当院症例集〜歯牙移植・根の治療〜
根っこの治療(傷んだ神経の除去治療、感染した根管の治療)は、歯科医院でほぼ毎日のように行われている歯の礎の治療と言えます。建築の基礎工事が、不十分であれば、長期的な安定が望めないように、歯の根管治療が十分でなければ、その上の被せ物の長期的な予後も見込めないでしょう。しかしながら、見えない所の治療のせいか、世間的評価は低いと言わざるを得ないのが現状です。また、諸外国に比べても、本当に低報酬の分野(アメリカの20分の一)です。恐らく、日本中を見渡しても、外国人の歯科医師が保険をやっている姿をみたことがないことが、すべてを物語っていると思います。真面目な日本の保険医の大半は、根管治療の補填を自費治療などで補っているのではないでしょうか?即ち、日本の歯科保険制度は、日本人の器用さ、良心で支えられているといっても過言ではないでしょう。しかしながら、治療する側の正当な技術評価や使用する器材の評価は、何一つされていません。故に手抜き治療や滅菌しての器材の再使用が横行しているのだと思います。前者は、良心の問題、能力の問題ですが、後者は、保険では現状いたしかたのないことだと個人的に思います。赤字を出し続けてまで、仕事を続ける人がいないように、保険機関で器材の再使用をしていないところはないと言えます。そのため、最善を尽くしたとしても、保険の根管治療においては、以下に記すことが起こりうることを十分理解して、治療にのぞまれることをお勧めします。
1.根管治療に使用する器具(リーマー、ファイル)が根管内に折れることがある。

2.再根管治療の際、パーフォレーション(穴)が生じることがある。

3.根管が石灰化して、根尖まで十分に神経にかわるお薬をいれることができないことがある。

4.根管の石灰化により人工根管をつくる可能性がある。

5.神経処置後、感染(化膿)することがある。

6.再根管治療の際、以前の神経にかわるお薬を除去する場合、根尖外に押し出す可能性がある。

7.難治性の菌に侵されている場合、治療期間が長くなるまたは抜歯の可能性がある。

8.再根管治療の際、土台を除去するとき、歯に穴を開けたり、歯を破折させたりする可能性がある。

9.稀に過度にお薬を根っこの先からはみ出してしまい、なかなか症状が消えない場合がある。

10.保険ではCTを撮れないので、フェネストレーション(根尖が骨から開窓している状態)しているど  うかわからない。

11.保険ではCTを撮れないので、根管の数を正確に把握することができない。(上6番の4根管、下2番、4番の2根管など)
→2016年4月の保険改訂で、上6ー4根管、下7ー樋状根に対してのマイクロ加算+CT撮影が認められました。3割負担で、+約5000円

12.きちっとした治療を希望される場合、治療回数が多くなる。また、医院側にとって、不採算なことである。(根管治療時の麻酔やラバーダム装着料金は、医院持ちである。)

13.保険の被せ直しの場合、レントゲン上で根っこの先に問題がないと判断した場合、前回の治療が不十分でも上記のリスクを考慮し、再根管治療を行わない場合がある。また、そのとき大丈夫でも今後根っこの先に問題が生じてくることがある。(特に土台のやり直しのときに感染リスクが高い。)

14.上顎洞に根尖が突出している歯(特に6番)は、フェネストレーション同様、違和感を生じやすい。

15.根管治療中、硬いものを噛んでしまい、歯が折れることがある。また、歯ぎしり、食いしばりのひ   どい人は、なかなか打診痛が消失しないことがある。そのため、対合となる歯に接触しないよう   に歯(咬頭)をおとすことがよくある。

16.神経の治療を中断していた歯の再治療は、、麻酔が効きにくくまた、処置後、痛み、腫れが伴うことがよくある。

もし、上記のリスクや治療期間、回数を軽減したいという方は、自費での根管治療をお薦めします。参考までに自費での根管治療を行っている非保険機関は、常時マイクロスコープの使用、専用のNTファイルの使用、ラバーダム防湿、超音波機器の使用、、MTAの使用、水酸化カルシウムの使用、セメント仮封、口腔内カメラ撮影、CT撮影等
を最低行っている所だと思います。少なくとも、以下に示す症例を軽々とこなす歯科医でしょう。(100症例掲載予定)

症例1
右下5番の化膿した根っこの治療   70歳男性
《治療経過》

  1. 不完全な根っこの治療のため、根っこの先が、黒くなって化膿している。
  2. 6ヶ月後根っこの治療を終了。
  3. 術後2年、黒くなっていた部分が、白くなり骨が再生していることが確認できる。
  4. 完璧に治っています。
注)歯周外科は行っておりません。

11年後の総評ー術後9年で、一度二次虫歯のため、被せものをやり変えました。また、右下6番の近心根に根尖病変が出現しています。現在80歳をとうに越えられ、再治療は今のところ考えていませんが、抜歯の運命であった右下5番の歯が、10年以上経過した今(2016年)も、レントゲン上問題なく口腔内に存在し続けることに対しては評価してもいいのではないですかね。
術前
術中
術後
術後2年半
 
術後11年

症例2 
右下1番、左下1番の外傷により化膿した根っこの治療   12歳女性

《治療経過》

  1. 外傷により、下の前歯2本の根っこの先が、黒くなって化膿している。
  2. 腐った神経を除去し、仮のお薬で半年経過観察する。
  3. 最終的な神経にかわるお薬をいれてから1年後化膿した部分はきれいに骨が再生している。
術前
術中
術後

症例3
右下7番の化膿した根っこの治療 40代男性

≪治療経過≫

  1. 根の周りが黒くなり化膿している。
  2. 7番目の歯は根っこの治療完了し、6番目の歯を抜歯する。
  3. 1年半後、7番目の歯の化膿した部分が骨に変わっている。(白くなっている。)
術前
術中
術後

症例4
左下の根っこが化膿した前歯の治療 60代後半男性

≪治療経過≫

  1. 左下の前歯の根っこの先が黒く化膿している。
  2. 根っこの治療が不足している左下の歯の根っこの再治療完了。
  3. 2年後、レントゲン写真を撮ってみると化膿した部分が骨に変わっている。(左下2番)
術前
術中
術後

症例5
左下奥歯の化膿した根っこの治療 40代女性

≪治療経過≫

  1. 左下の7番(一番奥歯)の根っこの先が黒く化膿している。
  2. 腐った神経を除去し、薬を入れ根っこの治療完了。
  3. 5ヵ月後歯の周りの骨が再生してきている。
  4. さらに1ヵ月後、ほぼ完治している。
  5. 治療終了。
注)通常は抜歯しなければならないほど化膿した歯です。
 抜歯したくないという患者さんの要望で、歯が折れていない事を確認し、歯を残す方向で治療を進めました。

なお、歯周外科は行っておりません。

10年後の総評ー抜歯されるであろう運命にあった歯が、10年経過した今も(2016年)レントゲン上問題なく機能しています。生体の免疫力には驚かされます。
術前
根の治療後
(経過観察中)
左下へお進み下さい。
さらに
一ヵ月後
完了
術後10年

症例6  3mixによる治療法
左下奥歯の化膿した根っこの治療 40代女性

≪治療経過≫

  1. 術前の状態・・・@左下の奥歯(6番目)が化膿しています。A神経の治療を行う器具が3本、根の中で折れているので通常の方法で根っこの先まで治療を行うのが困難な状態です。
  2. 3mixという薬剤を使用し、半年経過観察しました。
  3. 半年後、病状がある程度改善していた為、被せものを入れて治療を終了しました。
注)3mix・・・通常の根の治療方法を行えないような場合、使用する3種類の抗菌剤を混ぜ合わせたものです。
 (必ずしも改善するわけではありません。)

10年後の総評ー今(2016年)であれば、正攻法即ちマイクロスコープ下でハセツファイルを除去して、根管治療を行うでしょう。しかし、当時、藁をもすがる思いで使用したペースト抗菌療法が、劇的な治療効果をもたらしたことは、否定できない事実です。とにかく、10年以上も真面目に定期検診に来られている患者さんにとっては、素晴らしい治療成果をもたらしたのではないでしょうか?
術前
術後
術後10年

症例7
右下奥歯の器具の折れた、化膿した根っこの治療 
60代女性 

≪治療経過≫

  1. 他院で治療途中の状態で、当医院を受診されました。器具が、歯の中で折れており根の先が化膿していました。
  2. 幸いにも上のほうで器具が折れていたため、専用の除去用キッドで折れた器材をとることがたまたまできました。(いつもとれるわけではありません。)
  3. ニッケルチタンファイルという器具で慎重に根っこの中を掃除し、最終的な根っこの薬を根の先までいれました。
術前
術後
術後3ヶ月

症例8
右上前歯の化膿した根っこの治療 
30代男性

≪治療経過≫
1.右上2番(側切歯)が動き、歯茎が腫れた状態で、当医院を受診されました。通常であれば、99%抜歯ですが、健康な両隣の歯を削りたくないこと、インプラントをできる経済状況でないことを考慮し、延命処置として保存治療を行うことになりました。おそらく外傷で歯の中の神経が壊死感染し、根の先が化膿してきたと推測できます。
2.腐った神経を除去し、根っこの治療を完了する。
3.1ヵ月後、歯茎を開き、根の先を一部分切除し、化膿部分をソウハ後、スーパーボンドにて逆根充し、縫合終了(歯根端切除術)
4。10ヶ月後、根の周りの骨がある程度再生している。(動揺をとめるため、両隣の歯にプラスチックで固定してあります。)
注)患者さんの真面目さに応えるために、保険の範囲で出来るだけのことはしたつもりです。マイクロスコープ、歯科用CTからの情報なしにこの歯を残すことは、賛否両論あると思いますが、今のところ問題は生じていません。一本の歯を残すという執念が報われた瞬間だと思います。

術前
術中
術後
左下へお進み下さい。
術後、
10ヶ月
術後、
2年
術後、
3年

症例9
右上前歯の化膿した根っこの治療 
50代女性

≪治療経過≫

  1. 右上の前歯(中切歯)が、腫れて当医院を受診されました。歯の中の神経が壊死感染し、歯根のう胞と思われる境界明瞭な円状の透過像が根の先に認められる。おそらく70%以上普通であれば抜歯でしょう。
  2. まず、腐った神経を除去し、根っこの中をきれいにする。
  3. 仮のお薬を病巣部に填入し、しばらく経過観察をする。
  4. 最終的なお薬を根っこの中に入れ、同時に歯茎を開きのう胞をソウハ、炭酸ガスレーザーにて蒸散後歯茎を閉じ縫合終了。(ハセツはしていませんでした。)
  5. 1年後根っこの先の透過像(黒い部分)は白くなり、骨が再生しているのが認められる。 (全身状態の悪化などで、再発することもあります。)  
術前
術中@
術中A
左下へお進み下さい。
術後
術後、
1年
術後、
2年
6年後
10年後CT前頭断

症例10
右下奥歯の化膿した根っこの治療 
40代女性

≪治療経過≫
1.右下の奥歯が腫れて、受診されました。一番奥歯の根っこの先にかなりでかい透過像が認められます。親知らず抜歯後傷治りがわるく、神経が壊死感染したのか、歯周病で、または虫歯で、または咬合が原因でそうなったのかは不明です。
2.神経はすでに死んでいましたので、まず根っこの治療を開始する。
3.仮のお薬をいれ、歯の周りの歯石を麻酔下である程度除去する。
4.2ヶ月後、最終的な神経のお薬を根っこの中に入れる。(まず、この根っこの形態では、ニッケルチタンファイルでないと、根っこの治療は十分に行うことが出来ないでしょう。)
5.経過観察中。これで治りが悪い場合は、歯周外科を施す予定です。
注)抜歯、インプラントは、悪い1本の歯を残すことに比べ容易いことです。歯に対する認識がある人に対しては、これからも歯を保存することにこだわりたいと思っています。そのためにも、もっともっと根っこの治療がうまくなりたいと思う毎日です。私見ですが、根っこの治療が上手な先生は、なにをさせても無難にこなすとおもいますよ。なんせ患者さんの目にみえない部分ですから。

術前
術中@
術中A
左下へお進み下さい。
術後
術後、2ヶ月
術後、1年
完治。
術後6年ほぼ問題なし

 


症例11
右上前歯(中切歯)の化膿した根っこの治療 
40代女性

≪治療経過≫
1.奥歯のインプラント治療の完了後、右上の前歯が腫れ保存治療を希望されました。レントゲン所見では、十分な根っこの治療がされておらず、根っこの先が吸収し、歯根のう胞と呼ばれる膿の塊が形成されていました。(前医の先生は、意図的に根っこの3分の2の神経を保存した治療を試みたのかもしれませんので、一概に不十分な治療とはいえませんが。)
2、歯に認識があり、私の治療に理解のある方でしたので、修復物を除去し、まず歯内療法を行うことにしました。
3.歯の中に炭酸ガスレーザー照射後、3ーMIX+仮の神経にかわるお薬(ビタペックス)をわざと根の先からはみ出していれました。
4、4ヵ月後、根の先の黒い部分は白くなり病変が改善されてきているのが確認できます。

注)セラミックの歯を望まれれば、審美外科(臨床歯冠延長術)も行う予定なので、万が一治りが悪い場合、同時に歯根端切除術を行なおうと思います。

術前
術中@
術中A
左下へお進み下さい。
術後
術後、2ヶ月
術後、半年
7年後
8年後CT

症例12
下顎前歯部の歯根のう胞の治療 40代女性
≪治療経過≫

  1. 外歯婁という膿の出口が、下顎の先端にでき、皮膚科を受診したところ歯科をすすめられ当医院にこられました。レントゲン所見では、根っこの先がかなり大きく化膿しています。歯根のう胞とよばれるものです。この方は、抜歯、外科処置(歯根端切除)をなるべく避けたいとのことでまず根っこの再治療を行うことにしました。
  2. 以前の根っこの薬を完全に除去し、徹底的に根っこの中を無菌的(レーザー、3−MIX、超音波洗浄など)にし、仮のお薬(ビタペックス)をわざと、病巣の中にいれて経過をみました。
  3. 5ヶ月経過観察し、病気が小さくなっているのを確認し、最終的な根っこのお薬を先まで緊密にいれました。完全になおれば、かぶせて終了です。
術前
術中@
術中A
術後、半年
4年後

症例13
右下奥歯(第一大臼歯)の化膿した根っこの治療 30代男性
≪治療経過≫
1.右下の奥歯が、はれて当医院を受診されました。レントゲンからもわかるように、根っこの股の部分が化膿して骨がとけているのがわかります。根分岐部病変という病名です。このような場合、歯周病治療(GTR,除石、エムドゲインなど)だけをしてもまずなおらないと思います。
2.根っこの治療、かぶせを行い2年後股の部分の黒い透過像は白くなっているのがわかる。

術前
術後

症例14
左上6番(第一大臼歯)の化膿した根っこの治療 70代男性
≪治療経過≫
1.左上の奥から2番目の歯の根っこの部分が、はれて当医院を受診されました。レントゲンから、3本根があるうちの手前側の根の先が化膿しているのがわかる。
2.麻酔下で、銀歯、以前の根っこの薬を除去し、歯の中を無菌的にする。
3.根っこの治療後2年、化膿した部分(黒い部分)が、白く骨になっているのがわかる。

術前
術中
術後

症例15
左下7番(第二大臼歯)のラバーダム防湿下による根っこの治療 60代女性

ラバーダム装着
術前
術後

症例16
左上4番(第一小臼歯)の化膿した根っこの治療 60代女性
≪治療経過≫
1.左上の前から4番目の歯が、腫れて当医院を受診されました。レントゲン写真からもわかるように、根の先が化膿しています。差し歯は、セラミックの歯が、装着されていました。
2.投薬後、腫れがある程度落ち着いてから、差し歯を除去し、根っこの治療を開始する。
3.1ヶ月後、歯の中がある程度きれいになったのを確認してから、根の先まで最終的な根っこのお薬をいれて、差し歯(ハイブリッドセラミック)を装着し終了しました。
4.4年後定期検診の際、レントゲンで確認したところ、化膿病変が消失していました。

注)−歯がハセツしている場合は、なおりません。微小のハセツは、レントゲンではわかりませんので、治療が無駄におわることもあります。(つまり、抜歯ということです。)

術前
術後4年

症例17
右下1番の化膿した根っこの治療 
50代男性
≪治療経過≫1.右下の1番目の歯の根元が腫れて当医院を受診されました。レントゲン写真をみると、一見左下の1番目の歯も化膿しているように見えますが、右下一番目の歯が原因です。左下は、神経が生きている生活反応があります。
2.通法どうりに根っこの治療を行い、根の先までお薬をいれました。
3.3年後、定期検診で写真をとってみると、患部は完治していました。

術前
術後
術後、3年

症例18
左上2番の化膿した根っこの治療 40代女性
≪治療経過≫
1.左上2番の歯の根元が痛くて、当医院を受診されました。一見、歯根嚢胞にも見えますが、通常の根管治療を行うことにしました。
2.根管治療終了、歯冠修復3年後、根の先の病変は縮小しているのが、レントゲンでわかる。

注)上の2番目の前歯は、歯根嚢胞の好発部位なので、経過観察は必要かと思われます。

術前
術後、3年

症例19
右下1番、2番の化膿した根っこの治療 20代男性
≪治療経過≫
1.右下の1,2番の前歯の根元が腫れて、当医院を受診されました。この方は、おそらく外傷(ぶつけたり、職業がら釘をくわえるなど)で、歯の中の神経をいため、根元の先が化膿したと考えられます。
2.ニッケルチタンファイルで、根管の中をきれいに掃除し、仮の神経のお薬(ビタペックス)をつめて3ヶ月経過観察をしました。下前歯のバージンキャナルなので、ニッケルチタンファイルが、最適な器材でしょう。
3.病変が縮小したのを確認してから、最終的な神経にかわるお薬をいれて根管治療を終了しました。
4.2年後、上の前歯の治療に来られたときに、レントゲンで確認した結果、病変は完治していました。
若いだけあって治りが早いです。

術前
術中
術直後
術後2年

症例20
右下4番、5番の化膿した根っこの治療 60代女性
≪治療経過≫
1.総合的な治療を求められ、当医院を受診されました。右下4番目の歯は、動揺もひどく、抜歯もいたしかたない状況でした。しかし、歯周病由来ではなく、歯内由来の可能性が高いと判断し、根管治療を行いました。そのあと、SRPもひきつづき行いました。
2。半年後、被せる前に、レントゲンで確認したところ、根の先の病変は、完治していました。

術前
術後半年
4年後
8年後

症例21
右下6番破折器材の除去 60代男性
≪治療経過≫
1.右下の奥歯が腫れて、当医院を受診されました。奥側の根っこには、薬が入っておらず、また手前の根っこには、ファイルと呼ばれる根管清掃器材が折れ込んで、根っこの先が化膿していました。
2。普通であれば、抜歯もいたしかたない状態です。患者さんに時間があり、保存を希望されましたので、根管治療+歯周治療の計画をたてました。
3.投薬後、腫れがおさまってから、奥側の根っこの治療をまず終了させ、手前のファイルの折れた根っこの治療に移りました。
4.マイクロスコープ20倍下で、P−MAXとよばれる超音波機器のエンドチップを使用し、30分かけて、ハセツファイルを撤去しました。

注)ファイルを折るという人為的なミスは、いくら細心の注意をしても日本の保険制度の範囲内においては、おこりうることです。自分も経験があります。保険で毎回ファイルを使い捨てする医院は、100%存在しないと断言できます。もし、根管治療で、ファイルの使い捨て、ラバーダム防湿、ニッケルチタンファイルの使用、マイクロスコープの使用をのぞまれるのであれば、自費治療をのぞまれるべきです。これを、保険治療に望まれるのはナンセンスですよ。100円でフランス料理のフルコースを食わせろといっているようなものです。私は、必要があればいまのところ保険でラバーダムもしますし、マイクロも使用しますが、わからない人にはやりたくないですね。

術前
遠心根根充後
近心根破折ファイル除去後 4年後

症例22
右上6番破折器材2個除去 60代男性
≪治療経過≫
1.全顎治療を望まれて、当医院を受診されました。すべてかぶせものは、自費をのぞまれたため、症状はありませんでしたが、右上の6番の折れていた2個のファイルを除去することにしました。(別にとらなくても問題が生じることはないと思います。)
2.まず奥側(遠心)のハセツしたファイルを、マイクロスコープ14倍下で、PーMAX、マゼランキッドを使用し30分かけて撤去しました。
3.1週間後、2と同様な方法で手前(近心)のハセツしたファイルを撤去しました。

注)折れたファイルがいつも、根っこの先を化膿させるとは限りませんので。特にニッケルチタンファイルは、腐食しないので、折れても普通のステンレススチールのファイルよりは、問題が生じにくいと思います。ちなみにニッケルチタンファイル1本約1500円で8回しか使えません。では、なぜこのファイルを使うのか?時間をお金で買う+患者さんのためです。根っこの治療は、現行の保険制度では、やればやるほど、医院経営を圧迫するものだと皆さん理解してくださいね。



症例23
右下、左下1番の歯根のう胞 20代女性
≪治療経過≫
1。下の前歯の根元が腫れて、当医院を受診されました。レントゲンを撮影してみると、根の先に境界明瞭な影を認めます。
2.まず、以前のお薬を除去して、わざとのう胞内に水酸化カルシウム製剤(ビタペックス)を注入する。
3.3ヵ月後、病変が縮小してきたので、最終的な神経にかわるお薬を充填する。
4.4年後、根の先の病変は完治している。

注)学問的には、よくないとされているオーバー根充で、左下1番の病変は完治しています。当初は、オーバー根充にはきずかず、吸収するビタペックスの残骸が根の先よりでてると勘違いしていました。完治していなければ歯根端切除をしなければならないところでした。私見ですが、オーバー根充でも、無菌的操作がきちんと行われていれば、問題が生じることは少ないと思います。現に術前の根充は、学問的には問題がないにもかかわらず、病変が生じています。つまり、無菌的な操作が行われていなかったということです。ここが、根っこの治療の難しいところです。一見レントゲン上で、きれいな根管治療がおこなわれているにもかかわらず病変が生じたり、いいかげんな治療にもかかわらず問題が生じていないこともあります。

術前

術中
根充後
術後4年
術後7年

症例24
左下6番の破折器材の除去、化膿した根っこの治療
30代男性
≪治療経過≫
1.左下の6歳臼歯が腫れてきました。ずーと真面目に定期検診に来られている方です。折れた器材の除去にかんしましてはモニターになってもらいました。

2.マイクロスコープ、超音波機器、マセランキッドを駆使し、前医が折った器材を除去しました。折れた器材が大きく、超音波による回転力だけではなかなかとれませんでしたので、最終的にはマセランキッドと呼ばれる引き抜き器具の登場となりました。もっと、上手い先生であれば容易にとれるのかもしれませんが、私は4回に分けてトータル2時間はかかったかもしれませんね。除去ができれば、通常の根管治療です。再びファイルを折らないように慎重にやるだけです。

3.術後半年、順調に回復してきました。根充剤に部分的にMTA,土台にはファイバーコアを採用しました。

注)根尖付近の折れたファイルがとれなくても、ラバーダム下のある程度無菌化で、根管洗浄をきちんと行えばなおることも多々あります。前記したように誰も折りたくて折っているわけではありません。折ってしまってもその後腐らず、ちゃんとできるところまで薬をいれるのが重要かと思います。それにしても安すぎです。除去の保険費。1100円です。これじゃ〜誰もとりませんわ。因みに私は、この手の治療の場合、患者さんを選びます。双方のためだと思います。保険治療はサービス業じゃない、私はいつもそう思っています。
術前
マセランキッド挿入後
近心根破折ファイル除去後
除去した破折ファイル
半年後
6年後

症例25
左下6番(6歳臼歯)の化膿した根っこの治療
60代男性
≪治療経過≫
1.左下の6歳臼歯がはれて、全体的治療を希望され当医院を受診されました。レントゲン写真から抜歯という選択もありだと思います。保存を希望されましたが、最初に患者さんにいっておこなければならないことがあります。それはやるだけやっても治療や時間、費用が無駄になるかもしれないということです。歯が破折してる場合や難治性(菌が複雑)の根管は抜歯になることが多いからです。それでもという場合は、ちゃんと予約どおりに来院される方に関しましては保険でひきうけることが多いです。

2.慎重に歯が折れないように土台をはずし(たった500円です。)、再根管治療を慎重に行い、1年後レントゲン写真をとってみると根尖の病変は改善していました。嘘いつわりなく全部保険治療です。

術前
術後1年
術後4年
術後7年

症例26
右下1番(中切歯)の歯根嚢胞の治療
60代男性
≪治療経過≫
1.右下の前歯が腫れて、定期検診中に当医院を受診されました。8年の付き合いがある患者さんです。これもまず抜歯を宣告されても間違いではないでしょう。真面目な患者さんでしたので、βーTCPとよばれる人工骨の補てんを条件にモニターとして治療を引き受けました。お金はいただいていません。

2.先ず根管治療を行いました。これで治る場合も十分にありますが、嚢胞ということもあり外科療法もへいようしました。歯根端切除ではなく、歯冠延長術+根尖ソウハ術+人工骨移植+コラーゲンを行いました。

3.2年後、写真をとってみると全く改善していませんでした。なおらないかもという悪い予感が頭をよぎります。臨床症状がなかったので経過観察します。

4.6年後、恐ろしく改善していました。運も味方したと思います。

術前
術後2年
術後6年

症例27
右下6番(6歳臼歯)の化膿した根っこの治療
10代男性
≪治療経過≫
1.右下の奥歯が腫れて受診されました。むし歯の進行により、歯の中の神経が壊疽し、根っこの先が化膿しているのがレントゲン写真からもわかります。また、CTを撮影してみると、顎の神経に拡がるぐらいの勢いで病変が進行してるのもよくわかります。抜歯する先生のほうが大半を占めるのではないかと思います。しかし、まだ小学生です。抜歯してブリッジにするのもどうかと思いますが、保護者の中には早く、安く、簡単に治してよと馬鹿げたことを言われる方がいますので、一応どのようにしてほしいかとたずねると保存治療を希望されました。もちろん、子供のむし歯の責任は親の責任なので、ここで抜歯と希望されれば転院を促しますが。そこで、95パーセントくらいの確率でなおす自信はありましたので、それを証明するためにモニターなってもらいました。

2.通常どおりむし歯を完全に除去し、神経の治療を行いました。半年後のCTが楽しみです。(笑)

3.半年後CTを撮影してみると、病変はほぼ消失しました。これで顎がしびれるということもないでしょう。トータル6000円ぐらいの治療費ですかね。しかし、患者さんの明るい未来に貢献できたことはこの上ない喜びです。

術前
術前CT
術前CT前頭断
神経の治療終了後
半年後
半年後CT前頭断

症例28
左下7番の破折器材除去、化膿した根っこの治療
40代女性
≪治療経過≫
1.治療途中で左下の奥歯が腫れていたいとのことで、受診されました。本来あってはいけないことですが、根管治療に使用する器材が折れこんで根っこの先が化膿しているのが写真でわかります。自分も折ることはあるので、人のことはあまり言えません。まあ前医も一生懸命したことでしょう。そこで、マイクロスコープ、超音波機器を使用して破折した器材をとるこにしました。

2.ミラーテクニックで、マイクロスコープを見ながら、慎重に破折器材がくいこまないように超音波チップで反時計まわりに回転させて無事除去することができました。

3.自覚症状がおさまってから、最終的な薬をいれて終了しました。

注)上のミラーテクニックに比べて下のミラーテクニックはかなり熟練を要します。卒業したてのころ勤務した医院によってその後の歯科医師人生がかわるといっても過言ではないと思います。おかげで卒業したころからミラーで見る習慣をつけていましたから、別段根管治療は苦になりませんし肩もこりません。最後にすべて保険内で今回は行いましたが、誰にでも行っているわけではありませんので。。

術前
ファイル除去後
術後
 

症例29
左上犬歯の歯根端切除術 
40代女性
≪治療経過≫
1.右上の犬歯が腫れ、隣の歯は神経がズキズキ痛み、当医院を受診されました。写真を見てみると隣の歯はむし歯が神経まで進行しているのが、また犬歯は根っこの先が黒く化膿しているのがわかります。しかし、厄介なことに犬歯の根っこの先三分の一に根管治療に使用する太い器材が折れこんでいます。

2.そこで、マイクロスコープ、超音波機器を使用して折れこんだ器材をとることにしました。しかし、折れこんだ器材が太いため、なかなか除去は困難を極めました。今回の場合、ラバーダム下で根管洗浄、炭酸ガスレーザー照射を行いましたので、根管からの排膿、歯肉の腫れは幸いおさまりました。ある程度無菌的になったので、ファイルをとらずに根管治療を終えることを提案しましたが、できればとってほしいとのこで再度チャレンジすることにしました。しかし、とるどころか、逆に根尖からファイルを押し込んでしまいました。最悪です。深みにはまるとはこのことです。

3.今の自分の技術(4年前)では上からの除去は困難と判断し、とりあえず上からの根管治療を終了しました。

4。ファイルが上からとれれば無問題ですが、とれないので最終手段である歯根端切除術に移行することにしました。局所麻酔下で、歯茎を開き折れこんだファイルと根っこの先を除去しました。病変部を徹底的にソウハし、炭酸ガスレーザー照射後、人工骨を充填し歯茎をもどして終了としました。
4年経過しますが、今のところフィステルができたり腫れたりするような症状は皆無です。

注)困難に陥ったときに真価が問われるといつも思っています。そのため、いつも緊張感をもって臨床に接することが重要ではないかと思います。もちろん、豊富な治療方法、技術、知識の習得は言うまでもありませんが。

術前
ファイル除去中
根管治療終了時
歯根端切除後
4年後

症例30
左上4番の感染狭窄根管治療
40代女性
≪治療経過≫
1.左上の4番目の歯が熱いものがしみてなんとかしてほしいということで受診されました。レントゲン上根管をみつけることが難しいことが推測できます。

2.差し歯を慎重に除去し、根管を見つけ出そうとするも拡大鏡(3倍)ではなかなか発見することは困難でした。私は、保険自費にかかわらず拡大鏡は最低つけて診療に臨みます。ですから、他の医院の先生に比べたら根管治療の偶発症はないほうかもしれませんね。しかし、今回はCTからの情報、8倍以上のマイクロスコープ、ニッケルチタンファイルや超音波機器の力を借りないと根管を発見するのは困難であったと断言できます。絶対に裸眼では無理です。あと慎重さ、器用さ、忍耐力がないとパーフォレーションを偶発し抜歯になるのが関の山だと思います。30分ほど時間をかけ根管を無事2つみつけました。

3.あとは通法に従い無事根の治療を終了しました。

注)マイクロスコープ、CTはを保険ではお金にならないかもしれませんが、真面目な患者さんにとって有益(抜歯回避、インプラント回避等)をもたらすことはもちろんのこと、同時に自分を守るためのものでもあると個人的には考えています。自費思考の先生は、高級車を買う前にまず高級器材を揃えてははいかがでしょうか?(笑)

術前
術中
術後




症例31
右下6番近心根の破折器材除去
70代男性
≪治療経過≫
1.全体的な治療を希望に当医院を受診されました。最悪な状況の口の中ですが、約束だけまもってくれればなんとかしましょうということで治療を引き受けました。実に真面目で、歯科的知識に乏しいだけの方であることがわかりました。前医がいいと思ってそこに通っていたことでしょうに。トホホ。

2.いつも通り、ミラーテクニックでマイクロスコープ、超音波機器を使用し近心根のファイルを除去しました。今回はなれたもんです。10分でとれました。いつもバキュームで吸ってしまうことが多く、今回は無事破折器材を捕獲することができました。(笑)。とれないこともありますんで、偉そうなことはいえませんが。

3.あとは再度器材を折らないように慎重に根管治療を進めました。現在不良な前の修復物を除去し下はすべて仮歯にしました。おそろしいことに歯磨き指導、歯石除去も並行して行っていますが、AIC8パーセントが6パーセントにさがりました。この状態であれば、抜歯でも偶発症をおこすことも少ないでしょう。

注)恐らく、他院では、全部抜歯され総義歯(入れ歯)になるか、診療拒否されるのが必至だと思います。しかし私は、前向きな患者さんだからこそ、保険で義歯(入れ歯)にならないできるだけのことをしたつもりです。まあ、右上の欠損に対しては、患者さんの強い希望と義歯装着の前処置である顎提のアンダーカット除去のための歯槽骨整形術の必要性を考慮し、同等の肉体的侵襲であるインプラント処置で対処しましたが、恐らくもう10歳ほど年齢が若ければ、矯正や保険外のかぶせものも薦めていたでしょう。幸い問題なく4年経過しますが、口腔サポートは月に1回ないし、2ヶ月に1回行っています。
術前下顎咬合面観
術前正面観
術前咬合面観
術前
破折器材
近心根に残存している破折器材
術後
右上インプラント埋入前の上顎咬合面観
術後下顎咬合面観
術後正面観
1年後
4年後

症例32
左下6番の感染狭窄根管治療
70代女性
≪治療経過≫
1.左下の奥歯(6歳臼歯)が噛むといたく違和感があるのでなんとかしてほしいとのことで受診されました。修復物はもっともいいものを治療が始まる前から希望されていましたので、最高の基礎工事を行うことにしました。やる側のモチベーションは上がりますね。(笑)。しかし、自費のかぶせもののときだけいい治療をしようとしてもまずできません。普段からの積み重ねがものをいいますから。実際写真をとってみると、根尖に化膿病変がみとめられるので根の先までの治療が絶対条件になってきます。根管の弯曲、狭窄が認められるので、なかなか難しい症例だと思います。

2.まず慎重にかぶせものを外しました。案の定、全く根管は拡大鏡(3倍)ではわかりませんでした。しかし私は心は折れません想定内のことですから。そこでCTを撮影して根管の位置を確認しました。珍しいことに近心根は1根、遠心根は2根でした。位置があるていどわかれば、次はマイクロスコープをみながら、超音波チップを使用し、無事3つの根管を探り当てました。

3.弯曲根管なので、ニッケルチタンファイルを使用し根管治療を無事終了できました。最終的なかぶせものは、先生が一番いいと思う材質でと希望されましたので、自分も希望するであろうゴールドメタルの咬合面のハイブリッドセラミックを装着しました。2年経過しますが不快症状を訴えることは今のところありません。

注)インプラントに熱心な先生は、最初からインプラントに誘導すると思います。(笑)。
術前
被せもの除去後
術後
3年後

症例33
左下6番の感染根管治療
70代女性
≪治療経過≫
1.左上の7番にインプラント治療を希望され受診されました。そこ以外全部歯が揃っているので、必要ないように思えました。なんでインプラントしたいのですかと尋ねたところ、左でものが噛めないのは左上の一番奥歯がないからではないかと応えられました。実は、左下の奥から2番目の歯(6再臼歯)の根の先が化膿して物が噛めないだけなのです。それでもとおしゃるので、左下一番奥歯の挺出も考慮し、インプラントは行いましたが、インプラントしてもものがかめないといわれるのが怖いので化膿した歯の治療も行うことにしました。しかし、写真をじっくりみてみると保存治療もむずかしいかもと思いました。ここもインプラントをすすめておけば〜と後悔さきに立たずです。

2.慎重にかぶせものを除去し、根管治療を開始しました。近心根が開いたという喜びと同時に手技をあせり遠心根の旧の根充材を若干押し出してしまい反省もさせられました。一回一時間ほどかけられて十分な報酬が保証されているのであれば無問題ですが、実際のところ時間をかければかけるほど赤字になるのが根管治療。トホホです。押し出してしまったものはよっぽどのことがない限り取り出すことは困難です。そういうお助け器材もありますが取れたためしがありません。(笑)この場合の僕が行う最善策は、徹底的に根管を清掃、無菌状態にさせあとは自覚症状がなくなったことを確認し通常どうりに根管治療を終了することだと思っています。あとは、旧の根充材が吸収されるのを待ちます。このとき自覚症状、臨床症状を認めるなら、再植、歯根端切除術も視野にいれなくてはいけませんが、幸い押しだしして問題が生じたことはほとんどないと思います。

3.1年後ほぼ化膿病変は改善しています。運も味方したでしょう。しかし、やるべきことをしたものに幸運は訪れるといつも思っています。患者さんは左でものが噛めるようになったと喜んでいますが、決してインプラントをしたからではないと思っています。(笑)。ところで左上の一番奥にインプラントを埋入しましたが、対合する歯が挺出した状態でインプラントのかぶせものを作るととすぐにインプラントはかみ合わせの問題でダメになってきますので、今回の場合も対合歯の補正はしてあります。やらない先生がほとんどですが。(笑)。あと私は患者さんがどうしてもという場合じゃないと一番奥のインプラントはやらない主義です。
術前
根の治療終了時
1年後
4年後

症例34
右下6番の近心根破折器材除去と石灰化閉鎖根管の感染根管治療
60代女性
≪治療経過≫
1.右下の奥歯(6歳臼歯)が腫れて受診されました。レントゲン写真から、近心根(手前側の根っこ)に根管治療時に使用する器材が折れこんで根っこの先が化膿しているのがわかります。そのことを患者さんにお伝えし、最悪抜歯になるかもしれないことをお話ししてから治療に入りました。

2.まず慎重に被せものをはずし、マイクロスコープ下で近心根の破折器材を超音波チップで除去する

3.次に石灰化した近心根を慎重にニッケルチタンファイルを使用し、根っこ先までアクセスする

4.最後に遠心根の芯棒、旧根充剤を除去し、根管洗浄を十分に行う。

5.最終的に根っこのお薬をつめて終了。

注)トータル3時間ぐらいかかったかもしれません。恐らくできる人は限られているでしょうね。それほど困難な症例です。ここに1本インプラントやるほうがどれだけ楽なことか。
術前
術中1
術中2
根管処置終了後
術中4
術中3
術後1年
4年後

症例35
右上の鼻性上顎洞炎(蓄膿症、副鼻腔炎)
30代女性
≪治療経過≫
1.右上の歯の根元がいたい、頭が重い、目下の拍動痛を主訴に当医院を受診されました。口の中を診てみると、むし歯や歯周病を疑うような所見は認めませんでしたが、奥歯の打診痛は認められました。そこで、レントゲン写真を撮影し歯および顎骨を調べてみることにしましたが、全く異常は認められませんでした。しかし、あることに気づきました。

2.理由は言いませんが、CTの許可を頂き、撮影しました。予想どおり右上の上顎洞が真っ白に曇っていました。膿が充満しているということです。即ち鼻が原因の蓄膿症を引き起こしているということです。

3.そこで、耳鼻科領域ですが、ある抗生剤を処方した結果すべての症状はおさまりました。患者さんの訴えを信じ、打診のある歯の神経を処置しても治りません。深みにはまるだけです。しかし、歯科で診断がしっかりとできる人は少ないでしょう。

右上のレントゲン写真
右上の前頭断CT画像

症例36
左上の歯性上顎洞炎(蓄膿症、副鼻腔炎)
50代男性
≪治療経過≫
1.鼻閉感、頭重感もあり耳鼻科にも通院中とのことでしたが、改善の兆しがなく、左上の歯も痛いとのことで当医院を受診されました。直感的に歯が原因の蓄膿症を患っていると思いましたので、レントゲンならびにCTを撮影しました。

2.読影の結果、左上の奥歯4本の根っこが化膿し、それが上顎洞(副鼻腔)に波及しているのがわかります。一番簡単な方法は感染源である歯を4本抜歯すればなおりますが、入れ歯か、もしくは入れ歯がいやであれば費用はかかりますがインプラントになります。歯の保存を希望されましたので、根管治療を行うことにしました。もちろん改善しないこともあることを最初にいってから治療に入りました。

3.1本の歯は抜歯しましたが、残り3本でブリッジにし治療を修了しました。半年後、CTを撮影してみると上顎洞の曇りも消失し、上顎洞炎は治まっています。

術前左上レントゲン写真
術前矢状断CT
術前水平断CT
治療半年後の矢状断CT
治療半年後の水平断CT

症例37
NTファイルによる上顎臼歯の神経の治療例集(弯曲根管、4根管など)

・上顎6番の4根管性について
私の学生時代(1990年代)は、上顎の6番(6歳臼歯)の歯根は3根管性が約60パーセントと習った記憶があります。しかし、マイクロスコープ、歯科CTが普及した現在約80パーセントが4根管性であることがわかりました。即ち、上記のツールを使用しないでの保険での根管治療のほとんどが1根管見落とされている可能性があるということです。なんでこんなに根管治療が上手に行われてるのに近心根が化膿しているのか?というレントゲン写真を実際よく見ます。そのような場合、1根管見落とされているのがほとんどです。しかし、上記のツールを使用せず保険でいつも完璧に4根管治療できる人はほとんど皆無と言えます。これが保険治療の現状です。別に無理して見つける必要がないのですホ・ケ・ンは。センスと良心のある先生だけが患者さんのために行うだけです。しかも、ほとんどわかってくれない患者さんのために。(笑)
左上6番の4根管
同2
同3
右右上6番の4根管

・上顎臼歯の弯曲根管について
まずステンレスのファイル(神経の治療に使用する器具)では、十分な根管形成はまず不可能です。レッジ(段差)を造るか、ファイルを破折させるか、パーフォレーション(穴をあける。)を偶発させるのがオチでしょう。仮にできたとしてもものすごく時間がかかり、ストレス一杯でしょう。(笑)。
そこで2000年代初頭に開発されたのがNTファイルです。非常に弾性に富むため、時間的にも弯曲根管の治療には最適と言えます。しかし、コストがかかることが難点です。保険は最高の治療を約束するものではありませんので、使おうが使わまいが評価はされません。もちろん技術差も評価されませんけどね。(笑)。まあ、ほとんどの人ができませんので赤信号皆でわたれば怖くないといったところでしょうか?
左上6番近心根弯曲
同2
右上6番近心根弯曲

症例38
右下6番の巨大根尖病変の感染根管治療
30代女性
≪治療経過≫
1.全顎的なむし歯の治療で来院されました。まず右下の奥歯が腫れて痛いのでそこから治してほしいとのことでした。まず、小さい写真を撮ってみるとかなり大きい化膿病変ができていましたが、前医の根管治療は悪くないです。寧ろすばらしいと言えます。このような場合まず、根っこの破折を疑います。破折していれば根管治療をいかに頑張ったとしても治りません。そこで歯科用CTをとらせてもらい、どうするか判断することにしました。

2.破折も余程大きくならない限りわかりません。しかし、今回の場合、近心根の未根管処理のために感染が生じ病変ができた可能性があることが前頭断CTからわかりました。これがわからなければほぼ抜歯の選択しかありません。とりあえず、破折も疑いながらの感染根管治療を提案しました。

3.臨床症状がすべて治まり、歯内療法を終え最終のかぶせものに移行しました。保険材質ですが柱は一工夫してあります。スーパーボンドとよばれるもので芯棒を接着してあります。破折防止のためです。隙間のようにみえる黒い影は造影性のないものを使用しているからです。

4.1年後歯科用CTを撮影してみると、病変が縮小し治癒傾向にあるのがわかります。

注)いつもうまくいくとは限りませんが、物わかりがよく、予約厳守、約束を守る方には保険での保存治療をこだわりたいと思っています。来たいときにくるとか、安く、簡単に、短期間に、コスプレ、ハロウィン(笑)してという方はうちにはあわないと思います。予め言っておきます。根管治療に関しましてはすでに患者さんがわからないところで十分に医療サービスをしていますので、わかる方だけ来てくださいというのが正直なところです。もちろん、完璧性は保険では望めないことも十分にご理解してください。
術前矢状断
術前水平断
術前前頭断
術後1年

術後2年
術後1年
術後1年
5年後

症例39
コアが太くて長い左上4番の化膿した根っこの感染根管治療
60代女性
≪治療経過≫
1.メンテナンス中の方で、左上の歯が腫れて噛むといたいということで再受診されました。、レントゲン上問題はありましたが症状がありませんでしたのでずっと経過観察をしていました。自費治療を希望されていましたので、保存が不可能であればインプラントも視野にいれたいとのことでした。
そこで、歯科CTで精査してみると、骨幅は狭くインプラントを行うには骨移植が必要なことがわかりました。本当に患者さんのことを考えると、今回の場合は保存処置が最適のように思えます。もちろん破折等の所見が認められれば抜歯もいたしかたなく、インプラントを行うつもりでしたが。。

2.慎重にマイクロスコープを覗きながら、コアを除去しましました。裸眼でははぼ無理です。よっぽどセンスのある人以外歯に穴をあけるのがオチです。もしくは、最初から上からの治療はせずに予後の悪い歯根端切除を行うのが関の山です。まあ〜歯根端もやる先生、材料によりますが、完璧に行える先生は自分も含めてほとんどいないのが実情です。

3.幸い穴をあけることもなく、ラバーダム下で無事根管治療を2回で終了しました。土台はスーパーボンド&ファイバーコアの直接法を、被せものはゴールドバッキングのフルベークハイブリッドセラミックを採用しました。

注)トータル6,5万ですか。高いところのインプラントなら骨移植こみで50万はくだらないでしょうね。
間違いなく、経営ありきの代診、スタッフの多いところはインプラントをごり押しされると思いますよ。(笑)。本当に日本も早く根っこの治療にスポットライトがあたるようになることを切に望んでいます。あと、インプラントが無用の長物となり早く再生医療が臨床応用さることも。

術前
術後
修復物装着後
4年後
1年後

症例40
左下1,2,3番の狭窄根管の抜髄治療(最初の神経治療)
70代男性
≪治療経過≫
1.左下の前歯全部が熱いものがしみて、ズキズキ痛いとのことで、来院されました。レントゲン写真から、黒いむし歯が神経近くまですすんでいるのがわかる。一般的に高齢の方の摩耗している歯の神経は、生理現象で狭窄していることが多いです。そのため、神経処置は困難を極めること多く、パーフォレーション、器材の破折等の偶発症を招く危険性をいつも抱えているといっても過言ではないでしょう。そのため、冷たいものがしみるだけとか無症状であればむし歯が深くても神経処置はせずにCR充填が得策だといつも考えています。しかし、今回は自発痛を訴えていましたので、マイクロスコープ下でNTファイルを使用し根管治療を行うことにしました。

2.案の定、ルーペでは根管はなかなか見つからず、マイクロスコープ下でやっとみつけてNTファイルで根尖まで穿通させることができました。慎重さ、粘り強さがものを言います。ほとんどの人が根管治療ができないかパーフォレーションさせてしまい、痛みがとれず治療がいつまでたっても終わらない負のスパイラルに陥る可能性があります。最悪、抜歯ですか。

3.幸い2回のアポで根管治療を終了しました。回数を少なくする方法は、無菌的に根管処置を行い歯のなかに一時的に入れる薬が全く漏えいしないようにセメントで仮封するのが一番いいと思います。ただし、コストはかかりますがね。写真からわかるように3本とも根っこのさきまでびしっと薬が入っているのがわかると思います。根管治療が下手な先生に言えることは、無駄に回数がかかることです。もちろん感染根管であれば経過観察は重要なことですが、抜髄根管であれば大臼歯、小臼歯で3回、前歯で1回もしくは2回だと基本的に思っています。NTファイルはそれを可能にしました。ステンレスのファイルしか使用できない先生とは恐ろしく差があるといっても過言ではないでしょう。文明の利器は使いこなしましょう。(笑)。
術前
術後

症例41
左上1番オーバー根充補正のための歯根端切除術
40代女性
≪治療経過≫
1.左上の歯が治療途中の状態で、来院されました。写真からもわかるように左上1番の根っこの先は化膿し、ズーンとする痛みが続いているとのことでした。やっかいなことに根充剤(神経の最終的に薬)が根尖からオーバーしていて、それが感染源になっている可能性があります。先ずは上からの感染根管治療を優先して行いました。

2.打診痛はなかなか消失しませんでしたので、最終手段である外科処置に移行しました。歯冠延長術+歯根端切除術です。歯茎を開き、はみ出た根充剤を除去、病変部のソウハ、レーザー蒸散、HA充填を行い、最後に根っこのさきからスーパーボンドで逆根充を行い全行程を終えました。

3.3年後、レントゲン写真から病変部が完治しているのがわかる。

注)6年も前の症例で、今行えば逆根充剤はMTAを使うように薦めるかもしれませんが、自費の歯根端は希望されていませんでしたので、患者さんにとってはベストな治療法だったかもしれません。歯根端切除術は、技術、器材、材料差によって予後に明暗を分けます。私も偉そうなことは言えませんが、これを確実に行えるようになればインプラントもやらずにすむので、もっともっと研鑽をつむ必要があります。


術前
術後
3年後

5年後

5年後のCT
前頭断

症例42
左下7番歯内由来根分岐部病変の治療
60代女性
≪治療経過≫
1.左下の奥歯が噛むといたく、歯茎が腫れぼったいということで受診されました。20年ほど前に市内の歯科医院で歯周病がひどいとのことで、左下6,7番を銀歯で連結固定されたとのことでした。レントゲン所見から、一番奥の歯の又の部分の骨がとけているのがわかります。一般的には歯石がそこに付着し、歯周病が原因と思われがちですが今回の場合はちょっと違います。いくらお金をかけて歯周病治療をしようとも治りません。なぜなら、歯の中の弱ってきた神経が原因だからです。なぜだか言いませんが。

2.そこで、歯の中の神経の処置を行いました。歯石もついていましたので、除石も行いました。

3.5年後、又の部分の骨透過像は消失しているのがわかる。

注)すべて保険処置です。真面目な方には真剣に向き合う。これが私のモットーです。
術前
術後
術後5年

症例43
左上4番の化膿した根っこの治療
30代女性
≪治療経過≫
1.左上4番の根っこの先部分の歯茎が腫れて、受診されました。レントゲン写真から歯の中がむし歯になって神経が腐ってきたことがわかります。

2.つめものを外し、神経の処置を行いました。

3.5年後隣の被せものが脱離したとのことで来院され、レントゲン写真をとってみるときれいに化膿病変が消失しているのがわかる。

注)個人的にコンスタントに根っこの治療が上手な先生が、一番一般歯科開業医(矯正歯科専門医、小児歯科専門医、口腔外科専門医、根管治療専門医とは別ですよ。)として優れていると思います。なぜなら、歯を残すために一番重要な処置だからです。しかし、日本では本当に評価がされません。華々しさ、うわべだけに価値をみいだすところがあります。本質のわからない人ばかりですからね。(笑)
術前
術後
術後5年

症例44
右下7番の化膿した根っこの治療
50代男性
≪治療経過≫
1.右下の歯茎が腫れて、受診されました。レントゲン写真からもともと神経を保存して被せた歯の神経が腐ってきて根っこの先が黒くなって、化膿してきているのがわかります。歯茎の腫れも著しく、根管治療が嫌いな先生は抜歯すると思います。まあ〜別に間違いではないでしょう。抜歯してくれという患者さんもいますからね。しかし、今回患者さんは保存を希望されましたので、根管治療を行うことにしました。

2.当たり前の根管治療を行い、5年後写真をとってみるときれいに化膿した部分は骨に置換しているのがわかります。
注)歯科用雑誌などで、メンブレンによる再生療法を併用し改善しましたという症例報告をよく散見しますが、本当に再生療法が必要だったのか甚だ疑問に思うことがあります。治療成果に関してはすばらしいと思いますが、歯科用雑誌に登場しなくても、保険内の根管治療、簡単なSRPで同じ成果を出す先生も一杯いると個人的に思っています。もちろん、再生療法が必要な場合も多々ありますが、なんでもかんでも再生療法併用というのもおかしな話です。極論、歯医者は人間のすばらしい免疫力を利用して歯の治癒をお助けするだけの存在です。ですから、患者さん自身も免疫力を高める必要がありますね。
術前
術後5年後

症例45
右上5番の化膿した根っこの治療
60代男性
≪治療経過≫
1.右上の歯茎が腫れて、歯が動き物をかむといたいということで受診されました。とにかく歯を抜歯したくないと切望され、できるだけのことをしてほしいとのことでした。レントゲン写真からもエンドーぺリオ病変(歯内歯周病変)が疑われ抜歯もいたしかたない状態です。

2.歯石除去、歯の中の神経の治療を理想的に行い、定期検診に移行しました。3か月に一度必ずおいでになります。もともと歯に対する認識が高く、どうすればいいのかわからなかっただけなのでしょうね。

3.4年後、恐ろしいことに歯の周りの状態はかなり改善し、動揺を認めることはありません。

術前
術中
術後4年

症例46
右下6番歯内由来の根分岐部病変の治療
20代女性
≪治療経過≫
1.右下の奥歯が腫れて、受診されました。レントゲン写真を撮ってみると、根っこの先及び根っこの又の部分が黒く化膿しているのがわかります。正直、怖い話ですが抜歯をする先生のほうが多数をしめるのではないかと思います。しかし、根管治療が普通にできる先生は、焦ることなく90パーセント以上の確率で治すことでしょう。また、歯科医を引退するまで治せない先生も多々いるでしょう。(笑)

2.通常どおりNTファイル、キレート剤、ネオクリーナーを使用してきれいに根管の中を清掃し、水酸化カルシウム系の薬剤(ビタペックス)を充填し3か月経過観察をしました。本流ではありませんが、私は好んで吸収性のビタペックスを使用します。まあ、化学物質過敏症、甲状腺を患っている人であればしかたなくカルシペックスを使用しますが、根尖から過度にはみ出してしまうと吸収しないので注意して扱う必要があります。

3.3か月後、病変が縮小したのを確認し、最終的な根管のお薬を充填しました。

4.半年後、若いだけあってほぼ病変は消失しているのがレントゲン写真からわかります。

注)フォルマリンクレゾール通称FCと呼ばれる根管貼薬剤が一昔前まで一般的でしたが、揮発性のためしばしば根管処置後に疼痛、腫れがかなりの頻度で生じることがありました。そのため、現在では、根管治療に気をつかう先生は水酸化カルシウム系の貼薬剤を使用することがほとんどではないかと思います。因みに私は、卒業してから一度もFCを使用したことはありませんが、未だにFCを主流に使用しているところも結構存在するかもしれません。
術前
髄腔開拡
ビタペックス充填後
半年後
3か月後根管充填

症例47
右下7番の化膿した根っこの治療
50代女性
≪治療経過≫
1.右下の一番奥歯が噛むと痛いとのことで来院されました。レントゲン写真で状態を確認してみると、根っこの先が黒く化膿しているのがわかりました。一般的にはむし歯が進行し、歯の中の神経が腐敗して根っこの先が悪くなってきます。しかし、今回の場合は、かみ合わせの変化により過重負担がかかって中の神経がダメになったことが一番に考えられます。実は一番奥の歯は、歯ぎしり、喰いしばりなどの習癖により顎関節の構造上、容易に早期接触をおこす部位であると言えます。即ち顎関節症を引き起こす原因となりうる歯であり、、生活歯のクラックシンドローム(破折)を一番起こしやすい歯と言えます。そのため、この部位にインプラントを埋入する場合、十分に注意する必要があります。

2.通常どおりラバーダム下で、NTファイルを使用し2回のアポイント(トータル30分)で根管治療を終了しました。ステンレスのファイルでは5倍ぐらい根管形成に時間がかかりなおかつ十分な根管充填を行うことは困難であることは容易に想像できます。(笑)。しかし、NTファイルユーザーは、この写真を見ても当たり前の結果としか思わないでしょうね。私も他の先生が自慢気に自費根管治療として写真を提示しても何も思いません。保険でも十分に可能です。この症例も保険です。

3.1年後きれいに根っこの先の黒い病変は消失し、歯槽硬線の連続性を認める。

注)いつもコンスタントにこれぐらいの根管治療は行っているつもりです。同じ能力の先生の場合、1時間に3人の根管治療を行うより1人だけ行うほうがいい結果をだすことは当たり前ですが、保険はそれを許してくれません。保険は、低報酬の出来高払いだからです。すべては歯医者の良心一つと言えます。
術前
根っこの治療開始
根っこの治療完了後
術後1年

症例48
左下6番(6歳臼歯)の化膿した根っこの治療
30代男性
≪治療経過≫
1.今(2013年)から、7年前左下6番(奥から3番目の歯)が腫れて、上も下も歯が痛くて物が噛めず何とかして欲しいとのことで受診されました。レントゲン写真から、左下6番は根っこの治療不十分により、化膿病変がかなり大きく進行しているのがわかります。抜歯も致し方ない状態だと普通の歯科医であれば考えるでしょう。しかし、当時から根管治療で治せるという自信はもっていましたので、保存療法を行うことにしました。もちろん、ダメなときもありますよ。(笑)

2.慎重にかぶせもの、旧の根管充填材を除去し、ラバーなしで根管治療を開始する。臼歯部においてラバーは使用したほうがいいと個人的には思います。しかし保険でしてくれるところは皆無に等しいでしょうね。保険ではラバー料金はありませんから、要求されてもしなくてもいいのです。(笑)

3.水酸化カルシウム製剤をしばらく充填し、症状が改善後、根管充填を行う。

4.7年後、反対の歯が痛いとのことで来院時、パノラマ写真を撮ってみると化膿病変はきれいに治癒していました。ラバーなしでもうまくいくことは多々ありますが、した方がさらに成功率は高いと言えるでしょう。特に抜髄根管で痛感します。

注)マイクロスコープ、CTが医院に完備されていない時の症例です。ツールが、治療するわけではないという証明です。普通に治療ができる先生であれば、上記のツールは治療に役立ちますが、患者寄せのために完備しているところは猫に小判です。(笑)。あと、治療が上手い下手に、やる先生の肩書き、年齢、学歴は関係ありません。卒後、いかに真剣に日々の臨床で、トレーニングを積むかだと個人的に思います。
根っこの治療開始
根っこの治療終了時
修復装着時
7年後左上下歯周病が進行。
7年後

症例49
左下4番の化膿した根っこの治療
50代女性
≪治療経過≫
1.左下にミニダルボーアタッチメントを組み込んだ片側処理の義歯を使用されていましたが、毎回短期間に壊れることや修理対応できる医院が少ないことを理由に欠損部にインプラントを希望されました。インプラント治療を行う時は基本一口腔単位の仕事になりますので、症状がなくても手前の化膿した歯は治療対象となります。レントゲン上、かなり大きく化膿しているのがわかると思います。身体の免疫力が低下すれば、必ず腫れてくるといっても過言ではないでしょう。そこで、患者さんに説明し治療を行うことにしました。

2.かぶせ物をまず、除去し、仮歯に置き換えました。慢性的に移行している病変は慎重にいらわないと寝た子を起こすように歯茎が腫れてきます。そうなれば、評判を落とします。(笑)。そのため、事前にその可能性を十分に説明しておく必要があります。まあ〜ラバー下で治療を行う先生はまず起こさないでしょうが。今回も説明してから、根管治療に入りました。

3.2回目で症状を訴えることはありませんでしたので、最終的な神経に代わるお薬(根管充填)を根っこの中に詰めました。

4.2年後、写真をとってみると予想どおり化膿病変は骨に置換し消失していました。

注)よく綺麗なセラミックをかぶせた画像を他院のHPで見かけますが、レントゲン写真を載せていないものがほとんどです。特にクイック矯正と呼ばれるセラミックを被せて歯並びや見栄えを治す方法を採用する美容系歯科に多いです。歯周病の治療もそうですが、歯科医も患者さんも楽していい予後を招くことはほとんどないと思いますよ。(笑)。どうしても、矯正+ホワイトニングではなく、短期間に簡単に被せてなおしたい場合、最低根管治療後のレントゲン写真は見せてもらいましょう。家で例えるなら、根っこの治療は、基礎工事の部分に当てはまりますから、出鱈目であればすぐに倒壊するでしょう。(笑)。
まともな専門家がみれば、歯科医のレベルは、腕相撲で腕を握った瞬間勝ち負けがある程度想像できるように、術前術後のレントゲン写真でどの程度かだいたいわかるものです。一方素人は、治療レベルより華々しさ、偽善的な優しさ、医院側がお金を払っての雑誌又は新聞広告に弱いように思えます。
術前
根管充填後
2年後
術前前頭断CT
2年後前頭断CT

症例50
左下5番の破折器材(ファイル)の除去
60代女性
≪治療経過≫
1.左下が噛むと痛いとのことで受診されました。レントゲン写真を撮ってみると、左下の4、5番の根っこの先が黒く化膿しているのがわかりました。5番目の歯(写真の一番奥)は根管充填材ではなく、神経の治療時に使うファイルと呼ばれる器材が折れ込んでいます。この器材が、取れて根っこの先まで十分に消毒ができれば、根っこの先の化膿した部分は身体の免疫力によって恐らく治るでしょう。しかし、取ることは折るよりも難しいと言えます。今回、患者さんにも時間があり保存を希望されましたので、マイクロスコープ下で保険で除去することにしました。もちろん、取れないこともお話してから治療に入りました。

2.まず慎重にかぶせ物を除去し、マイクロスコープ下(10倍)で、超音波チップをうまく使用し15分くらいで破折ファイルを無事とることができました。

注)因に保険での除去費は1100円です。その割に2次災害のように歯に穴を開けたりなどの危険性を伴う処置です。普通であれば何万も請求されてもおかしくない話ですが、日本の保険での報酬は低いと言わざるをえません。だから、ほとんどの人が保険ではやりません。私の場合は、自己の根気、粘り強さ、揺れない心、集中力を養うためのトレーニングの一環として行っています。勿論、器材が取れないこともありますが、最善を尽くす必要はあるといつも思っています。また、この器材が折れるという偶発症は日本の保険制度においては起こりうることです。根管治療を全くやったことがない先生以外は皆一度は経験するでしょう。寧ろ上手な先生ほど経験しやすい偶発症と言えます。ですから、より完全性を希望するのであれば、自費での根管治療をすることをお薦めしますよ。それでも、確率は限りなく低いですけど、折れることもあります。
術前
かぶせ物除去時
器材除去後

症例51
右上6番の化膿した根っこの治療(歯性上顎洞炎一歩手前)
10代女性
≪治療経過≫
1.右上の6歳臼歯(6番)が腫れて、お母さんの紹介で当医院に来られました。小さい写真を撮ってみると神経が腐ってきて歯茎が腫れてきたのがわかります。麻酔を嫌がり麻酔をせず虫歯を取り残して詰めたこと、あるいは詰めるときに唾液が侵入したこと、または虫歯が深すぎて削る時の振動ですでに神経が不可逆的な反応を起こしてしまったことなどが考えられます。馬鹿な親は子供の虫歯責任を棚に上げて、治療後腫れたりした場合すぐに歯医者のせいにするところが見受けられますが、最善を尽くしたとしても深い虫歯の場合保険治療では起こりうることです。(特に乳歯)。そうならないように予防に力をいれるのが一番重要なのですがね〜。話は逸れましたが、厄介なことに今回の場合、歯性の上顎洞炎(蓄膿症)一歩手間まで進んでいるのがCT画像からもわかります。抜歯する先生が多数をしめるのではないかと思います。しかし、まだ中学生です。親御さんも子供も実に礼儀ただしく真面目でしたので、CTモニターになってもらいました。

2.まずマイクロ、CTで精査し、3根管であることを確認しました。近心根は弯曲しているので、NTファイルで慎重に根管形成し、ビタペックスを仮充填し、1ヶ月後に最終根管充填を行いました。

3.半年後CTを撮影してみると、きれいに化膿病変は消失していました。

注)恐らく歯科医としての誇りをもっている人以外諦めるでしょうね。(笑)。大半は、教科書に載っていることは一部のできる人がやることで、ほとんどができないよと言い訳するでしょう。実は僕も卒業したての頃そう思っていました。(笑)。しかし今は、時間、テクニック、器材に見合った報酬が約束されているのならば極めて高い成功率の根管治療を提供することは可能でしょう。
術前レントゲン写真
ビタペックス充填後
ビタペックス充填後の前頭断CT
根管充填後の   レントゲン写真
半年後の前頭断CT

症例52
左下4番の化膿した根っこの治療
60代男性
≪治療経過≫
1.左下の前から4番目の歯の歯茎が腫れて、受診されました。矢状断CTで患部を精査してみると、顎の神経に拡がる勢いで化膿病変が進行しています。動揺も著しく、抜歯も致し方ない状態と言えます。噛み締め(咬合不良)もしくは以前に深い虫歯を治しているため神経が不可逆的なダメージをすでに負っていたことなどが原因と考えられます。治療をやるだけやってみてダメなら抜歯という説明をし、了解していただいたので保存治療を開始することにしました。心の中では、絶対大丈夫という自信はありましたが、クラックが原因の場合は治りませんので一応いつもどおり控えめに言いました。(笑)。

2.通常どおりの根管治療を行い、4ヶ月後CTを撮影してみると化膿病変はかなり縮小していました。あと半年もすれば完治することでしょう。病変の大小は関係ありません。病変が大きくなるということはマイナスの生体の防御反応が著しいということです。しかし、根っこの先が無菌的になれば、プラスの骨を再生しようとする免疫反応が起こります。(神経にかわる薬が病変を治すわけではありませんので)。即ち、生体の抵抗力(免疫力)に左右されると言えます。

注)面白いことに完璧な根管治療をされた根っこの上にイマイチな修復物をいれた場合とイマイチな根管治療をされた根っこの上に封鎖性のいい修復物をいれた場合の予後は、後者の方が結果がいいのです。いかに気密性が重要かということでしょう。勿論、両方いいほうがさらに予後はよいですがね。
術前矢状断CT
術前前頭断CT
4ヶ月後矢状断CT
4ヶ月後前頭断CT
1年後
1年後

症例53
右下6番のクラック(破折)による化膿した根っこの治療
60代男性
≪治療経過≫
1.右下の奥歯(6歳臼歯)が、噛むと痛いとのことで受診されました。お口の中をみてみると、カリエスフリー(虫歯ゼロ)で、若干の歯周ポケットを認めるもののそれほど歯周病が進行した状態ではありませんでした。また、全体のレントゲン写真をとってみても別段異常所見は認めませんでした。そこで、投薬、歯石の除去並びに歯磨き指導をまず行うことにしました。

2.改善の兆しがないので、口腔内模型の採得並びにCTを撮影しました。ここで、すべてがわかりました。一般的に口の中がカリエスフリーで、骨隆起、歯のくさび状欠損歯並びに歯に著しい咬耗を認める場合は、まずは咬合のズレによる生活歯(神経のある歯)のクラックティースシンドローム(破折)を疑う必要があります。この診断は、初期の場合、レントゲン写真上では恐らくごく一部の読影力のある先生にしかできないと思います。私もCTがなかったら難しかったかもしれません。(笑)。
特に歯の治療経験のない人は、治療に対して不信一杯の方が多いので、術者も正直あまりいらいたくないのが本音で、経過をみましょうと言われることが多いと思います。また、なんで虫歯、歯周病でもないのにいらわれるのよと言われるのが怖くて、手遅れになることもあるでしょう。

3.そこで、通常の根管治療(ラバー、ビタペックス、超音波チップ、ネオクリーナー5分、キレート剤、炭酸ガスレーザー使用)を行い、症状が全て改善したため保険のパラの被せ物を装着して終了としました。クラックが入っているので、本当であれば土台スーパーボンドファイバーコア+ゴールドクラウン+ナイトガードが理想ですが、保険治療を希望されたため、土台は保険内で最善と思えるスーパーボンド+ADポスト+化学重合型レジンを採用しました。因に簡単に根管治療をおこなっているように見えますが、同じようにできる人は限られていると言っておきましょう。クラックとわかれば、抜歯→インプラントを誘導するインプラント屋の方が圧倒的に多いですから。ひょっとすると、それが正しいのかもしれませんがね。(笑)


注)カリエスフリーで口の中は1千万以上の価値があるのに、なんて馬鹿な選択をするのだろうと思いましたが、人それぞれ歯に対する価値観は違います。私は、無理やり自費はしませんし、保険だからといってその範囲内で手を抜いていないつもりです。自分の身体の一部なのだから、自分が決定すればいいといつも思っています。しかし、タバコ、酒、盆栽、ブランド品、車、外食にお金をかけるぐらいなら、毎日のことなので、歯にお金をかけたほうが余程いいのにといつも心の中では思っています。絶対に自分や自分の家族には、保険のパラジウム、銀、アマルガムは入れません。食品も重要かもしれませんが、個人的に銀歯だらけになるとそれが溶出して体内に蓄積し、子孫に悪い影響を与えると思っていますので。読み流してください。(笑)

術前レントゲン写真
術前矢状断CT
術前水平断CT
術前前頭断CT
根管充填終了後
被せ物装着後

症例54
右上6番(6歳臼歯)のクラック(破折)による根っこの治療
60代女性
≪治療経過≫
1.他医院にて、虫歯の治療を行ったが、冷たいものがしみて噛むといたいので、紹介により受診されました。レントゲン写真並びに裸眼の視診では、問題がないように見えました。一般的には深い虫歯治療を行った場合、1〜2ヶ月ほど冷たいものがしみることはよくあることです。治療が上手くいっている場合は、だんだんと症状が治まってきます。神経のある歯は、第2象牙質(修復象牙質)が神経の周りに形成されてくるからです。しかし、修復物のかみ合わせが高かったり、歯ぎしり食いしばりがひどいとなかなか症状が改善しにくいこともあります。今回の場合も後者を疑いましたが、修復物での接触は問題なさそうでした。そこで、次に考えることが、歯の微小ハセツです。この診断は、模型による咬合様式検査、マイクロスコープでの診査が一番の決めてとなります。

2.案の定、生活歯の微小クラックと非作業側での咬合干渉を認めましたので、根管処置並びに修復処置を行うことにしました。

3.4根管ないことを確認し、マイクロスコープ、ラバーダム下で、NTファイルを使用し慎重に根管処置を行いました。その結果すべての不快症状は改善されました。

4.土台はスーパーボンド+ADポスト+レジンコアの直接法を採用し、側方圧がかからないようなクラウンをセットし終了としました。保険治療を希望されていましたので、その範囲内でできる最善手を尽くしたつもりですが、やはりファイバーコア+ゴールド系修復物+ナイトガードには勝ることはないでしょう。本当に歯が重要だと考えるなら、間違いなく後者です。インプラント、ブリッジのお世話になる確率もぐんと低くなると思いますよ。

術前
術前レントゲン
根っこの治療終了時のレントゲン

症例55
左下7番(第二大臼歯)のクラック(破折)
70代女性
≪治療経過≫
1.6年前(2007年)、左下が痛くて噛めないとのことで、トータル的な治療を希望され当医院を受診されました。左下は2本欠損に対して、支台2本による4本ブリッジが装着されていました支台の歯に無理がかかり、手前の第一小臼歯(4番)は歯が折れ、奥の7番は根尖に化膿病変を認めました。そこで、3本欠損に関しましては、インプラント3本を、7番に関しましては再根管治療を行うことにしました。

2.拡大鏡下で根管治療を行い、症状が軽減したため、ファイバーコア+パラの銀歯を装着し、終了としました。(マイクロスコープ、CTは当時はまだ完備していませんでした。)

3.5年後、噛むと痛いというので、CTを撮影してみると、歯の周りの骨が減っているのがわかりました。根管治療は完璧に行ったと思っていましたので、ハセツ以外考えられませんでした。案の定、部分的にポケットは深くなっていましたので、再植を提案しました。

4.一旦抜歯してみると、ハセツ線が3箇所認められました。根管治療が不備だから生じたのではないことが明白となりました。ハセツ線を埋めて接着再植する方法もありますが、果たして何年持つかということです。すぐにだめになってもいい、やるだけやって欲しいと言われれば、自費で5万程で行いますが、そんな人は少ないと思います。私の例ですが、最長7年、最短2年です。勿論、良い状態での経過ではなく、あくまで日常生活に支障なく、生存したということです。薦めない理由は、1.ハセツ面の接着力を発揮する場合、乾燥防湿が一番重要ですが、反対に歯根膜がダメージをうけること。2.ハセツ線部は、骨とくっつくことはなく、ポケット形成し歯周病を併発しやすいこと。3.根吸収、再根ハセツの危険性があること。4.習癖(食いしばり、歯ぎしり)がある人には、無駄に終わることがほとんどだからです。今回も抜歯し、何もそこにはいれない選択をしました。あと、初めての経験ですが、ファイバーコアを採用し、ファイバーコア自体が折れるという経験はありますが、根がハセツしたという経験はこれまでに一度もありませんでした。恐らく、推測ですが、6年前から既に歯にひびが入っていたのでは?と考えられます。術前の歯科用CTがないのが悔やまれます。
術前パノラマ
術前
術後
6年後
6年後、矢状断CT
6年後、前頭断CT
根尖が原因ならと思って、逆根充しましたが、無駄に終わりました。

症例56
右下6番(6歳臼歯)内部吸収による根管処置
20代女性
≪治療経過≫
1.7年前(2006年)、右下がしみるということで当医院を受診されました。レントゲン写真並びに視診で右下6番の手前側の隙間が虫歯になっているのがわかりました。そこで、麻酔下で虫歯を削りプラスチックを積めて治療は終了しました。しかし、実は、この時既に、この歯には別の問題が生じつつあるのですが。

2.2年後、治した歯が痛いということで再受診されました。このとき、レントゲン写真をとってみると唖然としました。内部吸収といって歯自体が中で溶けてきてるのが分かりました。内部吸収の一般的な原因は、外傷などによる歯の中の神経のダメージによるものとされています。即ち、非自己になった神経を除去しないかぎり、悪い免疫反応で歯は溶け続け、抜歯という結末が待ち受けています。
そこで、そのことを説明し、歯の中の神経の処置をすることにしました。一般的には、保存できるかどうかはやってみないとわかりませんが。

3.思ったよりも内部吸収が進行していて、手前側の歯の壁は、骨を露出するぐらいに薄くなっていました。この場合、MTAという保険外の材質でそこを埋めることがベストですが、当時は保険の処置を希望されていましたので、スーパーボンドを使用して穴を埋めました。はみ出た部分は研磨してあります。

4.5年後写真をとってみると、さほど問題はないようです。しかし、手前側のポケットは、5ミリと若干深めでした。MTAを使用していたら、どうだったのか?恐らく、ポケットの形成は認められなかったのではないかと思います。ればたらですがね。

7年前
5年前
根充後
本格的内部吸収から5年後
被せ物セット後

症例57
右下4番(第一小臼歯)の破折器材の除去並びに化膿した根っこの治療
60代女性
≪治療経過≫
1.今から6年前(2007年)、右下のブリッジが痛くて噛めないとのことで、当医院を受診されました。
かなり支台となる歯(四番、7番)に無理のかかるブリッジで、どちらの歯も十分な根管処置がされておらず、少なくとも7番(一番奥)はレントゲン写真からも根っこが化膿しているのがわかりました。また、4番はファイルと呼ばれる根管治療用の器材が折れ込んでいるのがわかりました。できるだけ歯の保存と固定式の修復物を希望されましたので、欠損部はインプラント、4,7番の2本は根管処置後かぶせものを装着することにしました。

2.7番(第二大臼歯)に関しましては、慎重にNTファイルを使用し無事根管処置をほぼ完璧に終えることができましたが、手前の4番(第一小臼歯)に関しましては、レントゲン上根尖が問題がないように見えたことまた器材が折れこんで根管処置が十分に行うことができないと考え、土台と被せ物だけをやり直しました。当時は、歯科用CT、マイクロスコープは完備していませんでした。

3 6年後、4番の歯の根尖部に違和感があるということで、歯科用CTで精査してみると、根っこの先が黒く化膿していました。恐らく、6年前から化膿病変が存在していたと考えられますが、レントゲン写真では明確に判断することは難しいでしょう。また、しっかりと診断できたとしても、設備、技術がないと、器材が折れている歯の根尖にアクセスすることは難しいでしょう。

4.そこで、最新ツールを駆使し、破折器材の除去を試みました。今回は、5分もかからず、とることができました。少なくとも、頭だけ良くてもとれないでしょう。ミラーで反射しながら、そこそこ手が動かないとまず無理なんですね〜。

2007年初診時
右下7番治療後
右下4番1回目の治療後
右下4番CT前頭断
右下4番2回目の根管治療後(2013年)
折れていた器材

症例58
弯曲した右下親知らずの化膿した根っこの治療
70代女性
≪治療経過≫
1.右下の親知らずの周りが腫れて、受診されました。入れ歯を希望されない患者さんに対しての前医の苦肉の策でしょう。手前2本欠損に対して、ロングスパンのブリッジが装着されていました。一般的に親知らずを支台とするブリッジは予後が悪いと言えます。理由は1.歯磨きがしにくいこと。2.親知らずの奥側の歯茎が厚く、仮性ポケット形成しやすいこと。3.かみ合わせの関係で薄いブリッジしかできない可能性があること。4.顎関節の構造上、早期接触を起こしやすく顎関節症を併発しやすいこと。5.器具が届きにくく、十分な形成、根管処置を行うことが難しいこと。などが挙げられます。
今回の場合は、1番、2番、5番が理由で歯茎が腫れてきたことが考えられます。抜歯、インプラント、入れ歯の説明もしましたが、どれも拒否され、再度のブリッジを希望されました。そこで、上の歯のかみ合わせの調整(ブリッジが薄くなることの予防兼早期接触の予防)と自費のブリッジ(歪みにくい白金系金属の使用)を条件に治療を行うことにしました。

2.歯科用CTで精査してみると、手前の根っこが原因の根尖病変が認められました。手前の根っこは、レントゲン写真からも明らかに根管処置が十分に行えていないのがわかりますが、致し方ないことでしょう。前医は否定できません。弯曲が著しく、また、一番奥の歯のため、相当根管治療に強い先生しか上手く処理することは難しいのではないかと思います。

3.そこで、慎重に被せ物、土台を外し、マイクロスコープ下で、根管治療を行いました。ラバーは使用できませんでした。

4.ポイントはいかにレッジ(段差)を形成しないかということです。恐らく、NTファイルユーザー以外この根管は攻略できないでしょう。マイクロはなくても大丈夫です。(笑)

5.3回のアポで不快症状が消えたため根管充填を終了し、ブリッジを装着し終了としました。本当は、親知らずの奥の余分な歯茎を整形するウェッジ手術も行うのが理想なのかもしれませんが、希望されませんでしたので、経過観察することにしました。(しかし、舌神経の麻痺が出る可能性もある部位なので、やりたくないのも本音ですが。)

6.1年後写真をとってみると、根尖の骨透過像は消失していました。
術前パノラマ
術前デンタル
根っこ治療途中
1年後

症例59
左下7番の化膿した根っこの治療
40代男性
≪治療経過≫
1.左下奥歯のベロ側の歯茎が大きく腫れて、ガンじゃないかと心配になって来院されました。前医では、そのうち治ると言われていたそうです。恐らく治せないからそう言われたのでしょう。レントゲン写真、CT写真からもわかるように根っこの先が大きく化膿し、黒くなって、舌側の骨がかなりなくなっているのがわかります。こういう症例は基本的に好きです。(笑)。技術差が歴然とわかるからです。10人いれば、恐らく7人くらいは抜歯するでしょうね。

2.私は、仕事が趣味みたいなものなので、患者さんが聞き分けのいい人であれば、抜歯をせずに保存治療を試みます。希望されましたので、根管処置をすることにしました。恐らく患者さんは、治るかどうか疑いの目で見ていたと思います。

3.ラバー下で、NTファイルを使用し、経過観察も含め、5回くらいの回数で根管処置を終了しました。

4.2年後、CTを撮影してみると、根尖及び舌側の骨吸収は、改善していました。

注)この症例は、自分にとっては、簡単な部類の根管治療です。しかし、通う歯科医院によってその歯の命運も違うということです。(笑)。

術前
術前矢状断CT
術前前頭断CT
根管治療終了時
術後2年
同矢状断CT
同前頭断CT

症例60
左上6番のフェネストレーションした根っこの治療
60代女性
≪治療経過≫
1.左下欠損部のインプラントを希望され、当医院を受診されました。そこで、歯科用CTを撮影し精査してみると、左上6番(6歳臼歯)は著しく挺出(対合する歯がない場合、歯が伸びてくる現象)し、歯の中の神経もすでに壊疽し根っこの先が化膿しているのがわかりました。上の歯を治療せずに、インプラントだけ行っても快適な食生活とは程遠く、トラブル(被せ物がすぐとれる。インプラントの土台のネジが破損する。歯間ブラシが通しにくくなるため、インプラント周囲炎になりやすいなど)も続出することが予測できます。口腔外科しかできない人は、どうするんでしょうか?(笑)。上もインプラントですか?(笑)

2.そこで、そのことを患者さんに説明し了解を得ましたので、インプラントの対合となる歯の根っこの治療並びにレベリングを行うことにしました。

3.左上6番は、4根管ではありませんでしたが、根管の石灰化が著しく、かなり根管治療は困難を極めました。しかし、NTファイルを使いなれた人であれば、攻略は可能でしょう。

4.4年後、フェネストレーション(骨から根っこがはみ出している状態)した根っこの化膿は改善しているのがCT写真からわかります。

注)フェネストレーションは、特にモンゴロイド(東洋人)の上前歯の根っこによく認められます。慎重に根管治療を行わないと、なかなか根尖部の違和感がとれないと言われます。CTをとれば、一目瞭然ですけどね。知らずにフェネストレーションしている歯に、過度な垂直加圧式の根充(根尖よりはみ出した神経にかわるお薬)を行うと・・・・・想像にお任せします。

術前パノラマ写真
根っこの治療終了時の矢状断CT
同前頭断CT

4年後
同矢状断CT
同前頭断CT

症例61
右下6番の化膿した根っこの治療
30代男性
≪治療経過≫
1.今から4年前(2010年)、右下の6歳臼歯の根元付近の歯茎の違和感を主訴に他院から転院されてきました。前医で根っこの治療をしても改善の兆しがなく、とうとう抜歯を宣告されたとのことでした。そこで、レントゲン写真、CT写真を撮影してみると、確かに根っこの先がかなり大きく化膿しているのがわかりました。通常の根管治療で十分完治は可能だと直感的に思いましたが、難治性の菌に侵されている場合、根っこにヒビが入っている場合はいくら根管治療を頑張っても治りません。そのため、そのことを患者さんに了解してもらってから治療に入りました。

2.ラバーダム防湿下で、キレート剤、ネオクリーナー、超音波チップ、NTファイルを駆使し、根管治療を行いました。4回ぐらいのアポイントですべての不快症状がとれましたので、5回目で根管処置を終了し、被せてすべての治療を終了しました。

3.4年後、別の歯の不都合で来院されたとき、CTを撮影し病変部を確認してみると、きれいに化膿した部分は骨に置換していました。

注)歯科用CTを撮影し、マイクロスコープ下で診療している先生とそうでない先生とでは、とてつもなく診断能力、技術に差があるといっても過言ではないと思います。見えてる世界が違いますから。例えるなら、裸眼で2.0の視力の人と裸眼で0.1の視力しかない人では仕事能率が違うのと同じと言えます。ですから、レントゲン上うまい治療をしたと自慢していても、実はうまくいっていないことも多々あるということです。ここは経験では語れないところだと思います。勿論、最新機器を駆使して人事を尽くしても、経過不良例が存在するのもまた事実です。
術前
同矢状断CT
同近心根CT
同遠心根CT
4年後
4年後
4年後
4年後

症例62
右下1番の化膿した根っこの治療
30代男性
≪治療経過≫
1.右下の前歯の根っこの違和感を主訴に当医院を受診されました。口の中を拝見してみると、虫歯はなく、歯の色の変色、歯の摩耗、歯の若干の動揺を認めました。恐らく、歯ぎしり食いしばりの習癖、外傷によるものかもしくは釘などを咥える職業上の問題で、歯の中の神経が壊疽してきたことが考えられます。CT写真で患部を観察してみると、唇側の骨が欠損するほど化膿病変が進んでいるのがわかりました。

2.そこで、通常どおりの根管処置を行った結果、4年後CTを撮影してみると、大きな化膿病変が骨に置換しているのがわかります

注)根っこが悪くなり、歯茎が腫れてきたり、膿の出口が形成されるのは、殆どの場合、唇側(頬側)の歯茎です。理由は、舌側に比べて、唇側の歯の周りを支えている骨量や歯茎が薄いことが考えられます。東洋人はほとんどそうです。そのため、過度のブラッシング圧や歯ぎしり、くいしばりの習癖によって、唇側の歯茎が退縮しやすいと考えられています。最低、こういった解剖学的ことをを理解していないと、応用であるインプラント治療や矯正治療に問題がでるかもしれませんね。
術前
術前CTリアル画像

術前前頭断CT
4年後
同4年後
同4年後

症例63
両側鼻性由来+歯性由来(右上6,7番、左上5,7番)の急性上顎洞炎(蓄膿症)
50代女性

≪治療経過≫
1.左右の後鼻漏、鼻ずまり、頭痛、歯茎の腫れを主訴に当医院を受診されました。平面的にパノラマレントゲン写真を撮影してみると、鼻の横に存在する副鼻腔とよばれる空間が白く炎症を起こしているのがはっきりとわかります。そこで、左側の6番(6歳臼歯)は、歯が破折し、炎症の原発巣と考えられるため、まずそこを抜歯しました。1週間後、抜糸をし、治療方針をたてようよと考えていたところ、仕事が忙しいとのことで、しばらく経過を観察することになりました。

2.2ヶ月後、仕事も落ち着き、左右の奥の違和感も消失しないので再来院されました。そこで、歯科用CTを撮影したところ、唖然としました。自然孔(鼻と繋がる出口)を閉鎖するぐらいまでに上顎洞の粘膜は炎症をおこしているのがわかりました。歯性であれば、右上は6,7番が、左上は5,7番が原因と考えられます。普通は、抜歯勧告されると思います。しかし、そこを全部抜歯してしまえば、入れ歯かインプラントしか道は残されていません。自分の身体に当てはめてみれば嫌なので、ダメ元で再根管治療を勧めてみました。

3.特に左側が著しい症状を訴えっていたため、左からやることにしました。被せ物を外してみると、左上5番は虫歯でボロボロ、左上7番の遠心根(奥の根っこ)はパーフォレーションが認められ絶望的な状態と言わざるを得ませんでした。そこで、モニターなってもらう代わりに、自費並の治療をすることを約束しました。7番は4根管性で手前の根っこに2つの根管があり、弯曲根管であることがわかっていましたので、慎重にNTファイルを使用して治療を試みましたが、あろうことか2本ともファイルを折ってしまいました。折ってしまったものはしかたがないので、そのことを患者さんにお話し、無理してとろうとすることとそのままのしておくことの利点欠点をお話したところ放置を選択されました。また、遠心根の前医によるパーフォレーション(穴)は、MTAで埋めることにしました。5番の根管治療も慎重に行い計7回くらいのアポですべての根管治療を終了しました。万が一7番の歯で症状が消失しない場合、奥の手で再植を行う予定でしたが、杞憂に終わりました。土台をたて、仮歯で経過を観ることにしました。

4.1ヶ月後、再度CTを撮影してみると、上顎洞の曇りは消失していませんでした。そこで、鼻性由来も否定できないと思い、耳鼻科に紹介しました。耳鼻科での数ヶ月の抗菌療法が功を奏し、左側の炎症は完全に無くなりました。しかし、右側の炎症は治まらず、耳鼻科からは右上6番による歯根嚢胞の疑いという診断をご丁寧にいただきました。しかし、一般的に生活歯(神経のある歯)に歯根嚢胞は生じないので、粘液嚢胞では?と判断し、もっと怪しい奥の7番の根管治療をまず行うことにしました。この歯も、手前の根っこ(近心根)が弯曲し困難を極めましたが、無事偶発症を起こすこともなく根管処置を終了することができました。1ヶ月後、CTを撮影してみると、未だに上顎洞の炎症像は認めました。

5.最後に、打診もあったため、耳鼻科で指摘された右上の6番の根管処置を行うわけですが、生活歯であったことがどうしても腑に落ちませんでした。しかし、根管処置に関しては、近心根で2根管性を有し弯曲も著しいものでしたが、ほぼ完璧に行えたと思います。

6.さらに1ヶ月後CTを撮影してみると、1年前に比べてはかなり炎症がおさまってきているのがわかります。恐らく右は、6番の歯根嚢胞ではなく粘液嚢胞、7番の根尖病変、と鼻性が原因の上顎洞炎ではないかと今では推測できます

注)非常にためになった症例です。耳鼻科の先生には大変お世話になりました。また、モニターになってくれた患者さんにも感謝です。
術前レントゲン写真
(左上6番抜歯前)
根治前左上5番
根治前左上7番
術前前頭断CT
右上術前矢状断CT
左上術前矢状断CT
左上術前レントゲン写真
右上術前レントゲン写真
左上5番根管治療終了時
左上7番根管治療終了時
術後1ヶ月右上7番
前頭断CT
術後1週間右上矢状断CT
術後4ヶ月左上矢状断CT
術後4ヶ月左上7番前頭断CT
右上6,7番根管治療終了後レントゲン写真

症例64
左下第二小臼歯(5番)の化膿した根っこの治療
 20代女性

≪治療経過≫
1.8年前に左下の頬が腫れて当医院を受診されました。小さなレントゲン写真をとってみると、左下の5番目の歯の根っこの先黒く化膿しているのがわかりました。かなり、化膿病変(歯根肉芽腫)も大きく、抜歯する先生の方が大半を占めるのではないかと当時も今も思います。保存を希望されましたので、治療をするのですが、必ず触る前に、歯がハセツしていたり、根尖が難治性のバイオフィルに侵されている場合は、抜歯になることを予め言っておく必要があります。(後者の場合は、保存を希望されれば、歯根端切除もしくは再植が必要となります。)

2.同意されましたので、慎重に被せもの、土台、前の神経のお薬を除去し、治療を開始しました。

3.すぐに腫れ、疼痛は治まりましたが、根尖孔が破壊されているため、なかなか根尖からの出血がおさまりませんでした。いかに根尖孔を塞ぐかが今回の場合のポイントになります。

4.そこで、水酸化カルシウムを根管につめ、経過をみることにしました。3ヶ月後、全ての臨床症状がおさまったので、最終的な神経にかわるお薬を緊密に根管に充填し、根管処置を終了しました。

5.最後に歯に負担のかかりにくい柱をたてて、その上に被せものを装着し終了となりました。

6.7年後写真を撮ってみると、根尖の大きな化膿病変はきれいに骨に置換していました。完治ということです。


術前
根管治療開始時
根管治療終了時

治療終了後7年
症例65
右下第一大臼歯(6番)穿孔により化膿した根分岐部病変の治療
 60代男性

≪治療経過≫
1.5年前(2009年)、右下の6歳臼歯が腫れて、奥さんの紹介で当医院を受診されました。レントゲン写真から、根っこの股の部分(根分岐部)が、黒く化膿しているのがわかりました。ほとんど場合、抜歯されると思います。本人は、抜歯は希望されず保存を希望されましたので、治療を行なうわけですが、診断がしっかりできないと恐らく上手くいかないと予測できます。歯周病が、原因と考えて治療しても恐らく治りません。原因は、歯内ですから。

2.そこで、被せものを外したところ、ありえないところから出血を認めました。即ち、本来の根管とは違うところに前医が穴をあけてしまったか、虫歯が著しく前回の治療中に既に穴が開いていたか、もしくは前回の治療後経年的な力のせいで穴が開いたかのどれかが考えられます。方針変更です。根管治療だけではなく、ルートセパレーション(歯根2分割)の必要があります。

3.まず、3回で、4根管ほぼ理想的に根管治療を終了させました

4.穿孔部のリペアのため、ルートセパレーションを行い、被せものを2歯分にして装着終了としました。
5.5年後、写真を撮ってみると、分岐部病変は改善していました。しかし、削った時に生じた金属片が骨や歯茎に沈着しているのは否めません。

注)開業してから、少なくとも抜髄根管での穿孔は皆無ですが、卒業したての頃は経験があります。皆一度は経験するのではないでしょうか?もし、今自分が穿孔させれば、あらゆる方法で対処すると思いますが、新卒の場合、焦りでパニックになると思います。どう言い訳をしようかと。自分もそうでした。開き直るわけではありませんが、やったことがない人は、根管治療の難しさがわからないと思います。アメリカのように10万、20万も報酬が約束されているのならいざしらず、日本は保険でせいぜい5000円程度です。いかに日本は、恵まれているかということです。
術前
穿孔部確認
ビタペックス充填
5年後
根充後

症例66
左上6番化膿病変波及による慢性歯性上顎洞炎
 40代男性

≪治療経過≫
1.全顎治療を希望され、当院を受診されました。左上の一番奥の歯は虫歯が著しく進行し、根っこの中の神経が壊疽し、根っこの先が化膿していることが平面的なレントゲン写真からわかりました。また、それが原因で、鼻と繋がっている上顎洞に炎症が波及していることも推測できました。最初から、インプラントを希望されていたため、確定診断をするため、歯科用CTを撮影させてもらいました。

2.読影の結果、上顎洞の粘膜が肥厚し、慢性の上顎洞炎を併発しているのがわかりました。端からインプラントを希望されていましたので、抜歯しインプラントを行なうのもいいと思いますが、複雑な付帯手術(サイナスリフト)の必要、費用の増大、治療期間の長期化、遇発症のリスク、恐らく存命であろう30年後の予後(50代以降ならいいかもしれません。)を考慮し、今回は左上6番の保存処置を薦めてみました。お金だけを追い求めれば、インプラントになるでしょうね。いや、インプラントが正しいのかもしれませんが、患者さんも希望されましたので、保存処置をすることにしました。

3.ラバー下で、NTファイル、ステンレスのファイルを駆使し、3回で根管処置を終了しました。マイクロは使用していません。

4.2ヶ月後、再度CTを撮影してみると、上顎洞の曇りは消失していました。また、根の先の化膿病変も縮小傾向にあるのがわかります。

注)トータル5000円くらいの保険治療です。もし、ここに1〜2本インプラントをすれば、最低70万は恐らく下らないでしょう。しかし、残存歯を保存するという患者さんにとっての一番良い結果を導きましたので、個人的にはお金に換えられない満足感、自信をもたらしてくれたと思っています。
術前パノラマ写真
術前矢状断CT
術前
前頭断CT
2ヶ月後
2ヶ月後
2ヶ月後

症例67
左下6番近心根破折による歯茎の化膿
 50代男性

≪治療経過≫
1.保険外の材質を求められ、当院を受診されました。口の中を視診してみると、まず左下6番の舌側の歯茎が腫れているのがわかりました。レントゲン、CT写真から、手前側の根っこ(近心根)が、黒く化膿しています。一刻を争う状態と言えます。手前の神経のある左した5番の歯に、炎症が波及する恐れがあるからです。この場合、手前の根っこにヒビが入っているため、根っこの治療をしても治りません。この診断ができないと良かれと思って根管治療しても、時間、費用の無駄になるわけです。

2.両隣の歯は、神経のある歯でかつ手前はバージンティースのため、今回はインプラントの適応と言えるでしょう。了解されましたので、抜歯後、インプラントを行いました。

注)いつも、CT、レントゲン、視診で破折を診断できるものではないことは明記しておきます。
術前レントゲン写真
術前矢状断CT
術前前頭断CT
術前水平断CT
抜去した近心根

症例68
上顎洞に突出した右上7番根っこの治療

≪治療経過≫
1.右上の一番奥がズキズキ痛いということで受診されました。レントゲン写真から虫歯が神経付近まで進行しているのがわかりました。保険では、神経の除去が一番の治療法となります。しかし、事前にあることを患者さんに説明してから神経の治療をしないと、違和感があると言われ続ける可能性があります。歯根が上顎洞に突出している歯だということです。CTを撮影しない限りなかなか確定診断は難しいでしょう。

2.案の定、神経を除去しズキズキした痛みは消失したのですが、なかなか打診痛が治まることはありませんでした。

3.最終的に2ヶ月を要し、根っこの治療を終了させ、かぶせものを装着し終了としました。

注)上顎洞に突出している歯根の歯は、神経の処置をした場合、突出していない歯に比べて歯性の上顎洞炎(蓄膿症)になる可能性が高いと言えるでしょう。特に上の奥歯です。個々の解剖学的問題のため、学問的に良いとされている治療を行っても予後が悪い可能性があります。最悪意図的再植法を行なう必要がありますが、できる歯科医は限られるとだけ言っておきましょう。
右上7番
右上6番

症例69
フェネストレーションした右上1番の根尖からはみ出した垂直加圧根充材の除去

≪治療経過≫
1.1年、右上の前歯(1番)の根尖の違和感が消失しないとのことで、当医院を受診されました。小さいレントゲン写真から、過剰に神経にかわるお薬(根充剤)が根尖からはみ出ているのがわかりました。垂直加圧式根管充填法と呼ばれる術式を採用したのだと推測されます。この方法、神経の側枝にも根充を行なうことができること、緊密に根管充填できること、シーラーと呼ばれる接着剤を必要としないこと、時間短縮できること、根尖からはみ出ても経年的に吸収するという利点があると言われていました。しかし、実はトラブルも多い方法と言えます。根尖から根充剤がはみ出る可能性が非常に高いため、感染を根尖外に波及させたり、根尖が骨からはみ出ている歯根の場合、なかなか違和感が消失しないことが多いのです。今回の場合もまさに後者だと思い、CTを撮影した結果、やはり根尖が骨から開窓している歯根形態でした。(フェネストレーション)

2.一般的に違和感は時間と共に消失していくのですが、今回のように年単位で違和感が残存する可能性もあります。そのため、症状が軽減しない場合、根尖よりはみでた根充剤を歯茎を開き外科的に除去する必要があります。もし、根尖病変も認めるようであれば、歯根端切除+逆根充(MTA)も必要になってくるでしょう

3.単独補綴装着の患者さんの希望と1本1本の歯にフェルールがないため、歯冠延長術を行なうついでにはみ出た根充剤をサービスでとりました。

注)デッドスペースを設けることなく、側枝にも根管充填できることが最大の利点と言われていた垂直加圧ですが、オーバー根充の害のほうが大きいと言えるかもしれません。最近の考えでは、側枝の神経は根管貼薬剤(水酸化カルシウム製剤、ホルムアルデヒド系など)、根管洗浄によりある程度死滅、消毒、石灰化されるため、ラテラール法、単一ポイント法の方がトラブルが少ないのではないかと個人的に思います。勿論、熟練した歯科医が使いこなせば鬼に金棒でしょう。私には無理です。笑
術前
術前前頭断CT
     術後

症例70
左上2番(側切歯)歯根嚢胞の根管治療
60代女性
≪治療経過≫
1.左上2番のうわあご歯茎が腫れ、全体的な治療を希望され当医院を受診されました。レントゲン写真から歯の中の神経が既に壊疽し、根っこの先が化膿しているのがわかりました。インプラントも希望されていたため、確定診断でCTを撮影してみると、口蓋側に向って境界明瞭な単胞性の骨透過像を認めます。恐らく、マラッセの上皮遺残の関係した歯根嚢胞でないかと推測できます。外科が得意な先生であれば、抜歯→インプラントもしくは歯根端切除術を選択するでしょう。私は、一通りのことはできるという自負はありますが、できれば、上記の処置はいつも最終手段にしたいと常々思っています。なぜなら、処置が複雑化し感染リスクが高いこと、費用がかかること、外科的侵襲が大きいこと、10年後の予測がつきにくいことなどが挙げられます。患者さんは保存を希望されましたので、まずは上からの根管治療を優先することにしました。実は、かなりの勝算は頭の中で思い描いていました。理由は、歯髄壊疽による歯根嚢胞だからです。

2.まずは急性症状を抑えるために切開、排膿を促し、抗生物質を服用してもらいました。2回目からラバー防湿下で、根管治療を開始しました。

3.しばらくの間(3ヶ月)、水酸化カルシウム製剤(ビタペックス)を貼薬し、経過観察後、問題がないことを確認して最終的なお薬を充填しました。

4.半年後、別の部位のインプラント埋入確認で、CTを撮影してみると根尖の黒い病変はほとんど消失していました。

注)前歯部の審美インプラントは、かなりアドバンスなテクニックを要します。選ばれしものだけが行えると言っても過言ではないでしょう。なぜなら、東洋人の前歯の周りの骨、歯茎は非常に薄いことが多く、骨移植、歯茎の移植が必要になってくることが多いからです。それらの付帯手術をいつも感染を生じさせることなく、確実に行える歯科医は限られます。うまくいかなかったときのダメージは患者さん、術者共に計り知れないでしょう。また、上手くいったとしても、吸う動きによる口輪筋の影響、オーバーブラッシングなどの影響により、唇側の歯茎が退縮したり骨が吸収したりする経過も否定できないでしょう。西洋人とは違うのです。

術前レントゲン写真
術前前頭断CT
根充後
術後6ヶ月のレントゲン写真
術後6ヶ月の前頭断CT

症例71
左上1番歯根嚢胞、左上2,3番フェネストレーション、右上2,3番プア根充
60代女性
≪治療経過≫
1.4年前に下顎のインプラントを行い、定期検診に移行した患者さんです。今回、左上の前歯(1番)の根元の違和感が気になるとのことで、レントゲンならびにCT写真で確認することにしました。上の前歯は、右上の1番が欠損、右上3番〜左上3番までの6本ブリッジが装着されていました。
レントゲン写真ではなかなかわかりずらいことも、特に硬組織に関しては、CTでは明白となります。読影の結果、左上1番の根尖にかなり大きな骨透過像有する歯根嚢胞の存在、左上2,3番はフェネストレーションを考慮した根尖1ミリアンダーのきっちりとし根管充填がなされていること並びに右上2,3番はプアな根管充填がなされ、特に左上3番の根尖には化膿病変が存在することがはっきりとわかりました。そこで、ブリッジを撤去し再根管治療を薦めたところ、了解されましたので行なうことにしました。やる前から、かなり困難な症例であることはわかっていましたが、いつもどおり真面目で信頼してくださる方には、ストレスもかかりますが、自分のもてるすべてをを出しきって治療するようにしています。今回の治療のポイントは、再根管治療を行わなければならない右上2,3番並びに左上1番の長い土台(コア)を歯根を傷つけずに除去できるかどうかということです。恐らく、10年前の私であれば躊躇し、予後の悪い歯根端切除術を採用したと思いますが、今はマイクロスコープ、超音波機器の設備が整っているので、穿孔させずに根管治療(歯内療法)で勝負できるというある程度の自信が備わっていると思います。

2.困難になるであろうと思えた土台(コア)の除去ですが、左上1番と右上3番に関しましてはダブルマイナスドライバーテクニックであっさり取ることができました。右上の2番に関しましては、無理せずマイクロスコープ下で、除去用バーと超音波機器を使用し、15分くらいで無事撤去することができました。

3.次に根管治療に入るのですが、右上の2,3番の根管は石灰化、弯曲が著しく、かなりの困難を極めました。しかし、ニッケルチタンファイルの使用により無事根管を穿通させ、根管処置をほぼ完璧に行えたと思います。歯根嚢胞を有する左上1番は、簡単でした。(笑)。

4.コアを直接5本の歯にビルドアップし、仮歯で5ヶ月経過観察することにしました。

5.5ヶ月後、CTを撮影してみると、歯根嚢胞、根尖病変は縮小していましたので、恐らく最後の治療になるであろうこれらの歯にフェルールを持たせるため臨床歯冠延長術を施術しました。もし、CTで嚢胞の縮小傾向を認めなければ、歯根端切除術も同時に行なう予定でしたが、杞憂に終わりました。

注)左上の2,3番は、前医により理想的な根管充填がなされていると言えます。フェネストレーションを有する歯は、根管充填がレントゲン上1ミリぐら不足しているのが理想的と言えるでしょう。アンダーと思って症状もないのに再根管治療し、レントゲン上ジャスト根充すると違和感がとれないと言われ深みに嵌る可能性があります。術前にCTを撮るか撮らないかで、違った結果になることも容易に想像できます。保険では、条件が限られた場合しか請求ができませんので、わからなくても医療ミスではないのです。
最後に左上の2,3番の再根管治療はしませんでしたが、感染を防ぐためには、根管形成したらすぐにコアの直接法ビルドアップが一番理想的だと思っています。その間のうがいはNGです。間接法は、きっちりと仮封しないと後々問題が出てくる可能性も否定できないでしょう。
術前パノラマ写真
術前右上3番前頭断CT
術前右上2番前頭断CT
術前左上1番
前頭断CT
術前リアルCT画像
術前右上2,3番
デンタル写真
術前左上123番
  デンタル写真
根充後右上2,3番
デンタル写真
根充後左上123番デンタル写真
根充後
左上1番前頭断CT
根充後5ヶ月の
リアルCT画像
根充5ヶ月後右上3番
根充5ヶ月後右上2番
根充5ヶ月後
左上1番
左上2番
前頭断CT
左上3番
前頭断CT

症例72
右下6番(6歳臼歯)の化膿した根っこの治療(巨大根尖病変)
10代男性
≪治療経過≫
1.右下の奥歯が腫れて受診されました。レントゲン写真を撮影してみると、絶句です。前医の治療に関しましては、敢えて言いませんが、根っこの周りがかなり大きく化膿しているのがわかります。また、CTからは顎の神経まで化膿病変が進行し、いつ顎の痺れがでてもおかしくない状態でした。動揺も著しく、10人中7人くらいは恐らく抜歯と宣告するでしょう。しかし、まだ小学生です。抜歯した場合、将来大変なことになることは目に見えています。そこで、この歯をなんとか保存するためには、精度の高い根管治療が必要となってきます。因みに私は、全くと言ってい程、治療には不安はありませんでした。90パーセント以上の確率で治せるという自信はありましたが、後は保護者がどう判断するかとうことでした。しかし、抜歯してくれと言われれば、転医を促します。もし、抜歯した場合、両隣在歯を支えとしたブリッジとなるわけですが、完全に歯がでてきていないことと、根が未完成のため、治療進行に困難を極めることが予想できます。将来、入れ歯に加速的に近づくでしょう。保護者は、保存を希望されたため、保存治療を開始しました。

2.まず、切開、排膿を促し、投薬処置を行いました。そして、急性炎症が消失してから、根管治療を開始しました。ところが、若いにもかかわらず、根管が弯曲、狭窄、石灰化しなかなか根管が穿通しません。NTファイル、Hファイル、RCプレップを駆使し、ようやく4根管ともに開通させ消毒、清掃が可能となりました。恐ろしく神経を使った記憶があります。ファイルハセツ、人工根管の形成などの遇発症も頭をよぎりました。完治させるには、一つのミスも許されないのです。幸い5回の処置で根管治療を終了ししばらく経過観察することにしました。

3.4ヶ月後、CTを撮影してみると、巨大な根尖病変は消失傾向にあるのがわかります。少年の明るい未来に貢献できたと思いました。お金では得られない満足感でしょうね。

注)コーンビーム歯科用CTの被曝に関して気にされる方がいると思いますが、1回の撮影で約0.1ミリシーベルトです。日本〜ニューヨーク間の飛行機での往復の際の被曝量とほぼ同等と言われています。
一般的に我々は、年間平均約2.4ミリシーベルトの自然被爆に晒されています。また、食物の摂取、やタバコの喫煙などの影響により内部被爆もしています。では、自然被爆や内部被爆以外にも職業柄、外部被曝が高いとされている放射線技師やパイロットがガンになりやすいかというと一般人と有意差はありません。瞬間的に浴びる高い被曝量(100ミリシーベルト以上)が問題となることを理解しておくべきです。また、地域、国によっても年間自然被曝量が違います。粉塵をよく出すあの国の被曝量は、日本に比べてかなり高いです。そのため、日本での被曝が怖いからといって、もともとの自然被曝量が多い国に飛行機に乗って疎開するのもおかしな話と言えるでしょう。マスコミに踊らされず、何が正しく、何が間違っているのかをしっかりと分析し判断する必要があります。
微々たる被曝量(DNA、健康に影響を絶対に及ぼさないレベル)によって、確実な診断、経過を把握できる歯科用CTは、患者さんにとっていろいろな福音をもたらすことは紛れもない事実だと思います。それでも、被曝が怖いという方は、手探りで治療してもらっているのとかわらないと言っておきましょう。ミスされても仕方のないことでしょう。因みにデジタルのレントゲン写真は、ほぼ被曝量はゼロだといっておきます。そのため、歯科での放射線は、神経質に考える問題ではないと考えています。(院内で、一番被曝が大きいとされているレントゲン、CT室にフィルムバッジを常時おいて、2年間、被曝試験を行いましたが、検出できないほどの放射線量でした。)

術前レントゲン写真
術前前頭断CT
根管治療開始時
根充後
4ヶ月後前頭断CT

症例73
右上4番の化膿した根っこの治療
60代女性
≪治療経過≫
1.右上の4番(第一小臼歯)の根尖部歯茎が腫れて、当医院を受診されました。小さいデンタルレントゲン写真を撮影してみると、根っこの先が黒く化膿しているのがわかりました。以前の治療は、悪くありません。寧ろ上手だと思いますが、前医の努力が報われなかったということです。本当に根管治療は難しいと言える象徴の症例と言えるでしょう。学問的に問題がない完璧な根管処置でも後年問題が生じてくることは自分の例も含めて、多々経験します。また、いい加減な根管処置でも問題が生じてこないことも多々経験します。今回の場合、運悪く、いろいろな要因で感染が生じたと説明してから治療に入りました。

2.ただ、根管治療が上手な先生は、穿孔や根をハセツさせずに短時間でコアを撤去するのが私のような凡医に比べて、格段に上手いことは断言できると思います。今回の場合、メタルコアより面倒なCRコアの撤去です。超音波機器を使用し、慎重にコアを除去しました。恐らくできない歯科医は、何の努力もせずに、抜歯を一番に選択するでしょう。笑。

3.5回の根管処置で、臨床症状が軽減したため、銀歯を被せて終了しました。

4.3ヶ月後、定期検診で小さいレントゲン写真をとってみると、根尖病変はほぼ消失しているのがわかりました。

注)この症例は、私が歯科医のレベルを計るときの指標(コア除去、根治のやりかた、新しいコアの位置、適合、被せものの適合、根尖病変の縮小度など)と言えます。もし、これを治療せず、抜歯しインプラントを行なう歯科医なら、恐るるに足らずです。根管治療で治せる歯科医のほうが、私には脅威に感じます。しかし、簡単なこの症例も圧倒的に治せない歯科医の方が多いのも現実でしょう。できもしないのに批判ばっかりして、実力のなさをブランド品、高級車、七光り、たわいもない自慢で補う歯科医がなんと多いことか。身近でそんな人を見てきましたが、反面教師になっていることは言うまでもありません。

症例74
右上1、2番歯根嚢胞、長い金属ポストコア、プア根充
50代女性
≪治療経過≫
1.右上の前歯の上あご(口蓋側もしくは舌側)が、腫れて当医院を受診されました。一般的に前歯部は、歯茎の薄い頬側(唇側)で腫れてくることが多いのですが、歯茎の厚い口蓋側で腫れる場合、切歯管嚢胞を鑑別診断に入れる必要があります。そこで、レントゲン写真並びにCTを撮影し確認してみると、右上1,2番の根っこの先が黒く大きく化膿しているのを認めました。歯根嚢胞もしくは歯根肉芽腫だと思います。かなり大きく、抜歯も視野にいれなければいけない状態と言えます。保存を希望され、上からの根管治療を行なうにも、長い金属の土台(ポストコア)装着のため、撤去は困難をみることは容易に想像できます。そう考えると、保存を希望されれば、歯根端切除術を行なうことも視野にいれなければいけませんが、上手くいかない場合、頬側(唇側)の骨も失います。非常に難しい判断を要する症例と言えるでしょう。最終的にはわざわざ隣の市から来られましたので、根ハセツというリスクもありますが、コアを撤去し先ずは根管治療で勝負することにしました。

2.プアーな根管充填、長い金属の土台の上に高価なセラミック修復。自分なら怖くて、セラミックは薦められません。まあ、問題がでないこともありますが、90パーセントくらいの確率で抵抗力が弱れば問題が出てくる可能性が高いと言えるでしょう。一方、学問上素晴らしい根管充填でも、問題が起こることも多々経験しています。即ち、神経をとらないに越したことはないということです。
先ずは、切開排膿を促し、抗生剤を処方し、急性症状を緩和させることにしました。

3.次に、慎重に被せもの、土台を撤去し、根管治療を開始しました。この柱をキチンと取れる歯科医は限られると言っておきましょう。

4.3ヶ月ほど、水酸化カルシウム製剤(ビタペックス)を仮充填し経過後、根管充填を終了しました。

5.1年後、CTを撮影してみるとかなり根尖病変は縮小改善しているのがわかります。ある文献によると4年で成否がわかるということですが、自分の臨床観も近いかもしれません。しばらく、経過を追う必要がありますが、仮にインプラントになったとしても、大変な骨移植の可能性も低いのではないかと思います。

注)水酸化カルシウム製剤を押し出すと、良くないという風潮が見受けられますが、この意見に対しては私は否定的です。水酸化カルシウム製剤でも吸収しやすいものと吸収しにくいものがあります。私が好んで使用するビタペックスは前者で、歯根嚢胞系の根尖病変にはかなり有効な薬剤だと個人的には考えています。確かにホルムアルデヒド(化学物質過敏症)やヨードに敏感(甲状腺疾患)という人には使用を回避しますが、健常な人なら第一選択に使用すると言っても過言ではないでしょう。
やたらと、ホルムアルデヒド系に対して発癌性があると主張する人がいますが、ガス滅菌で使用されている薬剤もホルムアルデヒドです。肝炎の消毒に使用される薬剤もグルタールアルデヒドと呼ばれるものです。恐らく、知人の内科医の話では、胃カメラの消毒もその類じゃないかと思います。
量の問題だと思います。ものすごく過敏な人は受付で申し出てください。まあ、そんな人の根管治療やりたくないのが本音ですが。勿論、後者のカルシペックという非アルデヒド系の水酸化カルシウム製剤も使用しますが、嚢胞系の治療に使用したことは私はありません。これこそ、間違って根尖から押し出すと問題を起こす可能性は否定しません。他人に言われて、自分の確立した根管治療のスタイルは壊したくないと思っていますので、ここは曲げられないところと言えます。少なくともビタペックスは、自分の家族にも間違いなく使用すると断言できます。

症例75
右上4番の化膿した根っこの治療(NOT OPEN)
30代女性
≪治療経過≫
1.右上の4番目の歯の根尖付近の歯茎が腫れて、当医院を受診されました。レントゲン写真、CT写真からも根っこの先が化膿し、上顎洞に炎症が波及しそうな勢いであることがわかりました。根管治療の不備によるもの、もしくは歯根のハセツによるものかどちらかが考えられます。歯根を囲むように骨透過像を認めるため、後者の可能性も否定できませんが、まずは根管治療を行なうことにしました。

2.被せもの、土台を外し、根管治療を開始しました。ところが、根管が弯曲し、石灰化しているため根尖まで穿通することができません。しかし、十分にネオクリナーで消毒後、水酸化カルシウム製剤を貼薬した結果、アブセスは消失しました。無理に穿通する必要はありませんでした。

3.4回の貼薬後、臨床症状がないことを確認し、入るところまで根管充填を行い、被せて終了としました。

4.半年後、レントゲン写真、CTを撮影してみると、きれいに根尖付近の化膿病変は完全に消失していました。

注)根尖まで穿通できなくても、十分な消毒によって、根尖病変が治ることがあるという証明です。
実は、偏性嫌気性菌に強い3種類の抗生剤をブレンドしたものに揮発材を加えたものを最後に貼薬したことが良かったのかもしれません。母校の保存科、細菌学の教授が共同開発し、ブレンドした抗生剤に、仙台の開業医の先生が改良を加えたものです。敢えて名前は出しませんが、テレビなどで魔法のような治療法としてよく紹介されています。信じるも信じないも個人の問題だと思います。因みに私は、正攻法で治療しますので、この治療法には依存していません。しかし、否定もしません。治っているケースも多々存在するからです。恐らく、わかっている人がやると上手くいくのでしょうね。
術前
術前矢状断CT
術前水平断CT
根充後レントゲン
半年後レントゲン
同矢状断CT
同水平断CT

症例76
根尖孔が開いた左上3番歯根嚢胞の治療
60代女性
≪治療経過≫
1.全顎的に定期検診を7年前から行っている患者さんです。左上の犬歯が腫れて、再受診されました。もともとCT精査で根っこの先が大きく化膿していることは把握していたのですが、症状もなくセラミックの歯が入っているため、患者さんはその時は治療を希望されませんでした。実は私自身も、再治療に対して消極的でした。レントゲン写真をみればわかるように、かなり大きい根尖病変の影響で根っこが短くなり、かつ根尖がラッパ状に開いているため、再治療の際して抜歯の危険性が出てくるからです。抜歯し、ブリッジもしくはインプラントに移行する先生の方が多数を占めるのではないでしょうか?患者さんも症状が出たときは、抜歯は不回避と諦めていましたが、保険外の被せものをすることと挺出矯正をするいう条件で保存治療を開始しました。根っこの治療は保険です。

2.慎重にハセツさせることなく、土台、被せものを除去し、根管治療を開始しました。アブセス、フィステルは容易に消失しましたが、、根尖がラッパ状に開いているため、なかなか出血、滲出液を抑えることが困難でした。また、あろうことか、無造作にエアーシリンジを使用したせいで気腫を発生させてしまいました。普通あれば、不信感が募るはずですが、十分すぎる説明を行っているため、抗生剤の処方で事なきを得ました。本などに載っている実物写真をみせるのがいいかもしれません。気腫とわからないでパニックになる先生の方が多いと思いますが、経験することは重要だと思います。経験したくはありませんが、私は過去3回くらい経験があります。(根管治療2回、抜歯1回)

3.無事気腫も消失し、根管治療を再開するのですが、やはりラッパ状に開いた根尖の閉鎖に頭を痛めます。そこで、水酸化カルシウム製剤の貼薬で1ヶ月経過観察し、炭酸ガスレーザー照射+少量のテル○○○+○T○+GPを使用し、根管処置を終了しました。一切の臨床症状は勿論ないことを確認しています。

4.プチ部分矯正、歯肉切除を行い、最終的にオールセラミックを装着し終了としました。トータル期間5ヶ月

5.半年後、CT写真を撮ってみると、根尖病変はほど完治していました。患者さんも体調を崩したときに生じる違和感も皆無になったとのことです。

注)このケースは、二次虫歯があり、フェルールがないので、個人的には歯根端切除を採用しません。もし、私が外科処置で対応する場合、意図的再植法を用いると思います。しかし、今回行った方法が、自分の中ではベストな方法だと疑いの余地はありません。尚、根管治療の前準備である隔壁を作ってのラバーダムは、行っていません。顎が外れそうな人(習慣性の人に対して過去3回整復経験があります。)、防湿ができやすい部位、ゴムアレルギーの人、顎関節症で口があきにくい人(ファイルを折るリスクがあります。穿孔のリスクもあるでしょう。)、拒否する人にはラバーダムは使用していません。装着しなくても多々治ることも経験していますし、装着しなくて問題がでたケースもあると思いますが、保険では麻酔、ラバー装着はサービスとなっていることを十分に患者さんは理解する必要があるでしょう。
術前
術前矢状断CT
術前リアルCT画像
根管治療開始時
根充時
挺出矯正時
オールセラミックセット時
半年後レントゲン写真
半年後矢状断CT
半年後リアルCT画像

症例77
左下側切歯(2番)の偽根管の補正
70代女性
≪治療経過≫
1.定期検診を長年続けている方です。この度、左下の1番、2番の歯頸部カリエスが著しく被せものをやり返すことにしました。以前からのレントゲン写真から、左下の1番はコアの適合がよくなく根管の中が空洞になっているのが、また2番は神経の処置が上手くできていないにもかかわらず根尖が悪くなっていないことがわかっていました。連結固定で補綴が処理されていましたので、触ることによってのメリットとデメリットを天秤にかけ、定期検診で経過を診ていました。
今回は、歯頸部カリエスによる歯冠崩壊並びに歯根ハセツのリスクが高くなったため、被せものを外し、まずは根管治療を開始することにしました。

2.やはり、どちらの歯質もかなり老朽化しているのがわかりました。左下1番の方は、特に根管処置に問題がないため、十分なネオクリナー洗浄、炭酸ガスレーザー照射並びにアクセルによる接着力の増強処理後、直接レジンコアをビルドアップしました。

3.次に左下2番に移るわけですが、レントゲン写真から人工根管形成の可能性を認めます。もし、人工根管による穿孔(パーフォレーション)が存在する場合、レントゲン上で穿孔部が黒く透過像を認めるか腫れなどの自覚症状を訴えるはずです。そのため、今回は例え人工根管が存在しても、うまく処理できると思いました。そこで、マイクロスコープを使用しながら、以前の根充剤を除去し、根管治療を開始しました。

4.案の定、穿孔による出血は認めませんでしたが、本来の根管がわかりません。この場合、根尖に病変が存在しないので、保険であれば無理せずやれる範囲で根管処置を終了するのが良いかもしれません。これを過信し、良かれと思って深追いすると痛い目にあうこともあるでしょう。特に高年齢の方の下の前歯の最初の根管処置は困難なことが多いです。

5.そこで、お金にはなりませんが、一旦冷静になり、2番の歯牙解剖をCTで精査することにしました。その結果、人工根管は唇側に形成され、本来の根管は若干舌側よりにあることがわかりました。もし、レッジによる人工根管形成であれば本来の根管を見つけることは困難ですが、起始点が同じくらいなので、もう少しマイクロを使用すればなんとかなると思いました。

6.慎重にマイクロ下で、超音波機器で根管口を探索し、無事1回で根管形成、十分なRCプレップ、ネオクリナーによる消毒洗浄後、根管充填を終了しました。

注)20分くらいの数をさばく保険治療で、一つのミスもせず、完璧に近い仕事をする人は、ほぼいないと思います。もし、そういうことを可能にする場合、最低、設備、ツールや有能な人材の確保は必要条件かもしれません。
別に今回の場合、無理に保険で根管治療をしなければいけないわけではありませんが、嫌のことや困難なことにいつも目を背けていれば、私のように持って生まれた才能がないものは恐らく上達しないでしょう。
術前
根管治療後

症例78
右下2〜左下3番縁下カリエスの抜髄治療並びに歯冠延長術
70代男性
≪治療経過≫
1.今(2014)から5年前、下の前歯がズキズキ痛く何とかして欲しいとのことで来院されました。レントゲン写真からも、虫歯が著しく進行し、保存は不可能のように思えます。まあ、妥協的に虫歯を残して差し歯をいれる分にはできないこともないかもしれませんが、やはりすべての虫歯を取りきって被せた方が予後は良いと思います。一般的に下の前歯は、唾液腺の開口部が近くに存在するため、虫歯になりにくい部位です。この部位が虫歯になりやすい人は、もともと歯質が弱い人か、唾液分泌のわるい人(先天的またはよく噛まない人など。)かもしくは降圧剤、利尿剤、精神安定剤などの多くの薬を服用している結果、副作用である唾液分泌が減少している人と言えます。この方も降圧剤を服用していました。時間があり、保存を希望されましたので、正しいとされる治療法をモニターで行なうことにしました。

2.まず、ズキズキ歯が痛むということで、神経処置を行いました。さほど狭窄傾向もなく、3回程で問題なく終了することができました。次に虫歯を徹底的に除去するわけですが、根っこだけの状態になってもまだ完全にとりきれません。そこで、フェルール獲得(帯還効果)、縁下カリエス(虫歯)完全除去のために、相対的に外科的に歯を出す歯冠延長術を採用することにしました。口の美容整形を目的にしていませんが、亜型と言っておきます。上の歯茎が見える人(ガミースマイル)にも適応が合えば行なうことは可能でしょう。

3.歯茎を開き、歯の周りの骨を除去し、相対的に歯を伸ばしました。モニターのため、15分くらいで急いでしましたので、今思えばナート(縫合)が雑です。反省すべき点です。

4.一ヶ月後、歯茎がしっかり固まったことを確認し、最終的な保険の修復物を入れて終了としました。

注)ほとんどの外科処置をしたとき、私は、糸で縫合したり、炭酸ガスレーザーを照射する癖がついていますので、後出血をほとんど経験したことがありません。因みに、糸で縫合したり炭酸ガスレーザーを照射することは、保険点数にはありませんので、やるもやらないもその医院次第と言えるでしょう。
ところで、昨今、インプラント手術において歯茎を開かず行なうフラップレスという手法が脚光を浴びていますが、簡単な歯周外科、水平埋伏の親知らずの抜歯や縫合をできない先生が、果たしてトラブルなく上手くいくとは到底思えません。不測の事態のときには、必ず歯茎を開いたり、縫合する必要があるからです。そのため、私は、予期せぬ状況に備えて、保険でも日々の臨床で外科訓練を積んでいるつもりです。
術前右下
術前左下
根管治療後の
口腔内写真
歯冠延長術直後
の口腔内写真
1ヶ月後
最終修復物装着後

症例79
右上5番歯根嚢胞の治療(エンド+歯根端切除)、7番起因歯性上顎洞炎のエンド治療

50代女性

≪治療経過≫
1.右上の違和感(鼻閉感、鈍痛、歯の打診痛)を主訴に受診されました。精密診査を希望されていましたので、歯科用CTならびにレントゲンを撮影したところ、右上5番の根尖には歯根嚢胞が、7番根尖起因による歯性上顎洞炎を認めました。右上の5番の歯根嚢胞に関してはレントゲンからおおよその歯科医はわかりますが、7番起因の上顎洞炎はほとんどの歯科医は見過ごすでしょう。仮にきっちりと診断できたとしても、保険で治せる歯科医は、少ないのではないでしょうか?。私も偉そうなことは言えませんが、相当根管治療や外科処置にに強い歯科医しか無理なのではないかと想像できます。そこで、治るという確証はありませんが、とりあえず上からの根管治療を行なうことにしました。

2、まず、もっとも症状を訴えた5番の根管治療を開始しました。レントゲン写真からもわかるように土台の撤去は恐らく困難であろうと予測していましたが、ダブルマイナスドライバーテクニックであっさりと外すことができました。保険ではいかに土台の撤去に時間をかけないかがポイントと言えます。幸い4回のアポイントで根管処置を終了としました。

3.4番に土台をたてて仮歯を装着し、経過観察している間、奥の6番、7番の根管治療に移りました。これらも問題なく5回のアポイントで終了し仮歯で経過をみることにしました。

4.半年後、レントゲン写真をとってもると、依然として5番の根尖の透過像は縮小していませんでした。やはり、一筋縄ではいかないと思いました。そこで、最終手段である歯根端切除術を採用することにしました。なかなか深くまで麻酔を奏功させるのが難しいのと止血が困難なため、できればいつもやりたくないと思っている処置です。今回も、いろいろな困難はありましたが、無事逆根充も行い、腫れはしましたが事なきを得ました。

5.2年後CTを撮影してみると、上顎洞の炎症はおさまり、5番の歯根嚢胞もかなり消失しているように見えます。臨床症状も皆無のため、経過もいいということです。

6.さらに1年後小さいレントゲン写真をとってみると、5番の嚢胞は完治しているように思えます。

注)因みにこの方、耳鼻科も受診されおり、アレルギー性鼻炎か花粉症をを患っているため、若干健常な人に比べて上顎洞粘膜の肥厚を認めるのかもしれません。あと、風邪をひいている時も、上顎洞の粘膜は肥厚するので、そのときに提携病院で医科用CTをとってもらう歯科医院は診査診断が確実でないと言えるでしょう。だから、いつでも瞬時に低被爆で撮影できる歯科用CTは重宝なのです。勿論、最低限の解剖学的なことを把握していないと猫に小判ですが。
術前矢状断CT
右上レントゲン写真
術前右上7番近心根前頭断CT
術前右上7番遠心根、口蓋根前頭断CT
術前右上5番前頭断CT
右上5番根充後半年
右上5番歯根端切除直後
術後2年
術後3年

症例80
右上4番根尖病変根管治療+近心パーフォレーション(穿孔)のリペア修復

50代男性

≪治療経過≫
1.右上の4番の歯茎の腫れを主訴にトータル的な治療を希望され当医院を受診されました。最初から、保険外の修復物を希望されたため、歯科用CT並びにレントゲンでまず精査することにしました。その結果、右上4番は、プアな根管治療のため根尖に大きな病変ができていることと、人為的なミスなのかどうかはわかりませんが、歯にパーフォレーション(穿孔、穴)が形成されているのがわかりました。今回の腫れの一番の原因は後者と考えられます。普通(保険)であれば、抜歯が適応となりますが、術者の技術、使用する材料によっては違った結果になることも多々あります。今回、最初から保険外の材質を希望されたこと、遠方からはるばる来院されたことを十分に考慮し、抜歯→インプラントもしくはブリッジではなく保存治療を行なうことにしました。やり方は、根管処置→MTAによるパーフォレーションリペア→歯周外科時に直視下でMTAの研磨を行う治療計画を立てました。

2.まず、修復物を慎重に除去し、隔壁形成後ラバー下で根管治療を開始しました。予想通り近心壁にパーフォレーションを認めました。パーフォレーション部は、炭酸ガスレーザー照射により不良肉芽を除去、止血後、十分にネオクリーナーで洗浄し、水酸化カルシウム製剤をしばらくの間充填することにしました。

3.3回のアポイントで臨床症状が改善したため、まず根管充填を行い、ついでパーフォレーション部には十分ネオクリーナー洗浄後、再度炭酸ガスレーザーを照射し、テルプラグを一層下敷きにしてMTAを過不足なくマイクロ下で充填し、上からの処置は終了としました。

4.3ヶ月後、歯周病の治療も兼ねて、歯周外科を施術しました。その際、パーフォレーション部からでたMTAを専用バーで研磨しました。

5.3ヶ月後、右上の5番の再根管治療時に撮影したレントゲン写真から、右上の4番の根尖病変の改善並びにパーフォレーション部の不透過像(骨性化)を認める。

注)決まって十分に時間をかけて、最高の設備下で、最高の材料を使用して、十分な報酬が約束されていればできるという人がいますが、普段から真剣に根管治療に取り組んでいないとまず無理でしょう。勿論、有能な歯科医でも、あらゆることを試行しても上手くいかないときもありますが、そこらの自費のときだけいい治療をしようと考えている歯科医よりは確実にいい結果を出すことは言うまでもありません。
術前レントゲン写真
術前パノラマ写真
術前右上4部前頭断CT
術前矢状断CT
3ヶ月後歯周外科時
同右矢状断CT
同右上4部前頭断CT
術後6ヶ月
同パノラマ写真

症例81
左上6番近心根ヒビによる化膿病変に対しての究極歯根端切除術

50代男性

≪治療経過≫
1.7年前に神経の処置をした左上の6番(6歳臼歯)が、丁度歯と歯茎の境目で腫れてきたとのことで急遽来院されました。小さなレントゲン写真からは、特に問題があるように見えませんでしたが、歯科用CTを撮影してみるとはっきりと近心根(手前側の根っこ)を半分囲むように黒い骨透過像を認めました。この場合、悪くなった原因は、近心根のヒビもしくは近心舌側根管の未処理が考えられます。決して歯周病が原因ではありません。そのことがわかっていないと、治療は上手くいかないでしょう。今回の場合は、結論から言うと前者が原因です。そこで、ヒビのいっている近心根の部分的切除と逆根充を行うことにしました。

2.投薬、消炎後、シンマ下でフラップを形成し、ヒビがいっているであろう近心根をピエゾを併用し部分的に切除しました。ついで、不良肉芽を徹底的にパワーエイヒ、タービンで除去し、炭酸ガスレーザーを蒸散を兼ねて術部に十分照射しました。最後に、超音波のレトロチップで逆根充窩を形成し、止血を確認しながらMTAをそこに充填し、フラップを元にもどし、ナート終了としました。

3.3ヶ月後歯科用CTを撮影してみると、部分的抜根窩は骨で満たされてきているのがわかる。即ち、良好な経過をたどっているということです。

注)誰に教えてもらったわけでもなく歯根端切除術を初めて行ってから15年以上が経ちますが、紆余曲折の歴史のように思えます。しかし、昨今、マイクロスコープ、炭酸ガスレーザー、ピエゾ、歯科用CT、MTAなどの出現により、歯根端切除術の予知性を変えたといっても過言ではないでしょう。
術前
同矢状断CT
同前頭断CT
近心根部分切除後
同矢状断CT
同前頭断CT
3ヶ月後
同矢状断CT
同前頭断CT

症例82
右上4番化膿病変に対して修復物を撤去しない、マイクロスコープ下での最小限低侵襲根管治療

40代女性

≪治療経過≫
今から8年前(2008年)、右上5番欠損に対して右上4番と6番でブリッジ処理しました。当時、ブリッジの支えとなる右上4番の根っこの治療は十分とは言い難い治療でしたが、根の先は化膿しておらず、土台の撤去による歯根ハセツなどを考慮し、再根管治療はしませんでした。ところが、修復治療5年後、舌側にフィステルを形成し、レントゲン写真上、黒く根っこの先が化膿しているのがわかりました。ブリッジによる支台の過重負担による根尖病変の出現と言えます。このように根管治療が不備であった歯は、力の問題、宿主の抵抗力の低下などにより、以前は問題がなかったにもかかわらず、問題が突然出てくるようになることもよく遭遇します。やはり、過不足なく根っこの先までお薬が入っているにこしたことはないということです。真面目な方でしたので、マイクロスコープ下で最小限の低侵襲の根管治療を行うことにしました。
やり方は、被せものを外さずにマイクロスコープ下で最小限に被せものに穴を開けて、根管治療を行うというものです。外科でいうところの腹腔鏡手術、脳神経外科でいうところの鍵穴式手術に類似している手法かもしれません。勿論、生死にかかわりませんが、失敗すれば歯に穴を開けてしまい抜歯となります。ですから、CT診断ができ、そこそこマイクロスープ下で治療できる先生以外まずできない治療法でしょう。
CT写真を撮影してみると、舌側の根管が未処理であることがわかりました。これが一番の原因と考えられます。そこで、マイクロスコープ10倍下で、ドリル、超音波機器を使用し慎重に舌側根管を探索しました。簡単に見つけることができ、あとは通常の根管処置を行い、治療するのに穴を開けた部分はプラスチックで充填して終了としました。4回のアポイントを要しましたが、無事フィステルも消失し、事なきを得ました。
なぜ、この治療を採用したかというと、以前に当医院で入れた保険のブリッジの精度がいいこと、私に気に入られた患者さんだからでしょう。普通は、被せものを外しての再治療となります。外科でいえば開腹処置に似ているかもしれません。まあ、この手の治療法は自費の根管治療をするところであればなれているかもしれませんが、10万は下らないでしょう。今回は、自分もできるよという証明のためにモニターになってもらいましたので、別に自費での根管治療ではありません。

注)ラバーはして治療しています。勿論、ポストも除去し頬側の根管の再治療も行っています。

症例83
右上中切歯(一番) 外傷により生じた化膿病変の根管治療 
20代女性
≪治療経過≫
右上の中切歯(1番)の根尖部歯茎が腫れて、当医院を受診されました。過去に歯をぶつけた既往があり、そのことが原因で歯の神経が壊死→壊疽し、根っこの先にでかい化膿病変が出現したと考えられます。壊疽している歯の色は、変色しているのが特徴です。当該歯もやや黄色く変色していました。怖い話ですが抜歯したり、大学病院に送るケースかもしれません。しかし、残念なことに石川県には歯学部が付属した大学病院がありません。そのため、根っこの治療を専門に行う先生は大学病院付属の歯科口腔外科にはいないと思います。しかし、これぐらいの壊疽性病変であれば、そこそこ根管治療に精通した開業歯科医であれば簡単に治すでしょう。少なくとも左側の2本の根管治療を以前にした先生であれば、問題のないことでしょう。学生さんだったため、もし今後定期検診をするのであればそこの医院に通うのが賢明かもしれません。私は、上手なものは上手と言いますから。他人を批判して自分を高める行為は一番嫌うところです。患者さんのためにはなりません。
そこで根管治療を始めるのですが、この手のケースは、水酸化カルシウム製剤をしばらくの期間、貼薬して経過観察するほうが一般的に賢明かと個人的に思っています。3ヶ月後、病変の縮小や臨床症状がないことを確認して、最終的な根っこの薬を充填しました。さらに4ヶ月後、CT前頭断で確認してみると、ほぼ化膿病変が消失しているのがわかります。若いだけあって治りがほんと早いです。今回は神経処置をするために穴をあけたところは、プラスチックで充填して終了としましたが、自費治療を希望されれば、漂白という選択肢もあります。しかし、私は失活歯の漂白は今のところやる気がありませんので、うちでは無理ということです。漂白に熟知した先生がやれば問題ないのかもしれませんが、希に歯根吸収を起こしたりすることがあるらしいですから注意は必要でしょう。
術前
根充後
十ヶ月後
術前前頭断CT

症例84
左下第一第二小臼歯(4、5番)の巨大化膿病変の根っこの治療
 
60代男性

≪治療経過≫
左下の奥歯付近の歯茎の違和感を主訴に当医院を受診されました。レントゲン写真を撮影してみると、かなり大きな化膿病変が存在しているのがわかりました。季節の変わり目、免疫力が低下すれば、必ずといっていいほど自覚症状が恐らく出るでしょう。その度に病変は大きくなり、顎の神経にまで進行すれば、麻痺や痺れが出現する可能性があります。抗生剤だけ服用しても対症療法にしかなりません。根本的な解決は、歯性感染の原因である歯を抜歯するか感染源を取り除く必要があります。原因歯は、以前に根管治療がされた左下5番と一般的に考えられます。そこで、CTを撮影してみると唖然としました。かなり病変の拡がりも大きく、歯科口腔外科で原因歯の抜歯もしくは全麻下による病変の摘出が一般的ではないでしょうかね?しかし、実は、左下5番だけ処置してもダメなのです。左下4番も原因歯の一つですから。
この診断は、かなり上級レベルです。私も最初左下4番の失活を見逃していました。なぜわかったかというと、左下5番の根管処置をしても違和感が続くと言われて、急遽手前の歯のマイクロスコープによる視診並びに電気歯髄診を行いました。その結果、頬側にマイクロクラックが生じ、歯髄の閾値もかなり低下し打診も認めましたので、根管治療をすることにしました。すると、すべての違和感は消失し、十ヶ月後修復物装着後にCTを撮影してみると、化膿病変はほぼ消失していました。2本の歯の命運が変わったということです。本気で治そうと思えば、報われるということです。勿論、ふざけた患者さん(どこでも治せると勘違いしている人、医院の都合に合わせない人、保険歯科治療をサービス業と勘違いしている人、予約にルーズな人など)は大学病院に紹介です。別に間違った選択ではありません。寧ろ、一般的です。責められる必要もないでしょう。だって例外のないエビデンスのある保険治療(抜歯や外科処置)ですから。だから、私はそんなにできない部類の歯科医ですが、もし可能であり例外の治療(歯の保存や外科処置の回避など)を保険で求められるのなら、できる先生には嫌われないようにする心得も必要だと思いますよ。少なくとも、この症例は誰でもできるものではありません。自費の根管治療でトライする先生はいると思いますが、私のように被せものまで全部保険でやる先生は殆どいないと推測できます。勿論、モニターですので、他の保険患者さんと同じ扱いです。わがままは許しません。もし自分一人のためだけのの時間をとって欲しいのであれば、自費の根管治療を希望すべきです。自費と保険とで何が違うかというと、自費の場合、一回あたりに十分に時間をかけたり専用の器材を使用しますので、偶発症が少なくなることですかね。やり方は私の場合ほぼ同じです。保険を軽視していないということです。

注)この部位の病変への水酸化カルシウム製剤の押し出しは慎重を要します。オトガイ孔と呼ばれる顎の神経の出口が存在するからです。麻酔液や水酸化カルシウム製剤の圧迫により、しびれ等が出現する恐れがあります。今までに経験したことはないのですが、水酸化カルシウム製剤が吸収性のものであれば、しびれは必ず消失すると思います。

術前デンタルレントゲン
術中
術後

症例85
左上5番(第二小臼歯)の破折器材の除去並びに根っこの治療

70代女性

≪治療経過≫
左上のブリッジが破損し、再製作を希望され、当医院を受診されました。自覚症状がないとのことですが、左上の5番の根管にハセツファイルが残存しているのがレントゲン写真からわかりました。写真上、根っこの先に化膿を認めるなどの所見は認めませんでしたが、ハセツファイルを除去することにしました。根管治療の際、起きうる偶発症と言えます。前医は否定できません。ちゃんとハセツしたファイルの上に神経のお薬をいれていますので、やるべきことをやったということでしょう。別に取らなくても今回の場合、問題が生じる可能性は低いと考えられます。しかし、取れるにこしたことはないのですが、マイクロスコープ下で試みないと、歯に穴を開けたりして余計に深みに嵌るでしょう。
私は、自分がファイルをハセツした場合も想定して、トレーニングのつもりで行います。勿論、取れないこともあるので偉そうなことは言えませんが、不測の時には必ずや役に立つと思って取り組んでいます。
今回、マイクロスコープ14倍下で、超音波機器を駆使し、3分ほどで取ることが出来ました。簡単な部類のケースだったと思います。後は、再度ファイルを折らないように慎重に根管治療を行い、ブリッジを作製セットし、終了としました。

注)患者さんには不安を煽ることは言いません。取れれば問題ないでしょと言いました。あと前医を恨むなとも。笑。
術前
ハセツファイル除去後
根充後
除去したハセツファイル

症例86
右上1番歯根嚢胞再発に対しての再歯根端切除術(MTA使用)

30代女性

≪治療経過≫
右上中切歯(1番)の根尖部歯茎の腫れを主訴に当医院を受診されました。過去に歯根嚢胞を患い、一度局所麻酔下で、歯根端切除術を受けた既往があるとのことでした、レントゲン写真、CT写真から、なるほど確かに歯根端切除を行った形跡並びに根尖部に単胞性の骨透過像を認めます。10年前ぐらいに土台が長く差し歯を撤去する際に根ハセツのリスクを考慮し、外科処置で対応したとのことでした。しかし、残念なことに再発されました。まあ、殆どの開業歯科医は、再度口腔外科に歯根端切除を依頼するか抜歯という選択をすると思います。間違いではありませんが、実は歯根端切除術も根管治療に強い歯科医にやってもらうほうが予後がいいのです。残念なことにこの県には歯学部が存在しないため、患者さんが根管治療に精通した歯科医を見つけることは困難だと容易に想像できます。私もよくはわかりませんが、私よりマイクロスコープをいち早く導入し、症例として証明している先生は信頼に値すると思います。
そこで、今回、私自身も偉そうなことが言えない歯根端切除術をやらなければならなくなりました。ちょっとした気の緩みのせいで。当初、マイクロスコープ下で差し歯を外し、根管治療だけで勝負するつもりでした。しかし、以前の歯根端切除術は逆根充していないものであり、根尖がラッパ状に開いていたため、旧の根充填剤を根尖外に流失させてしまいました。これによりさらに炎症が悪化する恐れがあると考え、やはり根管治療後、外科処置であるMTA逆根充併用の最小限歯根端切除術を行うことにしました。
まず、抗生剤の服用をしてもらい、腫れがない状態にしてから、上からの根管充填と同時に局所麻酔下で施術するやり方です。今回、麻酔の奏功も悪く患者さんには苦痛な思いを与えてしまいましたが、妥協のない根尖のソウハと、きれいに止血下で逆根充できたと思いました。また、術後の腫れもありませんでした。半年後、CTを撮影してみると、骨欠損部は綺麗に骨で満たされているのがわかります。術者、患者さんの努力が報われたということです。

PS)とにかく、いつも緊張感の元でやっていますので、信頼関係が構築された患者さんが治ることだけ信じてやっているのが実感ですかね。経営者としては失格かもしれませんが、お金よりも、適切な処置をして根尖病変が治癒し、患者さんの不都合を訴えることがなくなることに喜びを感じます。また、自分が治せないものを他の上手な歯科医が治すということにも不思議と嬉しさを感じます。世の中には上には上がいると実感し、今の自分に満足しないためです。しかし、稼ぐ能力があっても治療が下手な歯科医には全くと言っていいほど興味はありません。名前すら覚えないし、稼ぎ方を知りたいとも思いません。ただ、患者さんにはどう説明しているのかだけは気になるところです。笑

デンタルレントゲン

術前

上からの根充後
歯根端切除後
半年後
CT前頭断

症例87
右上7番起因の歯性上顎洞炎
40代女性
≪治療経過≫
右上の奥が、ズキーン ズキーンと痛いのでなんとかしてほしいとのことで当医院を受診されました。レントゲン写真から、虫歯で神経が傷んだ痛みなら、下の奥から二番目の歯が、上なら奥二本が患歯と考えられます。一般的に神経の痛みは上か下かがわからなくなるのが特徴です。経験のない歯科医は、患者さんの訴えを信じて、原因歯ではない歯を触ってしまって、深みに嵌ることもあるでしょう。また、自信ない態度をとってしまうと、雇われの新卒代診の場合、次から院長先生に診てほしいということになるでしょう。よく新卒の頃経験しましたね〜。だから、今があると思っていますし、代診がどういうものかも経験していますので、歯科医師過剰の昨今、勤務医も大変だと思う今日このごろです。ただ、私は、患者さんの多いところに最初に勤務していたことと新卒の頃歯科雑誌ばっかり読んでいましたので、後の診断能力の向上に役立っているのかもしれません
話は逸れましたが、十分に問診してみると鼻の横が痛いというので、ああこれは右上の奥歯が虫歯菌に侵され、根っこの先が化膿し、上顎洞に炎症が波及しているなと直感的に思いました。私は、予約通りに患者さんをみることを極力心がけていますので、初診でいきなり何本の歯の神経の処置をすることは常々避けたいと思って診療しています。もし、ここで見立てどおり、右上の一番奥の歯が原因の上顎洞炎と確定診断できれば、マクロライド系の抗生剤の処方により、まずある程度の症状は軽減します。時間を買うために、CTを撮影することにしました。費用を頂かないCT画像は、一切お見せしません。確定診断のためだけです。やはり、蓄膿症になりうるぐらいに上顎洞粘膜が肥厚していました。そこで、そのことを患者さんに説明し、投薬後、後日急性症状が治まってから、感染根管治療を行うことにしました。1週間後、ある程度症状が治まったとのことで、右上の感染根管治療を行いました。麻酔込み30分で、6,7番の根管合計7本の処置を行いました。新卒の頃なら、最低2時間はかかったのではないでしょうかね。別に時間を競うわけではありませんが、二十年でかなり進歩したと思います。運良く3回の貼薬で打診が治まったため、根充し、被せて終了としました。1年後、再度CTを撮影してみると、綺麗に上顎洞内は含気性を有し、根っこの先の化膿病変も消失してるのがわかります。このように歯が原因でも蓄膿症になるということです。悪いですが、電話で歯性の蓄膿症を保険で治してくれという人、予約を守らない歯科医を舐めてる人は、どうかお願いですから別のところに行ってください。こっちは治すためにストレスを抱えてやるわけですから、簡単に考えておられる方は、他で抜歯してもらってください。それで感染源はなくなりますから、歯が原因の蓄膿症なら治るはずです。エビデンスのある例外のない保険治療です。笑。勿論、次の処置は入れ歯かもしれません。例外の治療 即ち、歯性の上顎洞炎を治して、歯を保存する治療は、誰でもできる治療ではないことは明記しておきます。あんまりHPで症例紹介しているところはないので、いかに難しいかということでしょう。

PS)この患者さんは、CTモニターになってもらいましたので、画像はお見せしています。尚且つ、保険の根管治療です。よく、保険で根管治療費を請求し、自費でも満たされない技術費や材料費(麻酔、ファイル費、時間料、人件費、仮歯費など)を請求しておられる先生もいるそうです。気持ちは物凄くわかりますが、NGです。混合診療に該当します。しかし、保険で根管治療をして、土台以降被せものは保険外の材質でというのはOKなのです。なんか矛盾していませんかね?立派な混合診療だと思いますが、国は例外を認めているのです。ですから、保険制約が煩わしく本当に自分にしてもらいたいことをを実践しようと考えているところ即ち完全自費診療を掲げる医院の先生方は、実は、純粋で自分に正直な税金のお世話にならない格好いい生き方をした人達だと個人的に思っています。世間的には金儲けと揶揄されるかもしれませんがね。でも実際は、彼らの税金が、偽りの生活保護者や無能な公務員、囚人、社会的弱者を支えていることに気づくべきでしょう。
術前パンラマ
根充後
CT矢状断術前
一年後
CT前頭断術前
一年後

症例88
左右上1番の化膿病変の根管治療並びに左上2番の縁下カリエスに対しての意図的再植法(MTA使用)

50代女性

≪治療経過≫
上の保険外のセラミックブリッジの脱離を主訴に当医院を受診されました。応急的のところに○がしてあり、尚且つなるべく費用をかけていいというところにも○がしてありました。経験則上、このパターンの組み合わせの人は、無意味な費用をかけるか、今後歯の問題を解消することなく入れ歯に向かう人が多いように見受け取れます。寧ろ、保険の範囲で悪いところをある程度治したいという欄に○をつけている人のほうが、治療後メンテナンスに以降し、長い付き合いになっている患者さんが多いように思えます。まあ、一応どうして欲しいかと尋ねてみると、案の定前歯だけ自費の保険外の材質で治してほしいといいました。まだ、そのまま取れた保険外のセラミックブリッジ゙を虫歯でぐちゃぐちゃで根っこが化膿した歯の部分に接着してくれと言わないだけましかとは思いました。それを要求される方は、適切な治療をできる歯科医を舐めているということです。悪いところにまた蓋をするわけですから、当然近い将来直ぐにとれるか、根っこの先が化膿し抜歯→入れ歯と加速的に近づくでしょう。しかし、今回奥歯がないため、前歯でしか噛めず、過去に何度も脱離しブリッジが早期にだめになったことは、瞬時に推測できました。即ち、この方は、奥歯で咀嚼できない限り、例え前歯の治療だけに限局して上手く行ったとしても、遠くない将来に問題を抱えることは容易に予測できます。そこで、患者さんにそのことをお話した結果、トータル的な治療を希望されました。実は、仮歯をそのままの噛み合わせで入れた結果、何度も破損脱離を繰り返したこともきっかけになったかもしれません。今回は、上前歯の治療のみにスポットを当ててみます。レントゲン写真やデンタル写真から虫歯の所見はある程度わかるのですが、実はCTを撮影してみて唖然としました。左右上1番(中切歯)の根の先が、かなり大きく化膿し、頬側の骨が実質欠損しているのがわかりました。以前の根管治療の不備によるものと考えられます。また、左上2番は、縁下カリエスも著しく保存も不可能な状態に思えました。前歯噛みのため、下の前歯は摩耗し、クリアランス不足や噛み締めぐせもも考慮し、3本の上前歯の保存治療を試みることにしました。3本抜歯する先生が多数をしめるのではないかと思います。
しかし、根管治療が普通にできる先生であれば左右上1番の完治は難なく行うことできるでしょう。マイクロはなくても全然平気です。防湿できるところなので、ラバーも必要ありません。知識とメソッドさえあればいいのです。三回ぐらいの貼薬後、臨床症状がないことを確認して、神経に代わるお薬を過不足なく充填して歯根の中の治療を終了としました。一年後、最終ブリッジの支台歯形成時にCTを撮影してみると、綺麗に根尖病変は消失し、骨欠損も改善していました。ところで、根管治療とは関係ありませんが、左上2番の縁下カリエスに対しては、MTA逆根充による180度回転の再植法を採用しました。これも一年後のCTで綺麗に生着しているのが確認できます。抜歯の運命が保存に変わったということです。他に矯正による挺出がありますが、職業柄、常時マスク着用できないことや治療期間短縮のためにこの方法を採用しました。
バイトアップ後、バーティカルストップ(臼歯咬合)を確立して、アンテリアガイダンスやディスクルージョンをを付与する。これにより、恐らく前歯ブリッジの予後は良くなるでしょう。+ナイトガード+自己暗示。笑

注)治療技術や診断能力がない歯科医が、CTを持つと実は患者さんにとって不利益なことが多いのです。リアル画像上で、治療技術のない先生の場合、根っこが化膿しているから抜歯ですねと言いやすくなるということです。一方、年齢を問わず根管治療が上手で診断力がある先生が有効に活用すると、患者さんの本当の利益(抜歯回避)につながるということです。また、高級車は買えるがCT、マイクロスコープは意味のないもので買えないとか、肩書きだけに依存して経験だけに頼っている先生とも違います。実際は見えていない、治っていない、十分に治療できていないということを単に知らないだけなのです。最新機器を否定する先生は、井の中の蛙と言えるでしょう。勿論、人のやることですから、マイクロやCTを活用したとしても、ミスや予後不良例も必ず生じるものです。まして、保険の場合は。自分だけは大丈夫なんて思っている人ほど、無知なだけです。
術前CTリアル画像
一年後

術前パノラマ写真

左右上1番根管治療中
左右上1番根充後デンタル写真

右上1番術前前頭断CT

左上1番術前前頭断CT

左上2番術前前頭断CT
意図的再植直後

症例89
左上第二小臼歯(5番)の巨大化膿病変の根っこの治療
 
60代男性

≪治療経過≫
左上の頬側並びに口蓋側の歯茎が腫れて、紹介で当医院を受診されました。来るなり、抜歯は避けたい、治せるものなら、費用をかけてもいいから治療してほしいと切実に訴えられました。しかし、ダメなものはダメだとはっきりと最初に私は言うようにしています。時間の無駄、費用の無駄、他の歯に与える影響を考慮しているからです。しかし、他の医院から意見を求められて来られる患者さんの口の中を診て思うことですが、保存できるものを抜歯勧告し、保存不可能なものに対して保存治療をしている傾向が強いように思えます。勿論、一人一人歯科医によって抜歯基準は違いますが、恐らく患者さんの性格特性を考慮してのことだと思えます。だから、私は、患者さんにいつも期待を持たせません。まして、思い込みの強い人には。今回の場合も、かなり真面目で思い込みが強そうだなあと見受けられました。しかし、こういうタイプは治療が上手くいけば、前向きになり、他の残存歯も大事にしてくれることをよく経験しています。そこで、レントゲン検査、CT検査、口腔内診査、模型診査、視診を行いました。左上の5番の歯は既に神経が失活し、根尖部に巨大な化膿病変を認め、左上の6番の歯は根尖病変並びに根分岐部病変を認めました。さらに運の悪いことに歯性の上顎洞炎を引き起こす一歩手前の状況であることもわかりました。確かに左側は、鼻閉感があるとのことでした。標準治療は抜歯が適応となります。間違いではありません。しかし、歯内療法、歯周治療をそこそこできる歯科医であれば、保存治療も可能となります。ただし、左上6番に関しては、どちらか一方欠けてもだめですがね。
そこで患者さんにCT画像を見ていただき、再度どうしてほしいかと尋ねたところ、保存治療をしてほしいと言われました。被せものは保険外を行うという条件で、保険で治療を開始することにしました。
左上の5番の巨大根尖病変は歯髄壊疽によるものなので、実は通常の感染根管処置に比べて、楽だと個人的に思っています。やり方は、しばらくの間、水酸化カルシウム製剤を貼薬経過観察して、打診や違和感がないことを確認してから、最終的に神経に代わるものをを充填しました。後は、奥の6番の歯の根管治療や歯周外科が完了するまで土台ビルドアップ後仮歯を装着して3ヶ月ほど過ごしてもらいました。半年後、歯茎から排膿、出血、違和感を認めませんでしたので、約束どおり、保険外の咬合面ゴールドメタルのハイドリッドセラミックを装着して終了としました。さらに3ヶ月後、CTを撮影してみると、上顎洞内の炎症、5,6番の根尖病変、6番の根分岐部病変の改善を認めます。

注)洞察力のある歯科医は診断用の模型やCT画像とにらめっこして、どうしてそうなったのかも考察します。凡医の私が推測するに、噛み締めぐせもしくは歯ぎしり等の習癖があり、保険のパラのの銀歯に隙間が生じたこと並びに咬合性外傷によるものと直感的に思いました。咬合性外傷による力の問題で歯周病悪化や上顎洞炎の発症をよくCT画像でみることもあります。そのため、側方圧を軽減した伸びの良いゴールドメタルの修復物が、この方にとっては最適であろうと予測するのです。審美、清掃性、ノンメタルを求めたオールセラミックではありません。


症例90
左上第二小臼歯(5番)の巨大化膿病変+歯性上顎洞炎の治療
 
50代男性

≪治療経過≫
今(2016年)から7年前、上の前歯(右上の3,4番と左上3番)の歯茎が腫れて当医院を受診されました。レントゲン写真からもわかるように、虫歯でどろどろの歯で、一般的には抜歯不回避な歯と思われます。抜歯して入れ歯か固定式を希望されれば抜歯後インプラントもしくは保険外のブリッジとなるでしょう。私は、誰でもにインプラントを施術しませんし、予後の悪そうなものに保険外のブリッジを薦めることを良しとは思っていません。自分の診療哲学です。だから、やりたくもないことをしなくていいように借金や過剰投資はしないと誓って開業しました。
ところで、この方はこの当時ヘビースモーカーでしたので、一般的には抜歯後、入れ歯が適応かと思いましたが、固定式のものを希望されましたので、右上3,4番は歯冠延長術、左上3番は意図的再植法を採用し、歯の保存に努めてみました。左上のブリッジは問題が出るかもしれないという思いはありましたが定期検診で経過をみることにしました。ところが、6年来られることはありませんでした。その後突然、左上の歯茎が腫れて鼻の横まで違和感があるとのことで、再受診されました。顔を見ると左半分パンパンに腫れ、これは上顎洞炎を発症しているなあと直感的に思いました。そこでパノラマ写真と歯科用CTを撮影してみると、唖然としました。左上の5番に根尖病変が出現して、上顎洞に炎症が波及しているのがはっきりとわかりました。無論、これだけ大きければ抜歯は間違いではないでしょう。しかし、これを治せたら凄いだろうなあ〜という思いが勝ることが多いので、真面目で気に入られた患者さんであれば、やってみましょうということになるのです。笑。そこで、急性症状をまず抑えるため、ある抗生剤を処方し、鎮火したところで、ブリッジと土台を撤去し、根管治療を開始しました。まずは、根尖穿通、オープンにて排膿を促しました。3回の水酸化カルシウムの貼薬後、臨床症状がないことを確認して、最終的な根っこのお薬を入れ土台をスーパーボンドで接着しその上に仮歯をいれ、経過観察を行うことにしました。3ヶ月後、CTで確認してみると、上顎洞の炎症は収まり、根尖病変もかなり改善してきたように思えます。治せたら凄いなあという思いが勝ったと言うことでしょうか?いつも上手くいくとは限りませんが、過去に治せた実績があるから、またがんばってみようと思うのかもしれません。
最後に、抜歯して付帯手術(サイナスリフト、骨移植など)もからめたインプラント(2本)であれば、100万は下らないでしょう。苦労して赤字を出して患者さんのためと考えて、すべて保険で行った場合2万未満でしょう。わかりますか?いかに保険では歯牙保存能力のある歯科医が報われないかということを。だから、根尖病変を治した歯には保険外の修復物をいれることが一応礼儀だと思いますよ。

注)世の中には、適当なことをして暴利を貪っても恨まれない歯科医もいれば、真っ当な治療を保険で行い文句を言われる歯科医もいるということを知ってほしいといつも思っています。だから、治療が下手でも金儲けが上手い歯科医がいるのです。
2009年
2015年
再初診時のCT
矢状断
土台除去時
デンタルレントゲン
根充3ヶ月後のCT
矢状断
根充時

2009年左上3番の意図的再植術。抜歯の運命の歯が6年経過。
術前
再植直後
6年後(緩慢な根吸収を認める。)  
     

2009年右上3,4番の歯冠延長術。抜歯の運命の歯が6年経過
術前
根充後
6年後

症例91
右下第一第二小臼歯(4、5番)の巨大化膿病変の根っこの治療
 
30代男性

≪治療経過≫
10年以上、検診で通われている方で、右下の歯茎が腫れてきました。いつも気にかけていた部位ですが、レントゲンからもわかるように長い柱が装着されているため、再治療によるリスクと天秤にかけて経過観察してきました。今回とうとう症状が出現し、何かしらの治療を行わなければならなくなりました。一般的には抜歯となりますが、まだ三十代です。患歯である右5番を抜歯すれば、取り外し式の義歯ということになります。そこで、マイクロスコープを併用した根管治療を保険で行うことにしました。その歯の運命を少しでも変えるためです。勿論、マイクロスコープ下で、歯根のハセツを認めれば抜歯を行う予定でしたが、幸いハセツ線も認めず、また長い土台もダブルマイナスドライバーテクニックであっさりと撤去できましたので、簡単な根管治療をするだけとなりました。3回の根管貼薬でアブセスが消失し、無事補綴処置に移行できました。4ヶ月後、再度CTを撮影してみると、ほぼ病変は消失し、骨不透過像を呈するな所見を認めました。
ロングスパンのブリッジ゙のため、あと何年持つかわかりませんが、少なくとも当初の問題は改善されたのではないかと思います。

注)ラッパ状に根尖が開いていたためアピカルシート形成不足で、オーバー根充となってしまいました。幸い打診を訴えることはありませんが、いずれ吸収されることを期待します。
術前デンタル
10年前のパノラマ
4ヶ月後

症例92
右下第一小臼歯(4番)の化膿病変の根っこの治療
 
50代女性

≪治療経過≫
右下の歯茎に膿の出口(フィステルもしくはサイナストラクト)が形成され、噛むと痛いので診て欲しいとのことで5年ぶりに来院されました。悪いところは全部治したいとのことで全体のパノラマ写真を10年ぶりに撮らせてもらった結果、右下4番の根尖部に骨透過像を認めました。10年前のパノラマ写真にはそのような透過像を認めなかったこと並びに前医のきちっとした根管治療の形跡から、歯根のヒビもしくはハセツを疑うほうが一般的かと思います。これはあくまで、平面的なレントゲン写真での見立てということです。さらにマイクロスコープによる視診、ポケット検査、CT検査を行うとまた違った診断となってくるのです。実は、この歯、2根管性の歯根を有します。即ち、舌側のもう1つの根管が未処理のため、フィステルが生じてきたのです。私は並の歯科医なので、CTなしでの発見は難しかったかもしれません。しかし、世の中には、偏心撮影法から得た2枚のレントゲン写真からだけで読影できる一流の歯科医も存在することは知っておきましょう。因みにそこそこできる歯科医であれば、下顎第一小臼歯には2根管性を有するものがあるということは知っているはずです。何はともあれ、この診断ができなければ、抜歯もしくは治りもしない根管治療をしなければいけなくなります。そこで、マイクロスコープ下で慎重に土台を削り倒し、舌側根管を探索すると、CTの情報どおり発見することができ、ビタペックスをフィステルからわざと押し出した結果、翌週のアポ時にはフィステルは綺麗に消失していました。舌側の未根管処理が原因だったということです。一応、頬側の綺麗にされていた根管充填もやり直し、土台をたてて2ヶ月経過観察して最終補綴物に移行することにしました。

注)フィステルからビタペックスという水酸化カルシウム製剤が流失すれば、九割方治ると確信しますが、口の中が薬くさくなることは患者さんに事前に言っておく必要はあるかと思います。一方、慢性の根尖病変にわざと押し出す場合は、かなりの慎重さが必要かと思います。やり方を間違うと、急性症状を呈するようになり、患者さんの不信感を募らせるからです。

2005年
術前
土台撤去時
3ヶ月後

症例93
左上3番歯髄壊疽の根っこの治療+左上2番根尖病変の経過観察 
50代女性

≪治療経過≫
今から6年前、左上の犬歯(3番)が噛むと痛いとのことで、再受診されました。両側遊離端(左右上6,7番欠損)部分入れ歯を使用されており、犬歯に負担が掛かったためかもしくは前回のCR充填時に既に神経が弱っていたかによると判断して、神経処置を行おうと考えていました。ところが、レントゲン写真を撮影してもると、びっくり。左上の2番の根尖付近にかなり大きな骨透過像を有する化膿病変を認めました。診断が少し狂ってきます。左上の2番が原因で、3番が痛くなったのかもしれないという疑いが出てくるからです。そこで、もう一度、打診検査を行うと間違いなく3番に反応を認めました。次に電気歯髄診を行うと、3番閾値低下、2番生活反応を認めました。最後に、非常に申し訳ないのですが、実際に切削試験を2番に行って見ると、かなり早い段階で生活反応を認めました。勿論、了解をとっての切削試験ですが、少量削ったところはCRで充填して経過をみることにしました。
そこで、患者さんの訴え通り、左上の3番無麻酔下での処置を行ったところ、既に神経は壊疽していることが分かりました。通法どおり4回の水酸化カルシウム製剤の根管貼薬後、臨床症状がないことを確認し、根充を行いました。さほど、実質欠損を認めませんでしたので、当時はCR充填を行い、定期検診に移行しました。ところが、5年後、詰めた歯が折れたとのことで、再受診されました。一般的に神経を除去した歯は弱くなることや色が変色することが多く、特に犬歯のように横の動きのガイドになる歯には歯冠補綴をしたほうが賢明なように個人的に思います。良かれと思って、残存歯質にCR充填で終了すると、無理な力がかかった時に歯根がハセツし抜歯となることもあるからです。今回は、歯冠部だけで事なきをえましたが、被せものをするときの歯の状態は前回よりも悪いでしょうね。そのため、土台はメタルコアを採用し、根ハセツを考慮し、スーパーボンドで接着しました。その形成確認の際のレントゲン写真をみて、びっくりしました。2番の根尖病変が消失していたのです。先入観に捕らわられれば、おそらく2番の神経処置も行っていたと考えられます。ここの部位は解剖学的に歯根嚢胞の好発部位で、尚且つ画像上、根尖部付近に大きな骨透過像を有する所見を認めれば、間違った判断とも言えないかもしれません。とりあえず、無駄に神経処置しなくて良かったと言うことです。原因は、左上犬歯の根尖病変ということになります。

2009年 左上3番根管治療
開始時
根充時
2015年

症例94
左上6番化膿病変による歯性上顎洞炎
60代男性
≪治療経過≫
左上の奥歯と奥歯の物が挟まるとの事で、当医院を受診されました。歯周病の全体的な進行並びに虫歯の進行具合を確認するために、パノラマ写真、CT写真を撮影してみると、左上6番の虫歯が既に神経にまで進行し根っこの先が化膿し、不幸なことにその炎症が上顎洞粘膜に波及していることがわかりました。恐ろしいことに免疫力の高い方なのか、自覚症状が全くありませんでしした。最初から保険外の治療を希望されていましたので、CT画像をお見せして、ありのままの状況を説明しました。抜歯して、インプラントへ持っていく先生が多数を占めると思いますが、根管治療ができる先生は、保存へと持っていくことも可能でしょう。患者さんは自覚症状もなく、なんで抜歯と?思われる方も多いかもしれませんが、理解していない歯科医が無理に保存治療や抜歯、インプラントの付帯手術(サイナスエベレーション)を試みると、本当の蓄膿症になりかねません。知識のある先生がやっても、急性発作を起こしかねないケースだと思います。勿論、私も偉そうなことが言えません。知らずに過去の症例で、歯性上顎洞炎を作っているかもしれません。そこで、患者さんにどうして欲しいか再度聞いて見たところ、保存療法を希望されましたので、ラバー、マイクロスコープ下での根管治療をやることにしました。CTで4根管ないことが分かっていましたので、NTファイルさえ慎重に使いこなせば、実は簡単なケースだと個人的に思います。実際のところ三回のRCTで根管処置を終了し、希望通りのオールセラミックの修復物を装着してメンテナンスに移行しました。半年後、定期検診の際、CTを無料で撮影してみると、綺麗に上顎洞粘膜の肥厚は改善していました。即ち、完治ということです。

注)はっきり申し上げますと、10年、20年前に比べて、画像診断ツール、根管治療のツール、材料が飛躍的に向上したと実感しています。保険点数には決して反映されていませんがね。そのため、一昔前では保存が難しかった歯が保存できる可能性が高くなったと普通なら考えるわけですが、現実は逆なのです。全国の歯科医院のインプラントの年間累計本数が減らないこと自体が物語っています。また、年間何本施術と謳っているところにもです。即ち、経営のために症例を意図的に作っているのではないかという疑念を抱くわけですよ。また、本来インプラントを施術しなければいけない有能な歯科医が、インプラントをしないことにも強く違和感を覚えます。患者さんのためにはなりませんからね。恐らく、思慮深い故に歯根膜が存在しないという最大の欠点を懸念してのことだと思いますが、IN VITROとIN VIVOで違うこともあります。教科書と臨床がズレることはよく経験するところです。
因みに同じような価値観であると思っていた仲の良かった大学の同級生のほとんどが、自分以外にインプラントを施術する人がいないのも寂しい現実ですね。彼らは、長期的なインプラントのメンテナンスにストレスや疲れを感じるのでしょう。私と違い、ある意味賢明かもしれません。

術前パノラマ写真
半年後
術前矢状断CT
術前前頭断CT

症例95
左上6番知覚過敏並びに挺出補正のための4根管の歯髄処置
50代女性
≪治療経過≫
とうとう保険で、2016年の4月から上6番の4根管並びに下7番の樋状根に対して、マイクロスコープ加算とCT加算が認められるようになりました。保険でそこそこ良質の治療を行いたいと思っている真面目な歯科医にとっては朗報と言えます。今まで良かれと思いそれらの機器を活用し、無料で確認を行っていた善意がようやく報われようになったのかとふと思い、4根管ケースをアップすることにしました。まず、上6番の4根管は、例え、マイクロやCTを活用しても、舌側低位に位置した狭窄頬側舌側根に対して、処理できる歯科医は限られると個人的に思います。私もいつも確実な処理はできないことは断言しておきます。そういう理由もあって、後に感染根管に移行したときに備えて、近心根の歯根端切除はマスターしておくべき技術かもしれません。まあ、一番は患者さんが予防意識を持ち、奥歯に虫歯を作らないことが正解と言えるでしょう。今回のケースは、歯頸部くさび状欠損による知覚過敏治療並びに下に歯を入れるスペース確保のために左上の6番の神経処置を行うことにしました。噛み締めぐせや知覚過敏も著しく、6番のすべての根管が狭窄しているのがレントゲン写真やCTからある程度予測していましたが、NTファイルユーザーであれば、3根管の場合難なくこなす人が多いと思います。問題は、4つ目の頬側舌側根管の処理です。マイクロやCTを活用したとしても、恐らく見過ごす歯科医の方が多数を占めるのではないでしょうか?今回は、低位に位置していましたが、たまたま処理できました。恐らく、近心2管が根尖で繋がっているので、処理できなくても、ひょっとすると問題がでないかもしれませんね。こればっかりはわからないところです。運も作用するということです。一般的にきれいに根管処置(主要根管のことです。)ができていたとしても、将来問題が出る場合は、宿主の免疫力低下に伴い根尖部付近で分枝した残った神経が主要原因だと思われます。機械的には除去は不可能なので、化学的清掃による石灰化でしか対応できないのが本当のところではないでしょうかね。唾液の防湿不足という歯科医もいますが、意見の別れるところです。それじゃ、側枝も処理できる垂直加圧式の根充がよいのではないかと思われる方もいますが、オーバー根充の方が害があると個人的に思います。不足したものの再治療は比較的楽ですが、根尖からはみ出したものの除去は困難を極めます。そういう理由もあって、私は、ラテラールもしくは単一ポイントでしか根充しません。食わず嫌いなのかもしれません。もしくは老いて頭が固くなったせいかもしれません。しかし、垂直加圧式根充は否定はしません。オピアンキャリアーという方法は素晴らしいと個人的に思います。私は、できませんが。笑
術前レントゲン写真
術後
術前水平断CT
術前前頭断CT

症例96
左上7番逆行性歯髄炎並びに6番側方圧過重負担による上顎洞粘膜肥厚の治療
50代女性
≪治療経過≫
4年前、左上奥が何もしないでズキズキ痛いとのことで受診されました。裸眼視診では、ぱっと見問題がないように思いましたが、摩耗が著しく、これは咬合負担による歯周病悪化から生じた歯髄炎がまず考えられると思いました。そこで、レントゲンCT検査を行ったところ、上顎洞粘膜は肥厚し、粘膜内に小さな石灰化物を認めました。直感的に勘のいい先生は、親知らずの抜歯の際、根っこが折れて、それが洞粘膜内に迷入したと考えるだろうと推測します。しかし、問診で上の親知らずを抜歯した既往がないとのことなので、どうして生じたかは不明です。上顎洞真菌症?と思いますが、スケールが小さすぎます。笑。恐らく、噛み締めによる6番の側圧の増加により生じたものではないかと個人的に推測します。そこで、実際に触診、マイクロスコープでの視診、咬合様式、ポケットの検査を行ったところ、6番過重負担によるHYS、7番咬合性外傷による逆行性歯髄炎と判断しました。実際、7番からの排膿、打診は認めましたが、6番はしみるだけでそれほど症状を訴えることはありませんでした。
治療は、6番のHYS処置、補綴のやり直し、7番の縁下歯石の除去並びに根幹処置、補綴処置となります。勿論、補綴処置は側方圧のかからないもの作製を考慮しなければいけませんよ。
4年後、興味がありCTを撮影させてもらうと、上顎洞粘膜の肥厚は治まり、7番の歯周病による骨吸収も改善させたのが確認できます。石灰化物は存在しますが、副鼻腔に悪い影響を与えていないようです。

注)もし、6番も神経処置を行う場合、洞粘膜の石灰化物についても説明しておく必要があると思います。処置により増悪する可能性があるからです。勿論、CTがないと無理ですが。
術前レントゲン写真
4年後
術前矢状断CT
4年後
術前6番前頭断CT
4年後
術前7番前頭断CT
7番根充時
レントゲン
4年後
術前水平断CT
4年後

参考例)左側上顎洞真菌症の画像

症例97
咬合負担により生じた左上7番急性歯髄炎起因の上顎洞粘膜肥厚の治療
30代女性
≪治療経過≫
左上の一番奥が噛むと痛いとのことで、受診されました。レントゲン上、視診上、問題があるようには見えませんでしたが、叩くと確かに一番奥が響くとのことでした。そこで、CTを撮影してみると、左上の上顎洞(副鼻腔)の粘膜が肥厚しているのを認めました。咬合負担による7番起因の上顎洞炎だと診断しました。一般的に歯の中の神経が壊疽して、炎症が波及することがほとんどですが、今回の場合、銀歯の下に虫歯は認めずまた歯髄はバイタルでした。ポケットも認めず純粋に咬合負担だけによるものでした。埋まった親知らずが原因ではありません。実はこの人、オープンバイトで小臼歯と大臼歯が下の歯と噛み合っているだけの咬合接触なのです。このように、虫歯、歯周病ではなくても、力の問題で上顎洞炎が生じることも希にあるのです。そこで、ラバー下で通常の根管治療を行い、2年後の定期検診時にCTを再度撮影してみると、綺麗に上顎洞粘膜の肥厚は消失していました。非常にためになったケースです。ひょっとすると、咬合調整だけでも改善したかもしれないという疑念が生じますが、難しい判断だと思います。なぜなら側方圧をかからないように歯を調整することはかなりの切削を要するからです。そのため、本当に顎関節に近い7番の処置にはいつも苦慮します。しかし、CT画像がなければ、見切り発車的な治療になっていたことは言うまでもありません。レントゲン写真でしか診断できない人との永遠に埋まることのない差とも言えるでしょう。
術前矢状断CT
同2年後
術前前頭断CT
同2年後
術前パノラマ
レントゲン写真
根充時のデンタル
レントゲン写真

症例98
左下1番の巨大化膿病変の根管治療
40代男性
≪治療経過≫
左下の前歯の歯茎が腫れて、ネット経由で遠方からわざわざ受診された方です。どこに行っても抜歯という選択を迫られたとのことです。挙句治せる歯科医がいれば、100万出してもいいと言われたそうです。そのため、自費の根管治療で、というお考えでおられました。また、ダメならインプラントも視野に入れたいとのことでした。まず、レントゲン写真、CTからとてつもなく根尖病変が大きいことがわかりました。確かに抜歯も致し方ないかもしれませんね。しかし、歯根さえハセツしていなければ、外科処置も絡めてなんとかなるかもしれないと思い、保存治療を引き受けました。この治療のポイントは、いかに土台を上手く外すかということです。長い土台撤去の際、歯根をハセツさせたり、パーフォレーションしたりすれば、すべて無駄になってしまうわけです。幸い、神が微笑んだのかあっさりと一塊で撤去することができました。70%勝ったと思いました。笑。後は通常どおり、ファイルをハセツしないように集中して根管治療を行い、無事1年がかりで根尖の病変が縮小してきているのがレントゲン写真からわかります。切り札の歯根端切除は杞憂となりました。このケース、歯根が短いので、できれば歯根端切除はやらないに越したことはないでしょう。
このように治せる歯科医は世の中にはいるのです。だから、安易に素人だからと言って、治せる歯科医はいないという言葉は絶対に使ってはいけないのです。仮に私が治せなくても、このケースの場合、治せる歯科医はいます。素人が見つけられないだけです。世の中には上には上がいるもんです。
今回の根管治療には、マイクロ、超音波機器を使用しましたが、ネット住民の大好きなラバーはしていません。ラバーをしなくても治ることもあるという証明でもあります。何はともあれ、真面目な患者さんの本気に応えれて本当に良かったです。努力は報われるにこしたことはありませんからね。
しかし、完全に親からもらった元の状態に戻ったわけではありません。根っこが短いので、無理な力がかかれば、歯根がハセツしたり、差し歯が脱離するということも常に頭に入れておく必要があると思います。例えば、不幸に心疾患を患って、心臓の手術を行い、元の健康状態のときに比べて走り回れないのと似ていると思います。治療後は、上手に使用するという考えも重要だということです。
もし、今後不幸に再度この歯にトラブル(二次虫歯、ハセツなど)が生じた場合、ブリッジを希望されなければ次はインプラントです。その時は、既に重度の骨欠損が回復しているため、費用、治療期間共にかからないインプラント治療となるでしょう。
参考までに初診時の状態でインプラントする場合、CT検査診断、大掛かりな骨移植込で1本60万は下らないでしょう。自費の根管治療で治した場合、CT検査診断3万+根管治療費10万+ファイバーコア2万+オールセラミック10万=25万くらいが都市部の相場だと思いますよ。

注)前医の治療は綺麗な方だと思います。偶々運悪く、分枝がらみで根の先が化膿したと推測します。本当に根管治療の難しさを物語っている症例だと言えるでしょう。断言しますが、自費も含めて100%結果を出す人間なんていません。ただ、根管治療が上手な人は、治したいという思いが、治せない人に比べて強いのかもしれません。
術前
土台撤去時
根管充填時
約1年後

補綴セット時

症例99
左下7番石灰化閉鎖根管の感染根管治療

30代男性

≪治療経過≫
左下奥の自発痛を主訴に受診されました。レントゲンから左下の一番奥が虫歯になっているのがわかりました。しかし、以前の覆髄処置の影響か元々存在した根管が狭窄しているため、やる前から超難症例になるであろうと瞬時に判断しました。以前の覆髄処置は否定してはいけません。寧ろ素晴らしい考えの先生だと思いますが、次に感染根管処置に移行した場合、厄介なことになることを経験することがあります。厄介なこととは、根管狭窄して根尖の化膿病変にアクセスできないとか、人為的なパーフォレーションを起こす可能性があるということです。今回治療を引き受けるに当たって、まず上記の説明は勿論のこと、完治できないもしくは最悪意図的再植が必要になることをお話してから開始しました。CT、マイクロ、超音波機器を駆使しながら根管入口を探索しましたが、やはりなかなか見つかりません。あろうことか遠心パーフォレーションを起こしそうになりました。マイクロ下でのミラーテクニックによる方向感覚のズレによるものと思います。経験からかおかしいと思うと直ぐに写真で確認するようにしていますので、幸いパーフォレーションを避けることができました。しかし、探せど探せど根管は見つかりません。そこで仕方ありません2回目のCT撮影となります。ここで、大体の目処が立ちました。再度マイクロ下で、パーフォレーションしそうな部位を起点にし、超音波機器でまずは遠心根管を無事見つけることができました。要した時間は2回のアポイントで1時間です。次に近心根管を探索するのですが、これもCT上で何か基準点を定めると、無事2つ探索することができました。これも要した時間は2回のアポイントで1時間でした。合計この歯の根管治療に6回のアポイントで3時間はかかっていると思います。普通の一般的な根管処置では有り得ない話ですね。今回は、マイクロは勿論のことCTがなければ絶対に攻略は私には無理だったと言えます。よく根管治療にはマイクロは必要だけどCTは?と言われる先生がいますが、根管の探索は勿論のこと、ファイルを最初にどう入れていいかどうかの方向確認や頬舌的な根管の湾曲度が瞬時に把握できますので、偶発症回避(レッジの形成、人工根管の形成回避など)には必須と考えています。まあ、こういう症例は本当に経験したくはありませんね。もし、簡単な気持ちで来院される方であれば、素直に私には無理ですと最初に断っておくほうが賢明かもしれません。笑

注)正直な話、この症例においては、3MIXー○○を試そうかという考えが脳裏に浮かびましたよ。治療を引き受けた以上、藁にもすがるという思いでした。一度、本家の講習会に参加してみようかと思う今日このごろです。笑
術前
遠心根ビタ充填
近心根ビタ充填
根充後
術前CT近心前頭断
術前CT遠心前頭断

症例100
左下6番 近心根管壁パーフォレーションリペア+感染根管治療

20代女性

≪治療経過≫
左下6番手前側の根っこの先の歯茎にフィステルができた状態でわざわざ遠方から受診されました。前医では、悪い手前の根っこを抜根して、綺麗なその手前の5番と悪くなっていないと考えられる奥側の根っこを利用したブリッジを入れると言われたそうです。確かに小さなレントゲン写真をとってみると、手前側の根っこの周りが黒く化膿しているのがわかります。前医では歯根ハセツの診断を受けたとのことです。抜根、全部抜歯も間違った考えとは言いませんが、実はCT診断できると違った見解になることも多々あります。私の場合は、近心根管壁ストリップパーフォレーションならびに近心舌側根、遠心舌側根未処理による感染根管によるものと診断しました。即ちこのままの状態で、奥側の根っこ(遠心根)だけ残しても、実は意味がないのです。まあ、一般的な平面的な見方であれば致し方ないことかもしれません。また、下6番の場合、ほとんどが4根管だということを知っていないと難しいかもしれません。そこで、そのことを画像を見せながらお話して、治療を引き受けることにしました。ファイルによるストリップパーフォレーションであれば、ミスとも言えないと思います。根管口明示の際に使用するピーソーリーマーやゲイツドリルによるものであれば、不注意と言わざるを得ません。因みに私は、明示の際にそれらのものを使用した経験が殆どありません。エンドの大家に言わせれば、基本が出来ていないと言われるかもしれませんが、レッジ形成、パーフォレーションの方が余程怖いと思います。
ところで実際の治療ですが、やはり土台撤去、GP除去時に嫌なところから出血してきました。焦ることなく血まみれの状態で、4根管みつけ、とりあえずビタペックを充填し、フィステルから出すことができ、1回目の根治を終了しました。2回目のとき、フィステルは消失し、患者さんは喜ばれましたが、問題は解決していません。とりあえず、パーフォレーションを認める近心頬側根以外の3根管の根拡、洗浄に努めました。5回くらいで3根管のみ根充をし、6回目に近心頬側根の根充と炭酸ガスとMTAを使用したパーフォレーションリペアを行い、暫く仮歯で経過観察することにしました。1年後、ほぼ問題がないことを確認し、オールセラミックを装着して終了としました。無事上手くいってほっとしています。本当に予約どおりに遠方からいらっしゃる方にはいつも頭が下がります。だからこそ、近いのに無断キャンセルしたり、お客様と勘違いしている人より真剣にエンドに取り組むのでしょう。もし私が治療を引受け、例え治せなかったとしても、他の治せる歯科医を見つけてほしいといつも心の中では思っていますよ。

術前
根充時
MTAパーフォレーション
リペア時
術後


THE ENDO 
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