ここで提示するものは自医院でのリカバリーしたケースを載せています。

リカバリー症例1.左下6番(6歳臼歯)の再根幹治療
30代女性
今(2013)から5年前に2次的なむし歯の発生によるブリッジの不調を主訴に当医院を受診されました。当時左下の6歳臼歯の根管が全くわからず、できる範囲での根管治療を行いました。痛み、腫れ等の臨床症状は認めませんでしたが、かすかに根尖に透過像を認めるレントゲン所見でした。予後に自信がもてなかったため、ブリッジではなく欠損部にはインプラント処置を行い、もともとのブリッジの柱となった歯は、1本ずつかぶせて終了としました。完全な実力不足、設備不足です。案の定嫌な予感は的中し、治療2年後左下6歳臼歯は腫れてきました。しかし、今度は歯科用CT、マイクロスコープ、超音波機器等の設備が整っていましたので、それらを駆使し、再根管治療を完全に行うことができました。3年後根尖の病変は完全に無くなっています。臨床において、設備、技術や治すという信念が一番重要だということです。肩書き、学歴、所属、、ベンツ(笑)そんなもんは必要ない。


1回目の術前
1回目の術後
2回目の術前(1回目の術後から2年後)
2回目の術後(2回目の術前から3年後)

リカバリー症例2.左下7番の再根管治療
50代女性
今(2013)から8年前にむし歯で神経の治療した左下の7番目の歯が、4年前に腫れてしまい再根管治療をすることになりました。当時学問的に完全に処置したと思っていましたが、人間のやることはやはり完全ではありません。根の先が化膿してきました。いいわけがましいことを言えば、保険治療だということでしょうか?まあ〜8年も時間励行に定期検診に通ってくださる患者さんですし、抜歯という選択肢は自分の頭にはありませんでした。今度は自費並みに歯科用CT、マイクロスコープ、超音波機器を駆使し再根管治療をおこないました。4年後歯科用CT像からもわかるように顎の神経にせまる勢いのあった化膿病変もなくなっているのがわかると思います。最後に、治せるかもしれないという自信はお金では買えませんよ。(笑)

術前(神経の処置後4年)
術後(再根幹治療4年後)

リカバリー症例3.脱落した左下6,7番インプラントの再治療
60代女性
今(2013)から10年目左下にフリアリット2と呼ばれるシリンダー型インプラントを6部は抜歯即時で7部は通常で埋入しました。しかし、3年後歯ぎしりもしくは喰いしばりが原因で動揺、脱落してしましました。遠方より定期検診にも真面目に通われていたので、無償で今度はスクリュータイプのインプラントを埋入しました。あれから7年経過しますが、今度は問題なく機能しています。(しかし、予断は許しませんが。)対合歯が義歯にもかかわらず、エラのある人のインプラントはそういった習癖を考慮する必要があると考えさせられた症例でした。自分は、数ある成功から学ぶより、経過不良例から学ぶことのほうが多いと思っています。しかし、成功しか語らず経過不良を語らない先生のほうが圧倒的に多いのも事実です。

1回目のインプラント術直後
3年後脱落前
再埋入後7年
再埋入10年後

リカバリー症例4.左上6番(6歳臼歯)の神経保存→根管治療
30代女性
今(2013)から8年前左上の6歳臼歯がむし歯になりしみるということで来院されました。本当は神経処置の適応かもしれませんでしたが、かなり無理して神経の保存修復処置をして終了しました。神経がなくなった歯はもろくなりやすく、できれば神経の保存を試みた処置を最優先に行うのですが、保険制度の弊害でかぶせものに関しましては2年間の保証制度が設けられているため、ボーダーの歯の神経は除去されることが多いのも事実です。また、神経の保存がうまくいったとしても最初のうち(1か月ほど)はしみるといったうったえが多いので、わからない人にはダメ歯医者のレッテルを貼られます。(笑)。今回の場合運悪く、2年後に神経が壊疽し根尖が腫れてきました。神経の処置をしっかりし再度かぶせて終了後、幸い根尖の病変は消失しました。良かれと思ってやったのにうまくいかなかったケースでした。ですから、神経をとるかとらないかになるまでむし歯を放っておくのではなく、初期の段階でみつけてもらうように定期検診は重要かと思いますよ。

術前
術後2年
根管治療終了後5年

リカバリー症例5.左下7番の神経保存→根管治療
60代女性
今(2013)から8年前、左下の奥歯がしみるということで受診されました。保険処置では神経除去が適応かと思いますが、神経保存処置を行い終了としました。この時に親不知を抜歯していれば、ひょっとすると3年後問題が生じてくることはなかったかもしれません。一応当時も抜歯はすすめましたが、信頼関係の問題、抜歯がこわいという理由で経過観察することにしました。案の定いやな予感は的中し、左下7番は3年後親知らずが原因と思われる上行生歯髄炎を併発してきました。左の下のリンパ節が腫れ開口障害も生じていましたので、まず投薬処置を行ってから左下7番の根っこの治療を行うことにしました。しかし、今度は公的機関での親不知の抜歯もすすめました。3か月に一度定時に検診にこられる真面目な方で、抜歯はここでしてほしいということになりました。当院はピエゾという骨切削超音波機器がありますので、なかなかいい感しているなあと思いました。(笑)。この機器がないとかなり難しい抜歯と思われます。あと、年配の女性の方はホルモンのバランスの変化で不定愁訴など訴えられることも多いので、できればいつもやりたくないと思っています。ピエゾを使用したときの欠点ですが、使い方を誤るとドライソケットになりやすいかもしれません。抜歯は5分もかかりませんでしたが、若干゙ドライソケットになってしまいました。月日は流れ5年後写真をとってみると、左下7番の化膿病変は完治していました。いく医院を間違うとインプラントをごり押しされます。(笑)。ちなみにこの方定期検診に来られてから、喪失した歯は親不知以外ありません。いかに定期検診が重要かということです。

術前
術後3年
根管治療終了5年後

リカバリー症例6.左下インプラント埋入後に生じた骨吸収のリカバリー
60代女性
今(2013)から6年前、全顎治療を主訴に当医院を受診されました。欠損部にはインプラントを希望されましたので、左下の奥に2本インプラントを埋入することにしました。当時は歯科用のCTを医院に完備していなくて、術前に被爆量の高い医科用のCTをわざわざ市内の提携病院まで撮りに行ってもらいました。私がCTで解析するようになって10年経ちますが、未だに平面的なレントゲン写真でインプラントを行っている先生が多数をしめるのではないでしょうか?唯一医科用CTが勝っている点ですが、骨密度を把握することが可能です。この症例で助かったことですが、骨密度が低いことと骨幅が不足していることが術前にわかりました。平面的なレントゲン写真からわからない情報です。そこでドリルを極力使用しない埋入法を採用することにしました。埋入自体20分もかかりませんでしたが、術後に手前側のインプラントが骨吸収を起こしました。排膿等の感染症状はありませんでしたので、BRソニックと呼ばれる超音波機器を15日間使用することにしました。3か月後骨吸収が改善したのを確認し、半年仮歯で経過観察し、上部構造を装着しました。5年後、写真で確認していてみると問題がなく機能しているのがわかります。(ワンスレッドまでの骨吸収はよく認められる現象です。)
では、なぜこのような骨吸収がおきたのかと考察してみると、1。ドリルをほとんど使用せず高トルクでインプラントの穴を形成しネクローシスを骨が起こしたこと、2.生物学的幅径の確保が十分でなかったこと、3.骨質が脆弱であったところに深くインプラントを埋入したこと、4.インプラント体の形状の問題等が考えられます。

注)主観ですが医科用CTは、骨長が厳しい症例では誤差が生じるので安全域をよけ目に見ておいたほうがいいでしょう。歯科用CTユーザーからのメッセージでした。

インプラント穴形成時
埋入直後
骨吸収出現後
8年後
5年後

リカバリー症例7.8年後左下インプラント2本破折→撤去後再埋入
60代男性
今(2013)から8年前、全顎的治療を求められ当医院を受診された方です。1年ほどで治療を終了し、3か月に一度の定期検診に移行しました。8年後インプラントの部分が動くということで、レントゲン写真をとってみるとインプラントに変形が認められました。もともと、喰いしばる習癖がありマウスピースの着用を指示しましたがなかなか受け入れてもらえず、このような結果を招いた可能性があります。この方に使用したインプラントはチタン合金のため、純チタンのそれよりは強度も強く、また径も手前3.7ミリ、奥4,7ミリのものを使用し連結固定しているにもかかわらず破折してしまいました。定期検診にもまじめに来られているため、当たり前のことですが、無償で撤去し再埋入することにしました。私は基本、患者さんが、全身の状態が良好で、ものわかりがよく、まじめで、私を拒否しない限りはいかなるトラブルも自分で行う覚悟でインプラント治療を行っています。この覚悟がなくなったらインプラントをやめる時だといつも思っています。少なくとも千本以上のインプラント埋入の経験がある人は一度は経験する最もいやなインプラントトラブルの一つだと思います。今回の場合、撤去後インプラント即埋入を考えていましたので、細心の注意を払い一つのミスも許されない状況下でインプラントを撤去し、今度は手前4,7ミリ、奥6.0ミリのインプラントを埋入しました。幸い問題なく事なきを得ました。他院のトラブルも腐るほど経験していますが、あえて自分の行ったものに関してだけ患者さんに許可を頂いて症例として提示しました。経過不良例は他院のものではなく自院のものを提示するのが一番誠実なやり方のように思えますね。改めていっておきますが、インプラントをやっていれば、多からずインプラントのトラブルは抱えるものです。最後にインプラントは万能でないことも追記しておきます。
(あと愚痴ですが、25年前に亡くなった父の医院をしかたなく引き継いだため、自分がやった覚えのないインプラントを自分がやったことになっていることに対しても強い憤りを感じています。ブレードインプラント、ITIの中空シリンダー型やIMZのIME、IMC型のインプラントとかです。東京からやってきたながれの歯医者がやった仕事ですけどね。)

8年後
上部構造撤去後
インプラント再埋入
撤去したインプラント
インプラント撤去ツール

リカバリー症例8.4年後右下インプラント上部構造の破損
60代男性
8年前(2005年)から定期的に歯石除去で来院されていた方で、4年前に長年の義歯の煩わしさを解消するためにインプラントをすることにしました。歯科用CT導入後最初のフラップレス症例です。上下10本のインプラントを埋入し、全顎的に約10か月の治療期間を有しました。喰いしばりの傾向がありましたが、咬合高径が高く、できれば白い歯をと希望されたため、フルベークのハイブリッドセラミックのインプラント上部構造をアバットメントに仮止めしてメンテナンスを行うことにしました。しかし、4年後、一部ハイブリッドの部分が破損してきました。インプラントの白いかぶせもの(上部構造)でおこりうるトラブルの一つです。インプラントをしていれば誰でも経験することです。このトラブル処理をできるかどうかはやる先生によりますが(笑)
私は、基本、奥歯に白い歯を望まれる場合は、セラミックよりハイブリッドセラミックを好んで入れます。理由はセラミックは、奥歯では破損しやすいのと、修理が基本できないことが挙げられます。審美性を気にしないのであれば、咬合面は金属をすすめることが多いと思います。また、私は上部構造(インプラントのかぶせもの)を不測のときに備えて合着することはありませんので、今回も一旦外して上部構造を再築盛しました。ここがハイブリッドセラミックの良さであると思います。あと、経年的に天然歯とインプラントの間はコンタクトが空いてくることが多いのでその補正もできるこの材質は最適に思えますが、セラミックに比べて色の変色、汚れがつきやすいのが欠点といわざるをえません。いまだにインプラントの上部構造は何が一番理想かという答えは自分のなかでは出ていませんが、何年かの保証という観点からみた場合、あえて修理ができないものを選ぶのもと思います。インプラントを5年以上保証しているところには必ずやる前に聞いたほうがいいことだと思いますよ。

4年後左下7番前頭断CT
同左下6番
同左下5番

リカバリー症例9.4年後右下第一小臼歯の再根管治療(感根処)
30代男性
今(2013)から8年前、右下のインレーブリッジが脱離し当医院を受診されました。部分的なレントゲン写真のコントラストからも骨幅があるしっかりとした骨質の顎骨で、喰いしばりの習癖があることが十分に予測できました。患者さんは、再度ブリッジを希望されましたが、経済的問題がクリアーされればインプラントをやりたいとおしゃりました。いずれやるという人にいずれやる人はほとんどいませんので(笑)、保険内でしっかりとしたブリッジを装着し終了としました。しかし、意外にも、半年後、やっぱり自分の歯は大事なので、インプラントをしたいと再来院されました。車、高級フレンチ、旅行、ブランド品にはお金はかけることができるが、歯にはという方が多い中、若いのになかなか本質をわかっているなあと感心させられました。患者さんにとって30万弱の出費でしたが、長い目でみた場合、恐らくこの決断は金銭的にも歯的にも吉と出るでしょう。
ところが4年後、4番目の歯の根の先が化膿してきました。最初の根管充填も悪いとは思いませんが、結果的に問題が生じてしまいました。若いので歯根端切除術は根っこが短くなるので予後が悪くなると考え、麻酔下で根尖ソウハのみを歯茎を開いて行いました。しかし、1年後歯茎にフィステルが生じてきたため、今度は腹をくくってパーフォレーションに十分気をつけて、上からの再根管治療を行うことにしました。最終的には根尖部の無菌化が上手くいき、3年問題のない経過をたどっています。本当に根管治療の難しさや神経保存の重要さを痛感させられた症例でした。もちろん真面目に4か月に一度のメンテナンスでこられ、マウスピースも着用してくれる方なので、保険外の被せものの料金は頂いていません。
術前
ブリッジ装着直後
1年後
8年後
   5年後
   4年後

リカバリー症例10.7年後左上7番の再根管治療(感根処)
50代女性
今(2013年)から8年前、左上の一番奥がズキズキ痛いということで当医院を受診されました。歯周病が原因で、歯の中の神経が弱ってきたのが考えられます。そこでかぶせものを除去し、神経の処置を行い、再びブリッジを装着して定期検診に移行しました。ところが、7年後左上の奥歯の歯茎が腫れてきました。きっちりと神経の処置をしたにも関わらず、手前の根っこの先(近心根)が化膿してきました。かなり、ショックを覚えたのを昨日のように覚えています。本当に根管治療は難しいと改めて思いました。敗因は、ラバーをせず無菌的に根管処置をできなかったことや根管の中が十分にきれいになっていないのに根管処置を終えたことが考えられます。歯性上顎洞炎(蓄膿症)を引き起こす一歩手前まで化膿病変は進行していました。抜歯も視野にいれないといけない状態ですが、再度ラバーダム防湿下でマイクロスコープ、超音波チップ、NTファイルを駆使し感染根管処置を行いました。
幸い1年後インプラントの検診でCTを撮影してみると、きれいに根尖病変は消失していました。
もし、再発時のとき他院に行かれた場合、きっちりとした根管処置をしてあるにもかかわらず後医は前医の処置を否定できるのか?といつも思っています。私は、きっちりとした処置がされていて不幸に根っこの先が悪くなってしまった場合、決して前医の批判はしません。寧ろ、素晴らしい処置がされている場合は前医のことを褒めるようにしています。しかし、インフォームドコンセントを掲げている以上、悪くなる歯には原因があるわけですから、不完全な根管処置の場合は批判めいたことを言わざるをえないのが現状です。人間ですから誰にでもうまくいかないことはあるわけで、まして限られた時間内での保険という条件下では酷な話だといつも思っています。ここが、低報酬の保険歯科治療の難しいところです。日本の保険医のほとんどは、世界に類をみないくらいのボランティア団体と言っても過言ではないでしょう。(笑)。
初診時レントゲン写真
1回目の治療完了時のレントゲン写真
7年後再発時矢状断CT
水平断CT
前頭断CT
再根管治療終了時のレントゲン写真
1年後の矢状断CT
同じく水平断CT
同じく前頭断CT

リカバリー症例11.7年後左上6番の再根管治療(感根処)
60代男性 
今(2013)から8年前、左上6番(奥から2番目)の歯の違和感を主訴に当医院を受診されました。 胃腸が弱く、歯の重要性を認識されていましたので、当時から最高の治療を希望されていました。 
レントゲン写真からも3本の根っこの治療が十分にされていないのがわかります。根っこも弯曲しているので、なかなか困難なケースです。そのため、薬でごまかすか抜歯好きの先生であれば抜歯するでしょう。当時はまだ、医院にはマイクロスコープは完備されていませんでしたので、拡大鏡2.5倍下でNTファイルを使用して治療を行うことにしました。すでにある程度、根管治療に関しましては根拠のない自信を持っていましたので、無事に近心弯曲根管も攻略し、3根管に薬を過不足なく充填できたと思っていました。また、臨床症状も改善されていましたので、ゴールドクラウンを装着し、定期検診に移行しました。ところが、7年後、左上に違和感があるとのことで、部分的なレントゲン写真を撮ってみると、さほど問題があるように思えませんでした。破折も疑い、ポケット検査するもそんなに深いところも認められませんでした。そこで、歯科用CTを撮影してみると、唖然としました。近心根(一番手前の根っこ)は、2根管性を有し、近心根、遠心根の先に化膿病変を認めました。恐らく平面的なレントゲン写真では、並の歯科医ではわからないと思います。歯性上顎洞炎を引き起こす一歩手前まで進んでいて、抜歯も視野にいれないといけない状態でした。言い訳がましいかもしれませんが、これが保険の根管治療の限界かもしれないと思いました。しかし、この方は、治療に協力的で歯に対する価値観が高い方でしたので、抜歯という選択は私にはありませんでした。また、薬で経過をみるという選択も毛頭ありませんでした。そこで、再度、マイクロスコープ、ラバーダム下で超音波チップ、NTファイルを駆使し、根管治療を行うことにしました。幸い無事に3回のアポイントで4根管すべてを消毒、無菌的にし根管充填を終えることができました。しかし、自分の行った1回目の土台の除去は物凄く辛かったのを今でも記憶しています。マイクロスコープがなければ、無理だったかもしれません。
1年後、歯科用CTを撮影してみると、ほぼ化膿病変は消失し、上顎洞粘膜の肥厚も改善していました。改めて上6番の根管治療の際の歯科用CT、マイクロスコープの有効性を認識させられました。因にこの方、上7番も4根管です。根管処置は不十分ですが根っこの先に問題はありません。ほんとうに切なくなりますよ。(笑)。あと、70才をお迎えになりましたが、1本の喪失歯もありません。私にはこの方の歯を守る義務があるといつも思ってますので、インプラントのお世話にならないでいいように検診に来られる限り最善は尽くすでしょう。
       
2005年
1回目の根管充填後
2012年
矢状断
前頭断
水平断
2回目の根管充填後
2013年

リカバリー症例12.10年後左下6番の再根管治療(感根処)
40代女性 
今から15年前(1999年)、左下の奥歯(6番)がズキズキ痛いということで、当医院を受診されました。まだ、金沢で雇われ院長をしているときで、卒業して3年目の症例でした。今思えば、なんでもない根管治療ですが、綺麗な根管治療をしたいという思いだけは一流でいた。(笑)。当時はそこそこ上手な根管処置(4根管)ができたと思っていました。5年後写真をとってみても問題がないようでしたが、10年後歯茎が腫れて、再受診されました。写真をとってみると、歯周病が原因のような歯の又の骨透過像を認めますが、これは近心(手前の根っこ)根管由来(歯内由来)によるものです。歯周病が原因といって、抜歯をするかもしくは一生懸命歯石をとる先生が多数を占めるのではないかと思います。恐らく歯石をとっても治らないと思います。というか歯石はついていないでしょうね。(笑)。
また、エムドゲインとかやれGTRとかいって再生療法を行ってもまず治りません。(笑)
そこで、再治療に際しては、ラバー、マイクロスコープ下で、再根管治療を行いました。5年後、レントゲン写真をとってみると、綺麗に根分岐部の骨透過像はなくなり、骨に置換していました。
しかし、いつも再治療できるとは限りません。不幸に私が根管処置し、根の先が化膿して他医院にいかれた方も中にはいるでしょう。しかし、これだけは言わせてもらいますが、保険の範囲で自分の技術が低いと思ったことは一度もありません。勿論、世の中にはごく一部、自費で化物みたいに根管治療が上手い先生がいるのも事実ですが、自分は常にオールラウンダーを目指していますので、今のところ根管治療に特化したいとは思っていません。
2004年時撮影
根管処置後5年
2009年時撮影
再根管治療終了時
再根管治療から5年後

リカバリー症例13.12年後右下2番の再根管治療(感根処)並びに
右下3番の再歯根端切除術

50代男性 
今(2014)から14年前(2000)に右下2番の根管処置並びに右下3番の歯根端切除術を行いました。当時右下3番の歯は、ポスト(土台)も長く、撤去も困難と考え外科的処置である歯根端切除術を採用しました。また、右下4番は、ファイルが根尖から突出しているのがレントゲン写真からもわかりましたが、根尖部の病変は認めずまた臨床症状も訴えなかったため、被せ直しだけに留めました。歳月は流れ10年後、歯茎が腫れてきたため、レントゲン写真をとってみると、2番3番の根尖に病変が再出現していました。この時すでに歯科用CTが医院に設置されていましたので、撮影してみると、2番は2根管であることがわかりました。3番はすでに歯根端切除術の影響で根が短く、抜歯適応と考えていましたが、マイクロスコープも既に完備されていたため、とりあえず上からの根管治療を行ってみることにしました。やはり、最新のツールがないと根管数の把握や上からの根管治療も困難だと思われ、抜歯も致し方ないでしょう。運良く、腫れ、疼痛、違和感が消失したため、両歯共に上からの根管治療を終了し、被せ物を装着し終了としました。ところが、2年後、再び右下3番にフィステル(膿の出口)が歯茎に形成され、再来院されました。この場合、根の破折も考慮に入れる必要があります。患者さんは、前回のときも今回のときもインプラントについては難色を示されませんでしたが、再度保存処置を勧めてみました。この場合の保存処置は、マイクロスコープ下でのMTAと呼ばれるお薬を使用した歯根端切除術になります。そこで、麻酔下で歯茎を開き、根尖部をマイクロスコープで覗いてみると、根尖孔に沿った破折線を認めました。前回の根管治療時の希なオーバーファイリング操作によるところも大きいかもしれません。しかし、抜歯は考えず、不良肉芽の徹底的除去後、根尖孔並びに破折線に沿ってMTAによる逆根充を行い、歯茎を閉じ縫合終了としました。
2年後、レントゲン写真を撮ってみると、右下3番の根尖部は骨性の治癒傾向にあるのがわかります。また、2番の根尖部の病変も治癒しています。ところで、右下4番のファイル(根管治療に使用する器材)が根尖より突出していますが、14年以上無問題のままです。即ち、折れたファイルによる感染が生じなかったということです。このまま何も起こらず経過してほしいものです。

注)私は、いつインプラントを止めてもいいように、また、いつ保険制度が破綻してもいいように歯を保存する技術、歯を移植する技術、歯を動かす技術は磨いておこうと常々思っています。
14年前に治療済みの2番(根治)、3番
(歯根端切除)
再根管治療開始時
(2010年)
再根管治療終了後の土台ビルドアップ時
再歯根端切除術2年後
(2014年)
再歯根端切除術時
再根管治療から2年後3番根尖病変再発(2012年)

リカバリー症例14.右下インプラント埋入後の骨吸収リカバリー
50代女性
今から5年前(2009年)、右下の奥歯のブリッジの不調を訴え当医院を受診されました。レントゲン写真からもわかるように、無理な設計のブリッジが装着されていて、奥の歯が虫歯でどろどろになっているのがわかります。患者さんは固定式のものを希望されましたので、インプラントをすることになったのですが、簡単ではないインプラントだと直感的に思いました。埋入予定の顎骨部位が硬化像(白すぎる像、喫煙者や慢性の炎症をもった人によく認められます。)を呈し、オーバーヒートによる骨火傷、過度の埋入トルクによる骨壊死、埋入窩からの非出血並びに埋入時のスタック(埋入時インプラントが動かなくなること。最悪骨折の可能性、インプラントの破折、プラットホームの変形も否めないでしょう。)が推測でき、インプラントがうまくいかない可能性があるからです。このことは、医科用CTの読影でさらに確信しました。しかし、事前に診断ができていれば、ある程度いろいろな器材(タービン、ボーンタップ、スプリットコントロール、ピエゾ、ストレートタイプのインプラントの使用など)を準備でき、そういったリスクは軽減できます。恐らく、顎の神経、骨幅をみただけの分析しかできない人は、失敗するでしょう。また、CTを撮影しないでやると、もっと痛い目をみるでしょう。実際施術してみると、やはり骨質が硬いため、出血も少なく、あろうことか奥のインプラント埋入時にスタックを起こしてしまいました。あることをして難を逃れましたが、手前のインプラントで術後インプラント周辺の骨吸収を招いてしまいました。この部位は骨幅が狭く、オリジナルの骨幅拡張術を採用しましたが、骨質が固く、埋入窩形成の加圧、インプラント埋入トルク値の過大を生じさせてしまった感は否めません。インプラントが骨に定着しないかもしれないという悪い予感が頭をよぎりますが、ある組み合わせ療法(内緒です。)により、この窮地を脱しました。あれから4年の歳月が流れますが、問題なくインプラントは機能しています。困難を自力で脱したとき、また一歩成長できるといつも思っています。

注)勿論、骨質が硬いので、インプラントが骨にくっつかないかもしれないこと、タービンを使用するので気腫が発生するかもしれないこと、再手術が必要になるかもしれないことは事前に言ってあります。それで、インプラントをやめるといえば、それはそれでいいと思いますよ。
実は、軟らかすぎる骨より硬すぎる骨の方が、インプラント埋入にとって悪条件だということを頭に入れておいたほうがいいのです。この症例は、初めてインプラントをやる先生には酷と言えます。
術前
埋入時
埋入1ヶ月後
術前右下7部前頭断CT
3ヶ月後
6年後
4年後左下7部の前頭断CT
4年後左下6部の前頭断CT
4年後パノラマ写真

リカバリー症例15.左下インプラント埋入後に生じた隣在歯からの感染。
40代男性
今から5年前(2009年)左下の一番奥の歯が噛むと痛いということで、当医院を受診されました。レントゲン写真からも歯周病、根尖病変が著しく保存は難しい旨をお伝えしましたが、やるだけやってほしいとの希望でした。しかし、再度、ブリッジの支台としては問題が生じる可能性が高いと思い、欠損部にはインプラントをすることになりました。そこで、まず感染源になりうる左下一番奥の歯の根管処置並びに歯周処置をある程度行ってから、欠損部にインプラントを埋入しました。10分程度で終了できる簡単な部類の症例だという認識でしたが、、埋入1ヶ月後、埋入部位に違和感があるということで、精査してみると排膿症状も呈しインプラントの感染を認めました。急遽感染したインプラントを撤去し、不良肉芽再ソウハ後、コラーゲンをソケットにいれ、患部が治癒するのを待つことにしました。原因は、恐らく、左下の一番奥の歯の感染がインプラントに波及したことが考えられます。レントゲン写真からも奥の歯は外部吸収も起こしているのがわかりました。もともと保存が不可能な歯を無理に残し、あろうことかインプラントに感染を生じさせてしまったのです。患者さんとの信頼関係を損ねるばかりか再埋入時の条件を悪くしてしまいました。10ミリ以上で径4.1ミリ以上であれば1本でも問題ないと思いますが、感染により顎骨の吸収を招いてしまったため、短いインプラント(8ミリ)2本埋入が必要になりました。そこで、自分も患者さんの意向をくんだとは言え、このような結果を招きましたので、追加埋入に関しましては半額で行うことにしました。3ヶ月後患部が癒え、細心の注意を払い、無事2本のインプラントを埋入しました。あれから、4年経過しますが、問題なくインプラントは機能しています。良かれと思って痛い目をみたケースでした。

注)よくインプラント治療終了時(被せ物を装着した状態)には100%成功と謳っているところがありますが、語彙に騙されてはいけません。あたり前のことでしょう。(笑)。5年、10年での成功率(生存率ではありません。)ではないことに注意する必要があります。成功率とは、感染症状がなく、不都合なく機能していることを指します。一方生存率とは、感染症状を呈し、いろいろと不都合だけれども、口の中にあるという状態のことと成功率を足したものを指します。ですから、10年の成功率98%以上とか謳っているところは、生存率を表していることが多いと思います。私見ですが、10年で98%以上の成功率を出すときには、局所だけではなく全体をみた治療、患者さんの良好な局所管理、良好な全身状態の維持が不可欠だと思います。当医院の場合、定期検診に来られている方は、問題なく過ごされている方がほとんどです。
術前
左下6部の前頭断CT
左下6部埋入後
埋入2週間後
6年後
4年後
3ヶ月後再埋入時
埋入1ヶ月後撤去前
左下6部の埋入時前頭断CT
同左下7部

リカバリー症例16.左下インプラント周囲の歯茎の違和感並びにブラッシング時の疼痛改善のための前庭拡張術(エドランメイチャーテクニック)
40代女性
6年前に左下の欠損部の治療を主訴に来院され、インプラント修復を行いメンテナンスに移行した方です。その後インプラント周囲の歯茎の違和感を訴え再来院されました。一般的に歯茎、顎骨が弱い東洋人のインプラント治療では、インプラントの周りは軟らかい歯茎で覆われることが多いでしょう。そのため、ブラッシング時に疼痛を生じたり、歯磨きがしにくいためインプラント周囲に歯周病菌感染が進行したり、季節の変わり目に歯茎が痛くなったりすることがあります。そこで、インプラントの周囲に硬い歯茎を形成するために、うわ顎の硬い歯茎を移植することがベストとされています。私も、よく行いますが、術後のトラブルも実は生じやすいのです。今回の場合、患者さんの全身状態も芳しくないため、ドナーサイトの異常出血や傷直り、レシピエントの歯茎移植片の万が一の壊死を考慮し、患部のみの前庭拡張術を採用しました。施術後、インプラント周囲の歯茎は、ある程度硬さを増し、くっついた頬っぺの端が下の方に下がっているのが写真からわかると思います。患者さんの不快症状はすべて消失し、歯磨きしやすい環境下が整ったと言えます。
術前
術後

リカバリー症例17.5年後右上6番の再根管治療(感根処)
30代男性 
今(2014年)から6年前、右上の6番(6歳臼歯)がズキズキ痛く、夜も寝れないとのことで、当医院を受診されました。小さいレントゲン写真からも視診からも、でかい虫歯が神経に進行しているのがわかりました。そこで通常通り麻酔下で神経処置を行い、5回の来院で被せて治療を終了し定期検診に移行しました。ところが、5年後検診の際、違和感を訴えたため、レントゲン写真を撮影してみると、近心根の先が黒く化膿しているがわかりました。直感的に近心根が、2根管性で1根管未処理であるのではと思いました。この頃は既に歯科用CTも設備されていましたので、サービスで撮影してみるとやはり近心根2根管性でした。本当に、上6番の根管治療の歯科用CT撮影の有効性を痛感させられましたが、保険では請求できません。そのため、わからなくても医療ミスではありませんし、わかったとしてもマイクロスコープなどの設備がないと治療は難しいかもしれません。患者さんには悪いと分かっていても、薬などの投薬で目をつぶるか、予後の悪い歯根端切除を行うかもしくは治せないかもしれないと分かっていても根管治療をすすめるかのどれかになります。勿論、2根管性を把握していないと再根管治療しても無駄に終わるでしょう。
そこで、検診に真面目な方でしたので、マイクロスコープを使用した精密な根管治療を行なうことにしました。私は並みのマイクロスコープの使い手なので、被せもの、土台をすべて外してから根管治療を行なうことが多いのですが、一部ハイレベルの先生は被せもの、土台を外さずに根管治療を行なう先生も中にはいるといっておきます。その中の一人の先生は、24時間歯のことを考えているそうです。恐らく、そのような先生は、口の中と患者さんの名前が一致し、自分が担当している患者さんの口の中の状態をほぼ頭の中にいれているのではないかと想像できます。単に記憶力がいいという一言で片付けられないでしょう。少なくとも、カルテを見なければ何をしたのかわからないようであれば、プロと言えないかもしれません。勿論、訳のわからない患者さんにはとぼけることもあるでしょう。笑
ところで、実際は、マイクロスコープ下で案の定もう1根管見つけ出し、清掃、消毒しました。幸い違和感は消失し、3回で無事根管治療を終了しました。

術前
根管充填時
5年後
近心根前頭断CT
2回目の根管充填後
根管充填時の
近心根前頭断CT
同水平断CT

リカバリー症例18.11年後右上4番ITIインプラント周囲炎リカバリー
60代男性 
今(2014年)から16年前、金沢の後に譲り受けることになる歯科医院にアルバイトに行った時に、流れの代理院長がITIインプラント(現ストローマン)を行ったのを見学した患者さんです。この当時のITIインプラントの表面性状はTPSで、後に名を馳せるSLAではありませんでした。当時のカルテはありませんが、上手く上顎洞を避け、右上4部、7部に10ミリのインプラントを2本埋入し、3ヶ月後インプラントブリッジを装着し終了したのを覚えています。その後、気まぐれな流れの代理院長は、施術した患者さんをほったらかして石川県を去るのです。当時まだ珍しいインプラントをできるのは周りで俺だけだという奢り、自惚れからきたものだと思います。この患者さんも執刀医の失踪に対して困惑し、結局、私が引き続きメンテナンスを引き受けることになりました。そのため、これを教訓に自分ができないにもかかわらず、外から専門医(インプラント医、矯正医)を呼んでくるということに対して積極的にはなれませんでした。
話は逸れましたが、11年後(2009年)、2本のインプラントから排膿を認めるようになりました。もともと歯磨きなどの自己管理ができる人ではなかったことが原因と考えられます。奥のインプラントはすでにディスインテグレーションを起こし、保存不可能のため撤去しましたが、手前のインプラントは、廓清処置を施しオーバーデンチャーの維持装置(マグネット)として再利用することにしました。5年後レントゲン写真をとってみるとインプラント周囲の骨がかなり回復しているのがわかります。排膿、疼痛などの臨床症状も皆無です。

注)よくHAインプラントは、インプラント周囲炎になりやすいと言われていますが、私はそうは思いません。全顎歯周病治療後、3ヶ月メンテナンスをしている患者さんで、私は経験がありません。勿論、来院が途絶えた患者さんは知りませんが。寧ろ、別のチタン系インプラントでは経験があります。いずれ時期(罹患廓清後5年以上たったら)がきたら、ここに載せようと思いますが、ラフな表面性状を研磨してスムーズな表面性状にしたものが一例だけあります。糖尿病に罹患したことが災いしたのかもしれません。もし、今後HAインプラントで周囲炎が認められた場合、何をすべきかは自分の頭の中では整理されています。経験したくはありませんが、いずれ経験するでしょう。

2009年
2014年

リカバリー症例19.GBRで生じた薄い歯茎の垂直的退縮に対しての上皮付きCTG(結合組織移植)
50代女性
左下の欠損にインプラントを希望され来院されました。 左下4部は骨幅が狭く、GBRが必要なケースです。2回法でインプラントと同時にGBRを行い、何の問題もなく、治療は進むと考えていました。ところが、2次オペ、仮歯装着後、急激な歯茎の退縮を招いてしまいました。歯茎が薄く、頬側のGBRで造った人工骨が上の方で十分に骨化しなかったことが原因と考えられます。この場合のリカバリーは、かなり困難を極めますが、上顎の歯茎を利用する上皮つきCTGで対応することにしました。カラーの分+若干見えているブラスト面までの距離およそ3ミリは上皮で、その下は部分層の間に結合組織が入り込むように、上顎歯茎をトリミングし、オーバー気味に移植しました。勿論、移植前処置として、口腔内に露出した部分は、抗生剤生食水やクイックジェットにより十分な洗浄を行っています。また、移植片は、しっかりとずれないように4号ナイロン糸で縫合しました。その結果、2ヶ月後、インプラントの周りに角化歯茎が形成されているのがわかります。感染予防や審美性回復が成されたということです。

注)下顎小臼歯部の薄い歯茎で骨幅が狭い女性の方のインプラントは、十分に気をつける必要があります。骨再生に必要な血液の供給、減張切開の入れすぎで生じる可能性のある神経麻痺や術後の内出血などです。また、歯茎を移植する場合のドナーサイトの口蓋動脈損傷による異常出血や移植片の壊死縮小に関しても頭に入れておかなければいけないことでしょう。それらを十分理解して、初めて上手くいくと思っています。しかし、これぐらいのリカバリーもできないくせに、インプラント専門医を名乗る人が多いのも現実でしょう。因みに私は、自分のことをインプラントの専門医だと微塵も思ったことはありません。真面目で理解ある人の歯を保存することが専門だと思っています。幸い今回は、歯周病学の知識、手技がインプラントのリカバリーに役立ったと言えるでしょう。


一時的にヒーリングキャップ装着
上顎移植片を移植後頬側から
上から
仮歯装着
2ヶ月後

リカバリー症例20.3年後左上6番の再根管治療(感根処)
40代女性
3年前(2012年)に左上の欠損部処置並びに左上6番がズキズキ痛いを主訴に、全顎治療を希望され当医院を受診されました。全部保険治療でという欄に○がついていたので、その範囲内で最善を尽くす治療を提案しました。主訴である左上6番、4番の神経処置を2ヶ月で終了し、ロングスパンのブリッジを装着し、定期検診に移行しました。下に部分的なレントゲン写真を提示しますが、保険の範囲内でも低レベルだと言われる筋合いが無い程度の歯科治療は行っているつもりです。ところが、3年後左上の鼻の横の違和感並びに頬側歯茎の腫れを訴え再来院されました。ああ、これは左上6番近心舌側根の未処理による歯性上顎洞炎をひきおこしつつあるなあと直感しました。案の定、デンタルレントゲン、歯科用CTから、予想どおりの嫌な直感が当たりました。断言します、保険でいつも上6番の近心2根管性を疑ったり、処理できる歯科医は自分も含めて皆無です。なぜなら歯科用CTを保険撮影できないし、マイクロスコープを常時使用しないとなかなか発見は難しいからです。例え、自費の根管治療でも完全に処理できる歯科医は限られています。この県で私より確実に根管治療ができるなあと思う歯科医は3人ほど頭に浮かびますが、恐らく彼らも自費での予後不良例を抱えていることは容易に想像はできます。自費で最善の治療を選択したとしても難しい上6番の根管治療。それを保険で完全になんて、本来ありえない話なのです。上6番の予後の良い根管治療例は、殆どの場合、生体の宿主の抵抗力に、患者さん、歯科医が助けられているというだけなのです。まあ、今回の場合、投薬で経過観察というのが一般的です。単に対症療法ですけどね。
しかし、嫌なことから逃げてばかりいれば歯科治療の上達はしませんし、保険が破綻したとき生き残る歯科医にはなれないでしょうね。患者さんは根本的解決を希望されましたので、再び保険で根管治療をすることにしました。前回いれたブリッジも保険内の範囲ではほぼ完璧な適合だと、わかる歯科医にはわかるでしょう。笑。そのため、かなりアドバンスなテクニックになりますが、ブリッジを撤去せずにマイクロスコープ下で、6番のクラウンに最小限穴を開け、再根管治療をすることにしました。
歯科用CT診断、マイクロスコープ、超音波機器、NTファイル、術者の集中力忍耐力のすべてが揃えば、上手くいく究極の処置と言えます。ミスすれば、歯に穴を開けてしまい、余計に問題が生じる可能性がある手法だと思います。しかし、今回も4回くらいのアポイントで近心2根管を処理し、上顎洞の炎症も収まってきたようにCTからもわかります。最小限穴を開けたところは、プラスチックで埋めて今回はブリッジの再制作はしませんでした。勿論、自分のやったブリッジではなく、他院でされ、適合出来がイマイチな場合は、ブリッジを撤去してから再根管治療を行います。このようなリスクを伴うトリッキーな根管治療はしません。

術前デンタルレントゲン
術中
術後
術前矢状断CT
術後
術前前頭断CT
術後

リカバリー症例21.偶発的トラブルでファイルを破折させてしまった重度辺縁性並びに根尖性歯周炎が進んだ左下7番に対しての意図的再植法
50代男性
3年前にインプラントを絡めた全顎的な治療を希望され、遠方から来院されました。そこでカウンセリング後、まず保存可能だと私が判断した歯の治療を行いました。今回は、その中でも保存治療に困難を極めた重度歯周炎に侵された左下7番のリカバリー例を紹介します。まず、視診から左下7番根尖部にアブセスが形成され、遠心部ポケット(10ミリ)から排膿が認められました。次に画像診断から、銀歯の下で虫歯が進行し、歯の中の神経が壊疽し、ポケット形成には歯茎に水平に埋まった親知らずが影響を与えていることがわかりました。一般的な開業医であれば、公的機関の口腔外科に紹介して、2本抜歯してもらう場合が多いと思います。別に間違いではありません。しかし、根管治療、歯周病治療、外科処置に長けた歯科医であれば、完治も難しくはないでしょう。ネット住民が大好きな根管治療専門医だけではこの歯は治せません。+歯周病専門医、口腔外科専門医、補綴専門医も必要になってくるでしょう。笑。恐らく全部取得している専門医は全国を探してもいないと思います。肩書もある程度重要だと思いますが、術者の治すという思い、心も重要な気がしますね。勿論、知識、それに見合った技量がある程度ないとドンキホーテになることは言うまでもありませんが。
実際の処置ですが、まず左下7番の根管治療を行うことにしました。やる前からかなり難しい根管治療になることは予測していましたが、あろうことか一番重要である近心根でNTファイルを破折させてしまいました。彎曲が著しく真っ新のもの(1本1500円)を使用したにもかかわらず、不幸に偶発症を招いてしまいました。理由は開口制限があるにも関わらず、ラバーを無理に使用して近心根管治療をしようとしたことに尽きると思います。一般的にアメリカではラバーの掛からない歯は抜歯と言われているように、防湿の必要な根管治療では重要アイテムとされています。だから、昨今情報化社会になり、ラバーをする先生=いい先生という風潮がありますが、必要十分条件ではありません。自費ならあたり前というのもおかしな話です。ラバーが治療の不利になることもあることを理解する必要はあると個人的に思います。
ところで、折ってしまったものはしょうがありませんから、次の手を考えます。患者さんに現状をお話しして、折ってしまったファイルがNTファイルで湾曲根管にくいこんでいること、開口制限があること、遠心縁下の確実な歯石除去、MTA逆充填を考慮して、上からの根充後、同日の水平埋伏親知らずの抜歯+意図的再植を行うことにしました。
外科処置の順番は、まず水平埋伏歯の抜歯が先です。先に7番を抜歯してしまうと水平埋伏歯の抜歯は簡単かもしれませんが、7番の歯根膜が乾燥により痛める可能性が高くなります。処置に時間がかかると、後の歯根吸収、骨同化を招きやすいかもしれません。再植は基本的に10分未満で行うように私はしています。結構、親知らずの抜歯も大変になるであろうと予測していましたので、今回の外科処置には精神鎮静薬と代行を用意してから事に臨むことにしました。
幸い、麻酔を奏功させる時間を除いて、すべての処置を1時間以内で終了することができました。
後は天命に身を委ねるということです。最後に運も作用すると思っています。
願いが通じ3か月後無事に定着し、他の歯の治療、インプラント治療の間、仮歯で過ごしていただきました。再植2年後、部分的にレントゲン写真を撮影してみると、治す前よりも良い状態に回復しているのがわかります。術者、患者さんの努力が報われたということです。災い転じて福となりました。
因みに再植費はいただいていません。もともと抜歯の歯で貰えばいいのではと思うかもしれませんが、自分が保存治療ができると判断して偶発症を招きましたので、できれば言い訳はしたくありません。しかし、医療や歯科医療は絶対を約束するものではありませんので、本来であれば費用をいただくことが当たり前です。例えば、癌の手術は上手くいったが、不幸に術後他の合併症になり亡くなった場合でも、当たり前ですが費用は発生します。サービス業で言えば、ある高級飲食店で、食べて不味いから無料にしろという人はいないでしょ。ですから、歯は高級飲食、石ころ、ブランド品、高級車、マルチ食品と違ってそんなに大したものではないというお考えの方は、抜歯して速くに入れ歯になるか、何もしないことを強くお勧めします。えこひいきと思われても結構ですが、私がみて価値観があう信頼に値すると思う人しかサービスやモニターはしませんし、施術したいと思わなければしません。なぜなら、長期成功症例を作る場合、価値観のあう信頼できる患者さんの協力が必要不可欠だからです。また、多数の長期成功症例を作ることは、歯科医の自信にも繋がるものです。できる歯科医師ほどイエスマンにならないのはこういう理由もあると思いますよ。私はできない部類ですがね。
最後に7番を抜歯してインプラントするという考えの歯科医は、絶対に奥の水平埋伏の抜歯は、自分の医院でするべきです。割の合わないリスクのある処置を公的機関の口腔外科医に依頼するのはおかしな話ですわ。リスクのある水平埋伏抜歯処置保険約1万5000円(自己負担約5000円、CTなし)に対して、比較的楽な自費インプラント40万ですから。だから、保険で難しい親知らずを上手に偶発症なく抜歯していただいた先生に対しては感謝の念を忘れないでほしいといつも思いますよ。当たり前ではありません。
術前パノラマ
術後2年
術前矢状断CT
術前前頭断CT
術後2年前頭断CT

リカバリー症例22.義歯用ミニインプラント埋入10年後に下顎帯状疱疹を患い生じた左下1部ブロンジェ(顎骨壊死)のリカバリー
80代女性(治療当時70代)
今(2016年)から10年前に義歯の不調を主訴に来院された方です。でかいレントゲン写真からもわかるように下顎骨の状態はかなり芳しくなく、ただ歯茎の上に乗っかっているという義歯を装着されていました。いくら費用をかけようが、当時も今も私の実力では噛める義歯作製は無理だと思います。そこで、奥の手である義歯用ミニインプラントを薦めたところ、希望されましたので4本40万でやることにしました。幸い骨幅があり、歯茎を開かずセルタップ埋入を行い、即日義歯がインプラントにはまり込むように修理して、使用していただくことにしました。昔の義歯の不調が嘘のようになくなったと大変喜ばれたことを記憶しています。そして、4ヶ月に一度の定期検診に移行しました。10年問題なく経過しましたが、不幸なことにこの度左下顎の三叉神経の末梢枝の走行に沿って帯状疱疹が発生してしまいました。ストレスなどにより免疫力が低下した結果、生じたものだと考えられます。もしくは、何か硬いものを左側でばりばり噛んでいた結果歯茎の直ぐ下のオトガイ孔を刺激し、下顎神経内の水痘ウイルスが活発化したのかもしれません。一応三叉神経の走行範囲内の帯状疱疹なので歯科に相談に来られましたが、一般的には皮膚科、内科、麻酔科の診療範囲となります。抗ウイルス剤、ビタミンB12、カロナール、リリカなどの処方が一般的ではないでしょうかね。しかし、急性期は死にたいと思うくらいの痛さらしいので、麻酔科での神経ブロックも即効性のある治療法でしょう。何はともあれ、まずは皮膚科にいくことを勧めました。1ヶ月後、そこそこ病状が落ち着き、今度は口の中が痛いとのことで拝見してみると、左下1番ミニインプラント周囲にブロンジェ(顎骨壊死)が発生しているではありませんか。直ぐに整形外科で骨粗鬆症のお薬を処方されていないかを尋ねたところ、お薬手帳を出され、みてみるとBP製剤を3年も前から服用されていました。歯科的には観血処置(抜歯、インプラントなど)において、3年以上服用されている方に対してブロンジェを注意する必要があると言われています。しかし、仮に知らずに観血処置を行ったとしても発生頻度は1%以下です。(静注の場合は、もっと高いです。)。今回の場合、観血処置を行っていないにもかかわらず、ブロンジェが発生してしまいました。1.高齢、2.ステロイド服用、3.喫煙、4.糖尿、5.飲酒、6.口腔内や義歯が不衛生状態ということが危険因子として挙げられ、それでも0.05%以下の頻度でしか発生しないと言われています。即ち、今回の場合、ものすごく運が悪いということになります。そこで、起こってしまったことはしょうがありませんから、次の手を考えます。まず、主治医に一旦BP製剤を休薬してもらい、別のお薬に変えてもらいました。次に3ヶ月後が望ましいと思いますが、感染を考慮し2ヶ月後、浸潤麻酔下で腐骨を除去し、再ソウハ後歯茎を覆い合わせナート終了としました。1週間後抜糸時に患部を観察してみると綺麗に骨が歯茎で覆われているのが確認できました。これで、感染症を引き起こす危険性は少なくなったということです。しかしながら、残念なことに今度はインプラントのスレッドが露出しました。そこで、ブラスト面にカスが付着しにくいように研磨バーにてスムースにしました。勿論、リコールの間隔を短くして、適切なクリーニングの必要がありますが、太いインプラントに比べてインプラント周囲炎になるリスクは低いと考えています。幸い無事にリカバリーできてほっとしています。あと何年もつかわかりませんが、このミニインプラントの治療法を採用しなければ、恐らくこの方の後の10年が存在したかどうかはわからないと思いますよ。1日でも長く口から物を摂取してほしいと願っております。
因みに今回のリカバリーをするに当たって、内科医、皮膚科医、口腔外科医、麻酔科医、整形外科医である大学の同窓生、先輩、高校の同級生にいろいろとご教示いただきました。本当に感謝しています。
2006年術前パノラマレントゲン
2006年3月
術直後
パノラマレントゲン
2013年の口腔内写真
2016年ブロンジェ発生時の口腔内写真
ソウハ時の口腔内写真
ソウハ二週間後の
口腔内写真
2013年リアルCT
 画像
下顎帯状疱疹発生時の顔面写真

リカバリー症例23.外傷により歯冠ハセツした右上糸切り歯のエムドゲインジェルを使用した外科的挺出法(再植法)
80代男性
10年以上も真面目に定期検診に通われている患者さんが、転んで右上をぶつけ歯が折れた状態で緊急に来院されました。実はこの患者さん3年前に深く虫歯に侵された右上の1番を矯正装置で挺出(歯根を引っ張りだすこと)させた経緯がある方です。(矯正編症例13)。インプラントには否定的で、できるだけ歯を保存し義歯はなるべく避けたいといつも仰っておられます。しかし、流石に今回はダメだと観念されてました。そうでしょう。右上の1番、2番、3番、4番は、根っこだけの状態になっていて、素人でも抜歯しかないと思われても当然だと思います。その4本を抜歯すれば間違いなく義歯となります。そこで、真面目で前向きな方でしたので、究極の奥の手の治療法を採用することにしました。
流石に右上の1,2番は骨の中に埋まっている根っこの量が少ないので抜歯となりますが、比較的元々根の長い糸切り歯を引っ張り出せれば問題は解決するのです。矯正で行う場合と外科的に行う場合の2パターンありますが、時間効率を考慮して今回は歯根膜を活性化させるかもしれないエムドゲインジェルを使用した後者の方法を採用しました。一旦抜歯するため、歯根をハセツしないように慎重に行わなければいけません。私も偉そうなことは言えませんが、相当抜歯技術が長けた歯科医でないと難しいかもしれませんね。幸いトラブルもなく、三ヶ月後上手く定着し問題がなかったため、歯根にパラメタルの土台をスーパーボンドで接着し、無事その上に6本繋ぎのブリッジを装着することができ終了となりました。
今回は、根ハセツや金属の削りカスによるメタルタトゥー防止を考慮したファイバーコアは採用しませんでした。この方の年齢と噛む力との相談ということです。一般的にファイバーコアは無理な力がかかったときに歯根を守るという名目で使用されますが、犬歯ガイドのように無理な横の力がかかるとコアごと破損することをたまに経験します。そのため、噛み締めぐせのある人や犬歯の場合には、18〜20Kのゴールドコアが理想的だと個人的に思います。しかし、3年前もそこそこ費用をかけられ、今回も自損事故とはいえ前歯ハソンや顔面外傷した経緯もあり、同情心からあまり金額的なことを言えませんでした。実は再植費は頂いていません。恐らく、言えばお支払いはされたでしょうが、この方は定期検診の遵守は勿論のこと、インプラント以外で私が勧めたことに対しては拒否したことがありませんので、誠意に誠意で応えたということです。ただし、清掃性を考慮して保険外のブリッジを希望されたため、修復物は自費となりましたが、医院にとっての利益はそれほどないでしょう。今回が最後で、墓場の下までもっていってくださいという思いですよ。因みに4ヶ月の治療期間でした。ケチる人、どこでも歯科は同じという感覚の人にはやらない治療法です。
3年前の正面観
外傷後の口腔内
正面観
補綴後口腔内
正面観
外傷後の咬合面観
補綴後の咬合面観
外傷後の正面観
外傷後の右上3番のデンタルレントゲン写真
外科的再植後のデンタルレントゲン写真
補綴後適合確認のデンタルレントゲン写真

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