当院症例集〜歯牙移植・根の治療〜
歯の移植術には、自家歯牙移植と歯牙再植の二つがあります。前者は、自己の健康な歯もしくは機能していない歯(ドナーサイト)を抜歯し、不幸に歯を喪失した場所(レシピエント)に移す治療法で、一般的に機能していない親知らずを代用する場合が多いと言えるでしょう。一方、後者は、外傷でとれた歯や虫歯が著しく進行した歯、根管治療が困難な歯もしくは根管治療を行なうことができない歯に対して、一旦抜歯し、目視下で原因と考えられることに対して適切な処置を行い、元のソケットに戻し、再びその歯に機能を求める治療法です。
どちらの場合も、元々歯の周りに存在する歯根膜と呼ばれるクッションを利用する治療法です。理論上、硬組織(エナメル、象牙質)に問題がなく、歯根膜が健全であれば、歯は喪失することはありません。重度歯周病(辺縁性歯周炎)、重度の根尖病変(根尖性歯周炎)は、虫歯菌や歯周病菌により、歯根膜に問題が生じたものと言えるでしょう。では、歯根膜に問題が生じた場合、歯はどうなるのか?歯が動く、歯が抜ける、歯が折れる、歯根が炎症性吸収(外部吸収、歯根が溶けてくる)を起こす、歯根が置換性吸収(アンキロス、骨と同化すること)をおこすなどが挙げられます。即ち、自家歯牙移植、歯牙再植共に、一旦抜歯する必要があるため、無傷で歯根膜を傷つけないということはないわけです。また、歯の中の神経の処置が必要となることが多く、歯が脆くなりやすいかもしれません。そのため、経年的に移植、再植した歯に上記した問題が生じることは否めないのが欠点と言わざるを得ません。しかしながら、経過良好であれば、インプラントと違い、自己のものを使用していること、インプラントに比べて安価であること、歯根膜が存在するので噛みごたえが分かること、他の天然歯と連結や固定ができるといった利点は挙げられると思います。
個人的見解ですが、インプラントに比べて繋ぎの治療法と言えるかもしれません。勿論、施術する歯科医によっては、インプラントよりもいい結果をだす場合も否定はしません。歯を折らずに無傷で抜歯できる技術、短時間で処置できる冷静さ、高度な根管治療の技術を兼ね備えた歯科医ではないでしょうか?そのため、個人的には移植はいろいろとクリアしなければいけない問題がありますので、ある程度年齢がいっている方(50歳以降)の場合、インプラントの方がベターではないかと思います。
(勿論、この考えは、将来的に変わるかもしれません。あくまで、現時点での考えだと言っておきます)

症例1

左下6番への移植   20代女性

《治療経過》

  1. 左下の6番(6歳臼歯)の腫れ、鈍痛がひかないため抜歯を行う。
  2. 2ヵ月後、右下の8番(親知らず)を抜歯し、左下6番に移植する。
  3. 術後1年、周りの骨は安定している。
   
術後5年後
術前
術直後
術後1年
術後9年

 

症例2
左下6番への移植   25歳男性

《治療経過》

  1. 左下6番虫歯が歯茎の下まで著しく進行しているため、抜歯をおこなう。
  2. 2ヶ月後、右上8番(親知らず)を抜歯し、左下6番に移植する。
  3. 術後半年、周りの骨は安定している。
  4. 術後5年、問題はありません。


   
術前
術直後
術後半年

 

症例3
左上7番への移植   48歳女性

《治療経過》

  1. 左上6,7番保存不可能のため、抜歯する。
  2. 膠原病を患いステロイドホルモン長期服用のため、傷なおりがわるい。
  3. インプラント禁忌と判断し、抜歯4ヶ月後左下8番(親知らず)を左上7番に上顎洞拳上後移植する。
  4. 術後2年、移植歯は安定している。


   
術前
抜歯後4ヶ月
術直後
術後2年

 

症例4
左上6番への移植 50代女性

≪治療経過≫
1.左上4番、6番歯がおれているため、抜歯する。
2.2ヶ月後、左下8番(親知らず)抜歯、逆根充(根っこの先から薬をつめる。)を行い、上顎洞挙上後(サイナスリフト)左上6番部に移植する。
3.1年後、順調な経過をたどっています。 

 
 
≪術前≫
≪術直後≫
≪術後1年≫
7年後上顎洞炎併発のため抜歯。現在義歯使用中

 

症例5
右下4番の再植 20代女性

≪治療経過≫

  1. 右下の4,5番が歯痛のため、神経を除去する。
  2. 自身のミスで4番目の歯の根っこの湾曲が強く器具をハセツしてしまう。
  3. 打診が生じたため、除去を試みるも、歯の横に穴を開けてしまう。最悪です。
  4. 4番の歯を慎重に抜歯し、穴の開いた部分と根っこの先をスーパーボンドでうめ、元に戻し、隣の歯に固定する。3ヵ月後問題がないため、最終修復物をいれる。
  5. 術後3年、順調に機能している。
  6. 術後5年、問題は生じていません。


 
   5年後
 
8年後

 

症例6
右上3番の外科的再植 60代女性

≪治療経過≫
1.右上の3番(糸切り歯)が、虫歯でぼろぼろのため、差し歯がはずれている。そのため、一端慎重に抜歯を行う。
2.虫歯の部分を口腔外で削除後、180度回転させ元のソケット(うまっていたところ)に3ミリ頭がでるように戻し、糸を縛り付けて動かないように固定する。
3.4ヵ月後、糸きり歯の周りの骨は再生し、十分ブリッジの支台の歯として利用可能となる。(根っこの治療及び土台のセットは完了済み)


注)一番いい選択肢はインプラントですが、予算の問題と入れ歯になりたくないと切望するため、苦肉の策でこの方法を行いました。幸い糸切り歯は、もともと根長が長いため、歯冠歯根長比を1対1ぐらいにすることができました。歯冠歯根長比が悪いと(頭でっかち)根っこに負担がかかり、予後に影響を与えます。そのため、歯茎の下まで虫歯がすすんだ歯の治療に、いつもこの方法がつかえるとは限りません。また、一端抜歯するときに歯が折れてもいけませんので、術者の相当の集中力、ゆれない心、根気が必要かと思います。(笑)

 


7年後
9年後


症例7
左上の親知らずを左下6番へ移植 30代女性

≪治療経過≫
1.左下の6歳臼歯が、虫歯でぼろぼろの状態です。左上に機能していない親知らずが存在し、適当なサイズのため、左下の6歳臼歯を抜歯し、親知らずを移植する。
2.半年後、かぶせものを装着し終了。
3.経過は順調です。因みに右下の6番も右上親知らずの移植歯です。

注)私はインプラント屋ではないので、わかる患者さんであれば、条件が揃えば保険で親知らずの移植を施術します。歯牙移植は、歯科のアートアンドサイエンスだと思います。保険では不採算のため、患者さんが決めるのではなく、私が自分のプライドにかけてやりたいと思ったときしか施術しませんのでご了承ください。


術前 術直後 術後2年


症例8
左下の親知らずを左下7番へ移植 30代女性
≪治療経過≫
1.左下の奥から2番目の歯が腫れて、受診されました。奥から親知らずが真横に圧迫し、根の治療もイマイチで根の先が化膿しています。
2.真面目な方で予算の問題で、あまりいい条件(7番の根が化膿していること。親知らずが真横に低位に7番を圧迫していること)ではありませんが、保険で親知らずを移植することにしました。自費で移植を行う場合は、CT撮影、待時低位埋入、エムドゲインジェルの使用、挺出矯正を行います。保険の場合は、感染リスクもありますが、ダメな歯を抜くとと同時に移植をしなければなりません。また、CTも撮影できませんので、深く埋入し顎の神経を損傷するのが、一番厄介です。
3.移植1ヵ月後に、根っこの治療を終了。
4.3ヵ月後、かぶせて治療を終了です。

注)親知らずが、真横に低位に7番の根の部分にもぐりこんでいると、経験則上何かしらの補填をおこなわないと予後は悪いと思います。すなわち、移植歯の遠心面(奥側の面)の骨の形成は困難で、歯周病学上ポケットとが生じやすいといことです。どこかのサイトで、歯牙移植が25万とかいてありましたが、ぼりすぎです。それなら、断然インプラントをしたほうがいいと思いますよ。



症例9
右上の親知らず(根未完成歯)を右上7番へ移植 10代女性
≪治療経過≫
1.右上の奥から2番目の歯(一番奥は親不知で、歯茎の中に埋まっていました。)が、痛くて当医院を受診されました。この歯を保存する方法はいろいろと頭に浮かびますが、今回は根っこが完成していない親不知の移植を行うことにしました。現行の保険でできるインプラントよりも最高の治療法だと思います。なぜなら、根未完成歯のため歯の中の神経が再生することが多く、神経の処置が不要になるからです。患者さんも希望されましたので、やることにしました。モニターのため、料金はいただいていませんが、歯科用CTは撮影し歯の状態を十分に頭にインプットしました。

2.まず、ピエゾと呼ばれる超音波機器を使用し、周りの骨を壊さないように慎重に保存不可能な歯を抜歯しました。わかる人にはわかりますが、かなり難易度の高い抜歯ですよ。(笑)。次に歯茎を開き、埋まった親知らずを根が破損しないように慎重に抜歯し、移植用保存液に浸しました。最後に、レシピエントサイトを骨火傷しないように注意しながらドリルで削り、親不知をそのソケットに埋め込み、固定終了しました。

3.半年後、CTを撮影してみると移植した親不知が骨に定着しているのがわかります。

注)本来であれば、被せたりして下の歯との接触を設けるのですが、すべて計算して移植しましたので被せる必要はありませんでした。ただ、手前の6歳臼歯が隣り合う面でむし歯でしたので、銀歯を詰めて移植歯との接触は設けました。もう一つの治療法に親不知の矯正移動がありますが、自費であること、時間的な問題を考慮するとこの治療法が最適だと思います。

術前
術後
術後半年


症例10

右下の親知らずを右下6番へ移植 30代男性
≪治療経過≫
1.右下の6歳臼歯が腫れて、受診されました。レントゲン写真からは保存可能と判断し、被せものを除去後、化膿した根っこの治療を試みました。しかし、マイクロスコープ下で以前の神経の薬を除去している途中で歯に穴が開いているのがわかりました。保存が難しいことをお伝えし、奥の親不知の移植治療を提案したところ希望されました。

2.まず局所麻酔下で穴の開いた歯と舌側に傾いた手前の歯を抜歯しました。ついで化膿した歯の周りを徹底的にきれいにソウハし、移植歯に合わせたソケットを形成しました。

3.最後に親不知を慎重に抜歯し、レシピエントサイトのソケットに移植、固定して終了しました。

4.1か月後移植歯の神経の治療を行いました

5.3か月後、被せものを装着してメンテナンスに移行しました。

6.半年後、写真をとってみると骨に定着した状態が認められる。

注)なんでブリッジにしないのと言われそうなので言っておきますが、手前の5番の歯は舌側に転位しているので、上の歯といいかみ合わせを与えることができないことや手前の4番の清掃性が悪くなるからです
術前
術中
穴の開いた歯根

(ストリップパーフォレーション?)
術後半年
 3年後


症例11

右上の6番口蓋根のを右下6番相当部への移植 50代女性
≪治療経過≫
1.7年前に右下の歯が腫れて、痛くてものがかめないのでなんとかしてほしいということで受診されました。部分延長ブリッジが装着されいて、支台となる歯の神経が壊疽していました。入れ歯になりたくない人に対しての苦肉の策でしょう。悪い修復とはいいませんが、予後はあまりよくないと思います。(クロスアーチの延長フルブリッジとは明らかに違いますよ。)

2.腫れてきた歯の神経の処置をしました。

3.1年後、レントゲン写真をとってみると、根っこの先の化膿した部分はきれに治っていましたが、全体的に歯根膜(歯のクッション)が拡大しています。即ち、無理な力がかかっているということです。

4.3年後、案の定歯が折れて歯茎が腫れてきました。ればたらかもしれませんが、延長ブリッジにしなければ歯が折れてくることもなかったかもしれません。もしくしは、もともと治療前から歯にヒビがはいっていたのかもしれません。事前に歯学的に悪いと説明しても患者さんが望まれた修復処置であったため、治療成果に関しましては何も言われませんでした。しかし、予算以内で入れ歯じゃない方法を再度希望されました。そこで、まじめに検診に来られる方でしたので、機能していない右上の6番の3つ根があるうちの一つを移植する治療法を提案しました。モニターなってもらったので、移植料金は前回の延長ブリッジの料金と相殺しました。

5.右上の6番を半分に切断し、半分の大きい根っこを抜根し、上の半分の歯があたるように右下の6部に移植しました。定着3か月後、右下の3番と橋渡して治療を終了しました。修復物に関しましてはちゃんと自費でいただいています。(笑)

6.術後3年。問題なく機能しています。

注)いつもこんなことをしているわけではありませんが、インプラント以外でもいろいろな治療法があるということです。

術前
1年後
3年後
移植直後
移植3年後
4年後



症例12
左上5番の破折接着再植の予後 50代女性
≪治療経過≫
1.8年前左上のブリッジが壊れて、受診されました。レントゲン写真からもわかるように左上の5番の歯は縦に破折線が入っています。予算や信頼関係の問題で、欠損部にはインプラント、破折歯は接着再植を行うことにしました。

2.慎重に抜歯後、破折片をスーパーボンドで接着しアマルガムで逆根充してから、それをきれいにソウハしたソケットに戻しました。3か月後、骨にくっいてから、差し歯をいれて終了しました。その間、同時に隣の欠損側のインプラントも行いました。

3.5年後、今度は6番の歯が腫れてきたことと、5番の逆根充剤もとれていましたので、歯茎を開いて同時に歯根端切除術(逆根充剤CR)を行いました。

4.7年後、再度フィステルが歯茎にできたため、5,6番を抜歯し、インプラントに移行しました。

注)よく、接着再植をやりましたというブログを見かけますが、予後を追っていないものがほとんどです。はっきり言ってつなぎの治療法です。接着部分(破折線)のポケット形成はいうに及ばず、再破折、根吸収の危険性をいつも抱えていますので、自費治療としては?といわざるをえません。この症例も試験的に行ったので、お金は頂いていません。今後どおしてもやってくれと言われた場合は、もちろん予後は保証しませんし、費用もしっかりといただきます。インプラントが嫌な方でもたせるだけもたせてという人にはいいかもしれませんが、インプラントに比べては予後は悪いでしょうね。自分であればこの治療法は希望しませんが、患者さんには大変感謝されました。

8年前
4年前
3年前
5,6番歯根端後
    1年前
現在



症例13

左上の親知らずを左上6番へ移植 60代女性
≪治療経過≫
1.7年前全顎的な治療を希望され当医院を受診されました。下の奥歯の欠損部には左には1本、右下には2本のインプラントを埋入しましたが、左上の欠損部に関しては親不知の移植を採用することにしました。普通にブリッジでの対応も悪くないと思いますが、支台となる歯の状態も芳しくありませんでしたので予後は悪いと思います。

2.移植後1か月後の写真です。根管治療は終了した状態です。ニッケルチタンファイルで根管治療を行っていますので、完璧です。

3.6年後、写真で確認してみるとしっかりと骨に定着しています。

注)歯の移植の平均残存率は、約7年といわれています。(標準偏差じゃありませんよ。)また、年齢があがる(40歳より上)と予後はさらに悪くなるといわれています。参考までに。

術前
移植後1か月
移植後6年
8年後



症例14

左上3番の外科的再植 30代女性
≪治療経過≫
1.2年前に全顎的にむし歯を治したいということで受診されました。過去に小児がんを患い、放射線治療を行った既往のある方でその影響が口の中に出ていると思います。特に左上の犬歯はむし歯が著しく進行し、普通のやり方では保存不可能な状態になっているのが、レントゲン写真、口腔内写真からもわかります。しかし、真面目に通われる方で私の病気に対する同情心もあったかもしれませんが、モニターとして再植を行うことにしました。

2.根管治療をまず施し、一旦慎重に抜歯し、生物学的幅径を確保するため歯質が1ミリ出るように再植する。

3.3か月後、差し歯をいれて終了です。メンテナンスに移行

注)かぶせものはすべて保険ですが、自己負担はありません。真面目に勤労され、税金を納めているので当然のことだと思いますが、中には不正受給して国の制度を悪用している輩もいますからね。先見の明があったのか当医院は、4年も前から生活保護の指定機関を自主的に辞退しています。もっと制度が見直しされ平等性が認められるようになるまでは再申請することはないと思います。



症例15
右上6番の意図的再植 40代女性
≪治療経過≫
1.真面目に定期検診に通われている方で、CTで口腔内の精査をしたところ、右上が上顎洞炎を併発しそうな勢いで右上の6番の根尖が化膿しているのがわかりました。指摘したところ、今はあまり気にならないとのことでしたが、希望されましたので根管治療を行なうことにしました。勿論、病変もかなり大きいので、上顎洞炎が悪化するようであれば、抜歯になることを説明はしてから治療に入りました。有無を言わさず抜歯する先生の方が圧倒的に多いことは明記しておきましょう。

2.被せものを外し、根管治療を開始しましたが、あろうことか近心根でファイルを破折させてしまいました。患者さんにありのまま説明しました。もし、私が根管治療の専門医であれば、ファイルを上から除去すのを試みると思います。しかし、私はGPです。何万も報酬が約束されていませんので、時間や治療効果を考慮し、意図的再植を行なうことにしました。今回の場合、歯根端切除はできません。なぜなら、3根ともにでかい病変が存在するからです。少なくとも口蓋根の歯根端切除はできませんので。(笑)

3.根管治療を開始し、あろうことか急性症状を呈するようになりましたので、マクロライド系の抗生剤を処方しながら、上からできる根管処置をまず終了させました。

4.無事急性症状もおさまり、再植を行うことにしました。慎重に一旦抜歯し、3根ともにMTAで逆根充し、元のソケットに戻しました。縫合糸でしっかりと動かないようにくくりました。勿論、ソケット内の大量の不良肉芽は徹底的に、タービン、パワーエイヒでソウハしました。

5.3ヶ月後、CTを撮影してみると、歯性の上顎洞炎は、ほぼ完治したように思えます。恐らく、根管治療で経過を見るよりは、短期間に結果がわかる方法だと思います。根管治療専門医とは違ったアプローチのしかたと言えるでしょう。勿論、破折ファイルを除去し、上からの歯内療法で完璧になおす根管治療専門医も存在するのも事実です。

術前パノラマ
術前矢状断CT
術前前頭断CT
近心根
根充後
意図的再植後
3ヶ月後ファイバーコアセット後
3ヶ月後矢状断CT
3ヶ月後前頭断CT
近心根
被せもの装着後



症例16
左上親知らず(8番)を左下7番へ歯牙移植 30代女性
≪治療経過≫
1.左側が噛めないとのことで、当医院を受診されました。でかい写真を撮らせてもらい、読影してみると、全体的に問題があるのですが、特に左側が困難な状態になっているのがわかりました。左上の前3本の歯は、既に失活歯で、すべて根尖病巣が出来っていて歯性の上顎洞炎を患っているのが予想でき、また左下の奥歯(7番)は、根っこがハセツし保存不可能な状態と言えます。さらに運が悪いことに左上の手前の歯(4番)が、穿孔している可能性も疑われます。すべて抜歯し、上は入れ歯(義歯)にするのが一般的だと思います。もしくは、抜歯後、固定式を希望されれば、インプラントを行なうことになるでしょう。しかし、まだ30代です。自己責任とは言え、費用の問題、今後のQOLを考えた場合、あまりにも残酷するぎると私は思いました。何はともあれ、本人が入れ歯を許容してくれれば、問題はありませんが、当然希望されませんでしたので、保存治療を行なうことにしました。もし、社会人として恥すべき行為をすれば、サヨナラです。私は、去る者は追ない主義です。恐らく、この症例を保険で引き受けてくれるところは、砂漠でダイヤを見つけるぐらい難しいでしょう。勿論、自費であれば、喜んでトライする先生もいるとは思いますが、包括治療を行える人は少ないと言っておきましょう。そこで、左下の治療は、左下の保存不可能な歯は抜歯し、左上の親知らずを移植することにしました。左上は、すべての歯の再根管治療、歯冠延長術、4番のパーフォレーションリペアをすることにしました。今回は、左下の移植治療にのみスポットを当ててみます。

2.まず、左下の保存不可能な歯を抜歯し、徹底的に不良肉芽を除去しました。本当であれば、感染予防のため、抜歯後傷が癒えてから、移植するのがベストですが、保険請求の場合同日でないとできません。そのため、仕方なく上の親知らずを抜歯後、低位に抜歯ソケットに移植しました。

3.移植一ヶ月後、根管治療を開始し、3回の処置で根管処置を終了しました。

4.3ヶ月後、レジンコアを直接法でビルドアップし、仮歯なしでさらに2ヶ月経過を観察しました。若干の打診を訴えたことと、自然挺出を促すために敢えて仮歯は付けませんでした。

5.5ヶ月後、移植歯の周りの骨状態が改善してきているのがわかります。仮歯を入れましたが、問題ないとのことです。矯正治療を併用すれば、恐らくもっと近心側の骨形態は改善するのではないかと思いますが、そこまでは予算的に厳しい患者さんに言えませんでした。もし、予算を気にされず、最善を尽くして欲しいと希望されるのであれば、保険外のところに○をしてください。笑。

注)全部保険治療です。お金のためだけに治療しているという感覚はもともとありません。格好いい言い方をすれば、社会に貢献している人のQOLのためでしょうか?勿論、経営が困難になれば、皆(スタッフ、材料屋、家族)に迷惑がかかりますので、利益を上げなければいけないことは当然だと思います。綺麗事だけでは生きてはいけません。最高の治療には、最高の対価をという風潮も十分に理解できます。現場を知らない人が決定する保険制度に問題があるといつも思っています。本当に理想と現実の狭間で揺れている歯科医は、多いのではないでしょうか?医療分野のTPP期待しています。

術前パノラマ
左下7番
左上の親知らず
移植後パノラマ
移植後
根充後
移植5ヶ月後
被せもの装着後
2年後



症例17
左下親知らず(8番)を左下7番へ歯牙移植 40代女性
≪治療経過≫
1.全顎的な治療並びに固定式の治療を希望され、受診されました。右下の第一大臼歯(6番)の周りは化膿し、また第二大臼歯(7番)は虫歯が深く歯茎の下まで進行しているのがレントゲン写真からわかりました。第一大臼歯の周りの化膿は、根管治療の不備と分岐部の穿孔が原因です。これに対して、セパレート、根管治療で保存はある程度見込めますが、奥の第二大臼歯は根っこも短く虫歯も歯茎の下に深々と進行しているため一般的には保存の適応外となります。しかし、保存を希望されれば、挺出矯正、歯冠延長術、根管治療を行うと思います。しかし、それより、治療費が安く時間短縮を考えた場合、反対側の機能していない親知らずを利用するのが今回はいいように思えます。勿論、患者さんが希望されなければやりませんが、希望されましたのでやることにしました。
通常どおり、CT撮影し解剖学形態を把握してから、右下7番を抜歯し反対側の親知らずを同部に移植しました。15分くらいで終了し、簡単だったと思うのも束の間、1ヶ月後遠心部舌側の歯茎に予期せぬフィステルが出現しました。歯内の壊死した神経が原因と考え、根管治療を施すも改善の兆しを認めませんでした。移植穴形成のオーバーヒートが原因かもと嫌な予感が頭をよぎりますが、よく、レントゲン写真、CTを見てみると、遠心側に石灰化物が認められます。これが原因と考え、すぐフラップを起こし、確認作業に移るのですが、なかなかこの石灰化物を発見するのは困難でした。全部とれなかったかもしれないと思いましたが、フラップをとじ、経過を観察することにしました。幸いフィステルは消失し、問題がないことを確認し、補綴終了2年後写真をとってみると、うまく機能しているのがわかります。しかし、右下6番の近心根の根尖病変の治癒が若干悪いように思えます。ひょっとすると、近心根に3根管存在するのかもしれません。

注)いつもスーパーマンのように、移植が上手くいっているわけではありません。早期失敗例として、移植穴形成時のオーバーヒートによる骨火傷(根尖性の慢性炎症を長期に患っていたり、長年タバコを吸っている骨が硬い人によく見受けられます。)、抜歯時に根っこがハセツした親知らずの無理な移植、移植後の根管治療不備による外部吸収の経験があります。巷でいわれるほど、高い成功率だと思えないのが本音です。簡単だといっている歯科医ほど怪しんだほうが良いと思いますよ。何をもって成功かと言うことです。生着させるだけならそんなには困難ではないでしょう。機能してからどれだけ問題なく使えるかということではないでしょうか?。
成功率を高めるためには禁煙、エムドゲインの使用、術前CT診断、精度の高い根管治療、術後挺出矯正は必要だと思います。説明がめんどくさいので、保険でしかやりたいときにしか移植はしていませんが、完璧性を希望される場合は、自費での移植をお薦めします。申し出てください。保険でやるのは、ボランティア感覚、モニターだといっておきます。

術前
冠、土台除去後
右下7番口腔内写真
移植直後
移植歯根管治療後
術後2年



症例18
右下6番近心根の意図的再植 50代女性
≪治療経過≫
1.右下の6歳臼歯が噛むと痛いとのことで、受診されました。レントゲン写真を撮ってみると、根っこの先及び根っこの股の部分の骨透過像を認めます。根っこの治療がイマイチなのが原因と考えられます。ぱっと大きいレントゲン写真をみた印象では、根管治療さえできれば無問題であろうと思っていましたが、実際手をつけてみると、超難症例であることがわかりました。この歯は、股の部分で穴(パーフォレーション)が空いており、かつ手前側の根っこの根管が途中から閉鎖し、根っこの先までの十分な消毒を行なうことができません。そのため、全部抜歯または分割抜歯(悪い根っこだけとること)という選択も間違いではありません。パーフォレーション(穿孔)だけが問題であれば、根管治療+セパレーション+挺出矯正を行えば保存は可能です。しかし、今回は、手前の根っこの根管治療が十分に行なうことができませんので、手前の根っこ(近心根)だけ意図的再植法を採用することにしました。

2.まず、根管治療を開始しました。奥側の根っこは無事貫通し、十分な根管処置を行うことができました。手前は、マイクロスコープ下で、根管を探索するもみつけることはできず、できる範囲での根管処置となりました。

3.次にパーフォレーションを含むところでセパレートし、手前側の根っこを慎重に抜歯しました。根管治療が十分に行うことができませんでしたので、スーパーボンドで逆根充を行い、もとのソケット内を徹底的にソウハし、再度根っこを戻しました。

4.1週間後、抜糸をし、根っこが生着するまでの間待つことににしました。

5.2ヶ月後、仮歯で経過観察し、問題がないことを確認してから、最終的な被せものを装着し終了としました。被せもの装着時のレントゲン写真からも、根尖の化膿病変も小さくなってきているのがわかります。

注)総合的に私より数段できる先生は、いとつのやり方に固執せず、多くの引き出しをもっていることは容易に想像できます。安易なインプラントしかできない人とは違うと思います。

2年後



症例19
左下7番のエムドゲインジェルを併用した意図的再植 40代女性
≪治療経過≫
1.左下の7番(一番奥が噛むといたいとのことで6年前に受診されました。部分的なレントゲン写真をとってみると、びっくりです。内部吸収といって、歯の内部から外部にかけて歯自体が溶けていく現象が認められます。一般的に外傷などの刺激により歯の中の神経が異常をきたすことが原因と考えられている不可逆的なものです。そこで、異常をきたしている神経を除去しないかぎり、歯はどんどん溶けていきます。あまりに進行が著しい場合は、残念ですが抜歯ということになります。

2.そこで、異常な神経を除去し、根管治療終了後、歯冠修復をしてあとは経過観察にすることにしました。かなり、手前測(近心測)の吸収が著しかったので、生物学的フクケイを考慮すると、この時点では抜歯適応だという認識は持っていました。また、患者さんは抜歯を希望されませんでした。

3.5年後、かぶせ物が脱離したということで再来院されました。内部吸収の取り残し?+二次虫歯の発生+外部吸収の発生が視診、レントゲン写真から認められました。流石にこの時点では、抜歯が適応となります。抜歯後、インプラントもしくは何もいれないことを勧めましたが、現状の予算的な問題、対合する歯の伸び(挺出)を考慮されたため、モニターとして、歯根膜の活性化も認めるかもしれないエムドゲイン併用の意図的再植法を行うことにしました。

4.伝麻下、慎重に歯根を折らないように一旦抜歯し、近心測の内部外部吸収が起こっているところを削除し、180度回転させてエムドゲインを歯根全周に塗布し、3ミリ上げた状態で再度植え込み縫合糸で動かないようにくくりつけて終了しました。3ミリの上げ方は企業秘密です。恐らく同業者が一番知りたいところでしょう。因みに施術時間20分でした。

5.3か月後生着したことを確認し、仮歯で経過観察後、問題ないことを確認して最終修復物をセットし終了としました。後は定期検診で経過を追っていきます。


6年前
1回目治療終了時

かぶせ物脱離時
2回目の治療終了時
再植3か月後

再植時



症例20
根尖に巨大化膿病変を患い、深く虫歯が進行した左下7番の意図的再植 40代女性
≪治療経過≫
1.左下の奥から二番目の歯(7番)の被せものが脱離したため、右側の他の歯の治療途中でしたが急遽来院されました。視診かも舌側の歯茎に接する部分の歯質が歯茎の下の方まで虫歯が進行しているのがわかり、また、根尖にはでかい化膿病変を形成していることがCT、レントゲンからわかりました。一般的には抜歯となります。しかし、根管治療、歯周外科治療、矯正治療、補綴処置に長けた歯科医であれば保存は可能かもしれません。費用と期間はかかりますがね。インプラントするのと同等、いやそれ以上の費用になることは肝に銘じておきましょう。私は仕事が趣味みたいなものなので、約束を守り、真面目で、抜歯を希望されない人に対しては、シンプルで比較的短期間に治療効果がわかる方法を選択するように心がけています。そこで今回は、歯根のハセツの確認、確実な根尖病変の除去、側枝の閉鎖や生物学的幅径の確保を行うため、意図的再植法を採用することにしました。

2.1週間後、伝麻下で慎重に患歯を抜歯し、口腔外で虫歯の完全除去並びに逆根充を10分以内で終了させ、十分に根尖病変をソウハしたソケットに180度回転させて再度埋め直し糸で固定し終了しました。

3.3ヶ月後、土台をビルドアップし仮歯を装着しました。しばらく経過を観察し、問題がないとのことで2ヶ月後に被せものを装着して終了としました。その際、部分的なレントゲン写真を撮影してみると、綺麗に根尖部の病変は消失していました。

注)別の治療法として王道的なやり方を説明します。自費の根管治療10万→自費挺出矯正15万以上→歯冠延長術2万→ファイバーコア2万→被せもの10万となるのが都市部の相場ではないでしょうかね。この場合、はせつ線の確認はできません。歯根嚢胞であれば根管治療だけで治る保証もありません。矯正する場合、固定源の確保が難しいまた装置が頻繁に外れる可能性がある。期間が再植よりもかなりかかることが欠点かもしれません。
一方、今回採用した治療法は、抜歯する際に歯を折ってしまう可能性があることや将来の根吸収、骨と同化する可能性がることが欠点かもしれません。費用は、意図的再植法ー10万、ファイバーコアー2万、被せもの10万が相場だと思います。勿論、私の場合、そんなにも費用は頂いていません。それだけいただくのであれば、インプラントする方がベターだと個人的に思いますよ。
術前CT矢状断
術前デンタル
レントゲン写真
術直後デンタル
レントゲン写真
術後6ヶ月
術前口腔内
写真
術直後口腔内
写真


症例21
左上の親知らずを左上6番へ移植 50代男性
≪治療経過≫
1.今から約9年前、左下の奥から4番目の歯がズキズキ痛いとのことで受診されました。応急的な治療を希望され、歯が無くなることへの恐怖感からか不信感一杯の表情を浮かべていらっしゃりました。私は患者さんが希望しなければ、例え治療しなければいけない歯があったとしても無理やりにはしません。疑心暗鬼な人に低報酬でリスクを冒してまで、治療したいとは思わないからです。そのため、主訴と患者さんの希望された所だけ治療して終了することにしました。そして、前医に戻るように促しました。

2.8年後、とうとう根っこの先が化膿している歯(左上6、左下6,7,8)に問題が生じて来院されました。8年前であれば、保存が可能であっただろう左上6番が既に保存不可能な状態になっていました。インプラントに興味を示していましたが、私のポリシーでこの方には今の状態ではダメだと判断し、それなら奥の親知らずの移植を提案したところ希望されたため、やることにしました。今回、一口腔単位で私が治療し、自己管理ができるようになり、不幸に治療した歯が保存不可能になった場合、切り札のインプラント治療に移行する予定です。もし、管理、検診ができないようであれば、入れ歯にするのがその人のためになるでしょう。

3.まず保存不可能な左上6番を抜歯しました。2ヶ月後、そこそこ歯茎の状態が整ってから、既に神経処理をしておいた左上親知らずを歯茎を開き、ソケットを形成し、180度回転させて移植しました。15分くらいの処置でした。勿論、術前にCT解析はしてあります。

4.3ヶ月後、仮歯で一旦経過を観察し、問題がないことを確認してから、自費の材質であるゴールドバッキングのハイブリッド前装冠を装着し無事終了となりました。右上の治療に移行する予定です。

注)別に親知らずの移植が珍しい治療法なんて思わないでくださいね。上手いか下手かは別として、できる歯科医は一杯いると思いますよ。しかし、採算が合わないとか予後の見通しがつきにくいことから、インプラントを勧める傾向にあるのでしょう。だから、信頼できるかもしれない人にやりたいと思った時にしか移植はしません。
2007年

2015年12月
2016年5月
被せもの装着後



症例22
右上7番(第二大臼歯)の口蓋根を右下6番へ移植 20代男性
≪治療経過≫
1.今(2017年)から11年前、中学生の頃?に前歯がズキズキ痛いとのことで受診されました。できれば未成年のうちから歯の神経をとるということは常々避けたいと思っていますが、この子の場合、保険制約を考慮すると視診、画像所見からも多数の神経処置が必要になることは瞬時に理解していました。仮に保険外で神経を保存しても、その当時のままの管理の仕方、間食、炭酸飲料摂取、だらだら食いをしていれば、費用の無駄になることはいうまでもありません。すべて責任は親御さんにあると思いますよ。そこでまず痛みのある前歯の治療を優先するのですが、案の定、前歯と左上6歳臼歯の神経の治療が完了してから、フェードアウトされました。

2.6年後、左上の糸切り歯がズキズキいたいとのことで再来院されました。でかいレントゲン写真をとってみてびっくり。十代で抜歯しなければいけない歯が4本(右下6,7 左下6、左上7)になっていました。恐ろしく虫歯の進行が早いタイプと言えます。そこで、再び治療に来ると信じて、左上の糸切り歯の神経処置を行いました。しかし、神経処置完了後、再びフェードアウトされました。笑

3.1年後、再び左下がズキズキ痛いとのことで再来院されました。基本的には親が放任主義で未成年者の場合、裏切られても5回くらいまでは可哀想なのでなんとかしてあげたいと私は思います。しかし、成人していれば無断キャンセル3回(1回でダメな人もいます。)で、原則アウトです。それで今のままでは加速的に入れ歯になる確率が高くなることをお話し、覚悟を聞いてから治療に入る事にしました。

4.3度目の正直です。笑。今度は2年くらいかけて最後まで治療をやり遂げました。ボランティアで、右上7番の口蓋根を右下の7部に移植してブリッジにしました。これをしなければ、部分入れ歯か固定式であればインプラントとなります。ごり押しや親御さんにいってインプラントもいいかもしれませんが、やるにしても管理や検診できるようになってからやるのがベストでしょう。管理、検診できるようになり、不幸に移植した歯がダメになり、次にインプラントしたい場合、私より年齢が10以上若い有能な歯科医にやってもらうといいでしょう。因みに左上の2番もコロナルリーケージにより歯根嚢胞が発生し、二次虫歯も著しく、意図的再植法を採用しました。若いことと歯周病的な面を考慮して、歯根の短い左上2番を保険単冠処理にしたことにより、1年半後差し歯が脱離してしまったことは予定外でした。幸い二次虫歯もなく、そのままセメントで装着して終了としました。その際レントゲン写真、CTをとってみるときれいに歯根嚢胞は消失していました。

注)できれば右下6部に右上7番の頬側根を移植したかったのですが、骨幅がなく断念しました。そのため、親知らずの炎症も考慮して、頬側根は抜根しました。しかし運のいいことに、2年後、歯茎に埋まっていた親知らずがある程度きれいに生えてきているのがパノラマレントゲン写真からわかります。いずれ、移植が必要になったときに備えてとっておくのもいいかもしれません。勿論歯磨きができることが前提条件ですがね。

2006年
2012年
2013年
2015年
2017年

右上7番口蓋根を
右下7部に移植直後
吸収性人工骨
抜歯穴に充填後
補綴直後
2年後

左上2番再植直後
2年後



症例23
破折した左下7番(第二大臼歯)の接着再植 40代男性
≪治療経過≫
1.左下の一番奥の歯の歯茎の腫れ、咬合痛、違和感を主訴にわざわざ遠方から受診されました。レントゲン写真、CT写真、ポケット検査から遠心根(奥側の根っこ)がハセツしていることが疑われました。そのことをお話して、抜歯が適応であることをお伝えしましたが、何とかならないものかと悲痛な面持ちで懇願されました。やるだけやってダメなら、インプラント、親知らずの移植をしてほしいと希望されましたので、究極の奥の手を採用することにしました。接着再植法です。一旦抜歯して、ハセツした歯をスーパーボンドと呼ばれる接着剤で繋ぎ合わせて、もう一回抜歯穴に戻す方法です。割れたお茶碗を接着剤でくっつけて、補修するのと似ているかもしれません。上手な使い方をすればそこそこ使用できると思います。

2.そこで、かぶぜものと土台を慎重に外しました。案の定、遠心根にヒビが入っているのがわかりました。まずは近心の根管治療をし、ついで遠心は超音波洗浄後、止血下でMTAによる内部接着をやってみました。うまくいけば再植はしないつもりでしたが、次の予約時には再度出血とハセツ部が開いているのがわかりました。しかたありません、やはり直視下、乾燥状況で外部接着をする必要があります。

3.伝麻下で一旦慎重に抜歯し、抜歯穴のソウハを行い、患歯の除石、不良肉芽ソウハ、根管内超音波洗浄後、スーパーボンドでハセツ片を接着研磨し、元の抜歯穴に戻しました。縫合糸で動かないようにきっちりと固定しました。

4.4ヶ月後、仮歯で経過をみて、そこそこ物がかめるとのことで、最終修復物をセットして終了としました。部分的なレントゲンからも、黒く化膿した部分が白く石灰化してきているのがわかります。

注)誰にでもやらない治療法です。遠方から費用が掛かっても、何とかしたいという心意気に打たれました。そんな患者さんには、こっちも真剣です。もし仮に、この歯が1〜2年で不幸にダメになり、インプラントしたいと彼が言えば、勿論今回の治療費分は差し引こうと思っています。真面目な方には私はそれぐらいの思いで歯科治療に取り組んでいるということです。たまにこの甘さが自分の首をしめることになりかねないのですがね。笑。人を見る目も必要ということです。

術前
内部接着不良後
接着再植直後
4ヶ月後
外部接着後

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