特に親知らずの抜歯に関しましては
1.抜歯後、腫れ、発熱、開口障害等の症状が強く出現することがある。

2.抜歯後、うがいをし過ぎると傷なおりが悪くなる。

3.下の親不知抜歯後、ごくまれ(1パーセント以下の確率)に痺れが、生じることがある。

4.抜歯時に、ごくまれに骨折が生じる可能性がある。

5.抜歯後、ごくまれに気腫が生じることがある。

6.抜歯時、抗血栓剤を服用している人は出血傾向が高い

7.ステロイドを服用されている人は傷なおりが悪いことが多い。

8.BP製剤を長期にわたり服用されている人は、顎骨壊死をおこす可能性がある。

9.糖尿病、心疾患を患っている人は、抜歯後感染リスクが高い。

10.上の親不知の鉗子抜歯の際、ごくまれに動脈を傷つけて異常出血することがある。

11.ごくまれに抜歯時に顎がはずれることがある。

12。上の親不知抜歯の際、ごくまれに上顎洞炎(蓄膿症)を併発する可能性がある。

13.ごくまれに抜歯器材が破損し、それが歯茎の中に迷入することがある。(歯根の迷入もまれにおこりうる。)

14.下の親不知が顎の神経に近接している場合、2回に分けて抜歯する可能性がある。(2回法)

15.迷走神経反射(脳貧血)、過換気症候群の併発の可能性。

16.抜歯したつもりでも、希に歯の破片が残存したりすることがある。(特に虫歯でボロボロで歯根がしっかりしている歯など。)

17.下の水平埋伏抜歯後、手前の7番の歯が知覚過敏を起こす事がある。また親知らず側に歯周ポケットが形成されやすい。運が悪い場合、歯周ポケットから菌が感染し、7番の神経が弱体化することもある。

18.抜歯後、骨髄炎の可能性もないとは言えない。

19.抜歯後、腐骨が遊離することがある。
等のリスクが、いつも存在しています。そのため、当医院で親知らずの抜歯を希望される方には、前記のリスクの同意、必要の際のCT撮影の許可を頂きます。もちろん、信頼されて抜歯を希望される方には笑気、鎮静剤服用、超音波機器ピエゾの使用、抜歯穴へのコラーゲンの填入、炭酸ガスレーザーによる止血は行い最善を尽くしているつもりです。また、万が一不幸に術後痺れ等が出現した場合に関しましては専門機関への紹介も含め、ビタミン剤の処方や患部へのレーザー照射を行うつもりです。過去に1度、親不知以外の歯で痺れが出現したことがありますが、幸い上記の対応により事なきを得ております。(しかし今後生じた場合、絶対に治るという保証はありませんが。)本当に抜歯後の異常所見の出現は、患者さんだけではなく、術者にとってもかなりのストレスになります。はっきり言いますと、保険点数的に親知らずの抜歯はハイリスクローリターンと言えます。そのため、患者さんが不安を覚えるようであれば、本当は申し訳ないのですが公的機関への抜歯の紹介を随時行っています。双方にとって良い選択をしましょう。因みに今のところ私は抜歯の一番の偶発症といえる3、4、8、9、10、11、12、13、14、17、18の経験や開業して手を付けて抜けずに公的機関に送ったという経験は一度もありませんが、明日経験するかもしれません。慢心程怖いものはありません。そのため、他の患者さんのアポイント問題を考慮した場合や自分の中で局所麻酔を奏功させる時間を除き15分くらいで抜歯できないと判断したものは、公的機関に送ることが多いと思います。以下に当医院での抜歯例を載せます。モニター掲載例は、すべて了解を得てCTは無料術前術後撮影しています。


  • 症例1    難易度 ★★★☆☆
  • 20代女性
  • 左右上の歯茎の中に埋まった親知らず+左右下の歯茎の中に水平に埋まった親知らずの抜歯(計4本)
  • 抜歯理由:歯並びが悪くなるのを予防するため
術前
術後

症例2    難易度 ★★★★★
30代女性
左右上の歯茎の中に埋まった親知らずの抜歯(計2本)
抜歯理由:オープンバイトを治すため

術前
左上親知らず前頭断CT
術後

症例3     難易度 ★★☆☆☆
30代男性
左右下の歯茎の中に水平に埋まった親知らずの抜歯(計2本)
抜歯理由:歯茎が腫れてきた為

術前
術後

症例4    難易度 ★★★☆☆
20代女性
左上の歯茎の中に水平に埋まった親知らずの抜歯(計1本)
抜歯理由:歯茎が腫れてきた為

術前
術前

症例5   難易度 ★☆☆☆☆
30代男性
左右下の歯茎の中に斜めに埋まった親知らずの抜歯(計2本)
抜歯理由:むし歯で痛いから。

術前
術後

症例6  難易度 ★☆☆☆☆
40代女性
左右上の歯茎の中に斜めに埋まった親知らずの抜歯(計2本)
抜歯理由:手前の歯がむし歯で痛いから。

術前
術後

症例7  難易度 ★★☆☆☆ 
30代男性
右上の親知らずの抜歯
抜歯理由:虫歯が進行しているから。

注)一般的に健全な歯で一番抜歯が簡単なのは、実は上の親知らずなのです。普通は鉗子で秒殺です。だから皆上の親知らずは抜きたがる傾向があります。(笑)。しかし、実は重大な合併症を引き起こす可能性があるのもこの部位なのです。蓄膿症、動脈損傷による異常出血、骨折などの併発です。今回の抜歯はすべての危険性があります。根が90度に弯曲しているので、無理に鉗子で抜歯しようとすると、頬側の歯槽骨を破壊し、すぐ下の動脈を損傷し、止血困難におそらくなることが予測できます。また、上顎洞にも接しているので、洞粘膜を損傷し、感染が生じる可能性もあるでしょう。恐らく個人の開業医でそこまで考えて抜歯する先生はほとんどいないと思いますが、私は臆病者なので、自医院で抜歯をすると決めた症例はあらゆる分析をして事に臨むようにしています。因みに抜歯には3分ほどかかりました。

レントゲン写真
前頭断CT
根っこが弯曲した親知らず
虫歯の進行が著しい

症例8  難易度 ★★☆☆☆ 
30代男性
右下6番(6歳臼歯)の抜歯
抜歯理由:虫歯が進行し、保存不可能なため

注)レントゲン写真から、虫歯が骨の中の根っこまでかなり進行しているのがわかります。抜歯以外方法はありません。恐らく、この抜歯をスムーズに行える開業医は少ないと思います。教科書的には、歯を分割し、歯茎を開き、骨をある程度削除し、ヘーベルと呼ばれる抜歯器具を使用して、なんとか歯を脱臼させて抜歯する方法が一般的です。しかし、この場合、術後疼痛、腫れは著しくまた、抜歯時間(縫合時間も含む)も15分以上はかかると思います。以前までは私もそうやっていました。しかし、今はピエゾと呼ぼれる高価な機器を使用することで、歯茎を開くことなく、10分以内で抜歯することがある程度可能になりました。今回も5分くらいで抜歯できました。しかし、高価な機器をもっているから、抜歯が上手いかというとそんなことはありませんよ。(笑)。恐らく、抜歯即時埋入インプラント、移植、意図的再植を難なくこなす先生は上手でしょうね〜。

術前
抜歯後
抜歯した歯

症例9    難易度 ★★☆☆☆
20代女性
右下の歯茎の中に水平に埋まった親知らずの抜歯
右上の親知らずの抜歯(計2本)
抜歯理由:右下の歯茎が腫れてきた為

注)右下の親知らずの部分の歯茎が腫れて来院されました。この場合、要領のいい先生は、いきなり難しい原因歯である右下の水平埋伏の親知らずは抜歯しません。不思議に思うかもしれませんが、まず上の簡単な親知らずを抜歯します。それで、ほとんどの症状が改善されます。理由は、右下の腫れた親知らずの歯茎を上の親知らずが噛み込んで、2次的な害を及ぼしていることが多いからです。即ち、木を見て森を見ずではなく、常に全体を見渡す視野が必要と言えます。因みに上は3秒、下は15分ぐらい抜歯に時間がかかりました。

術前
術後2年

症例10   難易度 ★★☆☆☆
30代男性
顎の神経に接した左下の歯茎の中に垂直に埋まった親知らずの抜歯(計1本)
抜歯理由:歯茎が腫れてきた為

注)普通なら自院で抜歯せずに、悪いと思いますが、公的機関に紹介します。顎の神経を損傷し、術後に麻痺が出たりすると厄介だからです。実は神経損傷による麻痺は、そこそこ抜歯ができる先生であれば、誰がやっても出現する可能性があるのです。しかし、個人の開業医で麻痺がでるのと公的機関で麻痺がでるのとでは患者さんにとっての意味合いが違います。今回の場合は、あらゆるリスクを説明し納得されましたので当医院で抜歯し、幸い麻痺は生じませんでしたが、不幸に麻痺が生じていた場合はどうなっていたでしょうか?聞いていなかったとか医療ミスだと高圧的になる人も恐らくいるでしょう。だから、できるけど、低報酬での面倒な抜歯はいつもしたくないと思っています。自分の身は自分で守らなければいけませんから。他の職種の人も皆同じだと思いますよ。しかし、時として、自分を信頼してくださる方には、やらなければいけない場合があるということです。

術前
術前矢状断CT
術前前頭断CT
術後
術後矢状断CT
術後前頭断CT

症例11   難易度 ★★☆☆☆
10代女性
顎の神経に接した左下の歯茎の中に斜めに埋まった親知らずの抜歯(計2本)
抜歯理由:歯列矯正後の後戻りを防止するため

注)矯正の難症例や親知らずの抜歯症例に限られた場合、金沢市内のその分野において自分より優れていると思われる矯正専門医や口腔外科専門医に紹介するようにしています。しかし、包括治療(インプラント治療、矯正治療、移植治療、歯内療法、歯周病治療、予防処置、補綴処置、矯正のための抜歯外科処置)が必要な場合、基本すべて自分一人で行います。今回の場合、私が歯列矯正を行いましたので、後戻り防止のために、術後しびれが出現するかもしれない親知らずの抜歯を私が行なうことにしました。勿論、CTを撮影し、本人、親御さんの理解、同意を得ました。完全埋伏の弯曲歯根の歯です。
CTで解析しているため、どこにピエゾを入れて骨を削除し、どういう方向にヘーベルで歯を脱臼させればいいのかが簡単にわかります。幸い歯茎を開き、抜歯し縫合するまでに10分ほどしか時間がかからず、痺れ腫れなどの不快症状も出現しませんでした。実は、当医院は、クリーンエリアといって手術室並の空調設備が整っていることも腫れにくい要因の一つかもしれません。
最後に歯科医としてのプライドを優先した場合、あらゆる手段を講じて結果を出すことが重要だといつも考えています。保険でお金にならないから、高価な器材、材料(CT、ピエゾ、炭酸ガスレーザー、クリーンエリア、マイクロスコープ、テルプラグ、ビタミン剤の処方など)を使用しないという考えが脳裏に浮かぶようであれば、恐らく痛い目をみるでしょうね。勿論、おかしな患者さんや他医院の尻拭いなど自分に火の粉がかかるかもしれない場合は、プライドよりも保身です。笑。皆に迷惑がかかりますから。

術前矢状断
術前前頭断CT
術前水平断CT

症例12   難易度 ★★☆☆☆
30代男性
右下の歯茎の中に水平に埋まった親知らずの抜歯
抜歯理由:智歯歯髄炎、周囲炎の予防並びに右下7番の口腔内環境改善のため

注)月のアポイントに問題がなければ、外科的トレーニング、メンタルトレーニングのために、埋伏抜歯のリスクを説明し了解された方のみ行うようにしています。勿論、予め時間がかかりそうなもの(麻酔奏功時間を除いて、1時間以上)は敬遠しますが、自分の能力を理解していれば、ある程度どれくらいで抜歯ができるかを計算でき、他の診療を円滑に進めることが可能となります。今回の場合、20分と見ました。しかし、麻酔を奏功させる時間(20分)、止血縫合を考慮すると、患者さん1人に1時間のアポイントを準備する必要があるのです。本来1時間あれば、保険の他の処置の患者さんを最低3人は診れますし、簡単なインプラントであれば3本は埋入可能でしょう。仮に簡単に滞りなく抜歯できたとしても、下顎の智歯抜歯後のドライソケットの発症や産後の肥立ちが悪い人がいるように患部が痛い痛いと言われることを考慮した場合、埋伏抜歯は、ハイリスクローリターンの処置だと個人的に思います。さらに本当のところ紹介状を書いた方が、実は割がいいのです。しかし、歯周外科、根尖外科もそうですが、切開、止血、縫合という外科的処置のトレーニングを常に積んでいなければ、簡単な抜歯、麻酔処置、インプラント処置での不測の事態に対応できないものです。例えば、後出血、抗凝固剤服用下での観血処置、上手な歯肉弁の剥離の仕方、脳貧血、過呼吸の対応などです。そういう面も含めて、面倒な埋伏抜歯を月数回行うようにしています。今回も無事想定通り、ピエゾを利用して、15分程度で抜歯することが出来ました。別に時間を競うわけではありませんが、術後の不快症状の軽減、他の患者さんの処置への移行、医院の流れを考慮した場合、短時間に抜歯できるに越したことは無いということです。恐らく、毎日抜歯に慣れている有能な口腔外科医がピエゾを使えば、この症例、10分未満で抜歯するであろうと推測します。私は、彼らほど抜歯に関して技術力がないぶん、CT分析や高価な器材で補うタイプかもしれません。自分の力量は、自分である程度わかっていますから。自分を知らない人ほど、不幸な人はいませんよ。因みに歯冠で1分割しただけです。歯根ではしていません。ピエゾがあるからこそ何分割もする必要がないのです。恐らく、上手く抜歯を行う先生は、歯冠分割位置、分割の仕方、ヘーベルを挿入するスペース確保を十分に頭に入れていると思います。逆に下手な先生は、無駄に同じ動作(ヘーベルで意味もなくつっつくとか。)をしている人が多いように思えます。昔、同じような症例を1時間以上もかかって、汗を垂らしながら二人がかりで、取り組んでいたのを見たことがあります。やはり、同じところに無駄にヘーベルをつついていました。あげく、無事抜歯後、泣き泣きの患者さんを前にして、開業医でこんな歯を抜くところは少ないと必ず出る言葉も付け加えていました。まあ、当時のぺーぺーの私では抜歯できませんから、偉そうなことは言えませんが、抜歯を途中で諦める人も多い中、抜歯しきったことは評価に値すると当時も今も思います。
一方、このケースと同じような私の左下の水平埋伏の親知らずを、、口腔外科医である大学の先輩に抜歯してもらいましたが、自分であれば15分はかかると思っていたものを、彼は5分でやってのけました。やはり、抜歯されている最中、分割とヘーベルの使い方が抜群に上手かったと記憶しています。つまり、オチは、麻酔が十分に効いていなかったということです。笑。

術前パノラマ
レントゲン写真
抜歯後パノラマ
レントゲン写真
術前矢状断CT画像
術前前頭断根尖部付近CT画像

症例13   難易度ー☆☆☆☆☆
30代男性
左上の虫歯でぼろぼろな親知らずの抜歯
抜歯理由:歯性上顎洞炎をなおすため、

注)パノラマレントゲン写真からは、左上の親知らずが虫歯で歯髄炎を起こしていると判断して、抜歯すると思います。しかし、CTを撮影してみると、虫歯菌が根っこの先に感染し、それが上顎洞に波及しているのがわかります。歯科用CTがなければ、以前までは、明確にわからなかったことだと思います。知らずに抜歯して問題が生じることもほとんどないかもしれませんが、わかっていれば、事前に患者さんに術後、蓄膿症を発症するかもしれないということを説明することができます。もしくは、術後のトラブルが嫌であれば、公的機関に紹介ということも可能です。患者さんが納得されましたので、当医院で抜歯しました。鉗子で3秒です。一般的に上の親知らずの抜歯は、ヘーベルを使用するよりも鉗子の方が効率がいいと個人的に思いますが、口腔外科かぶれは、ヘーベルで抜歯することに拘る人が多いように思えます。時間効率上、無意味なんですがね。最初に私がお世話になった先生は、実に鉗子の使い方が上手でした。今、上の親知らずの抜歯で、嫌な汗をかかないことも、見本が良かったからかもしれません。頭と要領がよく、痛みを極力与えず、アポイント通りに患者さんをみる先生でしたので、そこの医院が流行る理由も頷けます。後年、そこだけは、参考にさせてもらいました。笑
開業医で抜歯が上手い先生は、恐らく、自分の力量を理解していて、時間効率やリスクを考慮し、手をつけていいか悪いかの判断ができる人だと思います。しかし、今回の場合は、抜歯技量よりも、術後の上顎洞炎発症リスクに注意を払うべきでしょう。即ち、抜歯後の緊密な縫合、抗生剤の選択という面です。幸い、問題が生じることなく、1ヶ月後、CTで確認してみると、上顎洞内の炎症は治まっていました。

術前パノラマレントゲン写真
術前矢状断CT
術後矢状断CT

症例14   難易度 ★★☆☆☆
40代男性
左下の歯茎の中に水平に埋まった親知らずの抜歯
抜歯理由:智歯周囲炎の予防並びに左下7番の口腔内環境改善のため

注)左下の奥がズキズキ痛いということで、当医院を受診されました。原因は、左の奥から二番目の歯の虫歯です。痛みをとることは簡単ですが、一番奥の真横に生えた親知らずが存在する限り、良い修復処置は困難ですし、また親知らず部分が不潔になり抵抗力が弱る度に歯茎が腫れてくることが予測できます。そのことを説明し、親知らずの抜歯と手前の歯の神経処置を一緒にやることを提案したところ同意されましたので、投薬消炎後に行うことにしました。
1週間後、予定どおり伝麻下で、手前の神経処置こみで30分で終了することができました。ポイントは、歯槽骨ぎりぎりの歯冠分割と左下7番遠心(奥の面)カリエスと歯冠部の除去です。これにより、歯根の分割は必要なくなり、歯根を一塊として除去でき、時間の短縮が可能となります。抜歯だけでは10分だったと思います。しかし、嫌なことに、全身疾患を患いステロイドを服用していた患者さんでしたので、術後の患部の傷なおりが悪く、ドライソケットが発生してしまいました。そのため、しばらくの抗生剤の投薬と患部への三種の混合薬剤(内緒です。)の患部への充填を行い治癒を促進させました。再ソウハは行っていません。無事、事なきを得て、左下7番の被せものを装着し、終了としました。長期ステロイドを服用している人は、術前の抗生剤服用や術後公的機関で抗生剤の点滴をしてもらうほうが安心かもしれませんね。骨髄炎に移行したら、厄介です。経験したくない偶発症の一つです。

術前パノラマ写真
抜歯後デンタル写真
左下7番根充時
デンタル写真

症例15   難易度 ★★☆☆☆
50代女性
右下の歯茎の中に水平に埋まった親知らずの抜歯
抜歯理由:周囲炎の予防並びに右下7番の口腔内環境改善のため

注)右下7番の治療のために、その後の真横に生えた親知らずの抜歯が必要と言われ、ネットで調べて当医院を8年前に受診されました。このパターン、本当に苦慮します。私は別に親知らずの抜歯に長けた歯科医だとは、微塵も思っていません。ただ、そこそこ抜歯もできますよと証明しているだけです。そのため、現在であれば、医院の仕事効率や患者さんの精神的不安、肉体的負担の軽減を考慮して、自分より抜歯が上手であろうと考えられる公的機関の先生に紹介するケースが多くなっているかもしれません。サチュレーションモニター下で、静脈を確保し、抗生剤、抗炎症剤、鎮静薬、時として止血剤を含んだものを点滴をしながら、施術していただけるので、術中、術後のトラブルが少ないのではないかと思います。特に過緊張で生じる脳貧血、過呼吸の対応、嘔吐反射の強い人や術後の不快症状軽減にはかなり優位と言えるでしょう。基本、私はインプラントやそれに付帯した外科処置はそこそこできるかもしれませんが、自分で解剖学的にリスクのある歯、神経質で精神的に弱そうな人の歯や全身疾患の重い人の歯を抜歯をしないで、公的機関に紹介することを恥だとは思っていません。抜歯を希望され、公的機関に紹介してくれと言われても全くと言っていいほど嫌ではありませんので、是非ともその場合は仰ってください。あと、紹介先にご迷惑を掛けたくありませんので、約束を守れない人、上記した親知らずの抜歯の際の偶発症を理解されていない人はご遠慮ください。
ところで、このケースは市をまたいで来院され、手前の歯の治療も希望されたため、当医院で行うことにしました。この当時は、ピエゾもなく、またCT分析もできず、30分以上抜歯に時間がかかりました。そのため、時間の関係上、手前の歯の神経処置は後日丁寧に行うことにした経緯があります。平面上、同じように見える画像でも、3DCTではよく違うこともあるので、埋伏抜歯程、慢心は自分にとっての最大の敵なのです。因みに、術中、抜歯できないかもしれないという嫌な予感が頭をよぎった瞬間、恐らく抜けないでしょうね。新卒の頃、簡単な上の親知らずで経験したことがあります。しかし、依存心がない開業医になってからは、今のところ抜歯すると決めては皆無な経験ですがね。抜けると確信している歯科医は、これでダメならこうしょうと何通りものやり方が、頭に浮かんでいる人達だと思います。さらにクレバーな歯科医は、術後の抜歯器具の挿入で生じうる口唇の裂けや内出血の予防も考慮していているはずでしょう。

術前
8年後矢状断CT

症例16    難易度★★☆☆☆ 
30代女性
左上下の歯茎の中に埋まった親知らずの抜歯(計2本)
抜歯理由:智歯周囲炎並びに左上下7番の口腔内環境改善のため

注)左上下の親知らずを抜歯してほしいとのことで受診されました。上下ともに垂直埋伏の智歯です。当時は時間にも余裕があり、上下1回で抜歯を行いました。一般的に右利きの場合、左側の抜歯に際して、左手でヘーベルを操作できるようにしておくと、難しく思える垂直埋伏も思ったより簡単に抜歯できることはよく経験します。誰かに教えてもらったわけでもなく、自分で気づいたことなので、すべての人に当てはまらないかもしれませんがね。このケースも、最小限フラップを形成して、最小限ラウンドエンジンバーでヘーベルが入るスペースの確保と歯冠を覆っている骨の削除を行い、左手のヘーベル操作で無事脱臼させ鉗子で摘んで抜歯することができました。当時は、医院にCTは完備されていませんでしたから、上の親知らずの抜歯が簡単にできたことは運が良かったのかもしれませんね。しかし、下は抜歯後、ドライソケットになってしまいました。抜歯後、嗽をしないでくださいといつも言っても、口の中が気持ち悪くなって、血餅も吐き出してしまうのでしょう。綿だけじっと噛んでてくれれば良いのですがね。


症例17   難易度 ★★★☆☆
30代男性
右下の歯茎の中に水平に埋まった親知らずの抜歯
抜歯理由:智歯周囲炎並びに右下7番の口腔内環境改善のため

注)右下の親知らずの歯茎の腫れ並びに手前の歯の虫歯治療を希望され、ネット経由で8年前に市内から受診されました。上記の下の水平埋伏の親知らずのほとんどの症例においても、親知らずと接する側の手前の7番に虫歯が発生しているのがわかると思います。後々妊娠、出産を希望されている女性は早くに抜歯したほうが賢明と言えるでしょう。しかし、女性の場合は、ホルモンバランス、華奢な骨格、開口量、過緊張による迷走神経反射、過呼吸について、男性よりも考慮しないといけないという煩わしさがあるので、個人的には公的機関で抜歯される方がよいのではないかと経験を積むにつれ思うようになりました。泣き顔や内出血、腫れ顔を見たくはありませんし、恨まれたくもありませんからね。このケースは男性で、神経質ではなく骨格がしっかりしているため、わざわざ市内から足を運ばれましたので、当医院で抜歯並びに手前の歯の虫歯治療をすることにしました。しかし、当時CTはなくレントゲン分析しかできませんでしたが、根っこが2つに分かれていて湾曲しているのが、はっきりと分かりましたので、困難であろうとは予測していました。最低20分はかかると予想していましたので、手前の歯の神経処置は後日行うことを了解していただきました。実際は30分程度かかり、サービスで患部にコラーゲン+抗生剤軟膏を充填し、縫合3針、炭酸ガスレーザー照射で終了としました。術後のレントゲンをみて勘の良い先生は気づくと思いますが、分割の位置が下手くそです。これにより、すべてのやりかたが狂ってきました。歯根を一塊として脱臼させ、除去することができなくなるからです。しかし、そういうことも想定していますので、歯根をさらに又の部分で一分割すれば、簡単に問題は補正できます。時間ロスにはなりますがね。反省すべき点でした。

術前レントゲン
抜歯後
右下7番根充時

症例18   難易度 ★☆☆☆☆
20代女性
右下の歯茎の中に水平に埋まった親知らずの抜歯
抜歯理由:智歯周囲炎並びに右下7番の口腔内環境改善のため

注)9年前、右下の親知らずと手前の歯の虫歯治療で当医院を受診されました。このケースも、親知らずの生え方に問題があるため、手前の7番の歯にも問題が生じたと言えるでしょう。そこで、抜歯と手前の歯の神経処置を同時に行うことを説明し、了解されましたのでやることにしました。自分なりの見立てでは解剖学的にも問題がなく、抜歯で10分以内と想定していましたが、虫歯も著しくまた急性炎症も見受けられましたので、如何に麻酔を奏功させるかが、このケースではポイントとなります。一般的に抜歯に自信がある先生ほど、伝達麻酔下で行うと思います。理由は奏功範囲や時間が広く長いからです。それでも、解剖学的に骨の厚い下顎奥歯の処置や急性炎症が著しい場合などでは、麻酔を効かせることは困難を極めることが多いと言えます。そこで、麻酔を効かせるには2つの歯の神経について理解しておく必要があります。一つは、歯の知覚を司る神経(歯の中の神経←歯髄)、もう一つは、歯の噛みごたえを司る神経(歯の周りの神経←歯根膜)です。歯髄炎は前者の神経を、歯根膜炎は後者の神経を、水平埋伏抜歯は両方の神経回路の遮断が必要となります。今回、伝達麻酔だけではやはり奏功が難しく、やりたくはないですが歯髄内に直接麻酔を注入する方法を採用しました。私の場合、まず最初に歯の中の神経めがけてバーを走らせて、歯髄に麻酔を効かせることを一番優先しますかね。施術中痛がられると、予期せぬ偶発症を招かないとも限りませんから。勿論、そこそこ伝達麻酔が奏功している中、極細のバーで穿通させますので、そこまでの痛みは少ないのではないかと思います。このケース、麻酔さえ効いてしまえば、詰んだも同然です。歯根が完全2つに別れ中隔に骨を抱えていませんので、案の定すぐに歯根を脱臼させることができ、10分以内で終了した記憶があります。さらに時間に余裕もありましたので、手前の歯の歯髄処置も行うことが可能となりました。親知らずの抜歯で10本麻酔を使用して抜けなかったとかネットで見かけましたが、凄すぎると思います。笑。恐らく伝達麻酔を採用していないのでしょうね。いやいや、私も偉そうなことが言えません。明日経験するかもしれませんから。その時は、自分より抜歯が有能な口腔外科医に託すか二回法を採用するでしょう。因みに今のところ二回法の経験はありませんが、良い方法だと思います。決して1回目で抜歯できないことは、リスクを考慮した場合、恥ではありません。(患者さんは落胆するかもしれませんが。)寧ろ抜けずにパニックにならず、二回法に備えて、やるべき処置(断髄、ナートなど)や説明をしておくことの方が重要だと個人的に思います。

術前
術後

症例19   難易度 ★★★☆☆
30代男性
右下の親知らずと左下の歯茎の中に水平に埋まった親知らずの抜歯(2本)
抜歯理由:右下智歯歯髄炎、左下智歯周囲炎並びに左下7番の口腔内環境改善のため

注)9年前、右下の親知らずがズキズキ痛むことと左下親知らずの腫れを主訴にネット経由で受診されました。右下のきれいに生えた虫歯の親知らずに関しては、麻酔の奏功だけの問題で、あまり苦にはならないと判断し、左はちょっと厄介かもと恐らく当時思っていたはずです。根っこが湾曲し、かつ低位に位置し、顎の神経に近接していることがレントゲン写真からわかるからです。さらに不幸なことに親知らずの頭が手前の奥の根っこを圧迫して、根っこが吸収していることも予測していたはずです。一応、抜歯時のリスクや抜歯後の手前の歯の知覚過敏や歯髄炎、歯周炎の可能性を説明したところ、ここで抜歯してほしいとのことでやることにしました。しかし、当時と今の保険のアポイント状況や優先すべき患者さんの処置を考慮すると、現在では紹介するケースと言えます。私が最初に勤務したところの先生も、その辺は実に弁えていて、勤務していた間、下の水平埋伏抜歯を行う姿をみたことはありませんでした。恐らく、本気を出せば難なくこなすことは自分なりには想像していましたが、患者さんが多く、一人に束縛されるよりも確実にこなせる、歯に苦しんでいる数人の治療を優先していたことは当たり前のことだと当時も今も思います。歯科医であり、経営者でもありますから。いやいや、当時私が有能な代診であれば話は別だったかもしれませんが。笑
何はともあれ、実は他の処置をこなしてくれる有能な代診よりも有能な衛生士に恵まれる方が、外科処置において必須なのです。術野を確保する即ち術者の手技を邪魔せず、バキュームや排唾管で出血をコントロールしてくれることこそが一番の要なのです。恐らく簡単な埋伏抜歯を途中で諦める人は、出血量をみて怖くなったとか、痛いと言われて不安になったとかが一番の理由だと思います。だから、出血のコントロールと麻酔の奏功は重要なのです。あと、術前の血圧、SPO2、脈拍も忘れてはいけません。高血圧であれば勿論出血しやすいですし、酸素飽和度が低ければ意識障害の可能性がありますし、ステロイドを服用されていれば頻脈になることもあるでしょう。最低限の医科的知識は必要なのです。この方も若いのに高血圧で出血が多く、助手の手助けがなかったら辛かったケースかもしれません。手柄は術者だけではなく、裏方さんによるところも大きいということです。すべてのことについて言えることではないでしょうかね
当時の記録によると左下の親知らずの抜歯には30分くらいかかったとカルテに記載してあります。やはり、自分にとっては難症例であったということでしょう。

術前
術後

症例20    難易度 ★★☆☆☆
20代女性
左上の歯茎の中に水平に埋まった親知らずの抜歯(計1本)
抜歯理由:手前の歯の虫歯予防のため並びに手前の歯のシザースバイトを矯正で治すため

注)左上の7番(親知らずの前の歯)のシザースバイト(鋏状咬合)を矯正で正常咬合に治すために、奥の水平に埋伏した親知らずを抜歯することにしました。親知らずを残したまま矯正を行うと、親知らずに根がぶつかり予期せぬ偶発症即ち根吸収を招く可能性が考えられます。しかし、抜歯は簡単ではないことは、素人でもレントゲン写真をみればわかるでしょう。上の水平埋伏の親知らずの抜歯に際しては、上顎洞との位置関係を十分に把握する必要があります。抜歯時に根を上顎洞に迷入させたり、洞粘膜を損傷し上顎洞炎(蓄膿症)を発症させたりする可能性があるからです。その点だけ十分に考慮し、ミラーテクニックに熟練した歯科医であれば、実は下の水平埋伏抜歯に比べて簡単なのです。目視で分割するのはかなり厳しいでしょうね。幸い卒後すぐに勤めたところが、ビーチ系のミラーテクニック水平位診療スタイルの所でしたので、後のマイクロスコープの抵抗のない導入に役立ち、貴重な財産になっていることは言うまでもありません。お金には換えられないほど、後の歯科医師人生を左右するものだと今では思っています。あと、ミラーに慣れると職業病である肩こりも皆無となります。しかし、残念なことに今使用している診療台は水平位診療スタイルにマッチしたものではありません。私が、購入したものではありませんから。また、恐ろしいことにビーチ系の診療台は、腰痛の患者さんにとっては物凄く腰に負担がかからないとのことです。腰痛持ちの何人もの方に腰が楽になったと言われたことがあります。そのため、歯科用診療台も数多く存在していますが、患者さん、術者の双方に負担のかからないものは、ビーチ系の診療台だと個人的に思います。抜歯も水平位で行う方が利点が多いのではないでしょうかね。ところで、実際は、水平位で歯茎を開き、ミラーテクニックで歯冠を分割し、ピエゾにてヘーベルが入るスペースを確保し、左手のヘーベルテクニックで歯根を脱臼させ、鉗子でつまんで終了となりました。10分ぐらいだったと思います。しかし、なぜか上顎の親知らずの抜歯では考えにくいことですが、抜歯後しばらく疼痛を訴えられました。ピエゾの使い方が悪かったのではないかと今反省しています。

術前パノラマ
術後
術前リアル画像
術前矢状断CT

症例21    難易度 ★★☆☆☆
10〜20代男性
右下左上の水平に埋まった親知らず2本+右上左下の親知らず(計4本)
抜歯理由:右下親知らずの歯茎の炎症並びに手前の歯の口腔内環境を予防的に整えるため

注)もう15年以上も定期検診で通われている方です。幼少期はフッ素塗布を、成人になってからは除石を4ヶ月に1回行い、虫歯や歯肉炎で困らないようにサポートしてきました。しかし、十代の後半になってから、生え方の問題で右下の親知らずの歯茎が腫れて痛みを訴えるようになりました。
約12年前のことです。まずやるべき親知らずの抜歯は、原因歯ではありません。右上の親知らずです。炎症をおこした右下の親知らずの周りの歯茎を噛み込んでいるからです。これを抜歯することと投薬により、しばらくは症状は軽減します。また、一般的に上の親知らずの抜歯は簡単なことが多く、とりあえず痛みさえとってあげれば、簡単な名医となります。笑。勿論、いろいろとネット情報を鵜呑みにしやすい人達は、綺麗に親知らずが生えていれば、将来の移植にとっておけばいいじゃないと思うかもしれませんが、この方の場合、将来奥歯を失うリスクが低いこと、右上の親知らずの根っこが解剖学的に上顎洞に突出していること、湾曲していること並びに噛み合わせを考慮すると、抜歯が適応と言えるでしょう。ところで簡単な名医になってから一年後、今度は主たる原因である右下の水平埋伏の抜歯を行うことにしました。実は親知らずも十代後半で抜歯しておくほうが、難しく思えるようなものでも、簡単に終わることをよく経験します。歯の周りの歯根膜にヘーベルが入れやすいことが一番の理由です。施術時間は忘れましたが、簡単だったと思います。しかし、術後腫れた記憶はあります。個人的見解ですが、術後に腫れることは生体の傷を治そうという免疫反応の結果であり、悪いことではないと思います。寧ろ血がでないほうが問題です。勿論、細菌感染によるものであれば話は別ですよ。腫れにくくするには、術前の口腔内クリーニング(除石)、術前投薬、術中の静注、クリーンな空調設備下での施術、最小限の術野下での最小限骨を削除して短時間に終了する術者の技量、術後の血流のよくなる行為を控えることが重要なポイントではないでしょうか。しかし、現実問題、開業医で保険でそこまで考えて行う人は少ないでしょう。じゃあ、自費なら腫れないのかと言えば、なんとも言えません。笑。
引き続き、一ヶ月後、左下の生えきっていない親知らずを抜歯し、定期検診に移行しました。
10年後(2016年)、最後の左上の水平埋伏の親知らずを抜歯することにしました。手前の歯の虫歯、歯周ポケット発生の予防のためです。これも、上記の症例20とほぼ同じです。慎重になりすぎて、15分ほどかかってしまいました。慣れた歯科医であれば5分でしょうね。確かに早く抜歯できるに越したことはないのですが、如何に偶発症を起こさないようにするかの方が重要と捉えていますので、用心のために抗生剤を塗布したコラーゲンを抜歯穴に挿入し、1針ナート終了としました。このとき、手荒くコラーゲンを抜歯穴に押し込むと上顎洞に穿孔するでしょうね。抜歯後の処置も終了するまで気を抜かないことが重要だと思います。あと、上顎洞炎の予防のために術後の投薬としてマクロライド系の抗生剤を選択しました。
最後に、抜歯とは関係ないのですが、不幸なことに、この方の上の奥歯の歯根はすべて上顎洞に突出しています。虫歯で神経が感染したり、歯周病が悪化したりすると歯が原因の上顎洞炎(蓄膿症)になる可能性があると言うことです。そのことも考慮すると、メンテナンスの重要性も再認識していただけるかと思います。

2001年
2016年
術後

症例22  難易度 ★★☆☆☆ 
30代男性
右上の親知らずの抜歯
抜歯理由:下の親知らずの歯茎を噛み込んで痛いから。

注)右下の親知らずが腫れて、ネット経由で来院されました。まず、抜歯すべき親知らずは下の原因歯ではありません。上の親知らずです。腫れた歯茎を噛み込んでいるからです。仮に原因歯を先に抜歯したとしても、腫れた患部の歯茎を上の親知らずが噛み込むので、不快感は続くと思います。そこでそのことをお伝えし、上の抜歯をまず手がけようと考えるのですが、直感力やパノラマレントゲン写真の読影力のある先生は、簡単ではないと思うはずです。一般的に上の親知らずは簡単なことが多く、何も考えずに簡単ですぐ抜けますよという歯科医が多いと思います。それで、簡単に抜けずに大変な思いをしたという経験談をよくネットで見ます。ですから、私は簡単に思える抜歯でも簡単だとは言わないようにしています。笑。今回の場合、CTからも、根っこが5本あり湾曲しているため、鉗子で無理に引き抜こうとすると根がハセツしさらにそれをとるのに時間がかかることとヘーベルで簡単に脱臼しないことも予想できます。しかし、鉗子の使い方が抜群に上手い先生は恐らく一塊として抜ききることは可能でしょうが、ほとんど場合根をハセツさせてしまいそのままの状態にしておくか、ルートチップでハセツ片の除去を試みるかのどっちかだと思います。
私は鉗子だけで抜ききる自信はありませんでしたので、若干時間(5分)はかかりますが、ピエゾを併用して幸い無事一塊として抜歯することができました。もし根がハセツした場合、ミラーテクニック下でピエゾが使用できればハセツ片の除去も可能だと思いますが、上顎洞に近い場合リスクを考慮し、ハセツ片を残した状態にしても問題が生じる可能性は少ないと考えています。万が一、問題が生じ、次ハセツ片の除去を試みる場合、あっさりと取れると思いますよ。しかし、もしハセツしたことに気づきリスクを考慮して除去しないと判断したなら、患者さんには状況を説明するでしょう。気づいていない場合もありますので、この辺は難しいところです。
あと、垂直性の歯の形態には対称性があるため、反対側の親知らずの抜歯も慎重を要するでしょう。よく分析する先生であれば、前回の反対側の抜歯は大変ではなかったですかと問診で聞かれると思います。当たると超能力者と思うかもしれませんが、遺伝的な根拠があるので、別に大したことではありません。寧ろ、上手く抜歯できるなこの先生と安心した方がいいでしょう。
(PS エンドの練習に抜去歯を使用させてもらいました。)

術前
術後

症例23  難易度 ★☆☆☆☆ 
20代女性
左上の親知らずの抜歯
抜歯理由:下の親知らずの歯茎を噛み込んで痛いから。

注)左下の親知らずの歯茎を上の親知らずが噛みこんでいたため、上の親知らずを抜歯することにしました。一般的に上の親知らずの抜歯は簡単なことが多いのですが、根っこをハセツさせてしまいハセツ片をきれいに除去するには困難を極めることが多いと言えます。特に根っこが湾曲し、長い場合にかなりしんどいと思います。そのため、ちょっとでもパノラマレントゲン写真上、解剖学的形態が複雑と判断した場合、後の煩わしさを極力回避するためにCTで分析するように私はしています。今回も怪しいと直感的に思いましたので、CTで分析してみると、やはり根っこは長く湾曲していることがわかりました。聞いてみると、反対の親知らずの抜歯もたいへんだったとのことでした。しかし、きっちりと分析ができて、ピエゾを使用できれば、さほど問題視するものではありません。しかし、患者さんには簡単ですとはあえて言いません。特殊な器材を用意しておきますので、簡単に抜歯できるといいですねとだけ言います。笑。幸い、慎重に根っこを折らず、ピエゾと鉗子を使用して、3分くらいで一塊として抜歯することができました。鉗子抜歯技量は、腕力がものを言うのではなく、抜歯原理の理解、握力や鉗子の力のかけ方だと思います。新卒の頃、抜歯できなかった経験から学んだことが多いですね。尻拭いは当時の勤務先の院長にやってもらいました。今までの人生において、新卒の頃は、一番の屈辱の時だったと思います。できない悔しさです。しかし、誰でも新人のときがあるわけですから、ある程度致し方のないことかもしれませんがね。

術前矢状断CT
術前前頭断CT

症例24   難易度 ★★☆☆☆
30代女性
左下の歯茎の中に水平に埋まった親知らずの抜歯
抜歯理由:智歯周囲炎の予防並びに左下7番の口腔内環境改善のため

注)5年前、左下の7番がズキズキ痛いとのことで来院されました。原因は、親知らずの生え方に問題があるからです。そのため、親知らずの抜歯も行うことにしました。分割の位置ときれいに歯冠分割できれば、さほど難症例ではありませんが、抜歯後左下7番の遠心側のポケット形成を極力予防するためにSRPをし、抜歯穴にコラーゲンを充填することによって左下7番に将来トラブルが生じる可能性が低くなることも考慮する必要があります。抜歯することだけを考えればいいというわけではありません。幸い、5年後、他の歯のトラブルでパノラマレントゲン写真を撮影してみると、きれいに抜歯穴は骨で満たされ、7番遠心の歯周病トラブルも認められないことがわかります。
因みに7番遠心SRPやPRP、コラーゲン、人工骨充填分だけ差額で自費で請求するのはNGです。混合診療に該当します。必要であり術者が保険でやると決めた場合、無料でやるということになります。もしくは患者さんが必ず希望するなら、自費で親知らずの抜歯を行うということになります。
そのため、中流階級を多数占める日本において、術者患者双方にとっていいのは、混合診療解禁なのではないでしょうかね?

術前
5年後

症例25   難易度 ★☆☆☆☆
20代男性
右下の歯茎の中に水平に埋まった親知らずの抜歯
抜歯理由:智歯周囲炎

注)右下の親知らずが腫れて、来院されました。真横に水平に親知らずが埋まっているのがレントゲン写真からわかると思います。抜歯が適応となり、公的機関の口腔外科で抜歯していただくことが一般的ではないでしょうかね。患者さんは、公的機関に行くのに時間的余裕がなく、ここで抜歯してほしいと言われましたので、急性症状を抑えるためにまずは投薬をして、1週間後に抜歯する計画を立てました。上記したように基本的に埋伏抜歯のアポイントは麻酔が奏功する時間も含めて1時間とります。そのため、無断キャンセルや突然の予約変更をされると、非常に医院側や歯の治療を進めてほしい他の患者さんに迷惑をかけるわけですよ。ですから、簡単な気持ちでは、親知らずの埋伏抜歯の予約をいれないでほしいといつも思っています。怖くてしょうがないという理由であれば、局所麻酔下で静脈沈静法を採用している公的機関に抜歯を紹介しますので、社会常識を逸脱した行為だけはやめましょうね。これは、すべての保険医療機関で言えることです。自分の家族にも口を酸っぱく言っています。例え、予約制を謳っている医療機関で、予約どおりに診察をしてもらえなくても、5分前には到着するようにと。お金や物ではなく、医療機関において信用を得るための一番の行為だと個人的に思います。日本の保険制度は、保険医ではなく、患者さんサイドの方が十分にメリットがある制度なので、保険医療機関に嫌われない心得も必要でしょうね。今回も時間励行に来院され、気分よく抜歯することができましたので、10分で終了となりました。時間を守るということは、似たような抜歯処置でも術者の心理面にも影響を与えるということです。学生時代よく遅刻していた私が言うのも何ですがね。笑。しかし、開業して16年、今(2016年)のところ医院を身体の不都合で一度も休診日以外に休んだことはありません。社会人としてのモラルでしょう。
今回は技術面、知識面ではなく、メンタルの部分を呟いてみました。


症例26   難易度 ★★★★☆
30代女性
左下の歯茎の中に水平に埋まった親知らずの抜歯+左上の親知らず
抜歯理由:歯列矯正を行うために並びに智歯周囲炎予防のため、

注)ずーと定期検診に来られている患者さんが歯列矯正を希望されたため、左下水平埋伏の親知らずの抜歯をすることにしました。これは、かなり難易度の高い親知らずと言えます。歯冠部が骨でほぼ覆われていて、尚且つ低位に水平に位置し、根尖部が顎の神経に接しているからです。紹介が一般的ですかね。しかし、ここで抜歯してほしいと切望されたため、抜歯のリスクを十分に説明し、同意書をいただき、精神鎮静薬服用下でやることになりました。よく勘違いしている人がいますが、口腔外科を標榜していれば、どこでも上手く親知らずを抜歯してくれると考えている人がいますが間違いです。怖がりとか、難症例と判断したり、医院の都合に合わせてくれなかったり、術後の偶発症がおきる確率が高いと判断した場合とか、検査をさせてくれなかったりとか、煩わしい人と判断された場合などは、恐らく同業目線で、できるにも関わらず、公的機関に悪いと思いますが紹介する場合がほとんどだと思います。特に親知らずの抜歯に関しては。面白い話ですが、口腔外科に何年も在籍したにもかかわらず、いざ自分が開業したとき、親知らずの抜歯は公的機関に送るという歯科医を数名知っています。それほど、やりたくない処置ということでしょうね。ここで紹介しているケースのほとんどは、実は一般開業医では行われないものであることを理解してくださいね。では、なぜ、やるかというと、遠方からわざわざ抜歯を希望されて当医院に来院されたり、水平埋伏の親知らずの抜歯がどれほど大変かを理解されていたり、包括治療を私が選択する場合に限りです。ですから、過去に簡単に抜歯してもらったからどこでも大丈夫だろうとか、近いからという人は、他で抜歯してくださいということです。誰も、親知らずの抜歯に是非とも来てくださいとは微塵も思っていませんから。それほど、ハイリスクローリターンな処置なんですよ。今回のケースは、麻酔を奏功させる時間を除いて、1時間と想定していましたので、珍しく、前日、絵を描いてのイメージトレーニングをしました。インプラントでもよくやります。恐らく外科処置に明かるい人は空間把握能力が長けた人だと思います。また、私は下手ですが、絵を描くのが上手い人が多い気がしますね。
最低、シミレーションしなくても、歯冠上部の骨をいかに速く落とせるか、歯冠分割の位置をできるだけ奥の方にできるかどうか、分割のドリルに何を使用するか、歯冠の長さがどれくらいかなどを瞬時に想像する能力が必要でしょう。このケースの場合、ピエゾでの骨除去は時間がかかりますので、ストレートエンジンのラウンドバーとフィッシャーバーの使用の方が効率的だと判断します。しかし、腫れますが、時間はかなり短縮できるでしょう。歯根が単根のため、適切な位置で分割さえ確実にできてしまえば、ピエゾの使用により簡単に歯根は脱臼します。稀に舌測の骨壁が薄く、歯根脱臼の際骨折させてしまうことがありますので、その場合、しばらく嚥下障害がでることは説明しておく必要はあります。今回の場合は骨壁が厚くその心配は無用でした。幸い、想定の半分の時間30分で抜歯を終了させることができ、しびれも出ることなく、ドライソケットになることもなく、経過良好です。

術前
赤と緑の距離が同じようになるように分割位置を設定
術後

症例27   難易度ー?
当時30代男性(私です。笑)
左下の水平に埋まった親知らずの抜歯+左上の親知らず
抜歯理由:智歯周囲炎予防並びに手前7番の口腔内環境を整えるため。

注)今(2016年)から7,8年前に、半分口腔内に萌出した私の左下の親知らずを当時ある病院のある口腔外科の先生に抜歯していただくことになりました。なんで、20代のうちに抜歯しないの?と思われるかもしれませんが、早く一人前になりたいと思っていましたので、単に暇がなかったことが一番の理由です。初めての永久歯抜歯経験となりました。自分であれば15分くらいかかると思っていましたが、施術医はフラップ形成こみで5分で抜歯してくださいました。流石、餅は餅屋と思いましたね。術後、一切腫れることやドライソケットになることもありませんでした。私は、元々親知らずが真横に生えているにも関わらず、手入れがよく智歯周囲炎の経験がないこと、また親知らずや手前の歯に虫歯を形成していないことからもわかるように非常に免疫力が高いことが一つ考えられますが、一番は手際よく施術時間が短かったことが要因だと思います。卒業してから、下の水平埋伏歯の上手な抜歯の仕方を見たことがなかったので、身をもって素晴らしい抜歯術の体験をしたことがその後の抜歯技術向上に役立っていることは言うまでもありません。因みに右も親知らずが残っていますが、歯茎に埋まった完全な水平埋伏のため、手入れがよければ問題が生じる可能性は今のところ低いと考えています。本当は自分が抜歯したいのですが、流石にできませんので、いずれ時間ができれば県外の同級生にでもやってもらう予定です。私は名医は選びません。身近な良医を選ぶでしょう。笑
勿論、当時、左下上の親知らずを抜歯していただいた先生は、口腔外科の分野においては個人的に名医だと思いますよ。しかし、難しい親知らずの抜歯や腫瘍、嚢胞,、インプラントに関しましては、素人を公的機関を離れて開業した個人医に紹介することはありません。なぜ公的機関に紹介するかというと、設備の充実や救急外来、麻酔科が付属していることと権威主義の素人が多いことが一番の理由でしょうね。

術前
術後3年

症例28   難易度ー★★☆☆☆
当時30代女性(私の妹です。)
左下の水平に埋まった親知らずの抜歯
抜歯理由:智歯周囲炎

注)ちょうど私が親知らずを抜歯していただいた時期と同じくらいに、私の妹が左下の親知らずの歯茎が腫れて、県外から帰省し、抜歯することになりました。基本的に私の家族と母、祖母、妹、義理の弟の口腔内環境は、口腔癌以外、私が管理することにしています。他人には任せられないのが本音でしょう。過去に歯科医の息子、娘だとかいう患者さんが来て、ご丁寧にこうしろああしろと父親が指図してくることがありましたが、非常に迷惑以外何ものにもありません。自分がやれと。まず、低レベルな歯科医であることは間違いないと思いますよ。自分の家族の歯の治療も人任せにするのですから。因みに私の妹も詰め物が取れて、どうしても帰省することができず、仕方なしに近隣の歯科に行って1本左上の神経を失いました。抜髄されたことが問題ではなく、不備な根管治療を施され、歯の痛みが消えないにもかかわらず、自費のセラミックを入れようとしたことが問題なのです。恐らく、口の中の修復物がゴールドしか入れていないことに目をつけたのでしょうね。恐ろしい話です。勿論、私が16年前に再根管治療を行い、かぶせ物を入れて、幸い今のところ予後は順調です。これに懲りてか、歯の治療は旅費がかかっても、私のところに必ず来るようになりました。笑。
若干話はそれましたが、育った環境、食生活や遺伝傾向も似ているはずなので、歯の生え方、歯の質や形態も類似性があるはずです。つまり、2歳下の妹の左下の親知らずを抜歯するということは、自分の親知らずを抜歯する疑似体験ができるということになります。案の定、当時の想定どおり15分かかりました。前述の口腔外科の先生のようには速くできなかったということです。それで、その時点での抜歯の力量の比較がある程度できます。双子であれば、より確かかもしれません。世の中には上には上がいるということです。しかし、他の歯科分野で劣るとは微塵も思っていませんがね。一般開業医においては、すべての分野で80点くらいとれる事の方が重要ではないでしょうかね?
ところで、私にも言えることですが、歯科医の息子、娘の口の中が、必ずしも適切に処置、管理されていないことがレントゲン写真からわかるのです。即ち、治す必要のなかった歯が治療されているということです。現在であれば、かみ合わせの面と頬面に薄いインレー像をレントゲン写真で認める場合、ほとんどが経過観察や予防で補える治す必要のなかった虫歯だったと推測します。黒いからと言って歯を治す先生が必ずしも正解と思わないようにしてください。

術前
術後

症例29   難易度 ★☆☆☆☆
60代男性
右下の歯茎の中に水平に埋まった親知らずの抜歯
抜歯理由:インプラントに悪い影響を与えないための感染予防処置

注)右下の奥歯に2本インプラントを希望されましたので、将来インプラントに悪い影響を与える可能性がある真横に歯茎に埋まった親知らずを抜歯する必要があります。インプラントを行うことだけに目がいく歯科医がほとんどではないでしょうかね?実際は、口腔外科処置を何回も行わないでいいように、手前の保存不可能な歯の抜歯、インプラントの同時埋入も一緒に行うことにしました。親知らずの手前の歯即ち7番が既に欠損しているため、難しいと思える水平埋伏抜歯も、実は分割する必要がなくなるため、ピエゾという超音波機器を使用すれば簡単なのです。歯茎を開き、歯根膜にヘーベルを確実に挿入できるスペースさえ設けることができれば、普通の綺麗に生えた奥歯の抜歯とさほど難易度はかわりません。案の定、5分くらいで抜歯することができました。抜去歯をじっくりと観察してみると、硬い黒い歯石(縁下歯石は炎症の際の血液成分も混じるので黒いのです。)が歯冠部にべっとりと付着しているのがわかります。即ち、これを残したままインプラントを埋入すると、インプラントに感染する可能性があるということです。最悪、初期のトラブルであればインプラントが付かない、治療後のトラブルであればインプラント周囲炎になる可能性があるということです。ですから、インプラントの周囲の環境を整えるということは非常に重要なことなのです。幸い麻酔込で1時間ですべての処置(水平埋伏抜歯、右下6番の分割抜歯、デブライド、径4.7ミリインプラント埋入、βーTCPによるGBR、ナート)を終了することができました。あとはインプラントが定着するのを待つだけです。

術前
術後
術前矢状断CT
抜去歯

症例30  難易度★★★☆☆  
20代女性
右上の垂直埋伏親知らずの抜歯
抜歯理由:智歯周囲炎のため、

注)ほんの一部だけ萌出している右上の親知らずの歯茎が腫れて受診されました。そこで、パノラマレントゲン写真を撮影してみると、画像上嫌な予感がしましたので、ついでにCTで精査することにしました。案の定、?のように根っこ先が湾曲し、上顎洞に近接していることがはっきりとわかりました。相当心してかからないと痛い目に合うケースと言えるでしょう。いや、心してかかったとしても、根っこの先の破折は免れないかもしれません。もし破折した場合、破折片の除去は試みない方が、今回の場合賢明と言えると思います。そのままにしておくということです。恐らく、ピエゾを使用しようが、破折片を除去しようとした場合、上顎洞に迷入する可能性が非常に高いと予測できるからです。そのことを事前にお話し了解されましたので抜歯することにしました。不思議なもので、事前につつみ隠さずお話ししておくと、事がうまくいくことをよく経験します。今回も慎重にピエゾを使用して、約10分くらいで無事一塊として抜歯することができました。お金にならないからといってCTで術前に確認しないと後で痛い目をみるかもしれないというケースと言えるでしょう。事後説明ほど言い訳がましいことはありませんからね。勿論、患者さんが不安がるようでしたら、公的機関に紹介しますが、恐らく公的機関でもリスクを考慮し、もし破折した場合、そのままにしておくのではないでしょうかね。ここが、偶発症(上顎洞破折片の迷入、上顎洞炎の発症など)を招き入れるかどうかの分岐点でしょう。

術前矢状断CT
術後矢状断CT
術前リアル画像
抜去歯

症例31   難易度 ★☆☆☆☆
20代男性
上下4本親知らずの抜歯
抜歯理由:右上7番歯髄炎+智歯周囲炎+右下7番の修復処置のため、

注)右上下がズキズキ痛い+右下の親知らずの歯茎が腫れて痛いを主訴に当医院を受診されました。これをどの歯が原因で、どういう処置を行えばすぐに主訴を改善できるかを瞬時に判断できる歯科医は、なかなかやるなあ〜と自分であれば評価します。さらに術後のレントゲン写真(根管治療の精度、かぶせ物つめものの適合精度など)を提示してくれれば、その歯科医のレベルは大体わかるものです。勿論、同じ領域内にいる歯科医が判断すればの話ですがね。今回の場合、右上の親知らずの抜歯、手前の7番の神経処置を行えば、すぐに痛みは改善されると予測します。いきなり難しいと考えられる右下の水平に埋まった親知らずを抜歯するという考えは、頭が固いと言わざるを得ませんね。不思議に思うかもしれませんが、上の親知らずを抜歯し、抗生剤を処方するだけで、下の親知らずの腫れや痛みは一時的に無くなります。また、上の親知らずの手前のでかい虫歯の歯の神経を除去するだけで、下の奥歯のズキズキするかんじも無くなります。歯の知覚、痛覚を司る三叉神経末梢枝の走行と一次感染(細菌感染)と二次的外傷(上の親知らずが噛みこむこと)で起こる智歯周囲炎の起因を理解する必要があるでしょう。
実際の治療手順は、右上親知らず抜歯、右上7番、6番の神経処置をからめての虫歯処置(クラウン)、右上4,5番の虫歯処置(CR)→次に痛みが出そうな左上の親知らずの抜歯、手前7番の神経処置をからめた虫歯処置(クラウン)→左下の親知らずの抜歯+左下6番、7番、5番の虫歯処置(インレー、CR)→上前歯の虫歯処置(CR)→右下6番、5番の虫歯処置(インレー、CR)→最後に右下の歯茎に埋まった水平埋伏の親知らずの抜歯というふうになりました。全部保険治療で、期間は半年くらいかかりましたかね。本題の親知らずの抜歯ですが、上の左右親知らずは3秒、左下の親知らず1分、難しいと一般的に思われる右下の水平埋伏歯は5分でした。あえて右下親知らずの抜歯のポイントは言われれば、分割の位置でしょうかね。7番よりですれば、歯根が簡単に脱臼してもなかなかひっかかって出ててこず、いらいらして7番を傷つけたり、舌側骨壁を破壊する恐れがあるかもしれません。外科処置、根管処置には根気や冷静さが要求されるということです。
因みに一回の遅刻、アポの変更なく、真面目な方でした。歯の治療をやりぬいたという自信や達成感が必ずや今後実社会でも活きることでしょう。

術前
術後

症例32   難易度 ★☆☆☆☆
30代男性
上下4本親知らずの抜歯
抜歯理由:智歯並びに右下7番壊疽性歯髄炎+智歯周囲炎+7番の修復処置のため、

注)右上下がズキズキ痛い+右下の親知らずの歯茎が腫れて痛いを主訴に当医院を受診されました。おたふく(流行性耳下腺炎)のようにほっぺが腫脹し、開口障害も著しく、かなりまずいと第一印象で思いました。そこで、でかいレントゲン写真、CTで患部を確かめてみると、右下水平埋伏の親知らずと手前の歯がでかい虫歯になっていて、歯の中の神経の壊疽化が進んでいるのがわかりました。とりあえず、開口障害の改善、急性炎症の消炎を図るため、ニューキノロン系の抗生剤並びに鎮痛剤を処方することにしました。しかし、経口投与だけでは、これだけ激しい炎症は改善しないかもという嫌な予感がよぎります。今までの経験則からですね。もし、糖尿や心疾患を患っている人の場合、骨髄炎、敗血症に移行する可能性がありますので、迷うことなく速やかに公的機関の口腔外科もしくはかかりつけの内科で抗生剤の点滴をしていただくことが賢明のように思えます。幸い、夜間救急車騒ぎになることなく、1週間後ある程度炎症が消炎していたため、右下の親知らずの抜歯並びに手前7番の歯の神経処置を行うことにしました。今回は、症例31の逆の処置となります。上の親知らずを抜歯しても痛みはすぐには改善しないでしょう。虫歯による神経の痛みが主な原因と考えられるからです。
そこで、伝麻下でまず横に生えた親知らずの抜歯を行うことにしました、歯根が2根に分かれて中隔に骨を抱えていることがCTではっきりとわかりましたので、歯根分割を避けるため、できるだけ奥側で歯冠分割し、ピエゾで中隔の骨を除去し、無事一塊として彎曲歯根を除去することができました。10分くらいでしたかね。続いて手前の7番の壊疽性歯髄の除去を試みるのですが、こちらは物凄く麻酔の効きが悪く、抜歯よりも時間を要しました。しかし、同時処置を30分以内で行うことは、やったことがある人であれば難しいと思うでしょうね。少なくとも新卒の頃(20年前)の私であれば、3時間以上はかかると思います。いや、できないかもしれませんね。
1週間後、来院された時にはすっきりした顔をしていましたが、今度は上の親知らずが抜歯したところの歯茎を噛みこむということで、右上の親知らずの抜歯を行うことにしました。こちらは10秒ぐらいでした。上の親知らずは、歯根が複雑な形態でない場合、永久歯の中で一番簡単に抜歯できるところなのです。寧ろ、矯正で便宜抜歯する2根4番小臼歯のほうが、遥かに難しいことが多いでしょう。
最後に、今回は幸い抗生剤の経口投与により症状が軽減してくれましたが、改善しない場合、ごく稀に生死にかかわることになりかねないことは頭に入れておく必要があります。あまり親知らずの痛みを甘くみない方がいいですよ。一度でも腫れや痛みを生じたことがある親知らずの場合、痛くない時に抜歯しておいた方が賢明でしょう。

右下親知らず
抜歯前
右下親知らず
抜歯後
右下7番術前
右下7番
ビタペックス貼薬
右下7番根充時

症例33  難易度 ★☆☆☆☆ 
50代男性
綺麗に生えた右下8番(親知らず)の抜歯
抜歯理由:手前の歯の口腔内環境を整えるため並びに右上7番の咬合性外傷予防のため、

注)右下奥歯の歯茎の違和感を訴えられ、来院されました。レントゲン写真やポケット検査から、中程度に進行した右下6,7番歯周病によるものと診断しました。保険のルールどおり、縁上SC→SRPと行い経過観察をしていましたが、まだ違和感があるとのことで再評価してみると、遠心側(歯の奥側の面)に確かに5ミリ以上のポケット残存を認めました。出血、排膿はありませんが、希望されたため歯周外科をやることにしました。歯茎を開いてビックリ。7番遠心側と親知らずの近心側(手前側)にかなりの歯石の取り残しを認めました。そこで、すぐに術中研究用模型を取り出し、じっくり観察してみると下のお親知らずが原因で、上の7番の遠心咬合面の磨り減りを認めたため、急遽右下の親知らずを抜歯することにしました。よく、初診で歯型を採られるとなんで余計なことをしているんだと思う素人が多いと思いますが、初診料に含まれますし、現状の噛み合わせや今後の修復物の参考、親知らずを抜歯していいかどうかの判断基準になるので、できる歯科医ほどお金にはなりませんが術前の研究用模型を採得する習慣があると個人的に思います。現状の口の中をある程度把握すると言うことです。
根はかなり弯曲しているのがCT上で把握していましたが、鉗子で摘んで直ぐに終わるだろうと安易に考え抜歯に臨みました。案の定、遠心根を根尖部三分の一でハセツさせてしまいました。鉗子の力加減が悪かったのだと思います。ここで超音波機器ピエゾの登場です。マイナスの心理状況と時間ロスを解消してくれるものです。笑。歯周外科の際、既に歯茎を開いているため、目視下でハセツ片と歯槽骨の周りに1本2万するピエゾチップを挿入し、キャビテーションテクニックで簡単に除去することができました。もし、フラップを形成していない場合は、最初からピエゾを使用し、中隔部の骨を除去してから慎重にハセツさせないように鉗子で摘むと思います。しかし、抜歯の保険費用5000円程度(自己負担約2000円)で、チップをハセツさせてしまえば赤字になることは歯科医であれば誰でもわかると思います。だから、ここぞという時しかピエゾは使用したくないのが本音です。当たり前のようにどこでも使用してくれるとは勘違いしないでくださいね。あえて赤字になるかもしれないことをやっているだけです。言わなければわからない人が増えてきているので、困ったもんですよ。この症例も折れたハセツ片を低侵襲で取れる歯科医は少ないと思います。即ちそのままにしておくということです。問題が生じないことがほとんどですから、リスクを侵すぐらいなら賢明な選択かもしれません。20年前の私であれば完全抜歯は無理かもしれません。10年前の私であればフラップを形成し15分くらいかけて骨を大幅に除去して取っていたでしょう。現在であれば5分未満で抜歯します。他人と比較するのではなく、昔の自分と比較する方が賢く確かなことでしょう。


抜去歯

症例34  難易度 ★☆☆☆☆ 
70代男性
右下4番肥大残根の抜歯
抜歯理由:義歯を入れると歯茎が痛い

注)右下の根っこだけ残った歯が痛いということで来院されました。歯茎に完全に埋まり、根っこの先が化膿していなければそのままにしておいても問題はありませんが、一部口腔内に露出して虫歯でぼろぼろな状態で、義歯装着の障害になる場合は、抜歯が必要となります。実は私、持病がある人、リスクのありそうな埋伏智歯や埋伏過剰歯の抜歯以外、残根や本当は治せる可能性のある化膿病変を患った歯の抜歯が一番得意な処置なんです。患者さんの方から抜歯を希望されれば喜んでやりますよ。一番時間のかからない短絡的な処置ですからね。今回もレントゲンぱっと見楽勝と思いましたが、油断してしまいました。いつもどおり浸潤麻酔奏功後、電メスで歯茎を削ぎ、ヘーベルをかけるのですが、なかなか脱臼してきません。ヘーベルを入れる度に虫歯の進行が著しいため、歯質もどんどんかけていきます。ここでおかしいと思い、CTをよく読影してみると、根っこが肥大、中央部付近が狭窄しそこに骨を抱えていることがわかりました。即ち、簡単に抜歯しようと考えるなら、最初からピエゾを使用する必要があった症例なのです。既に時遅しで、歯茎を開き(←侵襲大)、ピエゾを使用し周りの骨を一層除去してやっとこ抜歯することができました。結構大変でした。10分くらいはかかったと思います。幸い翌日腫れることはありませんでしたが、抜歯後痛かったとのことです。恐らく、根っこが残っても問題が生じる可能性は低いと考えますが、残らないにこしたことはないでしょう。まず、全顎的なパノラマ写真で、力の問題や虫歯で歯がダメになったのか、下顎角部が肥大していないかどうか、比較的欠損部歯槽骨があるかどうか、過去に抜歯できなかった残根が歯茎の中にうまっているかどうかをじっくり分析するべきでした。噛む力が強い人の残根は、根っこが変形したり癒着していることが多いので、難抜歯になることを十分に想定する必要があるでしょう。
後やたらと抜歯できなかったかで残根が問題なく歯茎の下にうまっているにもかかわらず、前医を批判する歯科医がいますが、問題があれば言えばいいことであなたは今までに一度も抜歯で失敗したことがないのですか?と問いたいです。これは根管治療で起こりうるファイルハセツなどの偶発症にも言えることです。知らない方が幸せだったということもあるでしょ。問題がないのにそれが気になってしょうがないという気質の人もいますからね。少なくとも私が、自分の親知らずを抜歯していただき、不幸に偶発症考慮して根っこが残ったとしても施術医に文句は言いません。問題がでなければそのままにしておくでしょう。断言します。ただし、根っこが残ったことに施術医が気づいていれば話はすべきでしょうね。

術前
術後


参考例)同患者さんの左上の歯茎に埋まった残根。これはインプラントをしないのであれば抜歯の必要はありません。

症例35  難易度 ★☆☆☆☆ 
30代男性
舌側転位した左下5番残根の抜歯
抜歯理由:両隣の歯(左下4,6番)の口腔内環境の改善

注)左下4番、6番の虫歯治療並びに口腔内環境を整えるために、舌側に転位した虫歯でぼろぼろの残根を抜歯する必要があります。これを抜歯せずに以前に保存治療しているとは、?と言わざるをえません。これが存在することにより、両隣の歯は歯周病や虫歯に罹患し、いずれ問題を抱えることは目に見えていますし、最悪抜歯になる可能性もあるでしょう。歯を抜かない歯科医が必ずしも正解とは限らない典型的な症例と言えます。少なくともこの歯を保存したせいで、手前の4番の歯は奥側の面がでかい虫歯になり、神経の処置を余儀なくなれました。医原性のものと言ってもいいかもしれません。勿論、患者さんが抜歯を希望していなければ話は別ですが、抜歯を希望され、できないのであれば速やかに高次機関に紹介するべきだと個人的に思います。私にとってはなんら難しいと思いませんでしたので、当医院で抜歯することにしました。麻酔を奏功させる時間+手前の神経処置+両隣の歯のSRP+抜歯で、20分とみました。それ以上かかれば、保険診療では採算が合いません。経営者であれば誰でもわかることでしょうね。勿論時間を無駄にしませんので、私の場合麻酔を奏功させる間に、他の患者さんを診察します。しかし、一般的にこの抜歯、簡単な親知らずに比べたら3倍くらい難しいです。少なくとも15年前の私であれば、抜歯だけで30分のアポをとったと思います。何が変わったかと言いますと、経験値とCT解析、ピエゾの使用ですかね。今回は、フラップを形成することなく嫌な汗をかくことなく、ピエゾ、ヘーベルを使用し、一塊として5分くらいで抜歯できました。ポイントは、いかに両隣在歯を傷つけないようにピエゾ、ヘーベルを挿入するかと伝達麻酔法の採用、術野の確保、アンダーカットの考慮ですかね。
因みに1歯欠損だからと言って、インプラントを勧めたり、ブリッジにする必要もありません。4番、6番の歯冠修復物を少し大きく作製するだけで問題はありません。顎のスペースが不足しているために舌側転位して5番が生えてきたことに気づけば、当たり前の治療法です。患者さんにとってもやさしい治療と言えるでしょう。

術前矢状断CT
術前水平断CT
リアル画像
術前口腔内写真
スモーカーのため、若干傷直りが悪い

症例36  難易度 ★☆☆☆☆ 
50代男性
虫歯でぼろぼろの左下8番(親知らず)の抜歯
抜歯理由:痛みが出る前に抜歯を希望されたため、

注)虫歯で親知らずが欠けた状態で来院されました。幸い症状がないとのことで、クレオドン(正露丸みたいなもんです。)を貼薬し、カルボで蓋をし、後日抜歯することにしました。私は、下の親知らずの場合、その日のうちに抜歯するということは殆どありません。なぜなら、CT、レントゲン写真でよく分析して臨みたいと思っているからです。それゆえ、短時間に効率よく抜歯できるようになりました。
今回の場合、まあ、鉗子だけで抜歯できる先生は超一流でしょう。私には無理です。笑。一般的には、虫歯でぼろぼろのため、根っこを分割して、抜歯する先生の方が多いのではないでしょうかね?それをしても、血だらけになり、焦りまくり、抜歯できない場合も多いと思います。今回私は、この歯は歯髄炎一歩手前で分割により出血で視野が悪くなることが予測できましたので、ピエゾを使用して、中隔部の骨を削除し、鉗子で一塊として抜歯するにことにしました。5分でした。分割抜歯も悪くはありませんが、時間ロスは否めないでしょうね。また、縁下カリエスも著しいため、ヘーベルを挿入するのにも苦労すると思います。このように分析力と器材、メンタルが備われば、最善手を選択し、患者さんの負担も少なくなるのです。たまに他院から抜歯できずに残根のままで来られる方に遭遇しますが、分割の仕方がイマイチなことが多いですね。恐らく、抜歯中パニックになっているのが容易に想像できます。いやいや、私も明日経験するかもしれませんので、偉そうなことは言えませんがね。


症例37   難易度 ★☆☆☆☆
30代女性
右上下2本親知らずの抜歯
抜歯理由:右下の水平に生えた親知らずが虫歯でズキズキ痛い。+手前の7番の口腔内環境を整えるため。

注)今(2016年)10年前に歯石とりで受診され、それから6年後(2012年)30代になって右下の親知らず付近がズキズキ痛み出し再受診されました。6年で親知らずの位置がかなり変化しているのがパノラマレントゲン写真からわかると思います。上に登り、横に回転しています。それにより、虫歯による歯髄炎並びに歯茎の炎症を誘発したと考えられます。親知らず抜歯並びに手前の歯の神経処置を絡めた歯冠修復を行う必要があります。そこで、投薬1週間後、抜歯並びに手前の歯の神経処置を同時にすることにしました。この症例は、麻酔の奏功と分割の位置、仕方だけの問題です。下の緑の線のように分割するのことが勝利への近道です。笑。まあ、実際は頭でわかっていてもなかなかできないもんです。最悪の場合、手前の7番の歯根を間違って削るという偶発症を起こしかねません。これは歯科治療が狭い空間で水平位で行われるものだからだと思います。幸い、今のところ抜歯時に隣の歯を傷つけたという経験はありませんが、油断禁物です。この症例も、慎重に丁寧に分割して、一塊として無事歯根を摘出することができました。若いのでヘーベルが入りやすかったです。
しかし、本当に生え方の悪い親知らずは百害あって一利ありませんね。右下7番が口の中でこの方の唯一の失活歯となってしまいました。もっと早くに抜歯すべきだったと言えるでしょう。

2006年
2012年
抜歯後
7番根充時

症例38   難易度★★☆☆☆ 
30代男性
左下の歯茎の中に水平に埋まった親知らずの抜歯
抜歯理由:左下親知らず周辺の歯茎が腫れたため+左下7番の虫歯、歯周病予防

注)左下の親知らずの歯茎が腫れて受診されました。消炎後、抜歯を希望されましたので、当医院で行うのですが、あることを患者さんに説明しておく必要があります。あることとは、親知らずの舌側の骨壁が薄いので、抜歯時にそれを破壊してしまうかもしれないということです。舌側壁には咀嚼筋が付着しているため、破壊してしまうと開口障害が一時的にでる可能性があります。今回の場合、さらに歯根が肥大しているため、ヘーベル操作によりその可能性が高くなると予測できます。実際、案の定、骨壁を破壊してしまい、術後、開口障害が出現してしまいました。予防法はフリーハンドではなく、左手で舌側壁を固定してからヘーベルを頬側歯根膜部に挿入することですが、それでもペラペラな場合、破壊は免れません。事前に言っておく方が賢明ですが、CTがないとわかりませんよね。笑
開口障害だけであれば、まだましな方ですが、実はそれより重篤な偶発症を引き起こす可能性があります。脱臼した歯根の顎下部迷入です。これは、経験したくない偶発症の一つと言えます。実際、経験したら、こうしようとは頭の中で整理されていますが、恐らく困難を極めるでしょうね。

術前パノラマ
レントゲン
術後抜歯後確認
(根っこの残存あり)
再確認時
術前矢状断CT
術前前頭断CT

症例39  難易度 ★☆☆☆☆ 
20代女性
左上の親知らずの抜歯
抜歯理由:蓄膿症並びに左下智歯周囲炎予防のため、

注)頭重感並びに上奥歯の違和感を主訴に来院された方です。直感的に蓄膿症と思いましたので、確定診断のため、CTを撮影してみると、恐らく鼻性+歯性由来と考えられる両側性副鼻腔粘膜の肥厚を認めました。歯が原因の場合、左上6番の根尖病変、左上親知らずが原因と考えられますが、両側性であること、鼻の粘膜が腫脹していること、自然孔付近の解剖学形態問題、鼻中隔が曲がっていることから鼻性要因が強いと個人的に推測しました。そこで、急性症状を治めるため、マクロライド系の抗生剤を1週間程服用してもらうことにしました。幸い症状も落ち着き、まず歯性の一番の原因と考えられる左上6番の根管処置を行い、CTを撮影してみると、かなり副鼻腔粘膜の炎症が治まっているいるのがわかりました。次に予防も考慮して親知らずの抜歯も行うことにするのですが、根っこもかなり湾曲して難しい抜歯になるなあと予測していましたので、インプラテックス社の再植用鉗子を使用することにしました。これを使用することにより、無駄にピエゾを使用することなく、1分くらいで無事一塊として抜歯することができました。勿論、普通の鉗子で上手に根ハセツなしに抜歯できる場合もありますが、もし根がハセツした場合、とるの大変です。最低10分以上はかかるのではないでしょうか?もしくはとれない。そのため、私は外科処置の場合、自分が予測できるあらゆることを想定してことに臨みます。採算があわないとかそんなことは考えません。できると言ってできない事のほうが自分にとってストレスですから。因みに今回使用した鉗子、しっかりとしたPERの歯の抜歯、再植歯には威力を発揮します。根ハセツ予防や時間効率を重視する先生は購入してみてはいかがでしょうか?インプラテックス社の抜歯器材(鉗子、ヘーベル、パワーエイヒ、ピエゾなど)ほんと使えますよ。



TOPページへ