が溶けてきてしまいました。単に管理不足の問題だと思い、歯石を除去し、かみ合わせの調整を行い、再び経過観察をすることにしました。
(術直後)
(かぶせもの装着後)
(6年後)
(11年後)
(11年と半年後)

症例14
14年経過症例 右下6歯(6歳臼歯)のシングルインプラント
60代男性(治療時50代)
今(2013)から14年前、交通事故で歯が悪くなりなんとかしてほしいとのことで富山より来院されました。2症例目のインプラントでした。1症例目のかたはもうこの世にはいません。実質このケースが最長経過症例です。この当時は男性、骨質がいいといった条件のチャンピオン症例しかてがけていませんでした。
15年前の上部構造装着時
14年後

症例15
10年経過症例 左上3,4,5,6部の骨移植を含むインプラント
60代男性(治療時50代)
この患者さんも15年の付き合いです。症例14の方が紹介してくれました。今から15年前(1998年)左上部にブリッジを装着しましたが、5年で柱となる歯がだめになりました。やるだけのことをやって歯を延命させましたので患者さんも治療成果にかんしましては満足はされていました。保険でやりましたから。次に欠損部に関しましては、入れ歯ではなくインプラントを希望されました。この頃CTも一般的ではなく平面的なレントゲン写真の診断を行っていました。CTを撮らずとも骨移植が必要になることは十分にわかっていましたが、ブロック骨でやるか粉砕骨+人工骨(HA)+メンブレンでやるか最後まで悩みました。結局後者を選択し骨を造ってから、インプラントを埋入するステージドアプローチ法を採用しました。後に歯科用CTが普及するにつれて、やる人によるのかもしれませんが、ブロック骨は経年的に吸収しやすいことが証明されるようになってきました。先見の明があったということですかね。
実際は、頤から骨を採取しそれと人工骨をあわせたものを抜歯穴にいれ、半年たってからインプラントを3本埋入しました。2013年歯科用CTを撮影してみると、頬側の骨は吸収していませんでした。

術前
左上3番は根破折していました。
術後10年

症例16
13年経過症例 (メンテナンス不良例)
60代男性(治療時50代)
今(2013)から14年前、歯が動き、痛くてものがかめないのでなんとかしてほしいとのことで受診されました。重度の歯周病症例です。この頃は、定期検診と歯磨きの重要性はそこそこ言っていましたが、禁煙にかんしましてはそれほどうるさくは言っていませんでした。当時は、若いぺーぺーの歯科医でやさしい、痛くないを売りにしていましたから、患者さんにとって耳障りが悪いことは今ほどいいませんでした。後に共に後悔をすることになるのですが。治療としては、先ず保存不可能な歯を抜歯し、徹底的に歯石を除去し歯周補綴と呼ばれるクロスアーチのフルブリッジを上顎に下は部分的にブリッジをいれ終了としました。しかーし、終了後一度も検診に訪れることもなく、タバコをやめるわけでもありませんでした。13年ぶりに電話がかかり左下が歯がいたいので、みてほしいということで再来院されました。案の定歯周病は進行し、入れ歯に向かうだけの状態になっていました。歯周病は、口の中の糖尿病といえます。一度罹患してしまえばうまく付き合っていかなければいけません。糖尿病が血糖の管理が必要なように歯周病も生活習慣の改善、禁煙、全身管理、歯磨き、定期検診が必要になってくることを予め頭にいれておく必要があります。患者さんの改心が一番の治療なのです。改心した方でも不幸にして歯が悪くなったとしても次にインプラントなどにつながりますが、歯周病の管理をできない人にはやってくれといわれても私はインプラントはしません。、そのような人たちは不便ですが、入れ歯といった自然の流れの治療法にのればいいのです。双方のためです。
今回は最低限歯石は除去し、保存不可能な歯は抜歯し終了しようと考えています。即ち使うだけ使うということです。しかしこの選択が患者さんにとっていいか悪かはわかりません。歯が抜けるまで歯周病が進行した場合、次の処置に移行したときやっかいになることが多いからです。例えば入れ歯になる場合は骨がとけているので安定のいいものをつくるのは当然困難になるでしょう。インプラントする場合は骨移植する必要がでてくるでしょう。最後は患者さんが決めればいいことですが、聞いていなかったとか、こんなはずではなかったとかいいわけはしてほしくないですね。すべては自己責任ですよ。
ですから、本当に歯周病を克服したい人は、やさしいだけの歯科医ではだめなのです。大金持ちで明日歯がだめになってもいいという人なら別ですよ。(笑)。それを肝に銘じて歯科医を選択してください。
14年前
13年前
現在

症例17(症例3の続き)
12年経過症例 (メンテナンス良好例)

症例3の続きですが、最近は体調を崩されなかなかお目にかかれませんでしたが、1年ぶりに遠方から久々に来院されました。右上の奥歯が最近体調が悪くなると多少浮いた感じがするという以外問題はないとのことでした。レントゲン写真を撮ってみると、歯周病が6年前に比べて進行していました。年齢的な問題も考慮し今回は麻酔下での除石のみで対応しました。もしこの先腫れたり、症状が悪化するようであれば、ブリッジは撤去せず、横から抜根をしようと考えています。これがある意味クロスアーチフルブリッジのいいところだと思います。当時でも車一台分費用がかかりましたが、12年も入れ歯にならずなんでも噛めたことに対してものすごく感謝されました。これからも、ある程度予後は見込めると思います。13年前、苦肉の策で行った症例でした。
2000年
2007年
左下
右上
左上
2013年

症例18
12年経過症例 右下親不知の右下6番への移植
50代女性(治療時40代)

今(2013)から12年前に右下の6歳臼歯の歯茎が腫れて当医院を受診されました。懐かしいアナログレントゲン写真です。写真からわかりにくいかもしれませんが、歯茎の下までむし歯が著しく進行し保存が困難な状況でした。インプラントも考えましたが、ちょうど奥に親不知が存在していましたので、保険外で移植をすることにしました。当時は確か根完成歯の親不知の移植は保険がきかなかったと思います。移植自体は完璧に施術できた自信がありましたが、その後の根管治療が困難を極めました。当時から思っていたことですが、基本的に親不知の根っこは湾曲していることが多く、ステンレスのファイルではどうしても十分な根管治療を行うことが難しく予後に不安を抱くことが少なからずありました。この症例もそうですが、レッジを造ってしまい不完全な根管治療となってしまいました。しかし後年弾性のあるニッケルチタンファイルが開発されその危惧は無用となりました。つまり、親知らずの根完成歯の移植は外科処置だけではなく、根管治療の精度=使用する器材、技術が大きく予後に左右するということです。幸い12年問題なく患者さんには使用していただいていますが、根尖病変が若干できてきているのも否めません。もし、今行っていればひょっとすると違った結果だったかもしれませんね。

術前
術後
術後12年


症例19
8年経過症例 義歯用ミニインプラント+マグネット義歯
70代女性(治療時60代)

今から8年前、物がかめるようになんとかしてほしいとのことで当医院を受診されました。上は無理な設計のフルブリッジが、下は右下の犬歯に金具がかかった部分入れ歯を装着されていました。上は再度ブリッジは不可能なのでできるだけ残存歯に無理をかけないマグネットの義歯を下はインプラントサポートによる義歯を提案しました。初めての義歯用ミニインプラント症例です。そのことも患者さんにお話して了解されましたのでまず断層レントゲン写真をとりました。絶句です。骨が鋭利に尖っていて歯茎を開かないでの埋入は難しいことがわかりました。診断も十分にせず、安易に埋入するから失敗が後を絶たないらしいく平均5年の残存率ということを後年よく耳にします。最近では個人輸入の購入になってしまいました。この症例もうたい文句である歯茎を開かず埋入ということを信じて行うと100%失敗します。そこで患者さんには肉体的な負担になるわけですが、歯茎を開いて骨をならしてから埋入し、1か月後義歯にドッキングすることをお伝えしました。幸い問題なく治療が終了し、8年経った状態が下の写真です。なんでも食べられるとのことです。
この方も3か月に一度定期検診を順守されています。その時に必ず義歯の中のゴムが経年劣化していないかを確認することが一番重要なことです。やりっぱなしの場合、5年もたないのもしかたがないことでしょうね。もつもたないは、ドクターの考え、技術、患者さんの自己管理によるところが大きいです。

症例20
10年経過症例 全顎治療(オーラルリハビリテーション)
70代女性(治療時60代)

今(2013)から11年前に全顎的治療を希望され当医院を受診されました。全顎的に歯周病、むし歯が進行しほとんどの歯が抜歯と言われてもおかしくない状態と言えます。費用はかかってもできるだけ歯を保存したいかつ入れ歯以外の方法を希望されていましたので、当時持ちうるすべての技術を駆使することにしました。左上4番歯根端切除術、左下7番エムドゲインによる歯周外科、右上3〜左上3まで歯冠延長術、左上6,7番のトライセクション歯周外科、右下右上奥のインプラントです。もちろんすべての歯の根管治療のやり直しや歯周治療も行いました。最終的には上下ともにインプラント以外で連結のフルブリッジを装着し約1年で治療を終えました。9年後左下の犬歯(糸切り歯)が、折れたためインプラントに移行しました。右側のインプラントは今は販売中止のIMZシリンダータイプーのインプラントです。シリンダータイプはスクリュータイプに比べて初期固定が得られにくく、埋入技術が必要でした。そういう理由があってか今シリンダータイプの製造販売は知っている限りで1社だけです。あと辺縁骨の吸収がスクリュータイプに比べ大きいことが挙げられると思います。

術前
11年後

症例21
13年経過症例上顎→バイロックアタッチメント+磁性アタッチメント(磁石)を組み込んだ              ミリング義歯
          下顎→磁性アタッチメント(磁石)の義歯
70代女性(治療時60代)

今(2013)から14年前、全顎治療のため当院を受診されました。インプラントには否定的で、できれば違和感の少なく残存歯に負担のかかりにくい義歯(入れ歯)を希望されました。定期検診を条件に精密な歯冠修復物にあった義歯を作製することにしました。当時も今も変わりないことですが、精密な根管治療、徹底した歯石の除去をこころがけて治療を行いました。卒業3年目に行った自費治療のため、物凄く緊張して治療した記憶があります。幸い10か月ぐらいですべての治療を終了することができました。費用はかかりましたがバネを使用しないうわあごをくりぬいた義歯のため、患者さんにものすごく感謝されました。しばらくの間(5年)は、定期検診を順守されていましたが、6年移行お顔を見ることもなくなってしまいました。案の定、右下の義歯が割れたということで7年ぶりに来院されましたが、高血圧、心疾患を患ったせいか口腔状態はあまり芳しくありませんでした。しかし、咀嚼には問題がないということでした。心疾患、腎疾患、精神疾患、加齢、義歯装着などにより口腔内は乾燥しやすい状態になります。そうなると、人工の歯は、むし歯、歯周病が多発しやすくなるので、頻繁な嗽やお茶などの多飲が必要になってくることを頭にいれおく必要があります。この方も今のところ再治療は考えていませんが、ところどころに上記の影響で二次的にむし歯ができているのがわかります。やはり、天然の歯にまさるものはないと痛感させられます。人工の歯が多い人は、やはり3か月に一回ぐらいの定期検診が重要かと思います。
1999年
2000年
2013年

症例22
12年経過症例 右下臼歯部インプラント
60代女性(治療時50代)

自分の母親の症例です。右下の奥歯が欠損のため、インプラントをすることにしました。この頃(2001年)は、CT検査も一般的ではなく、断層レントゲン写真で骨の状態を把握してからインプラントをやっていました。当時は、断層レントゲン写真を完備していただけでも凄いといえた時代です。今では、考えられないことですがね。そのため、何本ものサイズのインプラントを事前に準備し、事に臨んだことを覚えています。使用したインプラントは、今は製造が中止されたドイツ製のシリンダー型のフリアリットUとよばれるものです。当時このインプラントシステムの前歯抜歯即時埋入のコンセプトに踊らされた歯科医は沢山いたのではないでしょうか?(笑)。幸い私は、当時、抜歯即時埋入をほとんど行っていませんでしたので、被害にほとんどあいませんでした。後年、抜歯穴に合わせた埋入方向、抜歯穴と同サイズのインプラントを埋入した症例では歯茎の退縮、スレッドの露出などの審美障害が生じているケースが多く報告されるようになりました。ドイツでは20年症例もあるぐらい信頼がおけるとのインプラントシステムでした。(笑)。単に歯科用のCTが普及していなかったことや、西洋人に比べて東洋人は歯茎、骨質共に劣ることが原因であったことが考えられます。まあ〜通常埋入でも太すぎるインプラントは破折の危険性は少ないですが、血流阻害を起こしやすく骨吸収、歯茎が退縮しやすいので、骨の生物学的幅径を十分に考慮する必要があると今では思っています。このように日本の臨床家は、海外の流行りに踊らされる傾向があります。10年、20年たって実証されたやり方が王道と言えます。しかし、王道(伝統)も挑戦なくしてありえないということもまた事実なのです。最新治療は本当によく考えて行う必要があるとことを決して忘れてはいけません。幸い母のケースは、骨幅が十分に存在したため、12年たった今でも骨吸収、歯茎の退縮はほとんど生じていません。
因に右上もブリッジをしていましたが、5番目の歯が破折したため、4年前にこちらは、フラップレスソケットリフト抜歯即時埋入を別のインプラントで行っています。
口の中には反対側も入れて合計7本のインプラントが入っていますが、なんでも噛めて非常に喜んでいます。口の中の総治療費は、恐らく数百万以上だと思いますが、母の手一つで歯科大を卒業まで援助していただきましたので、少しは恩返しができたかもしれないと思う今日この頃です。(笑)
術前(2000年)
右下7番抜歯後
12年後(2013年)、インプラントによる咬合安定で右下5番の垂直的骨吸収改善

2009年抜歯前の右上5番
2013年
2013年CT矢状断

症例23
10年経過症例 左下臼歯部インプラント
60代男性(治療時50代)

今(2014)から、11年前に左下のブリッジの支えとなる歯が重度の歯周病を患い、歯茎が腫れ当医院を受診されました。懐かしいアナログのデンタル写真(小さいレントゲン写真)からもわかるように、骨の中に埋まっている根っこの部分も少なく、再度のブリッジの支台としては適応外と言えます。そこで、インプラントを薦めて了解はされましたが、一つだけ気がかりなことがありました。ヘビースモーカーだということです。この方は、自分の父親が40代で総入れ歯になっている姿を目の当たりにし、自分はできることなら入れ歯になりたくないと常々おしゃっていました。そこで、入れ歯になることとタバコをやめることのどちらの選択をしますか?という質問をしたところ、後者を選択されました。当時、自分も若かったこともあり、禁煙、定期検診の遵守ができれば、そのかわりに10年の保証をしましょうと口約束をしてしまいました。10年の歳月が流れましたが、患者さんはすべての約束事を守り、また、私も患者さんとの約束を守りました。恐らくこれからも長期に渡り、この2本のインプラントは、患者さんの咀嚼、健康を守ることでしょう。ところで、当時(2003年)は、CT撮影は行っておらず、断層レントゲン写真だけの診断でインプラントを行っていました。今では信じられない話ですがね。下に示すように歯科用CTとは雲泥の差で診断しにくいです。無いよりは有ったほうがまだましですけどね。
しかし、一番知りたい一番奥の歯の周りの状態がアーチファクトでわかりません。当時は、4壁性でも2ミリ以上のギャップに弱いとされていたチタン製のシリンダー型のF2インプラントを使用していましたので、事前に径4.5ミリ 5.5ミリを準備してことに臨みました。抜歯後、フラップを形成し直視下で、ギャップが2ミリ以下になるように径5.5ミリのインプラントを埋入しました。ギャップには自家骨の削片を充填し、歯茎を縫合し終了しました。今なら、歯茎は開きませんし、骨との接触率(BHC)の高いHAインプラントを使用し、ギャップには何も入れません。10年後レントゲン写真からわかるように、ギャップは骨に置換されています。

注)私のインプラントの診査診断の変遷ー1998年〜2004年までパノラマ、断層レントゲン写真、2005年〜2009年まで医科用CT、2010年〜歯科用CT
私がインプラントを始めてから、パノラマ写真だけでの診査診断がないことは明記しておきます。
因みにメンテナンス費(10年で歯も含め約8万)こみで、、トータル約73万(インプラントブリッジ部分約65万)です。1日に換算すると約200円です。しかも、まだまだ使えます。もし、インプラントをせずに入れ歯を入れていた場合、金具のかかる歯に負担がかかり徐々に入れ歯が大きくなり、違和感ストレスが増えたり、胃腸障害が生じたりすることを考えると1日約200円ではすまなくなるのではないでしょうか?個人的には、タバコ、お酒に毎日約1000円使うほうがどうかと思いますよ。あと、占い、カルト、オカルト、マルチ商法とかにもです。(笑)
術前11年前
左下5部の断層レントゲン写真
左下7部の断層レントゲン写真
術後10年
10年後左下5部前頭断CT
10年後左下7部前頭断CT

症例24
11年経過症例 右下臼歯部インプラント
70代女性(治療時60代)

今から11年前(2003年)右下の喪失した奥歯の部分に歯を入れたいとのことで、当医院を受診されました。入れ歯に難色を示されたため、インプラントを行うことになりました。この当時は、好んでシリンダータイプのインプラントを使用していましたが、恐らく今やれと言われても上手くできるかどうか自信がありません。根拠のない自信と若さが成せた技でしょう。使用したシリンダーインプラントは、手前がIMZインプラントの径4.0ミリ、奥がF2シリンダータイプの径3,8ミリです。長さは共に10ミリです。
歯茎を開き、直視下でインプラント手術を行いました。30分くらいかかったと思いますが、問題なく骨結合し、10年問題なく経過を辿りました。ところが、10年後、インプラントの被せ物は問題がなかったのですが、手前の自歯が虫歯で被せものが取れてしまいました。患者さんも丁度その頃不幸にガンを患い、自歯を抜歯しインプラントを埋入することが困難であると判断し、致し方なく自歯を保存しインプラントの被せ物と繋げる方法を選択をしました。天然歯との連結は、基本的に今の流れでは推奨されていません。インプラントには歯根膜と呼ばれるクッションが存在しないので、連結した場合、天然歯がよく沈下する現象が認められることが多いからです。そのため、今回はそのことを考慮し、自歯の方に内冠を装着してから被せものを仮着することにしました。因みにインプラントの被せ物は再製していません。私は不測の時に備えて仮づけすることが多いので、10年使用していたインプラントの被せ物と自歯の外冠(被せ物)をろう着し再利用しました。(形態修正はしてあります。)

注)使用したインプラントは、今では既に製造中止されているものです。まさか自分の使用していたインプラントメーカー(アスパックコーポレーション)が吸収合併されるとは夢にも思いませんでした。よりによって、売れ行きが悪くなればすぐに製造ストップする外資系の会社です。これを教訓に今では、どんなに安くインプラントを購入できようが、韓国産、国産のものは使用せず、大手3社(ストローマン、ノーベル、ジンマー)のものだけを使用することを心に誓いました。

2003年埋入直後
3ヶ月後被せ物装着時
2013年
2014年
(施術11年後)
左下5番根管治療終了時
左下6部の前頭断CT埋入11年後
同左下7部
被せ物装着前の
口腔内写真

症例25
20年以上経過症例 右上ITI充実型インプラント 左下ITI中空シリンダー型インプラント
9年経過症例 左上2,3部 右下4,6部 左下3部 スクリューベントインプラント
70代女性(治療時50代)

今(2014年)から20年以上前、私が大学生の時に初めてインプラント治療を見学した患者さんです。母の知人でした。治療を行ったのは、東京からやってきた流れの歯科医です。当時は、今ほどインプラントを行うドクターも少なく、私が卒業後にインプラントを行う動機付けを与えてくれるには十分な出来事であったことは記憶しています。今、どうされているかわかりませんが、彼とは、診療哲学、診断が決定的に違っていたことは後年わかりました。まあ、何はともあれ、この患者さんに関しましては、上に2本、左下2本インプラントを埋入し、残存歯と連結した修復物を装着して終了という形になったそうです。その後2000年に、右下の残存歯が自然脱落し、2004年に上の固定式ブリッジが動きはじめたのを主訴に私の医院に来院されました。左上の2回法ITIインプラントは、すでに骨結合を喪失し、上の残存歯並びに左下の糸切り歯は根破折を、下の糸切り歯以外の残存歯は根尖病変が生じていました。幸い、右上のITI充実型インプラント、左下のITI中空スクリュー型インプラントには問題はありませんでした。そこで、上は、明らかに骨状態が芳しくないため、左上の比較的骨状態の良い前歯部に2本インプラントを埋入し、反対側の1本も含めた合計3本で入れ歯(義歯)を固定するボールアタッチメントオーバーデンチャーを提案しました。下は、義歯による修復に難色を示されたため、右下の欠損部に2本インプラントによるインプラントブリッジを、下の前歯部は根管治療、歯周病治療後に連結クラウンを、左下は糸切り歯部にインプラントを1本埋入し、奥の残存歯(4番、内冠処置つき)と10年前に前医が行ったITIインプラントとブリッジにする治療法を提案しました。同意されましたので、半年かけて治療を行いました。(2005年)。なかなかメンテナンスには協力的ではなく、9年後左下の4番の歯茎が痛いとのことで再来院されました。その際、CTを無料で撮影させてもらいました。20年以上前に前医が施術したITIインプラント(現ストローマン)は、感染症状もなく成功しているのがわかりました。ITIインプラントの生体親和性、耐久性どちらも問題がないということです。後年、ITIインプラントコピー商品が続出しているのも頷ける話です。勿論、前医の手技も良かったのでしょう。右上のインプラントはきれいにソケットリフトされています(あと手前のソケットプリザベーションも)。ソケットリフト法は、丁度1990年頃サマーズというデンティストが発表した上顎洞挙上術法です。もし、知っていて、その方法を採用したのであれば、素晴らしいと言えますが、知らないでやっていた場合、生体に助けられたとも言えます。しかし、骨粗鬆症を患ったにも関わらず、副鼻腔炎をおこすことなく、インプラント周囲炎になることもなく20年以上成功していることは、賞賛に価すると思います。世界的に40年以上もったという人も中にはいますが、その流れの中で、追加埋入をしたり、上部構造を再製作したりしていることはあまり語られることはないでしょう。また、患者さんの全身状態の善し悪しもです。なかなか、生存ではなく、成功している20年の症例をだすことは難しいといっておきましょう。私は、今年(2014年)でインプラント歴16年です。あたり前ですが、20年以上の症例はまだありません。しかし、インプラントが20年以上もつという証明はできたと思います。まあ他院のシェルシェブインプラントとかサファイヤインプラントとか25年以上経過した成功例を目にする機会もよくあります。恐らく長期成功例をもっている先生は、私のような凡医にはない診療哲学、姿勢を持っているのだと思います。うわべだけ優しいとか痛くないとかだけを売りにしているところでは、絶対に無理だと言っておきましょう。補足ですが、痛くなく麻酔を打つのは昨日今日ではできません。今までの習慣がものをいいますから。簡単なテクニックがありますが、卒業したときに最初に考えなければいけないことでしょう。ビーチ系の先生が、今だに好まれるのもある程度わかる話です。治療の質は別ですが。
ところで、再来院時の主訴である左下4番の歯茎の違和感ですが、根の破折の可能性があります。投薬で症状が改善しましたが、頻発するようであれば、一旦仮着してあるインプラントブリッジを外し、抜歯後再仮着しようと考えています。遠い未来をみてある程度治療を行っていますので、焦ることなく、対処できるでしょう。

注)恐らく、できる歯科医は、前医できれいな治療がされていた場合、粗を探さず批判はしないでしょう。なぜなら、総合歯科治療がどれだけ難しいかを体感していることと自分も同じことができるであろうという自信が備わっているからだと思います。一方、できない人は、やりもしないのに、できもしないのに批判したり、また患者のバックボーンを知らずに前医を批判するところがあります。その一例に根管治療があります。前医の根管治療が不備で歯が悪くなってきた場合、術前のレントゲン説明はされることは多いと思います。しかし、後医の術後のレントゲン写真の説明がされることは恐らく少ないのではないか?と想像できます。私が見てきた歯科医は、ほとんどそうでした。(笑)。しかし、現実問題、質は悪い(高齢、身体の不自由な方や乳歯はしょうがない時もありますが)が痛くないとか、耳障りの良いことばっかり言うところのほうが、人気があるのかもしれません。まあ〜私の場合、器の小さい人間なので、診れるだけ来てくれればと思うくらいです。大きくなれば、経費、管理が大変です。他人の庭はよく見えるただそれだけです。小さい分、患者さんにいろいろと還元できるところもあるでしょう。(笑)

2001年


2005年
2014年
右上4部
左下6,7部
左下3,4部
右上4部前頭断CT
左下6部の前頭断CT
左下7部の前頭断CT
右下6部の前頭断CT(フラップレス埋入)
右下4部の前頭断CT(フラップレス埋入)
左下3部の前頭断CT
左上2部の前頭断CT
左上3部の前頭断CT

症例26
10年経過症例 上顎洞までの骨長不足部位(左上6部)のインプラント(F2シリンダー)
60代男性(治療時50代)

今(2014)から11年前、左上の奥歯がズキズキ痛いとのことで、当医院を受診されました。レントゲン写真から、一番奥の歯は、神経を残した状態でブリッジの支えとなっていて、中の神経が弱ってきたことが原因と考えられました。そこで、奥の神経の処置をするのですが、再びブリッジを入れることに対して患者さんは難色を示しましたので、欠損部にはインプラントを行なうことにしました。しかし、術前のパノラマレントゲン写真からもわかるように、上顎洞庭までの距離が7ミリくらいしかありませんでした。骨幅は、径4.5ミリのものを埋入するには十分でした。当時のコンセプトは、上顎臼歯部のインプラントは最低10ミリ以上、径4ミリ以上が推奨されていたと思います。その考えに従うと、3ミリほど骨長が不足していると言えます。そこで、ソケットリフト法と呼ばれる簡単な上顎洞挙上術を併用することにしました。当時は、CT撮影も一般的ではなく、断層レントゲン写真による分析のみで行っていたため、手探りの状態でやっていた感は否めません。術後、感染症状(疼痛、腫れ、高熱、後鼻漏、鼻血、頭重感など)を訴えないことが一つの成功の証と捉えていました。しかし後年、CTが普及するにつれて術後1ヶ月くらい洞粘膜の炎症がよくおこることがわかるようになるのですが、当時は、知っている先生も少なかったのではないかと推測できます。
使用したインプラントは、F2と呼ばれるドイツ製のシリンダータイプのものでした。実は一番、ソケットリフトに適したインプラントだといえるでしょう。しかし、表面性状や衝いだ式の埋入方法などの問題のため、製造中止になってしまいました。個人的には今でも悪い製品だと思っていません。
この当時は、3ミリくらいのリフトアップには人工骨を使用せず、慎重に洞粘膜だけでリフトアップさせていました。10年後、経過観察でCTを撮影してみると、上顎洞に炎症を認めるような所見はみとめず、インプラントの先端にきれいに骨が再生していのを認めます。理想的な成功例と言えます。しかし、上顎洞は含気性のため、例えインプラントの先端2ミリ深く骨を作ったとしても、使用する自家骨、人工骨によっては重力の関係で経年的に骨が落ちてくることは否めないと思います。勿論、落とさない技術をお持ちの歯科医もいますが、非吸収性の人工骨(HA、牛、他人の骨など)の使用、外科的侵襲の増大、術後の感染(非吸収性人工骨の洞内飛散による上顎洞炎←最も厄介)、動脈の損傷リスクは常に存在すると思います。
一方、テント上にしかリフトアップできない場合(天然歯根が上顎洞に入り込んでいる場合と同じ)は、後年感染が生じると容易に上顎洞炎(蓄膿症)を引き起こしたり、インプラントの脱落につながるリスクもありますが、身体にとっては低侵襲な術式と言えるでしょう。どちらが正しいか私には判断がつきませんが、余生を想定して、サイナスリフト、ソケットリフトを選択するのも悪くはないと思います。前者は若年、中年向き、後者は高齢者向きと言えるかもしれません。

注)骨長部分が皮質骨だけで、骨幅が十分ありかつ上顎洞が拡くドーム状部位の造骨は、インプラント先端の骨はなくなる可能性が高いと言っておきます(特に大臼歯部)。しかし、インプラントが上顎洞に突出しているのではありません。このことを知らないで、CTも読影せず、やれ蓄膿症になるとか不安を煽る人がいますが、インプラントが原因の場合、早期に動揺、脱落を認めるはずです。感染があれば、骨には結合しませんから。もし、鼻が原因の場合、鼻中湾曲(鼻が曲がっている)、中鼻自然孔付近の解剖学的形態異常が考えられると思います。
最後にインプラントだけが、上顎洞炎のリスクがあるわけではありません。根っこが上顎洞に突出している歯の根の治療、抜歯でも上顎洞炎をおこす可能性があることを十分に理解しておいたほうが賢明でしょう。保険治療しかしていないから大丈夫なんて、保険医も患者さんも妄想に過ぎないことでしょう。笑。保険、自費に拘らず、常に緊張感をもって接することが重要ではないでしょうか?
術前
術後2年

術後10年前頭断CT

症例27
10年経過症例 左上4部の自家骨移植によるGBR併用インプラント
60代女性(治療時50代)

今(2016年)から11年前、左上の4番(第一小臼歯)の動揺ならびに歯茎の違和感を主訴に当医院を受診されました。レントゲン写真からもわかるように、歯の周りの骨が著しく吸収していました。重度の歯周病と言えます。原因は、手入れ不足と歯の横の動きのときに生じる過度な咬合力と考えられます。そこで、抜歯は不回避と考え、ブリッジとインプラントの治療法を説明したところ、後者を選択されました。術式は、抜歯後、歯茎の傷が癒えてから、自家骨を利用したGBRと同時インプラント埋入法を採用しました。このとき使用したインプラントは、ストレートタイプのもので表面性状がHAではありませんでしたので、初期固定を得るため、バイコーティカル法で行いました。そのため、16ミリという長いインプラントを使用しました。ギャップや頬側の裂開部には、上顎結節部からトレンフィンバーで採取した海綿骨をボーンミルで粉砕しシャーベット状にしたものを充填しました。その上に、上皮の迷入を防ぐため、吸収性のメンブレンをボーンタッグで固定し、減張切開後、歯茎を閉じて一回目のオペを終了しました。6ヶ月後、インプラントの頭出しである2次オペを行い、骨結合していることが確認できたため、2週間後、最終の上部構造を装着しメンテナンスに移行しました。
10年後、興味があり歯科用CTを撮影させてもらいました。直感的に、自家骨移植のため頬側の骨は維持されていないかも?という予想でしたが、良い意味で期待を裏切ってくれました。ちゃんと頬側の骨は維持されていました。恐らく、前歯のように小臼歯部は筋の作用が少ないこと、埋入方向が良かったこと、2次オペまで十分に期間をおいたことが良かったのではないかと推測できます。

注)今やれば、歯の保存を試みるかもしれません。即ち、自家骨移植、エムドゲインなどの再生療法+FGG+エンド+側方圧のかからない修復物装着です。
術前
埋入後
10年後
10年後前頭断CT
同水平断CT

症例28(症例18の続きです。)
15年経過症例 右下親不知8番の右下6番への移植
60代女性(治療時40代)

症例18の続きです。その後定期検診を遵守されており、レントゲン上も若干根尖部に透過像を認めるため、無料でCT撮影をすることにしました。唖然としました。レントゲン上そこまで問題がないだろうと思っていましたが、根っこの先に化膿病変がかなり大きく出現しているのがわかりました。これは、根管治療の不備によるもの以外考えられないものです。しかし、当時の私は、ニッケルチタンのファイルを使用していない時期で、ステンレスの弾性のないファイルを使用していたため、レッジを形成してしまい、十分な根管治療ができませんでした。今やれば勿論違った結果になると思いますが、過去には戻れません。幸い患者さんは自覚症状を全く訴えることはありませんでした。14年という治療成果にも患者さんも満足されており、このまま使用するということも間違いではないと思います。しかし、リスクを承知で再治療を勧めてみました。了解されましたので、レッジ修正による再根管治療を行うことにしました。しかし、マイクロ下で試みるも本来の根管が見つかりません。あろうことか近心に人工根管形成並びに局所のパーフォレーションを形成してしまいました。最悪です。しかし、焦ることなく、次の治療法が私の頭に浮かびました。意図的再植法です。この方法歯根膜を若干傷つける以外は、すべての不備な部分(根尖病変のソウハ、パーフォレーションリペア、逆根充など)の処置を目視下でできるのです。勿論、エムドゲインを使用すれば、さらに良い結果を招くと思いますが、今回は使用しませんでした。3ヶ月後十分に骨に定着してから、今度は保険の被せものではなく、辺縁の封鎖性の良いゴールドメタルで裏打ちされたフルベークのハイブリッドセラミックを被せて無事終了としました。この時、CT撮影してみると、根尖の病変は消失していました。後何年使用できるかわかりませんが、既に15年経過していることを考慮すれば、インプラントがすべてではなく、親知らずの移植も今一度再評価すべき治療法ですかね。

注)基本的に私は歯科医の能力は、学歴、年齢に関係ないと思っています。個人差があるということです。しかし、一個人で見た場合、卒業したての頃よりは5年後、10年後で経験差、技術差が生じることは疑いの余地はないでしょう。この症例も今の私が行うのと15年前の29歳の私が行うのとでは治療成果に違いが出るのは当たり前のことかもしれません。勿論、29歳のときの自分よりもできない年配の先生方がいることもまた事実です。これが、個人差です。ですから、経験差、技術差をある程度平均的に考慮したい場合、新卒、若い先生よりは年配の経験のある先生にみてもらう方が、まだリスクは低いかもしれません。しかし、インプラントや歯周病のメンテナンスを考慮した場合、患者さん自身より若い有能な先生に診てもらうほうが安心かもしれません。
移植14年後
意図的再植後1年
移植14年後の
CT矢状断
再植3ヶ月後
CT矢状断
同CT前頭断

症例29
10年経過症例 左下6番根ハセツ抜歯後→インプラント
30代男性(治療時20代)

今(2016年)から11年前、左下の奥歯が腫れて、受診されました。この頃は医院に歯科用CTもなくレントゲンだけでの診査、診断を行っていましたが、縁下カリエスも著しくまた近心根パーフォレーション並びに噛み締めグセによる根ハセツが疑われましたので、抜歯を選択しました。クリアランス不足並びに両隣在歯の神経除去を考慮し、インプラントを説明したところ、希望されました。実はこの頃、患者さんの長期的なメンテナンスを考慮してインプラントを行うことは今ほど考えていませんでしたので、結果、両隣在歯を触らないという名目上、自分より年齢が若い人にインプラントを行うことになってしまったという経緯があります。今は、自分より年齢が10以上若い人、転勤族、転居の可能性のある人には、原則行わないようにしています。そのため、今後インプラントをお考えの方は、メンテナンスを考慮して、自分よりも若い優秀な歯科医に施術してもらうことをお勧めします。勿論予見しないこともありますから、自分より若くても不幸が訪れることはありますが、よぼよぼの名医に診てもらうよりは賢明かと思います。個人的な見解ですが、どんな名医もいずれは敗北するという事実を皆さんには理解していただきたいと常々思っています。即ち、必ず形あるものは崩れるということです。ですから、当然インプラントも何もしないで一生持つとは思っていません。しかし、適切な管理、良好な全身状態、口腔内状態が保たれれば、長期に使用できるということだけは言えるでしょう。いつ終わり(死)を迎えるからわからないのと同じかもしれません。特に身体の中に入る人工関節とは違い一部口腔内に出ているインプラントは、感染を引き起こす可能性がある状況下に晒されていることを今一度理解するべきでしょう。だから、適切なメンテナンスが必要なわけです。基本、長期症例に恵まれている歯科医は、真面目な患者さんに助けられているといっても過言ではないでしょう。メンテナンスができる。約束を守る。タバコを吸わない。健康管理できる。歯の価値観を理解しているなどです。だから、自分も長期に使用したいとお考えの方は、施術だけではなく、長期的なメンテナンスを行える歯科医を探す必要があるということです。20代、30代の人は、よく考えてインプラントをするようにしてほしいものです。世界的に40年もったという症例もあるらしいですが、上部構造を再製作したり、追加埋入したりしているところはあまり語られることがないと思います。
この方は治療当時二十代で、他の歯のことも考え、やっとやっとで治療費(30万)を捻出されました。私は、別に押し売りはしていません。彼が決めたことですが、その後10年という長い期間を通して、ほぼ無料でインプラントの検診はしてきました。勿論、残存歯の歯周病の検診や噛み締めのチェックは保険で行ってきましたが、別にインプラントだけで二重に保険外でメンテナンス費を請求したこともありません。私は、自分の判断が正しかった、インプラントが決して悪いものではないという証明をしたいといつも思っています。時として予後不良例に出くわすこともありますが、ブリッジの平均寿命を考慮すると、今のところ欠損補綴には適応があえばインプラントが一番有効であると個人的には思います。
話は逸れましたが、当時(2005年)の治療手順を振り返ると、まず左下の6番を抜歯するのですが、噛み締めぐせのある人の歯の抜歯は困難を極めることが多いと思います。当時ピエゾもなく、かなり苦痛な思いをさせたのではないかと今反省しています。
当時は抜歯即時埋入はやっておらず、抜歯後三ヶ月経過してから径の太いインプラントをフラップ下で埋入していました。埋入3ヶ月後、上部構造は咬合面白金加金の前装ハイブリッドを採用し、仮着終了としました。あれから十年の歳月が流れましたが、インプラント周囲の辺縁骨の吸収や上部構造仮着破損脱離も一回も生じていません。恐らく、インプラントではなくブリッジを採用していた場合、十年未満で歯が折れて、インプラントの本数(3本)が増えていたことは容易に想像できます。(高いところのインプラントなら3本120万以上)。過去には戻れませんので検証できませんが、予見性ということです。

注)10年保証を謳っているところには、10年症例を見せてもらうことがより真実味があるでしょう。2006年に卒業をしていれば、当たり前ですが、10年症例はないということです。いきなり、卒業してインプラントをやる歯科医なんて普通に考えればいませんから。科学というのは根拠を示すことが重要なのです。自分はできると言っていても、証明しなければ、どこぞの税金を無駄に使った科学者みたいになりますからね。

術前
埋入時
上部構造セット時
10年後(7番インレー脱離時に撮影)

症例30
9年経過症例 右下6番巨大歯根嚢胞により抜歯後→インプラント
50代男性(治療時40代)

今(2006年)から10年前右下の6番の根尖部歯茎が腫れて、顎が痺れた感じがするとのことで急遽来院されたました。デンタルレントゲン写真からはわかりにくいかもしれませんが、パノラマ写真から顎の神経に及ぶぐらいまでに歯根嚢胞が進行していました。しびれがあるため、緊急をようし抜歯は免れません。悠長に根管治療している場合ではないと当時も思いました。そこで、抜歯後どうするか相談したところ、インプラントを希望されたため、後日当時提携していた病院にCT撮影を依頼することにしました。
投薬後、ある程度急性炎症が治まってから、伝達麻酔下で抜歯を行いましたが、その下の嚢胞をある程度完全に除去するのに苦慮しました。これをある程度除去しない限り、抜歯穴の骨は回復しません。そのため、リスクを承知で、不良肉芽除去用専用バーとエイヒを使用して下顎管を傷つけないように且つ残留嚢胞にならないように慎重に丁寧に上皮ごと除去しました。術後、予防処置でノイロビタンと呼ばれるビタミンB12を1週間服用していただきましたが、偶発症であるしびれや麻痺は運良く出現しませんでした。抜歯後傷が癒えてからCTを撮りに提携病院に出向いてもらい、後日CT解析を行ってみると、骨幅があることが唯一幸いで、病変は下顎管に接するぐらいまで進行していたことがはっきりと分かりました。そこで、骨ができるまで4ヶ月ほど待つことにしました。骨幅は恐らく50パーセントは吸収すると予測していましたので、それでも径4,7のインプラントは埋入可能だと予測はしていました。昨今、抜歯後の骨幅、骨長減少を抑えるために抜歯穴に人工骨やコラーゲンを入れるソケットプリザベーションと呼ばれる手法が脚光を浴びていますが、人工骨が下顎管を圧迫してしまえば元も子もありませんので、今回の場合は何もいれない方が得策だとその当時は思いました。コラーゲンは入れるべきだったかもしれません。4ヶ月後、CTで確認していませんが、骨のリモデリングを考慮して、フラップ下で径4,7ミリ長さ13ミリのHAインプラントを埋入することにしました。予想どおり骨幅は減少していましたが、9ミリは存在していたと記録にあります。脆弱な骨だと認識していましたので、ドリルは一切使用せず、スプリットコントロールとオーギュメーターと呼ばれる骨圧縮器具を使用して、インプラントホールを形成し、無事インプラントを初期固定をもたせ埋入することができました。二回法を採用しました。3ヶ月後、炭酸ガスレーザーを使用して簡単な二次オペであるインプラントの頭出しを行い、仮歯で経過観察後、、白金加金前装ハイブリッドのスクリューリテイン方式の上部構造をセットしてメンテナンスに以降しました。基本、私は、奥歯の場合、審美性をある程度無視して機能性、清掃性を追求すべきだといつも思っています。昔の高床式のインプラントの上部構造のほうが、インプラント周囲炎に罹患しにくいことがすべてを物語っているからです。また、昨今プラットホームスイチィングといってインプラントの土台であるアバットメントの直径をプラットホームより細くするようになってきていることも頷ける話です。古くは1990年以降、改良型シェルシェブ→1990年代後半以降、アンキロスインプラント、バイコンインプラント、アストラインプラント→2007年以降3iインプラント、ノーベルアクティブインプラント、ストローマンボーンレベルインプラントへとつながっているのではないでしょうかね。もっと評価されていい歯科医が評価されず、後出しじゃんけんみたいに俺が発見したと勘違いしている歯科医も実に多いことでしょう。笑。2009年以降、私はなぜか無意識のうちにインプラントのプラットホームとアバットメントの直径を合わすようにしていました。清掃性を考慮すると自ずとそうなるということなのでしょう。そのことも反映されてか、インプラント周囲炎になることもなく無事順調に9年経過しています。しかし、歯間部に物が通りやすいという欠点はあるかもしれません。一番理想的には、症例30のように骨幅が十分すぎるくらい存在し、径の太いインプラントを埋入できれば、理想的な歯冠幅径の上部構造も可能だと思います。しかし、そんな症例は限られます。ですから、何かを得る時には、何かを犠牲にしなければいけないことを十分に理解してくださいと言うことです。

注)その昔(1980年代)、セラミックインプラント(サファイヤインプラント)やブレードインプラントが一世風靡したとき、誰も即時負荷によるインプラント周囲の繊維性結合(偽歯根膜)に疑いを持ちませんでした。実は長期に渡りそれらのインプラントが口の中で機能している場合、その当時良いとされていた繊維性結合ではなく、たまたまオッセオインテグレーションと呼ばれる骨結合したものだけなのだと思います。即ち、即時負荷して微小な揺れも生じないほどの初期固定ができた症例のみ成功したのでしょう。そういった面から50年前から存在するチタン製のシェルシェブインプラントは、実はブローネマルクインプラントよりオッセオインテグレーションの先駆け的存在で、歯周病、即時負荷、骨幅の少ない症例に適していると思いますが、強度や本数の面、クリアランスがない症例(ブレーキーフェイス)、ソケットリフトやサイナスリフトを併用する場合、インプラントをスリーピングする場合、撤去する場合、口臭問題には不利のため、一般的に浸透しないのではないかと個人的に推測します。
確かに咬合高径があり、犬歯ガイドできる症例においては、咬合性外傷、歯周病、歯ぎしりの心配は少ないかもしれません。50年前からそのことに気づいていたとしたら、素直に凄いと認めるべきでしょう。

術前
抜歯後
上部構造セット時
9年後

症例31
10年経過症例 下顎義歯用ミニインプラント4本
90歳女性(治療時80代)
今(2016年)から
11年前、上下の総義歯が合わないので、保険で新しく作製してほしいとのことで受診されました。通法どおり、4回で保険の範囲内で上下プラスチックの総義歯を作製して、装着してもらうことになったのですが、こころからイバラの道となりました。毎日のように下の義歯が痛くてものが噛めないと訴え調整に来られるようになったのです。総義歯は、個人差というものがあり、歯科的に問題がある形態でも、使い方の上手い人、無頓着な人なら、許容してくれることをよく経験します。また、学問上良いとされている形態のものでも、よく拒絶されることもあります。そういう意味では、義歯一本自費専門でやっている先生には脱帽しますわ。勿論、偽物もいますが。私はいずれ、目や手先が衰える頃には、義歯の分野に力を入れたいと常々思っていますが、今はまだ今しかできないことがありますから、老後の楽しみにとっておきます。話は逸れましたが、保険の総義歯は、上手に作ろうとすればするほどまた調整を丁寧にすればするほど医院にとって赤字になることを理解していただきたいと常々思っています。一割負担であれば上下で作製5000円程度調整1回50円程度、カツラよりも価値のないものと捉えてもしょうがないと思いませんか?だから、殆どの歯科医はいい入れ歯は保険では無理と言うのでしょう。今回もできる範囲で保険の義歯を作りましたが、なかなか馴染んでもらえず、とうとうご主人の方からお金を出してもいいからなんとかなりませんかと言われるようになりました。恐らく、保険外の金属の義歯にしようが、ゴムの義歯にしようが、上手くいくことは想像できませんでしたので、当時は珍しい義歯用のインプラントを勧めてみました。了解されましたのでやることにしましたが、CT撮影だけは提携病院で行ってもらうことを条件として、4本40万の施術となりました。幸い、CT解析の結果、骨幅が前歯部にあり、問題なく歯茎を開かず、埋入できることが分かりました。実は、そのことはマッピングにより大体予測できましたので、CT撮影を勧めたのですが、撮影しに行って無駄になるというリスクは当時ありましたので、現在、歯科用CTがいかに重宝かということを再認識させられます。実際は、15分程度の小手術で、その日のうちに義歯用インプラントに負荷をかけ、義歯の固定源にした結果、次の日から痛いと言われなくなりました。あれから、10年の歳月が流れ、宝物のように義歯を大事に扱っているとのことです。必ず4ヶ月に一回、義歯内のゴムが劣化していないかどうか、検診に来られます。10年の間で3回ほど交換(4本8000円×3回=24000円)しましたが、その費用も上乗せしても、あまりある治療効果だと個人的に思います。1日に換算すれば、ジュース1本程度です。高級車、盆栽、意味のない宝石に比べたら、なんと価値のあるものだと思いませんか?恐らく、この治療法を採用していなければ、摂食障害になり、後の10年につながったかどうかわからないと言えるでしょう。

注)最初にプラットホームスィチングに気づいたある先生が仰るとおり、径の細いインプラントは、インプラント周囲炎になりにくいかもしれません。このインプラントの5年以降の脱落(過度のダイエットやメンテナンスに応じない人))は経験がありますが、周囲炎の経験はありません。

2006年1月
2016年1月

症例32
8年経過症例 左下6番縁下カリエス、ハセツ、根分岐部病変→抜歯即時インプラント
60代女性(治療時50代)

今(2016年)から8年前に左下6番の被せものが脱離して、受診されました。特殊なインプラント治療方法の症例6の方です。もう11年もメンテナンスを通してのお付き合いになっていますね。今やれば、歯の保存を試みると思いますが、当時は低侵襲、治療期間の短縮化、確実性を考慮して、初めてのメンブレンを使用しないHAインプラントの特性を生かした抜歯即時埋入インプラント法を採用することにしました。デンマ下で慎重に根分割抜歯後、不良肉芽除去専用バー、エイヒにて抜歯穴を徹底的にソウハし、中隔部にインプラントホールをスプリットコントロールで形成しインプラントを埋入しました。ギャップには吸収性の人工骨を充填し、上部にはコラーゲンを乗っけてナート終了としました。30分くらいの施術時間でした。もし、同じことを今やれば15分以内で歯茎も開かず、もっと低侵襲で行うと思います。今はピエゾ、クリーンエリア、CT、マイクロが常備されていますので、向上心があれば当たり前かもしれませんがね。まあ、何はともあれ、当時も腫れ疼痛などの術後不快症状は一切出ませんでした。非常に患者さんには喜ばれ、インプラントにトラブルなく現在に至っています。インプラント費用トータル骨移植込37万です。もし、6番を保存して自費の被せものをした場合、自費の根管治療10万+歯周治療、歯冠延長術5万+ファイバーコア2万+自費の被せもの10万=27万、自費ブリッジにする場合、自費の根管治療2本18万+ファイバーコア2本4万+自費のブリッジ3本30万=55万が都市部の相場でしょう。まあ、私がやる場合はそんなにも頂きませんが、如何に当医院でメンテナスを受けている人は恵まれているかは事実なことでしょう。しかし、両隣在歯の再治療は後年余儀なくされましたが、治療のレベルはわかる歯科医であれば、わかることでしょう。笑。

注)昔程インプラントをやらなくなりましたが、現在も私がメインに使用するインプラントはジンマー社のインターナルジョイントHAインプラントです。ボディ上部、下部四分の一がブラスト処理され、中央部だけがHAコーティングされたものです。フルコートのHAとは厳密に違います。HAもよく叩かれますが、他社製品間に技術差があることは否めないことでしょう。因みにジンマー社のインプラントを使用しだして、15年以上経ちますが、メンテに来られている方でトラブルに遭遇する確率が書籍、論文等と比較して低い方だと思います。悪ければ、普通であれば他社製品に変えるもんですよね。そういうわけもあって、どれだけ安かろうとも、韓国産、ベンチャーものは使用する気にはなれません。ジンマーというメーカー社を信用しているということです。整形外科の分野においては、トップシェアです。


    術前
術後
術後8年
術後5年

症例33
10年経過症例 左右下6,7番インプラント+下顎残存歯歯周補綴+上顎前歯保険BR
70代男性(治療時60代)

今(2016年)から11年前、歯が動いて物が噛めないので、なんとかしてほしいとのことで当医院を受診されました。でかいレントゲン写真からも歯周病がかなり進行しているのがわかります。全部抜歯して総入れ歯もしくは総インプラントになるケースかもしれません。まあ、間違った考えでもないと思いますが、どうなんでしょうかね?現時点の私の考えは、保存できる歯は極力残し、自己管理、メンテナンスができるようになり、不幸に治療した歯が保存不可能になったときにインプラントに移行するほうが良いのではないかと思っています。特に20代です。外傷は別ですが、インプラントよりも素晴らしい天然歯で萌出して20年持たなかったわけです。果たして50年インプラントして持つとは普通に考えて思えませんね。歯科医の両隣在歯を傷つけないというセールストークに騙されず、ブリッジにした方が賢明なのではないでしょうか?。管理できるようになり、不幸に20年後支えの歯がダメになり、インプラントの本数が増えたとしても、そのときには時間的、経済的な余裕もあるはずです。ですから、私は20代のインプラントはやりません。30代でも覚悟のある人、長年定期検診に来院されている人以外はまずやりませんね。そのため、ライフステージにあった治療法を選択することが重要だと思います。このケースは、年齢、患者さんの改心覚悟、経済力、QOLを考慮して、残せる歯の歯周補綴+欠損部インプラントという治療を選択しました。幸い10ヶ月ぐらいで治療を終了し、メンテナンスに移行しましたが、7年後残念なことに左右上の奥歯にトラブルが生じてしまいました。しかし、ある程度、自己管理できるようになったことや定期検診もできるようになりましたので、迷うことなく、左上は上顎洞挙上術を併用したインプラントをすることにしました。本当は左上の予後に不安を抱える5番を抜歯する予定でしたが、恐ろしいことに4番と6番にインプラントを植立することにより、咬合負担が軽減し動揺が無くなりました。患者さんは抜歯を希望されませんでしたので、保存することにしましたが、万が一ダメになった場合、手前と奥のインプラントでブリッジにすれば問題のないことでしょう。
私は、このようにインプラントに順次移行するのがベストだと個人的に思います。勿論、全身状態が芳しくなかったり、費用の問題、義歯を希望される場合は別の話ですがね。

2005年術前
2006年1回目の
治療完了時
2013年
2016年2回目の
治療完了2年後

左上6番の上顎洞挙上術
2年後

症例34
9年経過症例 上顎フルインプラントブリッジ(8本仮着式)+右下顎インプラント
60代女性ノンスモーカー(治療時50代)

今(2016年)から丁度10年前の2006年11月末に憔悴しきった感じで来院された方です。入れ歯も入れられず、また上顎の残存歯の状態もよくなく、物が噛めないのでなんとかしてほしいと訴えられました。そこで、インプラントによる機能回復を提案したところ希望されましたので、金額面の了承、定期検診に応じること、医科用CT解析することを条件にやることにしました。当時は、抜歯即時埋入法や飛び石埋入法についての知識が浅く、王道であるフラップを形成してからの大掛かりなGBR併用の骨移植、歯茎の移植、ソケットリフト、インプラント埋入を行った経緯があります。また、当時流行りの即時負荷やオールオンフォーといった治療法には見向きもせず、暫間インプラントを使用した即時咬合回復を行い、8本メインの待時インプラントによる固定式フルブリッジを仮着装着しました。1年くらいの治療期間を有しましたが、無事完了し、現在に至っています。最終補綴から9年、インプラントに負荷をかけてから約10年の歳月が流れましたが、今のところ右上7番の再治療以外、口の中でのトラブルは発生していません。4ヶ月間隔の検診で歯石の除去、クリーニング以外のことはしていないということです。恐らく、この方、全身状態さえ問題がなければ、さらに10年以上問題なく使用できると予測できます。いつも、検診に来られた際、どうして天然歯のときに、今程歯磨きをしなかったのかという後悔の念を仰りますが、気づくだけ立派な方です。インプラントにしても、また同じ過ちをおかす人を何人も見ていますので、変われる人間と変われない人間がいるのも事実です。だから、できる慎重な歯科医ほど症例を選ぶ、もしくはインプラントをしないという考えの人が多いのでしょう。よく他院で断られた症例を引き受けますという医院のHPを見かけますが、断られた理由が技術的な問題なのか、もしくは患者さんの全身状態をみてのことか、患者さんの人間性をみたのか、できるけど直ぐに術後トラブル(無理な上部構造装着後のネジの破損緩み、清掃性の悪い補綴の装着によるインプラント周囲炎、スレッド露出など)に遭遇するかもしれないというリスク回避なのかわかりません。インプラント治療というものは、例え術者の施術が完璧に近くても、予後は患者さんに依存する部分が大きいのです。要素としては、予算的な問題(例えば上顎フルのケースで、6,8本必要なところを無理に4本でやってくれとか)、生活習慣(タバコを吸う、非合法の薬をやるとか)、歯磨き習慣、全身状態(糖尿病、膠原病、ガンなど)、習癖(噛み締めぐせ、歯ぎしりなど)などが挙げられると思います。だから、HPでよく医院側が本数欲しさに10年保証するとか馬鹿なことを謳っているなあと思うことがあります。10年間の患者さんの全身状態をきちんと把握できるのかと問いたいですよ。そういうところは、難癖つけて大体保証してくれません。必ず施術前に確認しましょう。後、インプラントのメンテナンス費についてもです。これが馬鹿にならないといってメンテナスをしなくなり、インプラント周囲炎になるということも多々あるでしょう。良心的な歯科医の場合、残存歯をみるついでにメンテナスを行う先生が多いのではないでしょうかね。

注)右上6番ソケットリフト、右上1,2番GBR、左上1番歯茎の移植を併用しました。また、この当時は表面性状がHAのものはまだなく、MTXブラストのインタナールインプラント(テーパードスクリューベント)を使用しました。
術前
(2006年11月)
術中
(2006年12月)
術後(2007年)
2016年12月
仮歯

右上1番9年後の
前頭断CT
右上2番9年後の
前頭断CT
左上1番9年後の
  前頭断CT
残すはずであった
右上3番の根ハセツ
右上7番
ラバー装着時
右上7番根充時
症例35
8年経過症例 上顎フルインプラントブリッジ(6本ネジ留め式)+左下顎インプラント
60代男性ノンスモーカー(治療時50代)

今(2016年)から11年前、義歯を作製してほしいを主訴に当医院を受診されました。すれ違い咬合+がっちりとした顎骨から、難易度ウルトラEの義歯作製になることは瞬時にわかりました。まず保険の義歯の場合、98%くらいの確率で満足な義歯作製は難しいでしょう。恐らく早ければ2ヶ月に一回くらいの確率で義歯が割れてくることが容易に想像できます。患者さんは、時間的な問題、費用的な問題を考慮して、上のみ保険外の金属の義歯を作製してほしいと希望されました。そこで、希望どおりの対処をして終了としましたが、2年後、人工歯の脱離で再来院されました。そのときはっきりと、食べ物や義歯が壊れることを心配せずに食事ができるようになりたいと仰ったことを記憶しています。2年の間に3ヶ月に一度必ず残存歯の定期検診に来られ、母上の介護も仕事の傍ら熱心に行われていた方でしたので、10年以上をみたインプラント治療の話をこちらからしてみました。すると、向こうも食べれる喜びをもう一度味わいたいということで、車一台分を未来に投資してみたいと言われました。そこで、いろいろなことが私の頭の中を駆け巡りました。まず、この方がどうして歯を喪失することになったのか、10年以上をみたときにどういうインプラント配置で最低何本のインプラントが必要か、上部構造をスクリューリテインにするか仮着式にするかどうか、咬合面をメタルにするかセラミックにするかどうか、咬合様式をどれにするか、純チタンかチタン合金のインプラントにするかどうかなどです。1、2本インプラントするのとはわけが違います。特に上顎の場合、突き上げる力が作用することや骨質が下顎に比べて劣るため、下顎とは予後に差がでることは否めないことでしょう。元々インプラントは下の無歯顎に開発されたものなのです。強度や表面性状の向上により、上顎にも使用できるようになっただけで、逆に喫煙、手入れ不足によるインプラント周囲炎になりやすいという欠点も生み出してしまいました。ですから、タバコを吸う人、メンテナンスできない人、歯磨きできない人は、特に上顎のインプラントはしない方が賢明でしょうね。私にはメンターはいませんので、すべて自分の責任で自分が設計方針を決定します。今回の場合、6本HAチタン合金テーパードスクリューベントインプラントによるマルチアバットメントを介したスクリューリテイン式咬合面メタルのセラミック上部構造を採用することにしました。理由は、恐らくこの方は噛み締めにより歯を喪失したことが推測できるからです。このことは、後年、セラミックのチッピングや舌への歯の圧痕跡により確かな事実となるのですが、歯がない人の場合なかなかみつけにくいと言えるでしょう。噛み締め癖を予測せずに、当時流行りの即時負荷でオールオンフォーと呼ばれる4本のインプラントで10〜12本の歯を作る治療法を採用していたら、恐らく困難が待ち受けていたと思われます。まあ、上手い先生がやれば別なのかもしれませんがね。笑。もし、仮着式の上部構造にする場合は、8本インプラントは必要だと思います。しかし、今回は噛み締めぐせによるインプラント体ハセツの予防のためにマルチアバットメントを介したものにしました。無理な力がかかれば、インプラント体ではなくマルチアバットメントのネジが破損するというフェイルセーフシステムが働くということです。マルチのネジは長ネジに比べてマイクロと超音波さえあれば簡単にとれると思いますよ。
当時、暫間インプラントを使用して仮歯を装着しながらの半年間の治療でしたが、度重なる仮歯の破損には本当に参りました。そのため、最終補綴に移行してからは、歯磨き指導に加えて、噛み締めぐせ是正の自己暗示法や夜間のマウスピースの着用の指導も行いました。
あれから、8年、そろそろ9年経ちますが、インプラントやネジには問題は発生していません。しかし、頬側のセラミックがチッピングしてしまいました。また、残念なことに治療終了3年後に右下4、5,6番の根ハセツにより、ここもインプラントをするハメになりました。幸い、患者さんから本当にインプラントをして良かったと言われることが救いですね。最低あと10年、上部構造が持ちこたえてほしいものです。

注)タイムリーに2016年12月のクイントとインプラントロジーにオールオンフォーの予後が掲載されていましたが、正反対でした。勿論、やる人、患者さんによって予後に差が出るのでしょう。
まあ、昔一世風靡したセラミックインプラントやブレードインプラントの二の舞にならないように、老舗の某インプラントメーカーさん、頼りないのではなく頼りになるようなインプラント製品を目指してください。
2007年
2008年
2016年
仮インプラントによる仮歯

症例36
10年経過症例 上下インプラントボールアタッチメントサポートによる義歯
60代女性ノンスモーカー(治療時50代)

今(2016年)から11年前に上のブリッジが動くので、何とかして欲しいとのことで受診されたました。普通のまともな歯科医なら、パノラマレントゲン写真をみれば、超難症例であることがわかると思います。しかし、まあ、よくこんな無謀な設計のフルブリッジを上顎に入れたなあ〜とある意味関心しましたわ。笑。インプラントをできない歯科医の狗肉の策でしょう。しかし、患者さんが受け入れられたことなので、前医の処置には文句を言ってはいけません。そこで、どおしてほしいかをお尋ねしたところ、、強く固定式のものを希望されましたが、予算的にも無理だとご自分で判断され、それなら極力違和感の少ない噛める義歯作製をということになりました。しかし、この症例、前後的なすれ違い咬合のため、例え歪みの少ない金属の保険外の部分入れ歯を作製しても、恐らくいい結果は招かないと予測できます。また、もし一時的に上手くいったとしても、上顎前歯部にフラビーガムと呼ばれるぷよぷよの歯茎が形成され、しばらくしたら痛くて義歯を入れられていないという結末になることは予測できました。そこで、比較的骨幅のあるところにインプラントを埋めそれにサポートさせる義歯を作製することにしました。当時は、断層レントゲンだけの診断でしたが、マッピングも併用して、ピンポイントで上顎は左右に1本ずつインプラントを埋入することができました。下顎は、わりと簡単な埋入であったと記憶しています。また、上顎に比べて頬舌側近遠心的並行性が抜群だと思います。笑。左上のインプラントは、初心者が侵しがちな骨がある方向へと騙される頬側に傾斜したインプラント埋入になってしまいました。単独前歯部インプラントの埋入の場合、致命的なミスになってしまうことが多いです。歯が長くなることや歯茎が退縮、骨吸収しやすくなるということです。もっと舌側に垂直に埋入する必要があったのです。舌側であれば例えインプラントのスレッドが骨から露出しても、舌側角化歯茎は厚いのでトラブルを発生する確率は極めて低いと思いますが、術者の心理上、インプラントの全周を骨に完全に埋めようという意識が働きますので、ある程度致し方のないことなのかもしれません。何はともあれ、10年経っても、幸い歯茎の減りやインプラント体周囲の骨には問題は生じていません。即ち義歯床が小さいにも関わらず、ある程度の荷重補正を義歯内のナイロンライナーや残存歯のメタルアップクラスプが補ってくれているということでしょうね。勿論、ナイロンライナーは硬くなったら、メンテナンスの際に直ぐに交換していますので、この配慮も良い経過を招いているのだと思います。そのため、もし今後、上顎の残存歯が喪失した場合、歪の少ない金属床に移行するべきだと思います。
最初は、義歯に抵抗を示されていましたが、今は何でも食べれるということなので、ほっとしています。引き続き、メンテナンスを行っていきます。
2005年
2016年
左上3の10年後
前頭断CT

本来矢印のように埋入すべきです。
劣化した
ナイロンライナー

症例37
9年経過症例 右上5,6スーパーソケットリフトを併用したインプラント並びに咬合挙上後の全顎補綴(オーラルリハビリーテーション)
60代女性ノンスモーカー(治療時50代)

丁度今(2017年)から10年前、右上の歯茎の腫れを主訴に当医院を受診されました。当時は院内にCTもなく、レントゲンだけでの診断となりましたが、奥歯がハセツし副鼻腔に炎症が波及しているのがわかりました。奥歯の抜歯は免れません。投薬消炎後、抜歯することにしました。応急的を希望されていましたので抜歯後、欠損部に対して義歯を勧めたところ、難色を示されました。インプラントに興味を示されましたが、欠損部だけをみた治療しか希望されなければ、私はインプラントを行わないようにしています。なぜなら、術後トラブルに遭遇する確率が短期間に極めて高くなるからです。今回の場合、治療前当時の噛み合わせの高さは低すぎるため、インプラントの被せものの厚みが薄くなったりして、後々インプラントトラブル(被せものの脱離、インプラント周囲炎、ネジの破損など)が発生することが目に見えています。そのため、そのことを模型を見ながら説明し、了解を得たので一口腔単位の治療を行うことにしました。まず、右上の抜歯した部位の傷が癒えるまで、仮歯にてバイトアップ後の顎位を探り、根管治療も並行して行いました。3ヶ月後傷が癒え、インプラントの予定をたてるのですが、医科用CTから上顎洞までの距離が手前5ミリ、奥3ミリ程しかありませんでした。一般的には側方骨壁を開削(ラテラルアプローチ)してから上顎洞底粘膜をを挙上するサイナスリフト法を併用する必要がありますが、術後の腫れ、疼痛、内出血が著しいことが多いです。そのため、当時は、外科的侵襲の軽減を図り、歯槽頂からのクリスタルアプローチ即ちソケットリフト法を採用することにしました。洞底までの距離がない場合使用するインプラントはティシュレベルのものがベストだと個人的に思います。スイスプラスというダブルスレッドのインプラントを使用しました。人工骨は感染を考慮し、吸収性のものとしました。一年くらいかけての治療となりましたが無事トラブルなく終了でき、最終補綴にしてから9年の歳月が流れました。4ヶ月に一回必ず定期検診で来られ、今のところ再治療するところはありません。予算の関係で、セラミックの歯を前歯に入れることができませんでしたが、プラスチックの変色もさほど認められないのが幸いです。もし、治療前の顎位でインプラントを行っていた場合、恐らく、9年の間で他の残存歯の再治療、抜歯、インプラントの追加、費用の増大につながると予測できるでしょう。ればたらですがね。因みに費用はトータルで100万ぐらいだったと思いますが、違和感なく何でも噛めて、何もいうことはないんではないでしょうか?
術前
術後
術後9年

症例38
13年経過症例 左下臼歯部インプラント
60代女性ノンスモーカー(治療時50代)

自分の母親の症例です。丁度今(2017年)から16年前に右下の保存不可能な歯を抜歯しインプラントにしてから3年後(2004年)、今度は左下の旧式のブレードインプラントにトラブルが発生してきました。この部位のブレードインプラント(スミシコン)は、約26年前(1991年頃)に東京からやってきた流れの歯科医に施術してもらったものです。施術レントゲンは完璧に近い素晴らしいものだと個人的には思います。この手のインプラントは単独植立が難しく、必ず即時負荷で天然歯と連結することが原則でした。また繊維性の結合が多く、後年沈下して顎の神経にダメージを与えることがよく報告されるようになり、今では販売中止となった代物です。術後から硬いものは全く噛めなかったとのことですが、施術していただいた先生に申し訳ないと思い、言わずに年数が経ってしまったとのことでした。しかし、2004年当時既にインプラントに明らかな揺れが生じ、また連結してあった左下3番にも痛みを伴うようになったため、撤去することにしました。当時ピエゾもなく、撤去にかなり手こずった記憶があります。また、オッセオインテグレーションタイプのインプラントも同時に埋入し、同時にチタンメシュのGBRも併用しました。今思えば身の丈に合わない処置を身内だからこそできたと言えるかもしれません。案の定歯茎が裂開してしまい、感染のコントロールに苦労しましたが、無事2本骨に定着してくれました。使用したインプラントは、今は無きドイツ性のシリンダー型フリアリットUでした。スレッド型は今でもザイブという名で販売されています。あれから13年の月日が流れましたが、感染症状を訴えることもなく問題なく経過しています。右下2本のインプラントは既に16年、右上の3本のインプラントも8年の月日が流れています。このようにちゃんと主治医に管理され、自己管理がそこそこできれば、トラブルの発生は少ないものです。骨結合タイプのインプラントが悪いものであれば、少なくとも家族には勧めたり、施術はしませんよね。しかし、世の中には他人にはインプラントは施術できても、自分にはインプラントはやらないという歯科医がいますが、ふざけるなと言いたいですよ。自分や家族にやってほしくない行為を他人にやるなということです。これはすべての歯科治療において言えることだと思いますよ。そういうわけで、私が不幸に歯を失った場合、インプラントを施術してもらうことは絶対だと言っておきましょう。ところで、80年代後半?一世を風靡したチタン製のブレード型のスミシコンインプラントですが、撤去してみると腐食もなく綺麗なものでした。生体親和性が良いということですね。恐らく私見ですが、微小な揺れも生じないくらいに植立できもののみ成功していると思います。即ち、形状上即時に天然歯と連結するということが致命的なミスだったのではないでしょうかね?
あと、歯根膜を再生するという触れ込みのセラミックのインプラントの症例をあるHPで拝見しましたが、これは酷いと個人的に思いました。恐らくすべて繊維性の偽歯根膜でしょう。これこそ絶対10年持たないと個人的に推測します。案の定3年くらいまでしか予後は載っていませんでした。また補綴物のマージンが全然あっておらず酷い歯茎の腫れで、根尖病変の治療や歯周病のコントロールもされていませんでした。いくら咬合を確立しようが、鼻呼吸しようが、口の中の保険金属を撤去しようが、歯性感染(根尖病変、歯周病)を取り除かなければ、アレルギー体質、リウマチ、糖尿病、呼吸器疾患の改善、脳梗塞、心筋梗塞の予防は難しいと個人的に思います。それでも自費のみで患者が集まるのは、マスゴミに登場するとか、経歴とか、本を自己出版しているという理由が大きいのでしょう。日本人は権威に弱いですから。信じるものは救われるといったところでしょうか?笑。

2000年
2004年
2017年
撤去したスミシコン

症例39
12年経過症例 左上臼歯部インプラント3本並びに意図的再植法を行った左下4番
50代女性ノンスモーカー(治療時40代)

今(2017年)から12年前(2005年10月)に全顎的な治療を希望され、当医院を受診された方です。かなり口の中がコンプレックスになっているのがわかりました。費用がかかっても固定式のものを希望されましたので、左上の欠損部はインプラントを行うことにしました。今のように自院に歯科用CTがなかった時代です。わざわざ金沢市内の病院に医科用のCTを撮影しに行ってもらいました。分析の結果、左上の5番部のみソケットリフトを併用して、3本10ミリのインプラントが埋入可能と判断しました。幸い麻酔込で50分程度で別段トラブルなく2回法で施術を終了することができました。ついで骨結合を確立する4ヶ月の期間を下の歯の治療にあてることにしました。実は左下の半埋伏している5番の歯に当時本当に苦しめられました。完全に歯茎に埋伏していれば、本当は抜歯はしないつもりでした。恐らく開業して今までの間で、初めて手をつけて抜歯できないかもしれないという感覚を覚えた歯なのです。左下6番の近心根は、レッジ根管充填、根尖病変を患ったかなりの湾曲を有していることと左下5番抜歯の際にアンダーカットとなるため抜根は免れませんが、左下4番はなんとか保存する必要があります。しかし、左下の半埋伏した5番の根っこ先が鍵状に湾曲し、抜歯の際4番が邪魔することは医科用CTである程度わかっていましたが、歯科用CT程情報を正確に把握することは難しいため、なんとかなると見切り発車的に施術してしまいました。なんとか6番近心根の抜根はできましたが、案の定、昼休みを返上し一時間半以上かかっても左下5の抜歯はできませんでした。嫌なことに麻酔が効れかかり、患者さんが痛みを訴え出し、白衣が汗でびっしょりになったことを記憶しています。そこで、仕方ないので左下4番の意図的再植法を採用することを思いつきました。究極の治療法と言えます。まず、一旦左下4番を慎重に抜歯しました。続いて、歯冠分割してあった5番の歯根分割を直視下で行い、ようやく抜歯することができました。これで終わりではありません。引き続き、再植用のソケットをインプラントバーで形成し、一旦抜歯しネオ液に保存しておいた左下の4番をそこに戻し、在庫にあった吸収性の人工骨をギャップに十分充填しコラーゲンで覆い歯茎をナートし終了としました。非常に申し訳ないのですが、患者さんには術後報告となってしまいました。事前に左下4の抜歯が必要かもしれないことをいっておくべきでした。しかし、健全な3番をブリッジの支台にするのは心が引けます。またインプラントをする場合も骨移植が必要になり、費用増、外科的侵襲も大きくなります。今にして思えばよく臨床経験8年で瞬時に最善策を遂行したなあと当時の自分を褒めてやりたいですよ。笑。幸い再植は成功し、3番を使用することなくブリッジを装着し、定期検診に移行しました。あれから12年の歳月が流れようとしていますが、再植歯は根吸収、骨同化することなく機能しています。付着歯肉が少ないにもかかわらず、患者さんの手入れがよいせいか歯周病が進行しているということもありません。4ヶ月に一度必ず来られる方で、幸い今のところ再治療の歯は1本もありません。しかし、6番の遠心根に根尖病変が出現したことは否めません。もう少し経過観察してから、再治療するかどうか患者さんと相談して決めようと考えています。因みに当たり前ですが、再植費は頂いていません。もし事前にいっておけば費用は請求していたでしょう。笑。ところで左上のインプラントも12年経過しています。インプラントの辺縁骨が白く緻密化しているのがレントゲン写真からわかります。うまく骨の生物学的副径が保たれ、左で咀嚼できていることが窺い知れます。使用したインプラントは、ジンマー社の表面性状MTXブラストのテーパードスクリューベントです。当時はまだMP-1と呼ばれるHAの表面性状のものは販売されていませんでした。
術前パノラマ
術後12年パノラマ
術前デンタル写真
左下4番再植直後
デンタル写真
12年後
左下4番前頭断CT
埋入直後のデンタル
写真
12年後
左上インプラント
デンタル写真

症例40
上下フルブリッジ15年経過メンテナンス不良例
60代男性(治療時40代
)スモーカー
今(2017年)から15年前(2002年)、全体的に虫歯並びに歯茎が痛くて、ものが噛めないとのことで受診されました。口の中、レントゲン写真からも、絶望的な状態であったと記憶しています。要望は入れ歯にならないように噛めるようにしてほしいとの事でした。まあ、普通の感覚の持ち主であれば、全部抜歯して総入れ歯と宣告するでしょう。しかし、私自身若く(30)、何とかしてあげたいという思いの方が優ってか、不精で喫煙者にも関わらず、左上2番を左上6番に移植、残せそうな歯の根管治療、歯周病治療、上下フルブリッジ装着を行った経緯があります。当時、ある雑誌でスカンジナビア系の歯周補綴系の連載がされていて、ここまで歯が悪くなっても歯が残せるのかと感心し、興味本位からの治療でした。そのため、移植費用は頂いていません。また、保険ですべて虫歯治療、根管治療、歯周病治療を行いました。勿論、患者さんには説明し、納得されたので始めることにしました。幸い約1年くらいの治療期間を有しましたが、なんでも噛めるようになったとのことで、メンテナンスに移行できました。しかし、1年くらいで来院が途絶え、14年ぶりに左下奥歯にものが詰まるとのことで再来院されました。視診、レントゲン写真をみて絶句です。上はかろうじてまだ大丈夫そうですが、下はもう入れ歯に向かうだけの状態になっていました。喫煙、自己管理の甘さ、噛み締めぐせが原因と考えられます。このようにいくら術者が真剣に総入れ歯を回避した治療を行おうが、予後は患者に依存することがわかるケースだと思います。だから私は、治療の痕跡から前医が悪いのか患者が悪いのかを判断するようにしています。しいて私が悪い点を挙げるとすれば、禁煙を促したり、自己管理できるように指導できなかったことやTCHについて十分な理解がなかったことかもしれません。当時は悪いように見られたくないという思いもあったかもしれませんが、すべての努力が水の泡となってしまったのです。確かに15年前に総入れ歯であったことを考えると、治療成果に関しましては、費用対効果からすれば十分過ぎるものではないでしょうか?もし、15年前に全部抜歯して、固定式の総インプラントをされていた場合、恐らく残存歯と同じ運命をたどったことは容易に想像できます。予見性ということです。この患者さんの今後ですが、アポイント遵守+禁煙+費用の工面+メンテナンスをお考えにならなければ、残念ですが入れ歯となります。見捨てるわけではありません。自分の性質を受け入れろということです。だから、一度自分の歯で失敗した人は改心が必要だということです。勿論、2,3年で上下総インプラント500〜600万の治療費が無駄になっても大丈夫という大金持ちは話は別ですよ。笑

注)期待は見事裏切られましたが、治療完了まで真面目に来院されたことは素晴らしいことだと思いますよ。恐らく、タバコさえ止めれる強靭な意志をもっていれば、違った結果になっていたことでしょう。
術前
修復後
15年後

症例41
上フルブリッジ、下左右インプラントブリッジ11年経過メンテナンス良好例
70代男性(治療時50代)
ノンスモーカー
今(2017年)から12年前(2005年)、口の中がぼろぼろでものが噛めないので、なんとかしてほしいとの事で当医院を受診されました。下の奥歯が左右なく、下の前歯がちょうど上の前歯の舌側の歯茎を噛み込み、絶望的と言わざるをえない状態でした。上のケースの方と同じく、入れ歯ではなく固定式のものを強く希望されましたので、下左右欠損部インプラントブリッジ、下前歯ブリッジ、上は保存可能な残存歯によるフルブリッジの計画をたてました。全部残存歯を抜歯して、総インプラントという選択をする先生も多数いると思います。別に間違いではありません。費用、管理(歯磨き)、習癖、全身状態、嗜好品(タバコ)に問題がなければ、年齢を考慮した場合、いい選択かもしれません。しかし、このケースは200万以内での治療を希望されましたので、改心度をみることもできる極力残存歯の保存に努めた治療法を選択しました。保存する歯の根管治療、歯周外科、インプラント埋入、顎位探索のための初めての暫間インプラントを併用した仮歯を使用し、約1年かけて修復を処置を行いました。何でも噛めるようになり、非常に感謝され、4ヶ月に一度の定期検診に移行しました。この方は治療時は勿論のことメンテナンスに移行してからも一度も忘れたことによる無断キャンセルのない方です。根が真面目な方なのでしょうね。そのかいあって、術後9年までトラブルに見舞われることなく経過しましたが、残念なことにかなり無理に保存した右上の6番の歯根がハセツし、歯茎から膿が出るようになってしまいました。綺麗に根尖病変が治ったにも関わらず、違った要因で抜歯することになりましたが、何も迷わずインプラントを勧めたところ了解されましたので、抜歯即時埋入法をやることになりました。
それから2年後、全体の写真をとってみると、インプラント並びに残存歯の安定した状態が窺い知ることができます。このようにメンテナンスが良好な人は、比較的シンプルな治療で終了できることをよく経験します。

術前2005年
2006年修復直後
2017年

左上4,5術前
修復直後(2006)
左下1,2,3術前
   修復直後
右下2,3術前

修復直後